建設業にこそ生かせる「動機づけ・衛生理論」
現場でよく聞く「人が定着しない」という悩み
「若い職人がすぐ辞めてしまう」
「誰も責任を引き受けようとしない」
「待遇は悪くないはずなのに、やる気を感じない」
こうした声を、建設業の経営者の方からよく耳にします。
人手不足が深刻化し、慢性的に“人が足りない”状況の中で、どれだけ待遇を整えても人が定着しないのはなぜなのか?――この疑問に答えるヒントが、ハーズバーグの「動機づけ・衛生理論」です。
これは「モチベーションの正体」を科学的に説明する心理学理論であり、経営現場においても極めて実践的な示唆を与えてくれます。
本記事では、中小企業診断士としての視点から、ハーズバーグ理論を建設業の現場に落とし込み、「職人のやる気を引き出す具体的な仕組みづくり」について解説します。
ハーズバーグ理論とは何か?──やる気の源は2つある
アメリカの臨床心理学者フレデリック・ハーズバーグは、1950年代に「人は何によって仕事にやる気を持つのか?」を研究しました。その結果、彼はモチベーションの源泉を「衛生要因」と「動機づけ要因」の2つに分類しました。
1. 衛生要因(不満をなくす要因)
これは職場の環境面の要素です。
例:給与、福利厚生、安全性、人間関係、労働時間、勤務体制など
これらが不十分だと「不満」が生まれますが、いくら整っていても、それだけでやる気が出るわけではありません。いわば“ゼロ地点を作るもの”です。整っていなければ辞めてしまう要因となりますが、それだけでさらにやる気を高めるわけではないものです。
2. 動機づけ要因(やる気を高める要因)
こちらは仕事そのものの内容や達成感に関わる要素です。
例:仕事の達成感、責任感、成長実感、他者からの承認、自己実現など
これらが満たされることで、従業員は「この会社で頑張りたい」「もっと成長したい」と感じるようになります。
つまり、
衛生要因:やる気を“削がない”ために必要
動機づけ要因:やる気を“高める”ために必要
という二層構造なのです。
建設業における衛生要因と動機づけ要因の具体例
衛生要因(整っていないと辞める原因になる)
| 要素 | 具体例 |
|---|---|
| 給与 | 給料が遅れる、残業代が出ない |
| 労働環境 | 現場の安全管理が甘い、夏場の熱中症対策がない |
| 勤務体制 | 勤務時間が不透明、休日が急に変わる |
| 人間関係 | 上司の理不尽な指示、派閥や陰口 |
| 設備・施設 | 仮設トイレが汚い、休憩所がない |
これらの項目は最低限整っていないと、職人は「この会社にはいたくない」と感じてしまいます。
動機づけ要因(あってこそ頑張りたいと思える)
| 要素 | 具体例 |
|---|---|
| 達成感 | 現場が無事に完了し、施主や元請から感謝される |
| 承認 | 上司や社長から「よくやった」「任せてよかった」と言われる |
| 成長機会 | 資格取得支援、若手への指導役、現場責任者への登用 |
| 自主性 | 作業の進め方を自分で工夫できる裁量 |
| 意義の共有 | 「この建物を作って地域に貢献している」という自覚 |
ありがちな誤解:「待遇さえ良ければ人は辞めない」
ハーズバーグの理論が示すのは、まさにこの誤解を打ち砕くものです。
たとえば、現場の職人に月給を5万円上げても、「嬉しい」と感じるのは最初の1ヶ月です。その後は“当たり前”になります。そして、現場が過酷であったり、感謝の言葉もなければ「金はもらってるけど…辞めようかな」となってしまいます。
つまり、衛生要因だけを強化しても、動機づけ要因がなければ定着しないということです。
なぜ建設業にとってこの理論が重要なのか?
建設業界は「人の確保」が経営の根幹を握ります。ベテランの引退が相次ぐ中で、若い人材を育てていく必要があります。
しかし、Z世代と呼ばれる若者たちは「命令されて動く」ことを嫌い、「成長したい」「認められたい」という価値観を強く持っています。こうした若者に対して、
- 「何も言わないのが当たり前」
- 「背中を見て覚えろ」
- 「失敗したら怒鳴る」
といった昭和的マネジメントは、もはや通用しません。
若手の定着率を高めるには、「動機づけ要因」をどう整備するかが鍵になります。
「動機付け・衛生要因」を生かした改善策
「不満の原因」となる3つの衛生要因を特定する
ハーズバーグが言う「衛生要因」(給与、労働条件、人間関係など)の改善は、単なる気遣いでは達成できません。これらは法律に基づいた公平な就業規則、社会保険の適正加入、ハラスメント防止の仕組みといった、労務管理の側面が不可欠です。不満を解消しない限り、どんなにやりがいを与えても離職は止まりません。これらの法令に基づいた環境整備こそ、行政書士や社会保険労務士が連携してサポートできる領域です。
「昇進・成長」でやる気を生む!社員の動機づけを高める評価制度の設計
「動機づけ要因」(承認、達成、責任)を高めるには、職人や技術者が「この会社にいれば成長できる」と感じられる仕組みが必要です。これは公平な人事評価制度、明確なキャリアパス、そして建設業許可の要件と連動した資格取得計画の設計に直結します。単なる給与アップではない、社員の成長を会社の成長に結びつける戦略的な設計も、経営コンサルティングの視点を持つ専門家と進めるべきテーマです。
中小企業診断士としての提言:実務に活かす3つのアクション
① 衛生要因の棚卸しと「見える化」
まず、現場環境や待遇に不満が出ていないか、客観的にチェックする必要があります。
労働条件通知書、現場の衛生管理、作業スケジュールの明確化など、基本が整っているかを見直すことが第一歩です。
→ 社内での「職場環境チェックリスト」の導入をおすすめします。
② 小さな成功体験を言葉にして伝える
たとえば、「今日のこの配筋作業、仕上がりすごく良かったよ」と具体的に褒める。
「うまくいって当然」と思わず、一つひとつの成果に目を向けることで、本人の内側からやる気が湧いてきます。
→ 「承認の習慣化」が、社内の雰囲気を変えます。
③ キャリアの道筋を示す
「資格を取ればこんな仕事も任せられる」
「5年後には現場の主任に」など、未来のビジョンを具体的に見せることが大切です。
→ 若手には「今だけでなく、この会社にいる将来の意味」を実感させましょう。
おわりに:「人を育てる経営」が生き残る時代
ハーズバーグの理論は、人の感情と行動を読み解く強力なツールです。しかし、決して机上の理論ではなく、特に「人材確保と定着」が経営のカギを握る建設業においては、極めて実践的な示唆を含んでいます。
中小企業診断士として申し上げたいのは、
「不満を減らす経営」から、「やる気を引き出す経営」への転換
です。
この考え方を取り入れれば、人が辞めない会社になるだけでなく、「ここで働きたい」と思ってくれる仲間が自然と集まるようになります。
経営者一人の声かけが、現場の空気を変え、企業の未来を変える――
それが、ハーズバーグ理論が私たちに教えてくれる“やる気の仕組み”なのです。
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