<創業・スタートアップ経営基礎講座>第7回「広報・PR ― 自分の事業を知ってもらうために」

広報

目次

1. はじめに

どんなに良い商品やサービスを用意しても、それを知ってもらわなければ存在しないのと同じです。創業したばかりの事業にとって、まず必要なのは「存在を知ってもらうこと」と「信頼を積み上げること」です。

そのために欠かせないのが広報・PRです。広報・PRとは、単に宣伝をすることではなく、自分の事業の理念や強みを「伝える」活動全般を指します。広告のようにお金をかけて露出する方法もありますが、広報・PRは比較的低コストで取り組めることが多く、特に創業初期の小さな事業にとっては大きな武器になります。

さらに、広報・PRには「信頼性」という強みがあります。たとえば、新聞に取り上げられる、地域の人に口コミで紹介される、SNSで共感が広がる――こうした動きは、事業者自身が語るよりも説得力を持ちます。つまり、顧客のニーズを解決する力を、第三者の視点を通して伝えていくことができるのです。

本章では、創業初期に実践しやすい広報・PRの手法と、それぞれの特徴や費用対効果を比較しながら、効果的な発信の進め方を解説していきます。

👉 本記事は中小企業診断士兼行政書士が解説する 『やりたい!をカタチにする 創業・スタートアップ経営基礎講座』 です。

今回は前回(第6回 マーケティング・市場戦略を考える)で整理した「誰に・何を届けるか」という視点を踏まえ、今回は「どう伝えるか」に焦点を当てます。


2. 自分のストーリーを整理する

広報・PRの出発点は「自分の事業をどう見せたいか」ではなく、「どんな背景と想いがこの事業を支えているのか」を整理することにあります。これを曖昧にしたまま発信しても、メッセージは断片的になり、受け手には響きにくいものです。

ストーリーを整理することには、次のような意味があります。

  • 一貫性を持たせるため
    発信するたびに内容がぶれると、顧客に不信感を与えてしまいます。ストーリーを固めておけば、SNS・チラシ・HPなど媒体が違っても「同じ想いが伝わってくる」状態をつくれます。
  • 第三者が語りやすくなるため
    人は「数字や機能」よりも「背景や物語」を他人に話したくなるものです。整理されたストーリーは口コミや紹介を生みやすく、広報効果を増幅させます。
  • 自分自身が軸を確認するため
    発信を続けていると「もっと派手にしなければ」「他社に合わせよう」と迷いが生じやすいですが、創業の想いを言語化しておくことで、判断の基準点ができます。

実際の整理のステップはシンプルです。

  1. 創業のきっかけ ― なぜ始めたのか
  2. 理念やビジョン ― 事業を通じて実現したい未来は何か
  3. 顧客の課題 ― どんな悩みや不便を解決したいのか
  4. 提供する価値 ― 自社だからこそできることは何か

この4点を短い文章にまとめるだけで、発信の方向性が明確になります。それにより広報・PRの全体が「一本筋の通った物語」として伝わるようになります。


3. 発信手段の選び方

ストーリーを整理したら、それをどうやって伝えるかを考えます。広報・PRの手段は多様で、それぞれ費用や効果が異なります。ここでは代表的な5つの手段を取り上げます。それぞれの特徴を実務的に解説したうえで、最後に比較表にまとめます。

(1) プレスリリース(新聞・地域紙)

創業や新サービス開始のニュースを、メディアに取り上げてもらう方法です。記事という形で紹介されるので信頼性が高く、特に地域での認知度を一気に高める効果があります。

ただし「どう発信すればいいのか」が分かりにくい方も多いでしょう。実際の方法は大きく2つあります。

  • 地元紙・地域情報誌に直接アプローチする
    地元紙の編集部や地域のフリーペーパーに直接メールやFAXで情報を送ります。地域経済や生活情報のページでは、新規開業や店舗オープンの記事が歓迎されやすいです。特に小規模事業にとって現実的な方法です。
  • プレスリリース配信サービスを利用する
    PR TIMESValuePress!などのオンライン配信サービスを使うと、全国の記者やライターに情報を届けられます。費用はかかりますが、地方紙からウェブメディアまで幅広くリーチできるのが強みです。

どちらの場合も「読み手にとってニュース性があるかどうか」が重要です。単に「お店を開きました」ではなく、地域性・新しさ・社会的意義を意識して書くと掲載されやすくなります。


(2) ホームページ・ブログ

事業の「公式な顔」として情報を整理し発信する場です。営業時間やサービス内容を明確に示せるだけでなく、ブログ記事を積み重ねればSEO(検索エンジン対策)によって全国からの検索流入も期待できます。長期的に資産になるのが最大の強みです。

作り方は大きく2つに分かれます。

  • 制作会社に依頼する方法
    デザインや機能面をしっかり作り込みたい場合は、専門の制作会社に依頼するのが安心です。費用は数十万円〜かかりますが、完成度や更新のしやすさを考えると価値はあります。
  • 自分で作成する方法
    最近は Wix ペライチ などのサービスを使えば、専門知識がなくても簡単にホームページを作れます。テンプレートに沿って入力するだけで公開できるため、創業初期でも手軽にスタート可能です。また、更新も自分で気軽に行えるため、小さな改善を重ねやすいのが利点です。

大事なのは「作って終わり」ではなく、定期的に更新を続けて「活動している姿」を見せることです。更新が止まると「事業をやっていないのでは」と見られるリスクがあるので注意が必要です。


(3) SNS(X、Instagram、Facebookなど)

SNSは費用をかけずにすぐ始められるため、創業初期でも取り組みやすい発信手段です。写真や動画を活用すれば雰囲気を直感的に伝えられ、顧客との距離を縮めやすいのが特徴です。

ただし、実際に効果を得るには「フォロワーを集める」「日常的に発信を続ける」というハードルがあります。開設しただけでは認知は広がらず、更新が途絶えてしまうと逆にマイナスの印象を与えることもあります。

そのため、

  • 投稿を週1回など無理のない頻度で決める
  • 発信するテーマをあらかじめ絞っておく(商品紹介、日常風景、顧客の声など)
  • 写真や動画をうまく活用して視覚的に伝える

といった工夫が成果を出すカギになります。


(4) イベント・セミナー

顧客と直接会えるイベントやセミナーは、短期間で信頼を築くのに効果的です。形式は業種によって違いがありますが、「自主開催」だけでなく「既存イベントに出展する」形も有効です。

  • 飲食業
    自店での「試食会」や「料理体験ワークショップ」に加え、地元のフードフェスやマルシェに出展すると、新規顧客に試してもらう機会になります。
  • 小売業(雑貨・アパレルなど)
    店舗での「新商品お披露目会」に加え、ショッピングモールの催事やポップアップイベントに参加すると新規層にリーチ可能です。
  • 専門サービス業(士業・コンサル・教室運営など)
    「無料相談会」や「テーマ別セミナー」を自社開催するほか、商工会や地域の起業イベントに登壇・出展することで信頼度が高まります。
  • 建設・工務店・住宅関連
    「完成見学会」「リフォーム相談会」など自社イベントに加え、住宅フェアや地域の展示会に出展すると、見込み顧客と効率的に出会えます。
  • 美容・健康関連
    「体験施術イベント」を店舗で開くほか、地域の健康フェアやショッピングモールの催事に参加することで、試してもらう機会を増やせます。

自力開催は深い関係を築く場催事出展は新しい顧客と出会う場という使い分けをすると効果的です。


(5) チラシ・DM

地域密着型の事業にとって、チラシやDMは依然として強力な発信手段です。特にシニア層や地域の生活者に直接届くため、デジタル媒体が苦手な層へのアプローチに有効です。

配布方法の違いを理解して使い分けることが大切です。

  • ポスティング
    専門業者に依頼し、特定エリアの住宅ポストに直接投函してもらいます。店舗型ビジネスと相性が良く、地域単位でターゲットを絞れます。
  • 新聞折込
    新聞購読家庭に一斉に届けられるため告知効果が高いです。しかし購読率の低下もあり、対象層を見極める必要があります。
  • 顧客リストに直接送るDM
    既存顧客や見込み客に宛てて郵送する方法です。コストは高めですが、ターゲットが明確なため反応率も高く、関係強化にもつながります。

デザイン面では、情報を詰め込みすぎず「一瞬で伝わる」ことを意識することがポイントです。クーポンや特典を添えると反応率はさらに高まります。


広報・PR手段の比較表

手段初期費用維持コスト到達範囲信頼性即効性特徴
プレスリリース数千円〜ほぼなし地域全般中〜高地元での信用力アップに有効
ホームページ・ブログ数万円〜月数千円〜全国(検索流入)低〜中長期的な集客基盤になる
SNS無料〜投稿の時間コストフォロワー中心(拡散で全国)手軽で始めやすく拡散性あり
イベント・セミナー数千円〜数万円開催ごとに発生参加者限定信頼関係構築や新規層開拓に強い
チラシ・DM数千円〜数十万円配布ごとに発生地域限定ターゲットを絞れば効果的

4. 実務で押さえておきたいポイント

広報・PRは「やればすぐ効果が出る」という性質のものではありません。小さな積み重ねをどう続けるかが成果を分けます。実務で取り組む際に意識しておきたいポイントを整理します。

① 継続性を重視する

一度だけ発信しても、その情報はすぐに埋もれてしまいます。週1回のSNS投稿、月1回のブログ更新、季節ごとのプレスリリースなど、無理のない頻度を決めて続けることが大切です。続けているだけで「活動している事業」と見てもらえる効果があります。

② 一貫性を持たせる

「安さを売りにした投稿」と「高級感を演出した広告」が混在すると、顧客は混乱してしまいます。ストーリーで整理した理念や価値観を軸に、どの媒体でも同じメッセージを届けるようにしましょう。

③ 視覚的要素を活用する

文字情報だけでは伝わりにくい内容も、写真や動画を添えることで一瞬で印象が変わります。飲食業なら料理の写真、建設業なら施工事例、美容業なら施術のビフォーアフターなど、「見せて伝える工夫」が反応を高めます。

④ 効果を確認し改善する

SNSなら「いいね」や「フォロワー数」、ブログなら「アクセス数」、イベントなら「参加者数」や「アンケート」など、成果を必ず測定しましょう。結果を踏まえて次の発信に改善を加えれば、同じ労力でも効果は大きくなります。

⑤ 無理なく組み合わせる

「SNSだけ」「チラシだけ」と限定せず、2〜3種類を並行して使うのがおすすめです。たとえば「SNSで日常的に発信」+「ホームページで基本情報を整理」+「イベントで顧客と直接接点」という組み合わせは、創業初期に取り組みやすく効果も出やすい方法です。


5. 成功例・失敗例

広報・PRは取り組み方次第で成果が大きく変わります。ここでは創業初期によく見られる事例を紹介します。

成功例

  • 地域カフェの事例
    新規オープンに合わせて「地元紙へのプレスリリース」と「Instagramでの試作メニュー紹介」を同時に実施しました。新聞記事で地域の信頼を得つつ、SNSでは写真映えするスイーツが拡散され、開店初日から想定以上の来客につながりました。
    👉 広報の手段を複数組み合わせることで相乗効果が出た典型例です。
  • 小売店の事例(雑貨店)
    商店街の催事イベントに出展し、来場者にチラシを配布。そのチラシには店舗のQRコードを入れ、後日SNSでの発信につなげました。リアルイベントとデジタル発信を組み合わせたことで、顧客が継続的に情報を受け取れる仕組みができました。
  • 士業・コンサルの事例
    地域の商工会が主催する「創業者向けイベント」に登壇し、そこでの資料やスライドを自社サイトに再掲。イベント参加者だけでなく、後から検索で訪れる人にも情報が届くようになり、相談につながりました。

失敗例

  • 更新が止まったブログ
    ホームページを作ったものの、最初の数記事で更新が止まっている。「この事業は続いているのか」と不信感を与えてしまいました。ブログは「少なくてもいいから継続する」ことが何より重要です。
  • SNSで発信内容がバラバラ
    ビジネスの情報と、プライベートな日常が混在。フォロワーに「結局何を伝えたいのか分からない」と思われてしまった例。事業用アカウントはテーマを絞って運用することが信頼につながります。
  • 一度だけの派手なイベント
    大きな費用をかけて開店イベントを実施したものの、その後の発信がなく、一過性の効果で終わってしまいました。イベントは継続的な広報の一部として位置づけないと、せっかくの盛り上がりも活かせません。

6. まとめ

広報・PRは、創業初期に「事業の存在を知ってもらい、信頼を積み上げていく」ための重要な活動です。広告のように大きな費用をかけなくても、工夫次第で効果を出すことができます。

ポイントを振り返ると、

  • まずストーリーを整理すること
    創業の背景や理念を言語化することで、一貫性のある発信が可能になります。
  • 自分に合った手段を選び、組み合わせること
    プレスリリース、ホームページ、SNS、イベント、チラシなど、手段ごとに特徴が異なります。
  • 継続して、小さな改善を重ねること
    一度の発信で終わらせず、効果を測りながら習慣として続けることが成功のカギです。

広報・PRは「お金をかけるもの」ではなく、「信頼を積み重ねるもの」です。自分の事業の強みやストーリーを、無理のない方法で継続的に伝えていくことが、創業初期を乗り越える力になります。

👉 次回では、事業を支える「お金」の部分に焦点を当てて解説します。


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