資格剥奪のリスクを回避せよ:行政書士が「違法行為の共犯者」にならないための自己防衛術

資格剥奪のリスクを回避せよ:行政書士が「違法行為の共犯者」にならないための自己防衛術
目次

1. 2026年1月、宮城の逮捕報道が突きつけた“加速する恐怖”

2026年1月8日、宮城県の行政書士が、外国人の在留資格に関する申請書類の偽造等の疑いで逮捕されたと報じられました。日本行政書士会連合会および宮城県行政書士会も会長声明を出しています。
報道では、ブローカーの依頼で申請に関与し、「50人規模」の虚偽申請に関わった可能性も示されています。

ここで本当に怖いのは、「一人分の書類ミス」ではありません。
いったん“ブローカーの仕組み”に乗ってしまうと、短期間で“数十人分”の違法実績が積み上がることです。自分の感覚では「数件の受任」のつもりでも、相手側は加速度的に依頼を増やしてきます。気づいた時には、後戻りできない規模のリスクを背負わされてしまいます。

そしてタイミングも象徴的でした。改正行政書士法が2026年1月1日に施行された直後に、こうした逮捕報道が出た。業界全体として「監視の目が強まっている」という緊張感を持っておくのが安全です。

2. 行政書士が巻き込まれやすい「主要な違法行為」の分類

違法行為は多様ですが、実務上の“地雷”はだいたい次の系統に集約されます。

(1)入管・在留関連:書類上の「整合性」と現場の「実態」のズレ

入管申請では「就業先」「業務内容」「雇用実態」など、書面上の体裁が整っていても、実態が違えば虚偽申請になります。今回の報道も、就業先等を偽って申請した疑いが中心でした。

“書類の整合性”ではなく、“実態の裏取り”が必要になります。

(2)職務上請求:法改正の「対象外」だからこそ狙われる“自力防衛領域”

依頼者の代わりに他人の戸籍謄本や住民票などを取得できる職務上請求は、行政書士の実務に深く根付いた一方で、悪質業者に不正取得を持ちかけられるなど、狙われやすい領域でもあります。

大事なのは、ここが「行政書士法改正が守ってくれる領域」ではないという点です。2026年改正の主眼は、行政書士(法人)でない者の業務制限の明確化(第19条)と、法人責任を問う両罰規定(第23条の3)であり、職務上請求は今回の改正では対象外となっています。

職務上請求の適正管理は、団体規則や実務運用として“自分たちで厳格に管理する”ものです。日行連にも、職務上請求書の適正使用・取扱いに関する規則が整備されています。

ここは「法律が全部は守ってくれない」ので、自分で鍵をかける領域です。

(3)成年後見・財産管理:「信頼の前借り」が崩壊する瞬間

後見・財産管理は、信頼が大きい分だけ、ひとたび崩れた時のダメージが致命的です。後見人として財産管理を任された行政書士がお金を着服して逮捕されるなどの事例が度々起こります。
「最初は立替」「後で精算のつもり」から後戻りが出来なくなっていくケースが典型です。

3. 独占業務の代償:国家資格者が背負う「特権」と「懲罰リスク」

行政書士は、官公署提出書類の作成等という社会的に重要な独占業務を認められています。
これは言い換えると、国家から“信頼を前借り”している状態です。

だからこそ、法に触れた時のリスクが重いことを肝に免じる必要があります。
行政書士には、戒告/2年以内の業務停止/業務禁止といった懲戒があり得ます。
行政書士法人についても、戒告や業務停止だけでなく、ケースによっては解散にまで至り得る枠組みがあります。

さらに2026年改正では、「法人だから逃げられる」発想を潰しに来ています。
両罰規定の整備により、違反行為者だけでなく所属法人にも百万円以下の罰金刑が科され得ることが明確化されました。

国家資格者は、「社会的意義が大きい独占業務」を与えられる一方で、重い懲罰リスクも引き受ける
この覚悟が、自己防衛の根っこになります。

4. 巧妙な抜け道:行政書士法改正で悪徳業者は何を狙うのか

行政書士法改正で“名目いじり”が効かなくなった結果、悪徳業者は「責任の押し付け方」「証拠の残り方」を変えてくる——という危機感の共有です。

4-1 法改正のポイント

今回の改正行政書士法でも不正防止に関するのは下記の2つです。

  • 19条(業務制限)の明確化
    「他人の依頼を受けいかなる名目によるかを問わず報酬を得て」という文言が加わり、会費・手数料・コンサル料・商品代金など、呼び方を変えても“業として書類作成の対価を取る”ことは違反だと明確化されています。
  • 23条の3(両罰規定の整備)
    19条違反について、違反行為者だけでなく「その者が所属する法人」も罰金対象になり得ることが示されています。

改正により悪徳業者の動きは狭まるでしょうが、ぎ「自分が捕まる形」を避けて、行政書士側にリスクを寄せる方向に知恵を使ってくることも考えられます。

4-2 悪徳業者の狙い(仮説):名義貸し圧力が強まる

19条が強化されると、「無資格側が有償で書類を作っていた」構図は以前より目立ちます。そこで悪徳業者が考えるのは、ざっくり言うと次の方向です。

  1. 無資格側が“作成者”に見えない構図にする
  2. 行政書士が“作成者・提出者”として前面に立つ形に寄せる(=名義貸し圧力の増大)

ここで大事なのは、名目を変えること自体は、改正後ほぼ意味がないという点です。
それでも悪徳業者が名目をいじりたがるのは、法的というより、心理的に「大丈夫ですよ」と相手(行政書士)を安心させたい、あるいは証拠の形をぼかしたいからです。

4-3 典型的な“関与させられ方”:行政書士はスキームにどう組み込まれるのか

悪徳業者がやりたいのは「行政書士に、責任が重い工程を持たせる」ことです。入管の場合、具体像はだいたいこの形に収束します。

  • 集客・顧客管理はブローカー側
    SNS広告、母国語コミュニティ、紹介網などで申請者を集め、申請者との連絡窓口も握ります。
  • 情報収集・ストーリー組み立てもブローカー側
    申請に必要な“整った話”を先に作り、素材(書類や説明)を束ねてきます。
  • 行政書士には「最終工程」だけを渡す
    「チェックだけ」「形式整えるだけ」「最後に提出ボタン押すだけ」という顔で近づきます。
    ただ、ここが落とし穴で、最後に出す人=説明責任を負う人になりやすいです。

この時点で、行政書士は“専門家”というより、悪徳業者から見れば責任を背負ってくれる「前面パーツ」として使われかねません。ちょっと言い方が悪いですが、現場感としては本当にこうです。

4-4 「AI」「海外チーム」が出てくる意図:免罪符ではなく“作成主体の霧化”

また「書類はAIが自動で作るので行政書士の先生は最後の確認だけしてくれればOKです」「海外のチームがフォームに入力した情報をまとめてくれればOKです」などと持ち掛けてくる可能性も考えられます。

悪徳業者がAIや海外チームを持ち出す意図は、だいたい次のどれかでしょう。

  • 「ブローカーが直接作っていない」形に見せたい
    “無資格の人間が作った”と立証されると困るので、AI・外注・海外を挟んで、作成主体を曖昧にします。
  • 国内法の射程や捜査の手間を増やしたい
    海外拠点・海外担当者を挟むと、コミュニケーションも証拠も散らばり、追跡が難しくなります。
  • 大量処理に耐える「工場ライン」を作りたい
    宮城の件のように“数十人分”の虚偽作成が動くと、半自動化でコストを回収できます。

そして重要なのは、AIや海外が介在しても、行政書士側の責任が軽くなるわけではないという点です。
むしろ「作成主体が曖昧な案件」ほど、行政書士が関与した瞬間に、“結局あなたが出したんですよね?”という話になりやすいです。

4-5 両罰規定は違法ブローカーまでは及ばない

23条に規定される両罰規定は、「違反行為者が所属する法人」への罰金に触れています。
つまり、行政書士法人の内部(職員・補助者等の関与)では、組織として飛び火する可能性が意識されます。

一方で、悪徳業者(ブローカー)と行政書士が「別組織・別主体」の関係だと、構図としては、

  • ブローカーは「紹介」「翻訳」「IT支援」などに逃げ込みやすい
  • 行政書士は“提出した専門家”として前面に残りやすい
    という、責任の偏りが起き得ます。

だからこそ、「相手も罰せられるはずだから大丈夫」ではなく、自分が前面に立たされる設計になっていないかを最初に疑うのが自己防衛になります。

4-6 防御の基本方針

第三者が強く介在する案件全般に関するチェック項目です。

A. 主導権(だれが業務を設計しているか)

  • 申請の方針・事実関係の整理・必要資料の判断を、こちらが主導できない案件は危険です。
  • 「書類はもう全部できてます」「先生はこれにサインだけ」は、ほぼ赤信号です。

B. 説明可能性(なぜそう書いたかを自分の言葉で説明できるか)

  • 事実の裏付け(ヒアリング記録、根拠資料、矛盾点の処理)が手元にないなら、関わらないのが安全です。
  • 業者から“テンプレ的文書+素材一式”が来た時点で、こちらがゼロから検証できないなら撤退判断が合理的です。

C. 金の流れ(誰から誰へ払われるか)

  • 直接契約・直接請求・直接入金を原則にして、第三者払いは例外扱いにします(合理的理由と記録が残せないなら受任しない)。
  • 名目をいじられても意味は薄いので、名目よりも実態を見ます(そして「名目いじりを提案された」という事実自体が危険信号です)。

D. 断るための“型”を持つ

  • 「その形だと、こちらで事実確認と説明責任が担保できないので受任できません」
  • 「ご本人との面談と直接の委任関係が前提です」
    この2つを淡々と繰り返すのが一番強いです。変に議論すると、相手の土俵(言い訳大会)に連れていかれます。

5. 倫理の試練:売上が少ない時期の「誘惑」にどう向き合うか

開業間もない行政書士が不正に巻き込まれてしまうようなケースが多いとも言われます。
売上が思うように上がらないと、目の前の大きめの案件が“救命ボート”に見えてしまいます。

そして現実には、違法性を理解しつつ、目先の売上を追ってしまうケースもゼロではないでしょう。
ただ、それは「一回だけの臨時収入」と引き換えに、資格・信用・生活基盤を賭ける選択になりやすい。しかもブローカー案件は件数が急加速していきます。

こういう誘惑には仕組み化で対応するべきでしょう。

  • 「断る台本」を先に作っておく
  • 受任前チェックリストを必須化
  • 売上の谷を埋める“合法メニュー”を用意

誘惑に勝つ、ではなく、誘惑に“勝負させない”設計にします。

6. 実践:行政書士の自己防衛を「運用」で固める7つのアクション

① 依頼の主体を固定する:本人確認+直接面談(原則)

紹介者主導の案件ほど、本人の意思・実態が薄くなります。
“本人が見えない案件”は、受任しない基準を持つのが安全です。

② 事実確認の最低ラインを決める(裏取りの項目を固定)

入管系なら、雇用実態・職務内容・受入れ先の確認。
後見系なら、分離管理・証憑・月次の突合。
「どこまで確認できたらGOか」を最初に決めておきます。

③ 「AIが作ったから」は禁止ワードにする

AI出力は下書きに過ぎません。最終成果物の責任は人間側に残ります。

④ 職務上請求は“金庫運用”にする

日行連の規則でも、職務上請求書の使用者・使者の範囲、提示物、記載の適正などが定められています。
実務としては、最低限これをおすすめします。

  • 案件ごとの根拠(受任契約・委任関係・目的)と1対1で紐づく記録
  • 使用冊数・残数・保管場所・持出記録の管理
  • 補助者に持たせる場合の権限・教育・点検(“誰でも行ける”を潰す)
  • 「第三者目的っぽい依頼」は100%遮断

ここは「善意の運用」だと破られます。最初から金庫レベルで設計した方が楽です。

⑤ “報酬名目”のグレーを排除する

会費、手数料、コンサル料、商品代金――名目を変えても本質が変わらないことが明確化されています。
見積・請求の段階で、業務内容と対価の関係が説明できない案件は撤退が無難です。

⑥ 法人・チームの場合は「相互チェック」を制度にする

両罰規定の整理により、誰か一人の暴走が、法人側の罰金リスクに接続し得ます。
おすすめは、

  • 高リスク案件の ダブルチェック(2名承認)
  • 受任経路(紹介者・広告・提携)の 透明化
  • 「怪しい兆候」を共有できる 内部ルール(報告先・停止基準)

です。人を疑うためではなく、組織を守るための装置です。

⑦ 「断る力」を“法令と規則”で支える

断る時は、気合いではなく根拠で断ります。相手に刺さるのは「この人は動かない」という確信です。

7. 【緊急対応】「巻き込まれたかも」と気づいた時の回避策

万が一不正行為に巻き込まれてしまったと気づいたときはいち早く下記の対応を取るべきでしょう。

  1. 即時停止: 業務、連絡、資料受領をすべてストップする。
  2. 証拠保全: メール、チャット、入出金記録などを一切削除せず保存する。
  3. 外部相談: 直ちに弁護士または所属単位会に相談する(自己判断で動かない)。
  4. 方針決定: 専門家の助言に基づき、修正申告や自首等の対応を決める。

8.有資格者としての「覚悟」「倫理」「研鑽」が自分を守る

行政書士が違法スキームに巻き込まれるとき、原因は「悪人に騙される」だけではありません。現場ではむしろ、売上の不安、繁忙の焦り、紹介者への遠慮、確認不足といった“日常の揺らぎ”が積み重なって、判断が一段ずつ崩れていきます。
だからこそ最後に残る防波堤は、専門職としての覚悟です。覚悟を土台にして、日々の判断を支えるのが倫理であり、手口の変化に遅れないための武装が研鑽です。

8-1 独占業務の代償を引き受ける「覚悟」

国家資格者は、社会的意義の大きい独占業務を認められている以上、その裏返しとして重い懲罰リスクを受け入れる立場です。これは綺麗事ではなく、制度としてそう作られています。

制度の一端を担う専門職としての覚悟を持ち一時の誘惑に立ち向かうことが責務です。

8-2 倫理:当たり前の倫理観で仕事をする

法律職として、人間として当たり前の倫理観をもって仕事に臨む――それだけです。
それを守れていれば、違和感への嗅覚も研ぎ澄まされていくはずです。

8-3 研鑽:学びは最強の自己防衛

悪徳スキームは、時代に合わせて外観を変え続けます。しかし、『誰が責任を負うのか』という本質は変わりません。その設計を見抜くための武器は、日々の研鑽によって磨かれた知識と、専門職としての倫理観だけです。今日得た知識が、明日の我々の事務所を守る盾となることを願っています。

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