水戸ホーリーホックJ1昇格に学ぶ「戦う組織」のつくり方|地方クラブと中小企業の共通点

水戸ホーリーホック、ついにJ1へ
2025年11月29日、ケーズデンキスタジアム水戸。
水戸ホーリーホックは最終節で大分トリニータに2–0で勝利し、クラブ史上初のJ2優勝とJ1昇格を決めました。

Jリーグ参入から26年。
「育成の水戸」と呼ばれながら、昇格にはあと一歩届かないシーズンが続いてきましたが、ついに長年の目標をつかみ取ったことになります。
以前、当ブログでは
『戦う組織』への変貌──変革型リーダーシップに学ぶ、水戸ホーリーホックの快進撃
という記事で、森直樹監督のリーダーシップを中心に、水戸ホーリーホックの変化を整理しました。
今回は、「J1昇格」という結果が出た今だからこそ見えてくるものを、あらためて整理してみたいと思います。
サッカーファンとしての喜び半分、中小企業診断士としての職業病半分での「振り返り」です。
1.J1昇格という結果が教えてくれること
「奇跡」ではなく、長期設計の延長線

水戸ホーリーホックは、責任企業(親会社)を持たない「地方市民クラブ」です。
予算規模もリーグ下位クラスといわれるなかで、選手育成と移籍ビジネスを組み合わせながら、地道にクラブ規模を拡大してきました。
今回のJ2優勝&J1昇格は、「1年だけうまくいったラッキーなシーズン」というよりも、
- 育成年代からトップ、地域連携まで含めた10年以上の積み上げ
- GM・社長・監督が共有してきた「育成して、なお勝つ」クラブ像
が、ようやく形になった、と見る方が自然だと思います。
だからこそ、私はこの昇格を
「変革型リーダーシップの“答え合わせ”」と捉えています。
2.森直樹監督のリーダーシップ──“勝つために育てる”へのマインドチェンジ

クラブの歴史を踏まえた「内側からの改革者」
森直樹監督は、選手・コーチ時代を含めて20年以上水戸に関わってきた、生え抜きの存在です。
クラブの文脈を理解したうえで、あえてスローガンを
「すべては成長のために」
→「やりきる 走りきる 勝ちきる」
へと変えました。
これは、「育成クラブだから、順位は仕方ない」という空気から、「限られた資源の中でも、勝つところまでやり切る」という価値観へ、クラブ全体のマインドを切り替える宣言だったように思います。
変革型リーダーシップの4つの要素
前回の記事でも触れましたが、森監督のスタイルは「変革型リーダーシップ」の教科書のようでもあります。
- 理想化された影響力
まず自分が誰よりもクラブにコミットし、行動量と覚悟を見せることで、選手やスタッフの信頼を得ています。 - 鼓舞的動機づけ
抽象的な「成長」ではなく、「このクラブがJ1に行く」「そのために今シーズンやりきる」といった、具体的な目標を言語化してきました。 - 知的刺激
「育成」と「結果」という一見矛盾するテーマを、戦術・起用・トレーニングの課題として共有し、選手に「自分で考えて選択する」ことを求めてきました。 - 個別的配慮
試合後コメントなどでも、若手・主力・ベテランそれぞれに対して、課題と良さの両方に触れる場面が目立ちます。
「自分はきちんと見られている」という感覚は、選手にとって大きな安心感になっているはずです。
J2優勝を決めた最終節後の取材でも、森監督は選手を称えつつも、
「ここからがスタート」
「J1でも戦えるチームを作っていきたい」
と、すでに次のフェーズを見据えたコメントを残しています。
結果に対して前面に立ちながら、学び続ける集団をつくる――
それが森監督のリーダー像だと感じています。
3.西村GMと小島社長──「器」をつくったフロントの視点

GM=「育成CEO」という発想
西村卓朗GMは、強化部長からGMへと役割を広げる中で、
- スカウト
- 育成
- トップでの起用
- 移籍・移籍金
- 収益構造
を「ひとつの流れ」として設計してきました。
端的に言えば、
「選手を見つけて、預かって、伸ばして、外に送り出す」
ところまでをクラブの責任と捉え、
単なる選手補強ではなく人材育成ビジネスとして位置づけている、ということです。
また、水戸は「Make Value Project」などを通じて、選手の社会的な成長やキャリア形成にも取り組んできました。
これは、クラブを「競技力だけではない、人を育てる場」として捉える発想でもあります。
小島社長の「50年後」を見据えた経営
一方で、小島耕社長は、クラブを「50年後も地域に必要とされる存在」にすることを掲げ、
- 農業事業
- GX(脱炭素)プロジェクト
- 空き家活用
- 渋滞対策 など、
地域課題とサッカークラブの事業を掛け合わせた取り組みを進めています。
2025シーズンは人件費を含めた「攻めの投資」を行いつつも、
- 西村GMが取締役として経営数字も理解していること
- 「身の丈感覚」を失わない編成方針
によって、リスクを取るポイントと守るポイントのバランスが取られていたと報じられています。
森監督・西村GM・小島社長の三者は、
- 「育成は手段であり目的ではない」
- 「クラブはサッカーだけで完結しない」
という共通の哲学を持ちながら、
それぞれの立場で「戦う組織の器」を整えてきたのだと思います。
4.地方クラブの快進撃から見える、中小企業へのヒント
水戸ホーリーホックの歩みは、そのまま地方の中小企業・小さな会社の経営にも重なります。
いくつか、ビジネスに引き直してみます。

4-1 制約条件を「嘆く」のではなく「前提」にする
水戸ホーリーホックは、資金力ではどうしてもビッグクラブにかないません。
そこで、
「お金がないから何もできない」と嘆くのではなく「お金がない前提で勝つにはどうするか?」
をひたすら考え続けてきました。
中小企業も同じで、
- 人が少ない
- 広告費が出せない
- 最新設備が買えない
といった制約はつきものです。
そこで立ち止まるのか、
「その条件の中で勝てる戦い方」を設計するのか、が分かれ目だと思います。
4-2 育成と成果を両立させる「設計」の大切さ
水戸は長年「育成の水戸」と呼ばれてきましたが、
森監督体制では「育成のための試合」ではなく、
「勝つために育てる」
という方向に舵を切りました。
ビジネスでも、
- とりあえず採用して、現場に放り込む
- OJT任せで、人が育つかは運次第
というやり方だと、「育成」と「成果」がバラバラになりがちです。
- どんな人材を採りたいのか
- 何年でどのレベルまで育っていてほしいのか
- その間、どんな仕事と学びを用意するのか
を、最初から設計として描いておくことが、結局は成果にもつながるのだと思います。
4-3 フロントと現場の「すり合わせ」
水戸では、フロント(社長・GM)が「どんなクラブにしたいか」を言語化し監督は「そのビジョンをピッチでどう表現するか」を考えるという関係性が育まれてきました。
会社でいえば、
- 経営陣:中長期の方向性・投資の方針・数字目標
- 現場:お客さまに向き合い、日々のオペレーションを回す
という役割分担です。
ここが分断されていると、
- 現場「また社長がよく分からないことを言っている」
- 経営陣「現場が数字に関心を持ってくれない」
という状態になってしまいます。
同じ制約条件とビジョンをテーブルに乗せて、何度もすり合わせること。
この地味なプロセスが、強い組織をつくっていくのだと感じます。
4-4 「勝負の年」をどこに置くか
小島社長は、2025シーズンを「明確に勝負の年」と位置づけ、人件費などの投資を増やしています。
ただし、それは
- それまでの数年間で「土台」ができていたこと
- GM・監督との間で、昇格を現実的な目標として共有していたこと
があって初めて取れる決断です。
中小企業にとっても、
- ここは守りの数年にするのか
- 設備・人材・広告に踏み込んで「勝負の年」にするのか
を、どこかで決める必要があります。
焦っていきなり大きな投資をするのではなく、
- 土台づくりの数年
- 勝負の年
- 回収と次の準備
といった時間軸での設計をしておくと、リスクもコントロールしやすくなります。
5.地域クラブの躍進と、私たちのまちのこれから
水戸ホーリーホックのJ1昇格は、
単なるサッカークラブの快挙ではなく、
- スタジアムに足を運ぶ楽しみ
- 子どもたちの夢
- 地域の誇り
といった、目には見えにくい価値を一気に押し上げてくれる出来事だと思います。
試合のたびにスタジアム周辺が渋滞し、商業施設に人が集まり、SNSのタイムラインが青一色になる。
そうした風景そのものが、「地域の元気さ」を象徴してくれます。
サポーターの一人として、
そして同じ茨城で仕事をする者として、
このタイミングでこの記事を書けることを、とてもうれしく感じています。
6.おわりに──「戦う組織」をつくりたい皆さまとともに

水戸ホーリーホックのJ1昇格は、
- 資源に限りがある地方クラブでも、
- 長期的なビジョンと、
- 現場とフロントが一体となった取り組みがあれば、
大きな目標を実現できる、という希望を見せてくれました。
同じように、地方の中小企業・小さな会社でも、
- 制約を前提に戦略を組み立てること
- 人を育てる仕組みを整えること
- 「勝負の年」を見据えた投資を考えること
で、まだまだできることはたくさんあります。
当事務所(中小企業診断士・行政書士)では、
- 経営計画づくり
- 組織・人材に関するお悩み相談
- 補助金・融資などの資金調達サポート
などを通じて、皆さまの「戦う組織づくり」をお手伝いしています。
「うちの会社版・ホーリーホックストーリーを作りたい」
と思っていただけた方は、どうぞお気軽にご相談ください。
J1の舞台に挑むホーリーホックと一緒に、私たちのビジネスも一段、二段とステップアップしていきましょう。
