退職金制度は「コスト」か「投資」か 建退共・中退共を歴史と実務から見直す

1. はじめに――退職金制度は負担か、それとも未来への投資か

中小企業や建設業の経営者にとって、退職金制度は悩ましいテーマです。掛金を毎月支払う必要があるため、どうしても「コスト」として意識されがちです。しかし、視点を変えれば退職金制度は社員定着や採用力を高める投資でもあります。

そのため、制度を整えているかどうかで求人応募の数や社員の安心感、さらには元請や発注者からの信頼までも変わってきます。本記事では、建設業に特化した「建退共」と、幅広い中小企業が利用できる「中退共」について、比較にとどまらず、現場での効果や経営戦略としての活かし方を丁寧に解説します。


2. 制度が生まれた背景を知る――目的の違いが活かし方を決める

まず、制度の背景を押さえておきましょう。なぜなら、制度の設計思想を知ることで自社に合った使い方が見えてくるからです。

  • 建退共(建設業退職金共済)
    1964年に始まりました。当時の建設業界は季節雇用や短期契約が多く、職人さんが工事現場ごとに移動するのが一般的でした。そのため、現場が変わっても退職金を積み立てられるよう、業界特化の制度として設計されたのです。
  • 中退共(中小企業退職金共済)
    1973年にスタートしました。こちらは建設業に限らず、中小企業全般で人材の定着を支えるために作られました。さらに、掛金の自由度が高く、事務職や営業職が多い会社でも運用しやすいという特徴があります。

つまり、建退共は「業界の働き方に合わせた制度」、中退共は「中小企業全体を支える制度」という違いがあり、この差が実務での強みにつながります。


3. 制度が現場で発揮する力

両制度は単なる福利厚生ではありません。むしろ、経営を後押しする武器になります。

建退共の強み

  • 現場作業員の入れ替わりが多くても積立が途切れにくい点があります
  • 加入していることで元請や発注者からの信頼が高まります
  • 経営事項審査(経審)の「労務環境の整備」といった評価につながり、結果として受注力にも影響します

中退共の強み

  • 求人票や会社案内に「退職金共済あり」と記載でき、採用時のアピールにつながります
  • 技術職と事務職が混在する企業でも一本の制度で整えやすいのが利点です
  • 掛金を自由に設定できるため、資金繰りに応じた柔軟な運用が可能です

4. 経営戦略としての位置づけ――制度選びの判断軸

導入を検討する際には、以下の観点が役立ちます。

  • 工事の形態(下請中心か元請志向か)
  • 従業員の離職率
  • 経営事項審査を受けるかどうか
  • 職種の構成(現場作業員中心か、事務職も多いか)
  • 資金繰りの余力

したがって、現場中心で経審を受ける会社なら建退共、事務職が多く経審が不要なら中退共、両方を重視するなら併用という判断が自然に導かれます。このように、無理に一方を選ぶのではなく、目的に合わせて柔軟に設計するのが成功のポイントです。


5. よくある誤解と注意点

導入にあたっては、次のような誤解や落とし穴があります。

  • 「建退共は事務員も対象になるのか?」という疑問。→基本的には現場労務者を対象とする制度です
  • 「外注の職人も対象になるのか?」→請負契約や業務委託の場合は対象外で、雇用契約が前提です
  • 「中退共は掛金を高く設定した方がよいのか?」→見栄え優先で高額にすると固定費を圧迫するため危険です
  • 「短期退職者の扱いは?」→就業規則や退職金規程にルールを明記しておくことがトラブル回避につながります

6. 事例で考える導入イメージ

たとえば、次のようなケースを考えてみましょう。

事例1:従業員5名の専門工事業
職人4名、事務1名。離職率が高く経審も受けている。
→ 建退共に加入し、現場4名を対象に。その結果、求人票で「建退共加入」と記載でき、応募数が増え、元請からの評価も改善。

事例2:従業員12名の小規模元請土木会社
技術者8名、事務4名。採用難が課題。
→ 技術者には建退共、全社員には中退共を最低掛金で導入。そのため、「ダブルの退職金共済」としてアピールでき、若手技術者の採用に成功。

事例3:従業員20名の設備保守会社
技術者10名、事務10名。経審は受けていない。
→ 中退共を基幹制度として導入し、掛金は小さくスタート。そのうえ、熟練技術者は建退共も任意で検討。結果として、離職が減り、採用応募の質も安定。


7. 導入の進め方――迷わないためのステップ

制度導入は次の順番で進めるとスムーズです。

  1. 現状把握(従業員数、離職率、資金繰り)
  2. 制度選択(建退共か中退共か、あるいは併用か)
  3. 規程整備(就業規則・退職金規程)
  4. 社内説明(従業員や採用候補者への周知)
  5. 事務運用(納付方法や記録管理、可能なら電子化)
  6. 年1回の見直し(掛金水準や対象範囲の調整)

このように、小さく始めて毎年見直す運用が、失敗を避けるコツです。


8. 将来展望――退職金制度の有無が採用の分かれ目に

人材不足が進む時代において、退職金制度は「あると安心」ではなく「ないと選ばれない」に近づきつつあります。とくに建設業では、元請や発注者が「労務環境を整えているかどうか」を評価の基準にしています。

また、制度の電子化も広がりつつあります。証紙から電子納付への移行や記録のデジタル管理は、結果として事務負担の軽減やミスの防止につながります。


9. まとめ――制度を「仕組み」として根づかせる

  • 建退共は現場労務者向けの制度で、経審や元請評価に直結する
  • 中退共は幅広い職種に対応し、採用・定着の武器になる

したがって、どちらを選ぶかは会社の人員構成や目的によって決まります。いずれにしても、導入して終わりではなく、会社の成長に合わせて定期的に見直すことが大切です。結局のところ、退職金制度は単なる福利厚生ではなく、未来の会社を支える「仕組み」なのです。

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