『働いて×5』流行語大賞と長時間労働|中小企業が取るべき3つの視点

流行語大賞

2025年の「現代用語の基礎知識選 T&D保険グループ 新語・流行語大賞」で、高市早苗首相の

「働いて、働いて、働いて、働いて、働いて、まいります」

が年間大賞に選ばれました。

ニュースを見たとき、率直に

「これは“働かせたい側”には追い風のキャッチコピーになりかねないな……」

という違和感を覚えた方も少なくないのではないでしょうか。

一方で、私の事務所ブログでは、先週公開した「2026年労基法改正の全体像を整理した記事」と、

労基法改正で検討されている「名ばかり管理職と長時間勤務の線引き」を解説した記事

へのアクセスが、普段とは桁違いのレベルで一気に跳ね上がりました。

ここには、

  • 表向きの「流行語」としては「働いて×5」がもてはやされる
  • しかし、実際に検索され、読み込まれているのは「長時間勤務をどこまで抑えられるのか」というテーマ

という、はっきりとしたギャップがあります。

さらに、別コラム

でも整理したように、

  • 一方では「働きたい人がもっと働ける社会」「労働時間規制の緩和」といったメッセージ
  • もう一方では、2026年労基法改正に向けた「長時間労働へのブレーキ強化」

という、政策レベルの“ねじれ”も同時進行しています。

この記事では、

「働いて×5」流行語大賞
+ 労働規制緩和の動き
+ 労基法改正による規制強化

という三つ巴の中で、中小企業・小さな会社がどんなスタンスをとるべきかを考えてみたいと思います。

目次

1.「働いて×5」が流行語大賞になった背景

1-1 初の女性首相の“決意表明”としてのフレーズ

問題のフレーズが使われたのは、2025年10月4日、自民党総裁選で高市首相が女性として初めて総裁に選出された直後の場面でした。

「全世代総力結集、全員参加で、頑張らなきゃ立て直せない」
「全員に馬車馬のように働いていただきます」

と呼びかけたうえで、

「私自身も、ワークライフバランスという言葉を捨てます。
働いて、働いて、働いて、働いて、働いて、まいります。」

と、かなり強い表情で語ったことが報じられています。

「国家経営者として、自分も汗をかく」という決意表明としては非常に分かりやすく、そのインパクトの強さから、わずかな期間でノミネート語に入り、年間大賞にまで選ばれた――という流れです。

なお、新語・流行語大賞そのものは、「その年の世相をよく表した言葉」を毎年12月に選ぶ企画で、時の首相の言葉が選ばれた例としては、2009年の「政権交代」(鳩山内閣)以来とされています。

1-2 受賞スピーチは“火消しモード”、でも睡眠は2〜4時間

流行語大賞の表彰式で、高市首相自身はこのフレーズについて、

  • 「自分も働いて国民のために貢献したいという思いだった」
  • 「国民に働きすぎを奨励する意図はない。誤解のなきようお願いしたい」

と、長時間労働を煽る意図ではなかったと説明しています。

一方で、国会答弁では、自身の睡眠時間について

「大体2時間から、長い日で4時間。お肌にも悪い」

と述べており、与野党から「上手にサボってほしい」「休むときは休んでほしい」といった“働き方”そのものへの心配の声も上がっています。

「ワークライフバランスという言葉を捨てます」と宣言しつつ、
「睡眠は2〜4時間で、お肌にも悪い」と苦笑いする――。

人間味は感じられる一方で、これを理想の働き方モデルとして真似してよいかというと、明らかに首をかしげざるを得ません。

2.一方で、読まれているのは「長時間勤務をどこまで抑えるか」という記事

2-1 当事務所ブログで起きた“アクセス爆発”

このニュースとほぼ同じタイミングで、私の事務所ブログでは、

へのアクセスが、一気に急増しました。

通常は1日あたり数百ほどのアクセスしかないサイトではありますが、これらの記事へのアクセスは1日当たり数万にものぼりました。

という動きが、アクセス解析上ではっきり出ています。

2-2 検索している人たちの“本音”

このアクセス動向から見えてくるのは、次のような不安や疑問です。

  • 「管理職だから残業代は出ない」と言われているけれど、本当にそうなのか確認したい
  • 「もっと頑張ろう」というメッセージが増えているなかで、“どこからがアウトなのか”を知りたい
  • 「労基法が変わる」と聞いたが、うちの働かせ方は大丈夫なのか不安

つまり、多くの方が知りたいのは

「どう頑張るか」ではなく
「どこまで働かされていいのか」「どこでブレーキをかけられるのか」

という、限界ラインに関する情報です。

流行語としては「働いて×5」が脚光を浴びている一方で、
実際の検索行動は、「長時間勤務に歯止めをかけたい」「線引きを知りたい」という方向に強く振れている――。

ここに、今の日本社会の“ねじれ”の一端が見えてきます。

3.「働いて×5」は“働かせたい側”のキャッチコピーになりかねない

3-1 決意表明としては理解できるが…

高市首相のフレーズ自体は、

  • 「自分も率先して働く」
  • 「国難のなかで、トップとして覚悟を示す」

という意味では、決意表明として理解できます。

問題は、それが流行語大賞の年間大賞という形で一人歩きし始めたときです。

  • 「首相だって働いて×5と言っている」
  • 「流行語大賞にもなったくらいだから、今は頑張りどきだ」
  • 「“ワークライフバランス”より“働く覚悟”が大事なんだ」

といった形で、“働かせたい側”にとって都合のよいスローガンとして使われる可能性があります。

3-2 他人に向けた瞬間に危険なメッセージになる

本来、

  • 自分に向けた「働く決意」としての「働いて×5」は、まだ理解できる
  • しかし、それをそのまま社員や部下、社会に向けて掲げ始めた瞬間に、意味合いが変わる

という点には注意が必要です。

「働いて×5」は、
自分の胸の内に留める分には格言になり得ますが、
他人に掲げた瞬間に“圧力”に変わる言葉でもあります。

ここまでは、「流行語」の話です。
けれど、実はもっとややこしい“ねじれ”が、政策レベルでも同時に進んでいます。

4.2026年労基法改正と「労働時間規制緩和」――二つのレールが同時進行している

先ほどの別コラム
『〖2026年労基法改正コラム〗高市政権の労働時間規制緩和と「働きすぎの現場」』
でも整理しましたが、今、日本では次の二つのレールが同時に走っています。

4-1 レール①:2026年労基法改正――長時間労働にブレーキを掛ける流れ

厚生労働省の検討会では、約40年ぶりとなる労働基準法の大幅見直しに向けた議論が進んでおり、2026年の通常国会での法案提出が目指されています。

方向性としては、例えば次のようなものです。

  • 勤務間インターバル制度の義務化
    (原則11時間を軸とした休息時間の確保)
  • 14日以上の連続勤務を禁止するための規制整備
  • 「つながらない権利」を踏まえた、勤務時間外の連絡の扱い整理
  • 一人親方・フリーランスの「労働者性」の見直し

いずれも、

「長時間労働にブレーキを掛ける」「健康と安全を守る」

という方向性の議論です。

4-2 レール②:高市政権の「働きたい人がもっと働ける社会」――規制緩和の流れ

一方で、高市政権側からは、

  • 「働きたい人がもっと働ける社会」
  • 「残業規制のせいで、かえって生活が苦しくなった人がいる」

といった問題意識が繰り返し示され、労働時間規制の見直し・緩和に前向きな姿勢も表明されています。

メッセージだけを並べると、

  • 厚労省側:長時間労働にブレーキを掛けたい
  • 政権中枢:一部でアクセルを踏みたい

という、相反するように見える二つの方向性が同時に存在している状態です。

4-3 「国は働かせたいのか、休ませたいのか、どっちなんだ?」

中小企業の経営者・現場からすれば、

「勤務間インターバル11時間」「14連勤禁止」と言われる一方で、
「働きたい人がもっと働けるように」とも言われる。
結局、国は働かせたいのか、休ませたいのか、どっちなんだ?

という感覚になるのも無理はありません。

この一見矛盾したメッセージが同時に出てくる背景として、前掲コラムでは、

  • 縦割り行政(厚労省と経済官庁・官邸の役割の違い)
  • 短期(景気・成長率)と長期(健康・持続可能性)という時間軸のズレ
  • 大企業と中小企業での受け止め方の違い

といった構造を挙げました。

ここでは詳細な再掲は省きますが、
重要なのは、

「どちらが“正しいか”というより、
自社はどの立場で、どう対応するか」

を考える視点です。

この“二重のねじれ”の中で、中小企業はどの方向を向いて舵を切るべきでしょうか。

5.この「ねじれ」の中で、中小企業はどう動くべきか(3つの提案)

ここからは、中小企業・小さな会社の経営者・管理職の方向けに、
この状況の中で持っておきたいスタンスを、3つの提案として整理します。

5-1 提案① 「長時間労働エンジン」に頼る成長モデルは、もう前提にしない

まず一つ目は、

「長時間働けばなんとかなる」という前提を、経営の土台から外す

ということです。

かつては、「24時間働けますか?」というCMのキャッチコピーが流行語大賞を受賞したように

  • 残業を増やす
  • 営業時間を延ばす
  • 社長や管理職が休みなく働く

ことで売上を伸ばす、というモデルが通用していました。

しかし今は、

  • 健康リスク(過労・メンタル不調)
  • 採用・定着リスク(若い世代ほど“休めない会社”を避ける)
  • 残業代請求・労基署対応といった法的リスク

を総合すると、長時間労働に依存した成長モデルは、もはや「戦略」として成立しにくい状況です。

2026年労基法改正の方向性を見ても、
「長時間労働エンジンに頼る経営」は、これからますますやりづらくなっていくことが予想されます。

ですから、

  • 規制緩和の議論がどう転んだとしても
  • 自社の成長戦略に「長時間労働頼み」を組み込まない

という方針を、最初に固めておくことが大切です。

5-2 提案② ルール面は「規制強化側」で備え、売上面は「付加価値と無駄削減」で勝負する

二つ目の提案は、

ルール(働き方・契約)は、
2026年労基法改正=“ブレーキ強化側”を前提に組み立てる

売上・利益の確保は、
「付加価値を上げる」「無駄を減らす」方向で勝負する

という考え方です。

ルール面:厳しめの未来を前提にしておく

勤務間インターバルや連続勤務日数の制限、「つながらない権利」などは、
導入タイミングや詳細は変わるかもしれませんが、方向性としては後戻りしにくい領域です。

であれば、

  • 就業規則
  • 36協定
  • シフトや休日の設計
  • 管理職の位置づけ(名ばかり管理職にしない)

といった部分は、

「どうせそこに近づいていくのなら、
早めに“そこそこ厳しめ”のラインを自社基準として決めてしまう」

方が、結果的にラクになります。

ここは、社会保険労務士の先生方の専門領域ですので、
自社だけで抱え込まず、早めに専門家の力を借りるのがおすすめです。

売上面:時間ではなく「付加価値」と「無駄の削減」に賭ける

一方で、売上や利益を確保するために、
「働く時間を増やす」方向に戻ってしまうと、すぐに行き詰まります。

これからは、

  • 単価や付加価値を上げる
  • リピート率や客数を増やす工夫をする
  • 「安いわりに手間ばかり掛かる仕事」を整理する

といった方向に舵を切る必要があります。

例としては、

  • ✗ 悪いパターン
    • 営業時間を延ばして客数を増やす
    • その結果、スタッフが疲弊して離職が増え、新規採用も難しくなる
  • ✓ 良いパターン
    • 営業時間は据え置き
    • 単価を上げる工夫(セット商品、上位サービスなど)
    • リピート率を上げる工夫(会員制、フォローの仕組みなど)
    • 「忙しいのに儲からない仕事」を整理して、「時間単価の高い仕事」に集中する

こうした発想に切り替えていくことが、
「長時間労働エンジンに頼らない」経営の土台になります。

5-3 提案③ 「誰と、どのルールで働いてもらうか」を意図的に設計する

三つ目の提案は、

正社員・パート・外注・フリーランス・一人親方など、
「誰と、どのルールで一緒に働くか」を、意図的に設計する

ということです。

これからの働き方は、

  • 正社員
  • パート・アルバイト
  • 業務委託・外注
  • 一人親方的なポジション

など、さまざまな形が混在していきます。

2026年労基法改正の議論でも、

  • 仕事を断る自由がほとんどない
  • 会社の指示通りに働いている
  • 時間や場所の拘束が強い

といった条件を満たす一人親方・フリーランスについて、
「実質的には労働者として保護すべきではないか」という視点が強まっています。

つまり、

「社員じゃないことにしておけば大丈夫」という考え方は、
今後ますます通用しづらくなる

ということです。

ですから、

  • 誰にどこまで指示命令をするのか
  • どのくらいの時間・場所の拘束をしているのか
  • どこまで会社として責任を持つのか

を、「なんとなく」ではなく、契約と実態の両面から整理しておく必要があります。

このあたりは、

  • 労務に強い社労士
  • 契約書や届出を扱う行政書士
  • 事業全体の収益構造を一緒に考える中小企業診断士

といった専門家の力を、組み合わせて活用していくのが現実的です。

6.おわりに――「国の議論に振り回されない」ために

「働いて、働いて、働いて、働いて、働いて、まいります。」というフレーズが流行語大賞となり、
一方で2026年労基法改正では長時間労働へのブレーキが議論され、
さらに政権側からは「働きたい人がもっと働ける社会」というメッセージも出ている――。

こうした状況は、どうしても分かりにくく、モヤモヤします。

ただ、中小企業の経営者として本当に大事なのは、

「国が何と言っているか」よりも、
「自社とそこで働く人にとって、何が持続可能か」

という視点ではないでしょうか。

  • 長時間労働に依存しない収益構造を作ること
  • 守るべき人をきちんと守れるルールを整えること
  • 会社と働く人の双方にとって、「続けていけるライン」を探ること

このあたりを一緒に考えながら、
2026年〜2027年に向けて少しずつ準備を進めていくことが、
「働いて×5」の空気に飲み込まれずに、自社の未来を守る一番の近道だと感じています。

つむぎ行政書士事務所としてお手伝いできること(ゆるめのCTA)

当事務所(つむぎ行政書士事務所/中小企業診断士事務所)では、

  • 労基法改正の方向性を踏まえた、会社全体の体制見直しのご相談
  • 「名ばかり管理職」「フリーランスとの契約」など、人の使い方に関するリスク整理
  • 必要に応じた、社会保険労務士の先生との連携によるルール整備
  • 「働き方」と「収益構造」をセットで考える経営相談

などを行っています。

「うちの働き方、このままで大丈夫かな……」
「長時間勤務のことを、一度きちんと整理しておきたい」

と感じられたときは、
まずは一度、現状の棚卸しからご一緒させていただければ幸いです。

お問い合わせ

ご相談は、どんな段階でも大丈夫です。
「手続きの流れを知りたい」「自分のケースで進められるか確認したい」「期限までに間に合うかだけ聞きたい」といった内容だけでもお気軽にお知らせください。

つむぎ行政書士事務所では、茨城県全域(水戸市・ひたちなか市・県央エリアを中心に、つくば・土浦など県南エリア、日立など県北エリアも含めて対応)で、建設業許可・産業廃棄物収集運搬業許可などの許認可申請、創業支援、補助金・経営相談をお手伝いしています。

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