<創業・スタートアップ経営基礎講座>第5回「経営戦略・計画を作る」
1. はじめに
創業したばかりのとき、どうしても日々の業務や目の前の売上に意識が向きがちです。けれども、長く事業を続けるためには「どこで戦うか」「どう勝つか」という方向性を定め、その上で具体的な行動計画に落とし込むことが欠かせません。
ここで言う「経営戦略」とは、事業の大きな道筋を描くことです。例えば同じカフェを開業するとしても、「地域に根ざした常連客づくりを重視するのか」「SNSを活用して遠方から来てもらう目的地型カフェにするのか」――選ぶ方向性によって、取り組むべきことは大きく変わります。
一方で「計画」とは、その戦略を実現するための行動の地図です。いつまでにどんな準備をして、どれだけの資金を投入し、どのくらいの成果を目指すのか。戦略が目的地だとすれば、計画はそこにたどり着くためのルートと言えます。
この二つを組み合わせることで、創業時にありがちな「なんとなくやってみる」から一歩抜け出し、自分なりのビジネスの形を築いていくことができます。本稿では、戦略と計画を考えるための基本的な視点を紹介しながら、実際の事例を交えてわかりやすく解説していきます。
👉 本記事は中小企業診断士兼行政書士が解説する連載企画 『やりたい!をカタチにする 創業・スタートアップ経営基礎講座』 の一部です。
2. 戦略を考えるための基本視点
経営戦略を立てるときは、「市場」「競合」「自社」の3つの視点から考えること(3C分析)が大切です。頭の中だけで整理するのではなく、紙に書き出してみると、自分の立ち位置や勝ち筋が見えやすくなります。
(1)市場の視点
自分のお店やサービスを利用してくれるのは、どんな人なのかを具体的に描きます。
- 例:カフェの場合、駅前なら「出勤前にテイクアウトする会社員」、住宅街なら「昼間にゆっくり過ごしたい主婦層」など。
- ポイント:ターゲットを明確にすると、営業時間やメニューの方向性が自然に決まります。
(2)競合の視点
同じ地域で似たサービスを提供している相手を把握し、自分との違いを考えます。
- 例:近くに大手チェーンのカフェがあるなら「低価格・スピード提供」で勝負していることが多い。そこで個人店は「居心地の良さ」や「手作り感のある限定メニュー」で差別化できます。
- ポイント:競合と同じ土俵で競うより、相手が弱い部分で勝負する方が有効です。
(3)自社(自分)の視点
自分の強みや弱みを見極め、それをどう活かすかを考えます。
- 例:コーヒーの焙煎経験があるなら「豆の質にこだわった専門性」を打ち出せる。逆に調理が苦手なら、軽食は外注や仕入れに頼る選択肢もあります。
- ポイント:得意分野を前面に出すと、マーケティングや営業トークも自然に一貫します。
SWOT分析で整理する
これらの視点を体系的に整理するのが SWOT分析 です。ここでは 「内部環境(自分でコントロールできること)」 と 「外部環境(自分ではコントロールできないこと)」 に分けて考えます。
- 内部環境(Strength/Weakness)
- S:強み → 自家焙煎のノウハウを持っている、接客経験が豊富
- W:弱み → 資金が限られており大規模な広告は打てない、人手不足
- 外部環境(Opportunity/Threat)
- O:機会 → テレワークの広がりで昼間のカフェ利用が増えている
- T:脅威 → 近隣に大手チェーンが新規出店予定
内部と外部を分けて整理すると、「自分が努力で改善できること」と「環境に合わせて戦略を変えるしかないこと」の違いが明確になります。
3. 目標を設定する
戦略を描いたら、次に必要なのは「目標」を定めることです。ここでのポイントは、数値で測れる目標と行動で確認できる目標を組み合わせること。そして、期間を「短期」と「中期」に分けて考えると現実的になります。
(1)短期目標(半年〜1年程度)
- 例:カフェを開業して半年以内に「常連客を20人つくる」
- 行動指標:来店スタンプカードを導入し、リピート率を数値で確認する
- ポイント:短期目標は「すぐに動ける行動」と直結させると達成度を実感しやすい
(2)中期目標(2〜3年程度)
- 例:3年以内に「地域で“ランチといえばこの店”と言われる存在になる」
- 数値指標:月商100万円、SNSフォロワー数3000人を目安に設定
- ポイント:中期目標は「将来のイメージ」を数値に落とし込むことが大切
SMARTの原則で考える
目標を立てるときは、SMARTの考え方を参考にすると実行しやすくなります。
- S(Specific:具体的) → 「売上アップ」ではなく「月商50万円」
- M(Measurable:測定可能) → 数値や件数で追える
- A(Achievable:達成可能) → 現状から背伸びすれば届く範囲
- R(Relevant:経営に関連) → 戦略とつながっていること
- T(Time-bound:期限あり) → 「半年以内」「3年以内」など期限を設定
4. 戦略を計画に落とし込む
戦略が方向性を示すものだとすれば、計画は「毎日の行動」に変換された形です。目標を実現するために、営業・商品・資金・組織の面から一つひとつ具体化していきましょう。
(1)営業・集客の計画
- 例:開業3か月以内に「SNSで週2回の投稿」「地域フリーペーパーに広告を1回掲載」
- ポイント:誰にどうやって知ってもらうかを明確にする。小さな施策でも回数を決めて続けることが大事です。
(2)商品・サービスの計画
- 例:「ランチタイム限定の週替わりメニュー」を導入し、毎週水曜日に内容を決定
- ポイント:差別化の工夫を「いつ」「どのくらいの頻度で」提供するかを明文化しておくと、後で改善がしやすくなります。
(3)資金の計画
- 例:広告費を月2万円まで、仕入れは原価率30%以内に抑える
- ポイント:資金は「何に、いくらまで」と上限を決めることが重要。数字で制限をかけることで無駄な支出を防ぎます。
(4)人材・パートナーの計画
- 例:開業半年後を目安に「週末だけアルバイトを1名採用」する計画を立てる
- ポイント:すべて自分で抱え込まず、外注やパートナーを活用する計画も初期段階から意識しておくとスムーズに拡大できます。
アクションプラン表のイメージ
| 項目 | 内容 | 期限 | 担当 | 予算 |
|---|---|---|---|---|
| 集客 | Instagram週2回投稿 | 開業1か月目から | 店主本人 | 0円 |
| 商品開発 | 週替わりランチ導入 | 開業2か月目から | 店主本人 | 原価3万円 |
| 広告 | 地域フリーペーパーに掲載 | 開業3か月目 | 店主本人 | 2万円 |
| 人材 | アルバイト1名採用 | 開業半年後 | 店主本人 | 月3万円 |
5. 計画のチェックと修正
計画は「一度作ったら終わり」ではありません。実際に事業を動かしてみると、思っていた通りにいかないことの方が多いものです。だからこそ、定期的に結果を確認し、ズレがあれば修正していく姿勢が大切です。
(1)実績と目標を比べる
- 例:カフェで「月商50万円」を目標にしたが、実際は30万円にとどまった。
- ポイント:売上の内訳を分析し、「客数が足りないのか」「単価が低いのか」を切り分けることで、次の打ち手が見えてきます。
(2)修正は「柔軟に・早めに」
- 例:ランチの集客が伸びない → 「土日のモーニング需要」に切り替えて試す。
- ポイント:計画通りに進まないことは失敗ではなく、仮説を修正するサイン。立ち止まるのではなく、早めに小さく方向転換を試みるのがコツです。
(3)数字と行動をセットで確認する
- 例:SNS投稿を週2回と計画したが、実際には週1回しかできなかった → その影響で新規来店数が減っているかを確認する。
- ポイント:数字だけでなく、日々の行動計画が実行されていたかどうかもチェックすると、改善策が具体的になります。
6. まとめ
経営戦略と計画は、創業を軌道に乗せるための「方向性」と「行動の地図」です。
- 戦略は「どこで戦うか」「どう勝つか」を決める大きな道筋
- 計画は「いつ・何を・どれだけ」実行するかを具体化した行動表
同じカフェを題材にしても、
- 「地域に根ざして常連客を増やす」のか
- 「SNSで話題を集める目的地型カフェにする」のか
――選ぶ戦略によって、目標や計画の内容はまったく違ってきます。
さらに、計画は一度作ったら終わりではなく、定期的にチェックと修正を繰り返すことで、現実に合った生きた地図になっていきます。
創業期は不安や迷いも多いですが、戦略と計画を持つことで「なんとなくやる」から「根拠を持って進める」へと変わっていけます。小さな一歩の積み重ねが、事業を長く続ける力になります。
ご案内
創業・開業の準備でお悩みではありませんか。
「どの形態で始めるべきか(個人事業か会社か)」「資金はどれくらい必要か」「補助金は使えるのか」「このタイミングで走っていいのか」――創業前はいろいろな不安が重なります。お一人で抱え込む必要はありません。
つむぎ行政書士事務所では、
・ビジネスプランの整理
・会社設立や各種手続き
・創業時の資金計画や補助金申請サポート
までを一緒に進める創業サポートを行っています。行政書士としての手続き面だけでなく、中小企業診断士として事業の方向性・採算面も含めて伴走いたします。
茨城県内(水戸・ひたちなか・那珂・笠間・つくば など)で開業をお考えの方は、まずは今の状況と「いつ頃から始めたいか」だけお聞かせください。
「このまま進めて大丈夫か」「補助金の対象になりそうか」「どの順番で手を打てばいいか」を整理してお伝えいたします。
この時点では正式なご依頼(契約)にはなりませんのでご安心ください。初回のご相談は無料です。
一歩を踏み出す準備を、今日から始めてみませんか。
これまでの講座一覧
これまでの講座一覧をクリックで表示
| 回 | テーマ |
|---|---|
| 第1回 ビジネスプランを準備する | 創業の第一歩として、事業のアイデアを整理し、具体的な形にまとめる方法を解説します。 |
| 第2回 ビジョン・経営理念を作る | 自分の事業が「なぜ存在するのか」を明確にし、共感を生む経営理念を言葉にします。 |
| 第3回 創業時に必要な手続き | 開業届・各種許認可・税務署や役所への届出など、創業時の実務を整理します。 |
| 第4回 法務・契約の基礎 | 契約トラブルを防ぐための基本知識と、押さえておくべき契約書のポイントを紹介します。 |
| 第5回 経営戦略・計画を作る | SWOT分析などを使いながら、事業の方向性を定めるための戦略づくりを学びます。 |
| 第6回 マーケティング・市場戦略を考える | 顧客ニーズをどう捉え、競合とどう差別化するか。マーケティングの基本を解説します。 |
| 第7回 広報・PR | SNS・ホームページ・プレスリリースなど、発信を通じてファンを増やす方法を紹介します。 |
| 第8回 起業関連のさまざまな支援策 | 補助金・助成金・融資制度など、創業時に使える支援策をわかりやすくまとめます。 |
| 第9回 はじめての会計 | 会計の基本構造を理解し、経営判断に役立つ数字の見方を身につけます。 |
| 第10回 価格転嫁の基礎 | 適正な利益を守るための価格設定と、取引先との交渉の考え方を解説します。 |
| 第11回 営業・販路開拓 | 「売り込み」ではなく「課題解決」としての営業を実践するためのステップを紹介します。 |
| 第12回 人を雇う | パート・アルバイト採用から社会保険まで、人を雇うときの流れと注意点を整理します。 |
| 第13回 企業の社会的責任を考える | CSRの基本と、中小企業でもできる信頼を育てる取り組みを解説します。 |
| 第14回 創業時に使えるデジタルツール | 無料または低コストで使える便利ツールを紹介し、業務効率化のヒントを提供します。 |
| 第15回 知的資産経営 | 人・技術・信頼といった「目に見えない強み」を見つめ直し、経営に活かす考え方を紹介します。 |
| 第16回 夢を実現し、会社を長く愛される存在にするために | 全講座のまとめとして、持続的に事業を続けるための視点と次のステップを提示します。 |


