<創業・スタートアップ経営基礎講座>第2回「ビジョン・経営理念を作る」

ビジョン・経営理念をつくる
目次

1. はじめに

「やりたい!」という気持ちをカタチにするための連載 創業・スタートアップ経営基礎講座』。
第1回「ビジネスプランを準備する」 では、事業の出発点となるビジネスプランの考え方を整理しました。

創業の道のりでは、資金調達、商品づくり、営業、会計、法務……とやることが山ほどあります。やるべきことに追われると、判断に迷い、優先順位を見失ってしまうことも少なくありません。

その混乱を整理するための最初の一歩が、ビジョンと経営理念という「言葉の軸」です。ビジョンは、将来の目指す姿を示す「未来の写真」です。そして経営理念は、日々の経営判断や行動を支える約束です。この二つがあることで、迷ったときに戻れる基準が生まれます。

例えば、値下げをするべきか迷ったとき、理念に「誠実な品質を守る」とあれば、短期的な売上よりも品質を優先する判断がしやすくなります。スタッフや協力者、金融機関に対しても「この会社は日々どんな姿勢で事業を営んでいるのか」が伝わり、信頼につながります。

また、経営が思うようにいかないときには、「なぜ始めたのか」「どんな未来をつくりたいのか」という言葉が自分を支える力になります。そしてホームページやパンフレット、プレスリリースなど外部に向けた発信の軸にもなるのです。

つまりビジョンと経営理念は、飾りのスローガンではなく、未来の方向性と日々の行動規範を同時に示す、経営の羅針盤なのです。


2. ビジョンと経営理念の違い

ビジョンとは、将来こうなっていたいという長期的な方向性を描いたものです。言い換えると「未来の写真」。5年後、10年後にどんな社会や顧客の姿をつくりたいのかを示す言葉です。

一方で経営理念は、日々の経営判断や行動を支える約束です。毎日の仕事で「どう振る舞うか」「どんな基準で選ぶか」を定めるルールのような存在で、現場の判断やお客様との接し方に直結します。


3. 有名企業のビジョン事例

ビジョン「5年後、10年後にどんな社会や顧客の姿をつくりたいのか」

ソニーグループ:ビジョン
「クリエイティビティとテクノロジーの力で、世界を感動で満たす。」
→ 製品やサービスを超え、将来の社会全体に「感動を広げる」という未来像を示しています。

スターバックス:ビジョン
「人々の心を豊かで活力あるものにするインスピレーションと人間のつながり。」
→ 単なるカフェではなく、将来の社会に「人と人がつながる場」を作ることを目指しています。

Google:ビジョン
「世界中の情報を整理し、世界中の人がアクセスできて使えるようにする。」
→ 事業の広がりがあっても、この未来像を軸にサービス展開を続けています。


4. 有名企業の経営理念事例

経営理念「日々の経営判断や行動を支える約束」

松下幸之助(パナソニック):経営理念
「産業人たるの本分に徹し、社会生活の改善と向上を図り、世界文化の進展に寄与する。」
毎日の経営活動の判断を「社会貢献」という視点で行うことを約束しています。

セブン&アイ・ホールディングス:経営理念
「信頼される品質、便利さ、楽しさを提供する。」
→ 店舗での商品陳列や接客といった日々の現場判断を支えるシンプルで具体的な理念です。

ユニクロ(ファーストリテイリング):経営理念
「服を変え、常識を変え、世界を変えていく。」
→ 新商品企画や販売戦略を考える際の日々の意思決定の基準として活きています。


5. 自分のビジョン・理念をつくる3行テンプレ

ビジョンや理念を自分の言葉にするのは難しく感じるかもしれません。ですが、以下の3行テンプレに埋めれば、最初の形はすぐにできます。

  1. 経営理念(何を大切にするか)
    「私たちは、(誰)に(どんな価値)を、(どのような姿勢)で提供します。」
  2. ビジョン(将来の姿)
    「(年数)年後、(地域/市場)で(どんな変化)を実現します。」
  3. 行動指針(3つまで)
    「大切にする約束:①( )②( )③( )」

6. 作成例

上記の3行テンプレにあてはめた事例です。

①:移動販売パン屋

  • 経営理念:「毎朝焼きたてを、約束の時間に、安心の価格で届ける」
  • ビジョン:「3年後には、地域の買い物困難地域すべてに巡回販売を広げる」
  • 行動指針:①時間厳守 ②前日予告 ③余りは福祉施設に寄付

②:Web制作フリーランス

  • 経営理念:「小さな会社の“伝わらない”を、“伝わる”に変える」
  • ビジョン:「5年でローカル企業100社の問い合わせ数を2倍にする」
  • 行動指針:①専門用語は使わない ②試作は1週間で提示 ③改善は数字で確認

③:クリーニング店

  • 経営理念:「きれいに落とす。約束通り返す。それが私たちの信頼」
  • ビジョン:「4年で市内3店舗展開、再来店率70%を安定化させる」
  • 行動指針:①受取から48時間以内に仕上げ ②シミは写真で説明 ③価格は全て店頭に掲示

7. ワーク:自分の言葉を見つける方法

  • 嬉しかった体験を書き出す
    事業を始めようと思ったきっかけや、これまでの仕事で「やって良かった」と感じた瞬間をメモしてみましょう。
  • 顧客の笑顔の場面を想像する
    お客様がサービスを利用して「ありがとう」と言う瞬間を思い浮かべましょう。
  • 抽象語の反対語を探して具体化する
    「安心」「挑戦」「信頼」といった言葉の反対語を考え、具体的行動に落とし込みます。
  • 声に出して10秒で言えるか試す
    長すぎる理念は使われません。10秒で言えるかを目安にしましょう。
  • 他人に読んでもらい、伝わるか確認する
    家族や友人に読んでもらい、どう伝わったかを聞いてみましょう。

8. よくある失敗例と注意点

1. 抽象的すぎるケース

Aさん(飲食店開業)
「地域に愛されるお店を目指す」という理念を掲げました。けれども、実際にスタッフに浸透せず、「愛されるとは何をすればいいの?」という疑問が残り、接客やメニュー改善の方向性が揃いませんでした。


→ 「毎日、地元の農家から仕入れた食材で安心のランチを届ける」といった、行動につながる表現にすると、日々の実務に落とし込みやすくなります。

2. 長すぎるケース

Bさん(ITサービス創業)
顧客への想いを詰め込みすぎて、A4一枚に及ぶ理念文を作成。しかし営業資料に載せても相手に読まれず、社内でも「長すぎて覚えられない」と言われてしまいました。


理念は一文に絞り、補足説明を別途「行動指針」として整理するのがおすすめです。

3. 実際に使われないケース

Cさん(小売業)
ホームページに立派な理念を掲載したものの、会議や採用面接では一切触れられませんでした。その結果、スタッフの行動にバラつきが出て「形だけ」の理念に。


→ 会議で意思決定に迷ったとき「うちの理念に照らすと?」と確認するなど、日々の判断に持ち出す工夫が必要です。

4. 創業者の思いが薄いケース

Dさん(サービス業)
参考書のフレーズをそのまま借りて理念を作成しましたが、本人が話すときに熱が入らず、資金調達の面談で「借り物感」が伝わってしまいました。


自分の体験や想いを軸にした言葉であれば、多少粗削りでも説得力があります。


9. まとめ

  • ビジョンは「未来の写真」
  • 経営理念は「日々の行動の約束」
  • 大企業事例+小規模事例で具体的にイメージ
  • テンプレ→作成例→ワーク→失敗例チェックで形になる

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テーマ
第1回 ビジネスプランを準備する創業の第一歩として、事業のアイデアを整理し、具体的な形にまとめる方法を解説します。
第2回 ビジョン・経営理念を作る自分の事業が「なぜ存在するのか」を明確にし、共感を生む経営理念を言葉にします。
第3回 創業時に必要な手続き開業届・各種許認可・税務署や役所への届出など、創業時の実務を整理します。
第4回 法務・契約の基礎契約トラブルを防ぐための基本知識と、押さえておくべき契約書のポイントを紹介します。
第5回 経営戦略・計画を作るSWOT分析などを使いながら、事業の方向性を定めるための戦略づくりを学びます。
第6回 マーケティング・市場戦略を考える顧客ニーズをどう捉え、競合とどう差別化するか。マーケティングの基本を解説します。
第7回 広報・PRSNS・ホームページ・プレスリリースなど、発信を通じてファンを増やす方法を紹介します。
第8回 起業関連のさまざまな支援策補助金・助成金・融資制度など、創業時に使える支援策をわかりやすくまとめます。
第9回 はじめての会計会計の基本構造を理解し、経営判断に役立つ数字の見方を身につけます。
第10回 価格転嫁の基礎適正な利益を守るための価格設定と、取引先との交渉の考え方を解説します。
第11回 営業・販路開拓「売り込み」ではなく「課題解決」としての営業を実践するためのステップを紹介します。
第12回 人を雇うパート・アルバイト採用から社会保険まで、人を雇うときの流れと注意点を整理します。
第13回 企業の社会的責任を考えるCSRの基本と、中小企業でもできる信頼を育てる取り組みを解説します。
第14回 創業時に使えるデジタルツール無料または低コストで使える便利ツールを紹介し、業務効率化のヒントを提供します。
第15回 知的資産経営人・技術・信頼といった「目に見えない強み」を見つめ直し、経営に活かす考え方を紹介します。
第16回 夢を実現し、会社を長く愛される存在にするために全講座のまとめとして、持続的に事業を続けるための視点と次のステップを提示します。
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