<創業・スタートアップ経営基礎講座>第4回「創業時に押さえておきたい法務・契約の基礎」

法務契約の基礎


目次

1. はじめに

これまでの連載では、創業のスタートラインに立つための準備を順番に整理してきました。第1回ではビジネスプランの基本、第2回ではビジョンや経営理念づくり、そして前回の第3回では「創業時に必要な手続き」として、開業届や許認可申請など実務的な準備を取り上げました。

こうした基盤を整えた後に待っているのが、「契約」というテーマです。
仕事を依頼する、商品を売買する、人を雇う、資金を借りる、事務所を借りる――事業活動のほとんどは契約によって成り立っています。契約を曖昧にしたまま進めてしまうと、後に「言った・言わない」や「思っていた内容と違う」といったトラブルが発生しかねません。

今回の第4回では、創業初期の経営者が最低限押さえておきたい「法務・契約の基礎」を整理します。
契約の大原則から始め、代表的な契約の種類、トラブルを防ぐためのチェックポイント、そして電子契約をめぐる制度まで、必要な知識をひと通り確認していきましょう。


この中小企業診断士兼行政書士が解説する「創業・スタートアップ経営基礎講座」シリーズは、こちらの 一覧ページ から全回をまとめてご覧いただけます。

前回の第3回「創業時に必要な手続き」では、開業届や許認可申請など、事業を始めるために欠かせない実務の流れを解説しました。


2. 契約の基本構造を理解する

契約自由の原則

まず契約は、民法上「誰と・どのような内容で・どのような形式で」結ぶかを当事者が自由に決められるのが大原則です。これを契約自由の原則と呼びます。例えば、商品の売買であれば、価格・数量・納期などを当事者同士で自由に合意できます。

もっとも、すべてが自由というわけではありません。労働法や消費者契約法のように、弱い立場の人を保護するためのルールが特別法として定められています。創業者は「原則は自由だが、法令で制限される領域もある」という点を押さえておく必要があります。

契約の成立と書面化

契約は、当事者の「合意」があれば口頭でも成立します。しかし口頭契約には記録が残らず、後から「言った・言わない」のトラブルにつながりがちです。そのため、実務上は必ず契約書や合意書といった書面化が推奨されます。

契約書を作成することで、次のような効果があります。

  • 双方の権利・義務を明確にできる
  • 不測の事態が起こったときの処理方法を事前に決められる
  • 信頼性のあるビジネス関係を築ける

契約書は単なる「形式」ではなく、取引を安定させるための安全装置なのです。

契約の基本要素

契約には多くの種類がありますが、共通して押さえておくべき基本要素は次の3つです。

  1. 当事者(誰と誰が契約するのか)
  2. 目的・内容(何を・どの条件で行うのか)
  3. 対価・条件(代金や報酬、支払い方法など)

これらを明確に定めて書面に残すことで、契約の土台が固まります。


3. 電子署名・電子契約の活用

近年は契約の電子化が一気に広がり、クラウドサービスを通じて電子契約を結ぶことが当たり前になりつつあります。特にスタートアップや小規模事業者にとっては、印紙税や郵送費を削減できる点で大きなメリットがあります。

電子署名の法的効力

2000年に制定された電子署名法により、電子署名が「本人による署名」であり、かつ「改ざん防止の仕組み」が備わっていれば、紙の署名・押印と同等の効力を持つことが明確になっています。
つまり、きちんとした方式で行えば「紙でハンコを押さないと契約にならない」ということはありません。

電子帳簿保存法との関係

契約書を電子データとして保存する場合、電子帳簿保存法の要件を満たせば、紙での保管は不要となります。
検索機能の確保や改ざん防止措置など、一定の条件を整えることが求められますが、一度体制をつくれば保管スペースや管理コストを大きく削減できます。

電子契約のメリット(制度的観点)

  • 契約書にかかる印紙税が不要(紙の場合は課税)
  • 電子データとして長期保存・検索が容易
  • 署名・押印・郵送のやりとりがなくなり、契約締結までの時間を短縮できる

留意点

  • 相手方が電子契約を認めない場合、従来の紙契約を選ばざるを得ないケースもある
  • 自社規程や取引ルールに「電子契約を有効とする」旨を定めておくことが望ましい

4. 創業初期に必要な契約の種類

業務委託契約

外部のフリーランスや他社に業務を任せる場合に必要です。報酬額、納期、成果物の範囲、再委託の可否といった点を明記しておかないと、「どこまでが仕事か」を巡るトラブルにつながります。

売買契約・取引基本契約

商品や資材の仕入れ、商品の販売などで登場する契約です。代金支払いの条件、検収方法、返品の可否といった条項は特に重要です。継続的な取引を行う場合は「取引基本契約」を結んでおくとスムーズです。

秘密保持契約(NDA)

新規取引や提携の打ち合わせで、自社のノウハウや顧客情報を共有するときに必要です。「情報の範囲」「利用目的」「秘密保持の期間」を定めることで、万一の情報漏洩リスクを減らせます。

利用規約・プライバシーポリシー

ECサイトやWebサービスを運営する場合に必須です。サービス提供条件を示す「利用規約」と、個人情報の取り扱い方針を示す「プライバシーポリシー」は、利用者との信頼関係を築く土台になります。

雇用契約

従業員を雇う際に必要です。労働基準法上、労働条件通知書の交付は義務であり、勤務時間・給与・休日・退職条件といった事項を明確にする必要があります。

消費貸借契約

親族や知人から資金を借りるときなど、「お金の貸し借り」を証明する契約です。契約書がなければ贈与と誤解されるリスクもあり、返済期限や利息の有無などを明記しておくことが重要です。

賃貸借契約

事務所や店舗を借りるときに必要です。賃料・敷金・原状回復の範囲・更新料の有無はトラブルになりやすい部分です。退去条件まで含めて契約書で確認しましょう。


5. 契約トラブルを防ぐためのチェックポイント

契約書は「形式的に交わすもの」ではなく、後のトラブルを未然に防ぐための重要な道具です。特に創業初期は資金や信用に余裕がなく、ひとつの契約トラブルが致命傷になりかねません。以下のポイントは必ず確認しておきましょう。

契約期間と解除条件

  • 契約の有効期間、更新方法、自動更新の有無を確認
  • 途中解約できる条件や違約金の有無を明記しておく

支払い条件と遅延損害金

  • 代金の支払期日、振込先、支払いサイトを明確に
  • 支払い遅延が発生した場合の損害金規定を入れておく

知的財産権・成果物の帰属

  • 制作物やシステム開発などで「完成後の権利は誰に帰属するのか」を明確に
  • 二次利用や改変の権利についても取り決めておくと安心

損害賠償の範囲

  • 過失があった場合の責任範囲
  • 賠償額の上限を設定しておけば、過大な請求を防ぐことができる

反社会的勢力排除条項(反社条項)

  • 相手が反社会的勢力でないことを表明させ、違反時には契約解除できる条項
  • 金融機関や大企業では必須。中小事業者でもぜひ盛り込んでおきたい

契約不適合責任(旧・瑕疵担保責任)

  • 商品や成果物が契約内容に適合していない場合の責任を定める条項
  • 修補、代替品の提供、損害賠償など具体的な対応方法を決めておく

履行の担保

  • 契約を確実に履行させるための手段(保証金・違約金・連帯保証人など)
  • 特に金銭や納期が重要な契約では欠かせない要素

6. 参考:売買契約書の典型条項と解説

契約トラブル防止のチェックポイントを理解したら、実際の契約書がどのように条項化されるかを見てみましょう。ここではシンプルな売買契約を例に取り上げます。

第1条(目的物の内容)

売主は、買主に対し、別紙商品明細書に記載の物品(以下「本件商品」という。)を販売し、買主はこれを購入する。

解説
契約の対象となる商品・サービスを明確にします。「数量」「品質」「規格」が曖昧だと後のトラブルにつながるため、別紙の明細書などを添付するのが一般的です。

第2条(代金および支払条件)

本件商品の代金は金○○円とし、買主は納品完了後30日以内に売主指定の銀行口座へ振り込む。

解説
最も揉めやすいのが代金の支払いです。「金額」「支払期限」「支払方法」を必ず明記しましょう。加えて「遅延損害金」の条項を入れておくと安心です。

第3条(引渡し時期・方法)

売主は、買主の指定する場所に対し、令和○年○月○日までに本件商品を引き渡す。

解説
納期や納品場所を明確にすることで、「納期遅延」「誤配送」などのトラブルを防止できます。

第4条(契約不適合責任)

本件商品が契約内容に適合しない場合、買主は引渡し後30日以内に売主に通知できる。売主は修補または代替品の提供を行う。

解説
以前の「瑕疵担保責任」に代わって導入されたルールです。納品物に欠陥があった場合の対応を明確にしておかないと、長期にわたって責任を問われる可能性があります。

第5条(反社会的勢力の排除)

売主および買主は、自らが反社会的勢力でないことを表明し、違反した場合には相手方は催告なく契約を解除できる。

解説
近年は大手企業や金融機関だけでなく、中小企業の取引でも必須になりつつある条項です。社会的信用の維持に直結するため、必ず入れておきたい内容です。

第6条(契約期間)

本契約の有効期間は契約締結日から令和○年○月○日までとし、期間満了前に終了通知がなければ同一条件で1年間更新される。

解説
「契約がいつまで有効か」を定める条項です。自動更新の有無をはっきりさせておかないと、不要な契約が継続してしまうリスクがあります。

第7条(合意管轄)

本契約に関する紛争については、売主本店所在地を管轄する○○地方裁判所を専属的合意管轄裁判所とする。

解説
トラブル発生時に「どこの裁判所で争うのか」を決めておく条項です。取引先が遠方の場合、こちらに有利な裁判所を指定できるかどうかが重要になります。


7. 専門家との連携

契約に関する知識は、創業者自身が最低限理解しておくことが欠かせません。ただし、すべてを自力で完璧にこなす必要はありません。要所で専門家の知見を取り入れることで、無用なリスクを避けることができます。

行政書士

日常的に用いる契約書の作成やチェックを依頼できる身近な存在です。業務委託契約、雇用契約、売買契約など、事業運営に直結する契約を整備する場面で頼りになります。

弁護士

高度な法的判断やトラブル発生時の対応は弁護士の専門領域です。重要な取引契約や紛争の可能性がある案件では、弁護士によるリーガルチェックを受けるのが安心です。

司法書士

不動産取引や会社設立登記など、登記業務に関わる契約の場面で活躍します。賃貸借契約や不動産売買を事業に絡める場合、司法書士と連携するケースも少なくありません。

無料相談の活用

商工会・商工会議所や自治体の創業支援窓口では、定期的に専門家による無料相談会が開かれています。最初から顧問契約を結ばなくても、こうした機会を活用すれば必要最低限のアドバイスを得られます。


契約は「雛形を整えておく」だけでは十分ではありません。自分では気付かない抜けや偏りを専門家の視点で補うことが、安心して事業を進めるための大きな支えになります。


8. まとめ

創業期の契約は「形だけ整えるもの」ではなく、事業を守るための実務的な仕組みです。
本記事では、契約の基本構造から電子契約制度、創業時に登場しやすい契約の種類、そして典

型的な条項例までを整理しました。

特に押さえておきたいポイントは次の3つです。

  • 契約自由の原則を理解しつつ、労働法や消費者契約法などの特別法で制限される領域があることを知る。
  • 契約書は安全装置。契約不適合責任や反社条項、履行の担保など、重要条項を必ず確認して書面に残す。
  • 電子署名・電子契約制度の活用で効率化やコスト削減が可能。ただし、取引先や自社規程との整合性も大切。

契約は、創業初期の経営者にとって「盾」とも「矛」ともなる存在です。最低限の知識を持ち、雛形を整え、必要に応じて専門家と連携することで、安心して次のステージへ進むことができます。


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テーマ
第1回 ビジネスプランを準備する創業の第一歩として、事業のアイデアを整理し、具体的な形にまとめる方法を解説します。
第2回 ビジョン・経営理念を作る自分の事業が「なぜ存在するのか」を明確にし、共感を生む経営理念を言葉にします。
第3回 創業時に必要な手続き開業届・各種許認可・税務署や役所への届出など、創業時の実務を整理します。
第4回 法務・契約の基礎契約トラブルを防ぐための基本知識と、押さえておくべき契約書のポイントを紹介します。
第5回 経営戦略・計画を作るSWOT分析などを使いながら、事業の方向性を定めるための戦略づくりを学びます。
第6回 マーケティング・市場戦略を考える顧客ニーズをどう捉え、競合とどう差別化するか。マーケティングの基本を解説します。
第7回 広報・PRSNS・ホームページ・プレスリリースなど、発信を通じてファンを増やす方法を紹介します。
第8回 起業関連のさまざまな支援策補助金・助成金・融資制度など、創業時に使える支援策をわかりやすくまとめます。
第9回 はじめての会計会計の基本構造を理解し、経営判断に役立つ数字の見方を身につけます。
第10回 価格転嫁の基礎適正な利益を守るための価格設定と、取引先との交渉の考え方を解説します。
第11回 営業・販路開拓「売り込み」ではなく「課題解決」としての営業を実践するためのステップを紹介します。
第12回 人を雇うパート・アルバイト採用から社会保険まで、人を雇うときの流れと注意点を整理します。
第13回 企業の社会的責任を考えるCSRの基本と、中小企業でもできる信頼を育てる取り組みを解説します。
第14回 創業時に使えるデジタルツール無料または低コストで使える便利ツールを紹介し、業務効率化のヒントを提供します。
第15回 知的資産経営人・技術・信頼といった「目に見えない強み」を見つめ直し、経営に活かす考え方を紹介します。
第16回 夢を実現し、会社を長く愛される存在にするために全講座のまとめとして、持続的に事業を続けるための視点と次のステップを提示します。
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