<創業・スタートアップ経営基礎講座>第3回「創業時に必要な手続き」
導入
中小企業診断士兼行政書士が経営の基礎を解説する「創業・スタートアップ経営基礎講座」シリーズです。前回の第2回「ビジョンと経営理念の作り方」では、事業の“心の軸”を整える方法を解説しました。
今回の第3回では、いよいよ創業時に必要な手続きを取り上げます。手続きは一見複雑そうに見えますが、流れを押さえれば整理できます。大きく分けると、
- どの形態で事業を始めるか(個人事業主か法人か)
- 税務署や役所への届出をどうするか
- 業種ごとの許認可が必要かどうか
- 社会保険や口座開設など基盤整備をどう進めるか
の4本柱に沿って考えれば十分です。まずは最初のステップ、「事業形態の選択」から見ていきましょう。
第1章 事業形態の選択
1. 個人事業主か法人か
創業時の最初の分岐点は「個人事業主として始めるか、それとも法人を作るか」です。
- 個人事業主は、税務署に「開業届」を提出すればすぐに始められ、費用もほとんどかかりません。小規模に試したい人、副業から始めたい人に向いています。ただし、取引先や金融機関からの信用力は法人に劣る傾向があります。
- 法人は、法務局で登記して「会社」という形を作る方法です。手間やコストはかかりますが、信用力や事業拡大のしやすさで優れています。法人の中にも種類があり、代表的なのが「株式会社」と「持分会社(合同会社など)」です。
2. 株式会社とは
株式会社は、日本で最も一般的な法人形態です。株主が「株式」を購入して出資し、その持ち分に応じて配当や議決権を持ちます。株主は経営に直接関わらず、実際の運営は取締役など経営陣が担う仕組みです。また、所有(株主)と経営(取締役)が分かれているため、外部から幅広く資金を集めやすく、大規模な事業展開や投資を前提としたビジネスに向いています。その一方で、設立費用や維持費用が高く、決算公告など法的義務も多いのが特徴です。
3. 持分会社とは
持分会社とは、合同会社・合名会社・合資会社の総称で、現在は合同会社が主流です。出資者は「持分(=会社に出した出資の割合を示す権利)」を持ち、そのまま経営者(社員)として会社の意思決定や運営に直接関与します。つまり、株式会社の「株式」が外部から広く資金を集める仕組みであるのに対し、持分は出資者同士の取り決めに基づいて配分や議決権を柔軟に決められるのが特徴です。
さらに、持分会社の大きな違いは出資者が負う責任の範囲です。合同会社では全員が「有限責任社員」となり、出資額の範囲でしか責任を負いません。一方、合名会社は全員が「無限責任社員」、合資会社は「無限責任社員」と「有限責任社員」が混在します。無限責任社員は会社の債務を個人資産で負担する義務があり、現代ではほとんど選ばれなくなりました。有限責任で安心して経営できる合同会社が圧倒的に多いのは、この仕組みによるものです。
4. 株式会社と持分会社の比較表
| 項目 | 株式会社 | 持分会社(合同会社など) |
|---|---|---|
| 出資の仕組み | 株式を発行し、株主は割合に応じて配当・議決権を持つ | 持分を出資し、社員(出資者)が原則経営にも関与 |
| 所有と経営 | 株主(所有)と取締役(経営)が分かれる | 出資者=経営者(原則) |
| 責任の範囲 | 株主は有限責任(出資額まで) | 合同会社は全員有限責任/合名会社は全員無限責任/合資会社は両者混在 |
| 意思決定 | 株主総会・取締役会など形式的な手続き | 社員全員の同意を基本とし、定款で柔軟に設計可 |
| 設立コスト | 高め(20〜25万円前後) | 低い(6万円前後〜) |
| 維持コスト | 公告義務あり/役員変更登記も必要 | 公告不要/内部ルールで柔軟 |
| 信用力 | 高い(金融機関・大企業との取引に有利) | 株式会社より劣るが中小取引には十分 |
| 社会的イメージ | 「会社=株式会社」と広く認知 | 「小規模」「スタートアップ」イメージ |
| 将来性 | 大規模化・資金調達に強い | 小回りが利く/株式会社へ組織変更も可能 |
第2章 税務署・役所への届出
1. 個人事業主の場合
個人事業主として始めるときは、主に税務署への届出が必要です。
- 開業届(個人事業の開業・廃業等届出書)
事業を始めることを税務署に知らせる書類。屋号や事業開始日を記載します。提出しないと青色申告ができないので必須です。 - 青色申告承認申請書
青色申告を利用するための届出。最大65万円の控除や赤字の繰越が可能になり、節税効果が大きいのが特徴です。提出期限は原則「開業から2か月以内」。 - 給与支払事務所等の開設届出書
従業員を雇い給与を支払う場合に必要。給与から所得税を源泉徴収するために提出します。
2. 法人の場合
(1)登記と定款
- 法人設立のスタートは、法務局での登記。これをもって正式に会社が成立します。
- 登記に欠かせないのが定款です。会社の「憲法」にあたる基本ルールをまとめた文書で、会社名・所在地・事業目的・役員の仕組みなどを記載します。
- 株式会社は定款を公証人役場で認証する必要があります。一方、合同会社は認証不要で費用も安いのが特徴です。
- 定款はその後の許認可申請や金融機関の審査にも使われる重要書類なので、最初にしっかり整えておくことが大切です。
📌 定款作成で迷ったら
当事務所では、定款作成・法人設立のサポートを行っています。定款の内容に不備があると後から修正に手間やコストがかかるため、創業時に専門家と一緒に整えておくのがおすすめです。
(2)登記後の各種届出
登記が完了したら、税務署・県税事務所・市町村役場などに次の書類を提出します。
- 法人設立届出書:法人を設立したことを届け出る書類。資本金や事業年度を記載し、法人住民税・法人事業税などの課税対象となります。
- 青色申告承認申請書:法人でも青色申告を選択可能。欠損金の繰越控除などの恩恵を受けるには必須。提出期限は「設立の日から3か月以内」かつ「最初の事業年度終了日の前日まで」。
- 給与支払事務所等の開設届出書:役員や従業員に給与を支払う場合に必要。源泉徴収の開始に伴う手続きです。
- 源泉所得税の納期の特例の承認に関する申請書:従業員が10人未満の会社でよく利用される制度。給与から差し引いた所得税を、毎月ではなく年2回にまとめて納められるようになります。
3. 提出期限と注意点
- 個人・法人ともに「青色申告承認申請書」は提出期限を逃すと、その年は青色申告が使えず大きな損になります。
- 法人の場合は「登記 → 各役所への届出」がセットで必要。開業直後は書類が集中するため、事前準備を進めておくと安心です。
- 登記にかかる日数はおおむね1〜2週間程度。株式会社は定款認証の分だけ合同会社より時間がかかります。
第3章 業種ごとに必要な許認可
1. 許認可が必要な主な業種
事業内容によっては、登記や開業届だけでは営業できず、別途許認可が必要になります。代表的なものは次のとおりです。
- 建設業:請負金額500万円以上(建築一式工事は1,500万円以上)の工事を行う場合は「建設業許可」が必要。
- 産業廃棄物収集運搬業:産廃を運ぶ場合に必須。茨城県など各自治体の許可を取得する。
- 運送業(貨物自動車運送事業):トラックで有償輸送をする場合に国交省の許可が必要。
- 飲食業:飲食店を開くには保健所の「飲食店営業許可」が必要。
- 古物商:中古品の売買を行う場合、警察署で「古物商許可」が必要。
- 宅建業:不動産の売買や仲介を行う場合、「宅地建物取引業免許」が必要。
2. 役所はなぜ許可を求めるのか
「せっかく起業するのに、なぜこんなに許可が必要なのか」と思う方も多いでしょう。実は、役所が許可制度を設けているのには理由があります。
- 公共の安全や衛生を守るため
→ 飲食業では食中毒を防ぐために厨房設備の基準が設けられています。運送業では安全に人や物を運ぶための車庫や運転手の管理が必要です。 - 取引の公正さを守るため
→ 建設業許可は「一定の財産的基盤や技術者がいる会社しか大規模工事を請け負えない」仕組みにすることで、発注者を保護しています。 - 環境や社会全体に影響があるため
→ 産業廃棄物処理は、不適切に扱うと環境破壊や不法投棄につながるため、厳しい許可制度が設けられています。
つまり、許可とは「事業を始める人を縛るための仕組み」ではなく、利用者や社会を守るための入口チェックなのです。
3. 許可に共通して見られる要件
どの業種でも許可を取る際には、いくつか共通するチェックポイントがあります。代表的なものは次のとおりです。
- 欠格要件
→ 法令違反の前科、過去に許可取消を受けた経歴、反社会的勢力との関与などがあると許可が下りません。
→ 例:建設業許可では「5年以内に不正行為があった」などが欠格要件に該当。 - 人的要件(資格・経験)
→ 専門的な知識を持つ人材がいること。建設業なら「専任技術者」、産廃業なら「講習を修了した者」など。 - 設備要件
→ 実際に事業を行える場所や設備が整っていること。飲食店なら厨房・水回り、運送業なら車庫・車両、産廃業なら保管場所など。 - 財産要件(資金力)
→ 事業を継続できるだけの資本があること。建設業では「自己資本500万円以上」など、残高証明や決算書で確認されます。
4. 許可が下りるまでの期間
- 業種によっては申請から許可まで数週間〜数か月かかることもあります。
- 許可を取得するまで営業できないため、創業計画の段階で必ず確認することが重要です。
5. 無許可営業のリスク
無許可で営業することは、第2項で触れた「許可の存在意義」を正面から否定する行為にあたります。そのためリスクも大きくなります。
- 公共の安全や衛生を脅かすリスク
→ 飲食業なら食中毒事故、運送業なら事故時に大きな責任を負う可能性。 - 取引の公正さが崩れるリスク
→ 建設業なら「無許可業者」と判明した時点で契約解除や代金未払いの対象になり、発注者との信頼を完全に失います。 - 環境や社会への悪影響
→ 産廃業では無許可営業が発覚すると、不法投棄と同視され、刑事罰や多額の行政処分につながります。
結果として、行政処分(業務停止・営業停止命令)、罰則、社会的信用の喪失という重大なダメージを受けることになります。
6. まとめ
許認可は「面倒な規制」ではなく、社会全体の安心や取引先との信頼を守るために設けられています。そして、それを無視して営業することは、自らの事業を危険にさらす行為です。どの許可が必要か、どの要件を満たすべきかを確認するのは初めての方には難しいため、創業時に専門家に相談しておくことでリスクを大幅に減らせます。
📌 許認可の確認・申請サポート
当事務所では、建設業許可・産業廃棄物許可をはじめとした各種許認可の相談に対応しています。事業内容をお聞きしたうえで「必要な許可」「満たすべき要件」を整理し、申請まで伴走いたします。
第4章 社会保険・労務関連の手続き
1. 従業員を雇う場合
人を雇うと、税務署への届出以外に労働保険・社会保険の手続きが必要になります。
- 労働保険(労災保険・雇用保険)
労災保険:従業員が業務中にケガをしたときの補償。従業員を1人でも雇えば加入義務あり。
- 雇用保険:従業員を雇い入れたときにハローワークで手続き。失業給付や教育訓練給付に関わる。
- 社会保険(健康保険・厚生年金保険)
- 常時5人以上の従業員を雇う法人は原則として加入義務あり(業種によって例外あり)。
- 手続きは年金事務所で行い、健康保険証や年金加入資格が従業員に発行される。
- 就業規則や労働契約書
- 従業員を10人以上雇用する場合は「就業規則」の作成・届出が必要。
- 規模が小さくても、雇用条件通知書など契約内容を書面で示すことが望ましい。
2. 一人で始める場合
自分だけで事業を始める場合は、基本的に労働保険や社会保険の加入義務はありません。
- 健康保険・年金は「国民健康保険」「国民年金」に個人で加入。
- 法人を設立して代表者になった場合は、原則として役員も社会保険に加入する義務がある点に注意。
3. よくある落とし穴
- アルバイトを少人数だけ雇う場合でも、労災保険は必ず必要。
- 法人化したのに代表者が「国保・国民年金のまま」になっているケースは不適切。
- 労務管理の不備は、後の労働トラブルや行政指導のリスクにつながる。
4. まとめ
創業時は売上や営業活動に意識が向きがちですが、従業員を雇う場合には必ず労働保険・社会保険の手続きが必要です。一人で始める場合も、法人化したなら社会保険に入る必要があります。労務関連の整備は「後回しにしない」ことが大切です。
📌 労務・社会保険の相談も可能です
当事務所では、提携する社会保険労務士と連携しながら、創業時の労務・社会保険手続きについてもサポートが可能です。従業員を雇う予定がある方は、早めにご相談ください。
第5章 事業用の基盤整備
1. 事業用口座の開設
- 個人事業主の場合
→ 個人口座とは分けて「事業専用の口座」を作るのが望ましい。入出金を分けることで帳簿付けが楽になり、税務署からの信用度も増します。 - 法人の場合
→ 法人名義の銀行口座を必ず開設します。登記簿謄本・印鑑証明・定款などが必要で、審査に時間がかかることもあるため、早めの準備が大切です。
加えて、銀行口座の開設は単なる事務手続きではなく、金融機関との接点を作る最初のチャンスでもあります。口座開設の場面で意識しておきたいのは次の点です。
- 事業計画を簡潔に説明できるようにしておく
創業の背景や事業の内容、当面の売上見込みを簡潔に伝えられると信用につながります。 - 必要書類を不備なく整える
登記事項証明書や定款などをきちんと揃えるだけで、事務能力の高さを示せます。 - 将来的な資金需要に軽く触れておく
「今後、設備投資を検討している」「補助金を活用予定」などを一言添えると、銀行側も長期的な付き合いを意識してくれます。 - 担当者との人間関係を意識する
最初の対応が丁寧だと、その後の融資や相談もスムーズになります。特に地元の金融機関ではネットワーク面でのメリットも得られます。
つまり口座開設は「お金を入れる箱を作るだけ」でなく、将来の融資や支援につながるきっかけでもあります。最初の印象づくりを意識して臨むと、後々の経営にプラスになります。
2. 事業用印鑑の準備
- 法人は必須:会社実印・銀行印・角印の「三点セット」を作るのが一般的。
- 個人事業主も有用:屋号付きの銀行印を作っておくと、見積書や契約書で信頼感が増します。
3. 営業ツールの整備
- 名刺:屋号・連絡先・事業内容を分かりやすく記載。法人であれば会社名と代表者名を明記。
- ホームページ:信用力の土台。創業初期はシンプルでも良いので、事業概要と連絡手段を必ず掲載。
- チラシ・パンフレット:地域密着の業種なら、印刷物を活用した告知も効果的。
営業ツールの整備については、本シリーズの別回で「創業時のブランディング・広報戦略」として詳しく取り上げます。ここでは概要のみに留めます。
4. 会計・業務管理の準備
- 会計ソフトを導入して日々の取引を記録する仕組みを整える。
- 請求書・領収書のフォーマットを統一しておくと実務がスムーズ。
- クラウドサービスを活用すれば、経理やスケジュール管理も低コストでスタート可能。
会計や業務管理の詳細についても、別回で「創業期に押さえる経理・ITツール活用法」として深掘りしていきます。
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これまでの講座一覧
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| 回 | テーマ |
|---|---|
| 第1回 ビジネスプランを準備する | 創業の第一歩として、事業のアイデアを整理し、具体的な形にまとめる方法を解説します。 |
| 第2回 ビジョン・経営理念を作る | 自分の事業が「なぜ存在するのか」を明確にし、共感を生む経営理念を言葉にします。 |
| 第3回 創業時に必要な手続き | 開業届・各種許認可・税務署や役所への届出など、創業時の実務を整理します。 |
| 第4回 法務・契約の基礎 | 契約トラブルを防ぐための基本知識と、押さえておくべき契約書のポイントを紹介します。 |
| 第5回 経営戦略・計画を作る | SWOT分析などを使いながら、事業の方向性を定めるための戦略づくりを学びます。 |
| 第6回 マーケティング・市場戦略を考える | 顧客ニーズをどう捉え、競合とどう差別化するか。マーケティングの基本を解説します。 |
| 第7回 広報・PR | SNS・ホームページ・プレスリリースなど、発信を通じてファンを増やす方法を紹介します。 |
| 第8回 起業関連のさまざまな支援策 | 補助金・助成金・融資制度など、創業時に使える支援策をわかりやすくまとめます。 |
| 第9回 はじめての会計 | 会計の基本構造を理解し、経営判断に役立つ数字の見方を身につけます。 |
| 第10回 価格転嫁の基礎 | 適正な利益を守るための価格設定と、取引先との交渉の考え方を解説します。 |
| 第11回 営業・販路開拓 | 「売り込み」ではなく「課題解決」としての営業を実践するためのステップを紹介します。 |
| 第12回 人を雇う | パート・アルバイト採用から社会保険まで、人を雇うときの流れと注意点を整理します。 |
| 第13回 企業の社会的責任を考える | CSRの基本と、中小企業でもできる信頼を育てる取り組みを解説します。 |
| 第14回 創業時に使えるデジタルツール | 無料または低コストで使える便利ツールを紹介し、業務効率化のヒントを提供します。 |
| 第15回 知的資産経営 | 人・技術・信頼といった「目に見えない強み」を見つめ直し、経営に活かす考え方を紹介します。 |
| 第16回 夢を実現し、会社を長く愛される存在にするために | 全講座のまとめとして、持続的に事業を続けるための視点と次のステップを提示します。 |


