【開業前の必須知識】行政書士職務基本規則を理解しよう

【開業前の必須知識】行政書士職務基本規則を理解しよう

先日、令和7年度の行政書士試験の合格発表がありました。合格者の皆様、まことにおめでとうございます。
合格者の中には即開業準備を進められる方も、開業は当面様子見という方もいらっしゃると思います。これまでは試験勉強に打ち込まれていて、行政書士の仕事そのものがどういうものかについて合格後から本格的に理解されていく方も多いものと思われます。

そんな中でまず言われるのは業法である行政書士法をしっかり理解しようということです。行政書士法については近年行政書士試験の範囲に含まれていることもあり、試験合格者の皆様には馴染みはあるところとは思いますが、実際に仕事として行政書士業務を行っていくにあたっては、職責や業務範囲、登録手続きや罰則規定など、行政書士という職業を担うにあたってのルールを理解することは必須です。開業前には条文と解説がまとめられたコンメンタールなどを購入して熟読される方も多いことでしょう。

ただ行政書士として開業し、業務を行っていくにあたっては業法の理解だけでは足りません。
行政書士は官公署に提出する書類の作成、提出代行など、国家資格者としての独占業務を担うことが出来ます。無資格者では出来ない力を持っていることで、その力を利用しようと考える人からのアプローチを受ける機会もあるかもしれません。多くの方は個人事業主として初めて開業されるものと思います。「経営」という不慣れな挑戦をしていく中で、目先の利益を追い求めるあまりにそうしたアプローチに誘惑されてしまう人もいるかもしれません。
また、業務やルールについての無知から意図せず法制度に抵触してしまうことも経験の浅い方にはありえるかもしれません。

行政書士法の条文は抽象的な文言でまとめられており、具体的にどういった行為が良くないとされるのかは十分には分かりません。
そこで日本行政書士会連合会は、行政書士としてどのように振る舞うべきかという自主規制の統一ルールを明記した「行政書士職務基本規則」というものをまとめています。

あくまで自主規制ルールではありますが、この規則は行政書士にとって「身を守る盾」になります。業法や職務基本規則を理解することで、不正行為の誘いや依頼者からの無理な要求に対し、それらのルールを客観的に示して自らを守ることが出来ますし、自らの無知による失敗を避けることが出来ます。

この記事は、実務で陥りやすい罠などのケースを「行政書士職務基本規則」に即して紹介していきます。
開業にあたり、皆様の事業の防衛の一助になれば幸いです。

※本記事で扱う「行政書士職務基本規則」は令和6年4月1日施行分の内容に準拠しています。

目次

ケース1:名義貸しの禁止等

1) 事例

開業して少し経ったころ、一本の電話が入ります。相手は、行政書士ではない「紹介業者」や「コンサル」っぽい人です。声は丁寧で、話も早い。

相手「先生のお名前で受任できれば案件が回せます。書類はこちらで作るので、先生は最終チェックだけお願いします。先生は動かなくていいです」

ここで一瞬、頭をよぎります。
「動かなくていい」「件数が出る」「営業しなくていい」。開業直後の心に効く三点セットです。

ただ、ここが不正の入口です。最初の1件は「下書きが届いたから直して提出」くらいに見えます。
2件目は、相手が「忙しいので先生の修正を反映できませんでした」と言って、修正が通りません。
3件目で、先生は「ほぼ押印するだけ」になり、実態は“名義だけ”になります。

2) 根拠条文

第7条(名義貸しの禁止等)
行政書士は、自ら職務を行わないで自己の名義を貸与し、その者をして職務を行わせてはならない。

3) 条文の読み解き

この条文が言っているのは、単なる「名義貸し禁止」ではありません。実務的には、次の2つを同時に要求しています。

  • “職務を行う主体”があなたであること
    受任の判断、依頼者からの聴取、資料の確認、リスクの説明、提出物の最終責任。これをあなたが持っている状態です。
  • “あなたの管理下にない作業”に職印・署名を載せないこと
    第三者が作ったものに、あなたの職印が乗った瞬間に、外形上は「あなたが作った」になってしまいます。職印・署名が負う責任は重大なのです。

4) 相手の典型

  • 許認可の集客代行/紹介業者
  • 在留資格などの周辺ビジネス業者
  • 建設・産廃・補助金などのコンサル
  • 他士業

上記のような業者の一部が、行政書士にしか作成代行が認められていない書類を自ら作成して対価を得たうえで、行政書士に名義貸しを求めてくることなどが考えられます。

5) 赤信号ワード

依頼者(紹介者)から下記のような言葉が出たら要注意です。

  • 「先生はチェックだけでOKです」
  • 「職印だけお願いします」
  • 「依頼者とは会わなくて大丈夫です」
  • 「先生名義で出せれば通ります」

6) 対応ポイント

  • 受任するなら、依頼者本人との接点(面談・オンライン面談)を必須にする
  • ヒアリングシートを使って、“依頼の趣旨と事実関係”をあなたが把握する
  • 「第三者作成の原稿は参考資料扱い。最終版は当職が作成」と宣言する
  • 相手が嫌がるなら、そこで終わりです(そこが境界線です)

名義貸しを依頼されても、行政書士が主体的に申請者と関わり書類を作成する姿勢を毅然と示すことが必要です。

7) 断り文例


「ご提案ありがとうございます。ただ、当職は受任時に依頼者ご本人への確認と、当職管理下での作成・提出を必須としております。今回のスキームですと対応が難しいです。」
「ご説明の形ですと、職務基本規則上の名義貸しに該当するおそれが高いため、お引き受けできません。」


ケース2:事務所要件

1) 事例

開業直後、コストを抑えたくて、コワーキングや間借りを検討します。
相手(オーナー)は善意でこう言います。

相手(コワーキング運営者)「住所も使えますし、デスクも空いてます。打合せもここでOKです」

ところが実際は、隣の席に第三者がいて、電話内容が丸聞こえになります。
郵便物も受付に溜まり、誰が触ったか分からない。
机に置いた案件資料を、スタッフが片付ける。悪意はなくても、事故は起きます。

2) 根拠条文

  • 第8条2項(事務所)
    行政書士は、事務所の設置にあたっては、職務取扱上の秘密を保持し得るよう明確な区分を設けるとともに、他人が容易に侵入できない構造にしなければならない。また、事務所の管理に責任を持ち、正常な利用、運営を図らなければならない。

3) 条文の読み解き

ここでのキモは「住所があればOK」ではありません。
規則が要求しているのは、“秘密保持ができる物理構造”です。

  • 「区分」=他人の動線と、あなたの執務スペースが混ざらないこと
  • 「侵入できない構造」=第三者が勝手に机・棚・PCに触れないこと
  • 「管理責任」=事故が起きたら「知らなかった」では済まない、あなたが管理していたかを問われる

つまり、コワーキングでもOKにし得ますが、条件がかなり厳しくなります。
「個室」「施錠」「書類保管庫」「面談スペースの独立」が最低ラインになります。

4) 相手の典型

  • 善意の物件オーナー/運営者(悪意はないが、士業の秘密保持感覚が薄い)
  • 同居家族・スタッフ(善意で片付ける、善意でコピーする、善意で置く…が事故になります)

5) 赤信号ワード

  • 「ここ、みんな仲良いんで大丈夫です」(仲良さと秘密保持は別科目です)
  • 「郵便物は受付で預かりますね」(預かる=触れる、です)

6) 対応ポイント

  • 書類は“席に置かない”前提で動線設計(施錠棚を必須化)
  • 電話・オンライン面談は個室
  • 郵便物は受領・保管のルールを固定(誰がいつ受け取るか)

ケース3:秘密保持

1) 事例

依頼者との連絡手段、ついつい便利なLINEに寄ってしまいます。
相手(依頼者)もこう言います。

相手(依頼者)「LINEのほうが早いので、戸籍とか写真ここに送りますね」

ここで受け取った瞬間から、先生は「情報の保管者」になります。
スマホを落とす、機種変で店員に触られる、通知がロック画面に出る、家族が画面を見る。
この“生活圏の事故”は、努力不足というより構造の問題です。

さらに外注(記帳代行、入力スタッフ、デザイン業者)を入れ始めた瞬間、秘密保持は一気に難度が上がります。

2) 根拠条文

第11 条(秘密保持の義務)
行政書士は、正当な事由がなく、その職務上取り扱った事項について知り得た秘密を漏らしてはならない。行政書士でなくなった後も、また同様とする。

2 行政書士は、その職務に従事する補助者及び事務職員等に対し、その者が職務上知り得た秘密を保持させなければならない。補助者及び事務職員等でなくなった後も、また同様とする。 3 行政書士は、事件記録を保管し、又は廃棄するに際しては、秘密及びプライバシーに関する情報が漏れないように注意しなければならな

3) 条文の読み解き

この条文は「口を滑らせるな」ではなく、実務では次の意味が強いです。

  • “漏えいの結果”だけでなく、“漏えいし得る運用”を作るな
    つまり、仕組み(ツール・権限・保管)で潰すべき、という発想になります。
  • 補助者・職員にも守らせる義務がある
    「スタッフがやりました」は免罪符になりません。あなたが守らせる側です。

4) 相手の典型

  • 依頼者本人(「送っちゃダメ?」という感覚が薄い)
  • 外注先(守秘契約がない/権限が広い/端末管理が甘い)
  • 身内・知人(“ちょっと見せて”が一番断りにくい)

5) 赤信号ワード

  • 「とりあえずLINEで送ります」
  • 「共有ドライブに全部入れときました(権限が誰でも閲覧)」
  • 「そのパスワード、全員共通でいいですよね」

6) 対応ポイント(実務で“仕組み化”する)

情報漏洩が生じないようなルールの設計が重要です。

  • 連絡手段は、案件ごとにルール固定(LINEは原則使わない/使うなら“送らないもの”を明確化)
  • ファイルは権限設計(閲覧範囲・期限・ログ)
  • 外注を入れるなら
    • 守秘条項(NDA)
    • 取り扱い範囲(必要最小限)
    • 返却・削除義務
    • 事故時の連絡フロー
      までセットで作る
  • 廃棄は「溶解 or シュレッダー」を原則に
    • 紙媒体:シュレッダー(クロスカット推奨)
    • 電子媒体:完全削除(ゴミ箱を空にするだけでは不十分)
    • 「いつか使うかも」で放置しない(保存期限を決める)

ケース4:職務上請求書

1)事例

相続案件を触り始めた頃、相続そのものではなく「周辺」から問い合わせが来ます。
例えば、不動産会社や保険代理店、あるいは「相続コンサル」を名乗る人です。

相手(周辺業者)「戸籍、先生の職務上請求で取れますよね?こちらで費用は払いますのでまとめて取得だけお願いします」

一見、依頼者のためっぽい顔をしています。
でも、その業者が本当に依頼者から正当に委任を受けているか、先生には見えません。
そして戸籍は、取得した瞬間から“濃い個人情報の塊”です。渡し方を間違えると、目的外利用にもつながります。

2) 根拠条文

第10 条 (職務上請求書)

行政書士は、職務上請求書(本会会則第61条の2第2項の職務上請求書をいう。次項において同じ。)につき、適正な使用及び管理をしなければならない。

2 行政書士は、職務上請求書を、その職務上必要な請求に限り使用できるものとし、これ以外の請求や、身元調査等、人権侵害のおそれがある使用は、これを行ってはならない。

3 行政書士は、本会職務上請求書の適正な使用及び取扱いに関する規則を遵守しなければならない。

3) 条文の読み解き

ここでの判断軸は、「依頼者が楽になるか」ではなく、

  • あなたが受任した事件の遂行に必要か
  • 取得した戸籍等を、あなたが管理し、事件処理の中で使うのか
  • 第三者の“便宜”のための取得になっていないか

です。

要は、職務上請求は「行政書士が自分の職務責任で動く」制度です。
第三者が“取得代行”として使うのは、制度趣旨とは異なります。

4) 典型的な持ち込み相手

  • 不動産・保険・葬祭など、相続周辺業者
  • 探偵・調査業っぽいルート(身元調査に寄りやすい)
  • 依頼者の親族(「本人が面倒だから先生が取って」)

5) 対応ポイント

戸籍情報の不正取得は重大な人権侵害に繋がりうるため、職務上請求書の取り扱いについては初任者研修でも重点的に始動されるポイントです。

  • 取得が必要なら、あなたが事件として受任し、依頼者本人との契約・委任関係を明確化
  • 取得物の受け渡しは、依頼者本人へを原則に(第三者に渡す場合は根拠と同意を整理)
  • 「取得だけ」の依頼は、職務の枠に入るかを慎重に判断
  • 取得した戸籍等の管理ルールを決める
    • 依頼者本人への交付を原則とする
    • 第三者(不動産業者等)に渡す場合:依頼者の明示的な同意+委任状
    • 使用後の原本返却/写しの廃棄までを事件簿に記録

ケース5:不正が疑われる案件への対応

1)事例

相談の段階で、相手がこう言うことがあります。

相手(依頼者)「実態はまだないんですけど、先に許可だけ取れますよね」
相手(仲介者)「細かい話はいいので、この内容で“通る形”に整えてください」

大前提として、実態が許可要件に適合しない以上、許可を取ることは出来ませんし、事実を捻じ曲げて許可を通そうとする行為は認められません。
明らかに許可が取れない案件なのに相手がごり押ししてくる場合、“断るときに何を根拠にすれば角が立ちにくいか”を考えることがスマートです。

そこで効くのが、規則の条文です。感情で断ると揉めますが、規則で断ると揉めにくいです。

2) 根拠条文

第31 条(不正の疑いがある事件)
行政書士は、依頼の趣旨が、目的、内容又は方法において不正の疑いがある場合には、事件の受任を拒否しなければならない。

第30 条(依頼の拒否)

行政書士は、正当な事由がある場合において依頼を拒むときは、その事由を説明しなければならない。この場合において依頼者から請求があるときは、その事由を記載した文書を交付しなければならない。

第31条は「怪しかったら断っていい」ではなく、“断らなければならない”類型です。
つまり、ここは“営業判断”ではなく“職業ルール”です。

第30条は、その断りを「ちゃんと説明せよ」、さらに求められたら「文書で渡せ」と言っています。
新人に優しいのは、ここです。
断るときの台本(ルール)を、規則が用意してくれていると思ってください。

4) 不正が持ち込まれる相手の典型

  • 依頼者本人(悪意というより「要件が分からない」ケースもあります)
  • 仲介者(コンサル・紹介業者)(“通すこと”が商品になっている)
  • 元請・下請関係(「これでやるって決まってる」圧がかかる)

5) 注意したほうがいい言い回し(揉めにくくする)

  • NG:
    「それ違法ですよ」だけで切る(相手が逆ギレしやすい)
  • OK:
    「お話の内容ですと、職務基本規則上『不正の疑いがある事件』に触れる可能性があるため、受任できません」と“可能性+規則”で線を引く

6) 断り文例

「現時点の事実関係ですと、規則上受任できない類型に該当する可能性があるため、いったん整理が必要です。適法に進める前提であれば、要件整理からご一緒できます。」

「ご相談内容が職務基本規則第31条の趣旨に照らし『不正の疑いがある事件』に該当する可能性があるため、受任をお断りいたします。」


ケース6:紹介料の禁止

1) 事例

仲介業者、異業種からの案件紹介などで起こりえるケースです。

相手(Web業者)「問い合わせ増やします。その代わり、成約の10%だけください」
相手(異業種の知人)「お客さん紹介するので、1件3万円で」

これ、営業としては“ありがたい提案”に見えます。
でも、規則はここをかなり強く縛ります。なぜなら、紹介料が当たり前になると、次に起きるのは「案件の質の劣化」だからです。
紹介者は“数”を優先しがちで、数が多くなれば「怪しい依頼」も混ざってきます。

2) 根拠条文

第15条 (不当誘致行為の禁止)

行政書士は、不正又は不当な手段で、依頼を誘致するような行為をしてはならない。

2 行政書士は、金品の提供、供応その他不当な行為により行政書士の業務の依頼を誘致してはならない。

3 行政書士は、依頼者の紹介を受けたことについて、その紹介の対価を依頼者の報酬に上乗せしたり、職務内容と比較して法外な金額を請求したりしてはならない。

4 行政書士は、依頼者の紹介をしたことについて、その対価を要求してはならない。

3) 条文の読み解き

第15条は、ざっくり言うと次を禁止します。

  • 不正・不当な手段で依頼を取る
  • 金品提供や供応で依頼を取る
  • 紹介の対価を報酬に上乗せ/法外請求する
  • 紹介の対価を要求する

実務で大事なのは、「業者が言う“広告費”」「成果報酬」「紹介料」の境界が曖昧になりやすい点です。
だからこそ、契約の形・お金の名目で安全側に寄せておく必要があります。

4) 典型的な持ち込み相手

  • Web制作・広告運用・MEO業者
  • 異業種交流会の紹介者
  • 不動産・建設・補助金コンサル

5) 対応ポイント

  • 外部にお金を払うなら、“紹介の対価”ではなく“広告・制作などの役務の対価”にする
  • 依頼者に「どこ経由であなたに辿り着いたか」を聞かれたら、正直に説明できる状態にする
  • 「紹介者にお金を払っている」など、依頼者が不信感を持つ構造は作らない
  • 見積書・請求書の中に、紹介者の取り分が紛れ込む形(上乗せして戻す等)をしない

ケース7:反社会的勢力との関係拒否

1) 事例

最初は普通の依頼に見えます。会社設立、建設業許可、契約書作成。
でも話を進めていくうちに微妙な違和感が積み上がります。

  • 名刺の住所が曖昧
  • お金の話だけ早い
  • こちらの説明を遮って結論を急かす
  • 「紹介者の名前」をやたら強調する

そして最後に、こう言われます。

相手「先生、こういうの慣れてますよね?細かいことはいいので早く」

2) 根拠条文

第16 条(反社会的勢力との関係拒否)

行政書士は、反社会的勢力と一切の関係をもってはならない。また、反社会的勢力による不当要求は拒絶しなければならない。

2 行政書士は、相手方が反社会的勢力であるかについて、常に、通常必要と思われる注意を払うとともに、反社会的勢力とは知らずに何らかの関係を有してしまった場合には、相手方が反社会的勢力であると判明した時点又は反社会的勢力であるとの疑いが生じた時点で、速やかに関係を解消しなければならない。

3) 条文の読み解き

第16条のポイントは2つです。

  • 反社と“一切の関係”を持つな
  • 「疑いが生じた時点」で、速やかに関係を解消せよ

つまり、確定(黒)を待つのではなく、グレーで引く発想です。
新人が一番困るのは「確証がない」状態ですが、規則はそこに答えを置いています。

4) 典型的な持ち込み相手

  • 紹介業者経由の依頼(紹介者が強く関与してくる)
  • ナイトビジネス周辺
  • 建設・解体・産廃など、現場系で“周辺”にいるケース

疑いのサインチェックリスト(3つ以上該当→要注意)

□ 名刺・会社情報が曖昧(住所が私書箱/電話が携帯のみ)
□ 紹介者の名前を繰り返し強調してくる
□ こちらの質問を遮り、結論を急かす
□ 現金払いを強く希望(振込を嫌がる)
□ 同席者が終始無言で威圧感がある
□ 業種と依頼内容が不自然に乖離している

5) 対応ポイント

  • 初回で、本人確認・実態確認を丁寧にやる
  • 自宅・相手の指定場所に行かない
  • 可能なら 同席者(スタッフ・家族・同業) を置く
  • 少しでも疑いが出たら、受任せず終了(継続の説明が一番危険)
  • 断るときは、理由を“相手の属性”ではなく規則・方針で語る

反社系の圧力は、こちらを「議論」「説得」「情」で引っ張り込み、最後に「折れさせる」構造になりがちです。なので目標は 相手を納得させることではなく、接点を安全に終わらせることに置きます。


ケース8:過大な広告宣伝

1) 事例

開業直後、集客の不安が強い時期に、広告業者などからこういう提案が来ます。

相手(マーケ業者)「SNSで『許可率100%』って書きましょう。強い言葉のほうが反応取れます」
相手(知人)「“最短即日”“必ず通す”って書いたら?」

言い切りは強い。強い言葉は、弱い心に効きます。でも、士業広告は「盛ったほうが勝ち」ゲームにすると一気に危険になります。

2) 根拠条文

第17 条(広告宣伝)

行政書士は、不当な目的を意図し、又は品位を損なうおそれのある広告宣伝(ホームページ、SNS等によるものを含む。以下同じ。)を行ってはならない。

2 行政書士は、事実に合致しない内容の広告宣伝を行ってはならない。

3 行政書士は、誤認又は誤導のおそれのある内容の広告宣伝を行ってはならない。

4 行政書士は、誇大な広告宣伝を行ってはならない。

3) 条文の読み解き

第17条は、広告の“内容”を複数方向から縛っています。

  • 不当目的/品位を損なうおそれ:そもそもやるな
  • 事実に合致しない:ウソ禁止
  • 誤認・誤導のおそれ:誤解させる書き方禁止
  • 誇大:盛るな

実務で危ないのは、「完全なウソ」より半分本当です。
たとえば「最短」「日本一」「誰でも」「必ず」など、条件を隠した言い方が一番揉めます。

4) 典型的な持ち込み相手

  • マーケ会社(成果を出すために強い表現に寄せがち)
  • 同業の成功例を真似したくなる自分のエゴ

5) 対応ポイント

  • 成果保証・最上級表現(「必ず」「100%」「日本一」)を避ける
  • 事例紹介は依頼者の同意+匿名化を徹底
  • 投稿前に「事実か/誤認させないか/品位を損なわないか」をセルフチェック

ケース9:「許可を通すための作文」はダメ

1) 事例

依頼者(または仲介者)がこう言います。

相手「実態はこれから作るので、書類は先に“それっぽく”お願いします」
相手「この内容でいける形にしてくれたら、報酬は上乗せします」

新人ほど「要望に応えたい」が出ます。
でも、ここは“サービス精神”を出すと事故になります。行政書士は、依頼者の代筆屋ではなく、適法な手続の専門職だからです。

2) 根拠条文

第42条 (書類等の作成)

行政書士は、法令又は事件の趣旨に反する書類を作成してはならない。

2 行政書士は、作成した書類に記名して職印を押さなければならない。

第51 条 (法令遵守の助言)

行政書士は、職務を受任し又は相談に応じる場合には、依頼者に対して、法令を遵守するように助言しなければならない。

2 行政書士は、依頼者に不正又は違法な手段を助長するような助言及び行為をしてはならない。

3) 条文の読み解き

第42条は、「法令又は事件の趣旨に反する書類」を作るなと言っています。
これ、実務だと次のように効きます。

  • “通るための作文”はダメ
  • “実態のない事実”を、事実として記載するのはダメ
  • “依頼者の希望”より、“手続の趣旨”が上位

そして第51条は、さらに一段踏み込みます。
「相談に応じる場合には、依頼者に法令遵守するよう助言せよ」
つまり、断るだけでなく、適法ルートに戻す提案があなたの仕事の中心になります。

4) 典型的な持ち込み相手

  • 依頼者本人(焦り・資金繰り・納期プレッシャー)
  • 仲介者(成功報酬型のコンサル、紹介業者)
  • 元請(「この書類が揃わないと契約できない」圧)

5) 対応ポイント

  • まず事実関係の棚卸し(「今ある実態」「これから作る実態」を分けて考える)
  • 適法な代替案を提示(申請時期をずらす/要件充足まで準備する/別制度にする)
  • 断りは相手の感情に触らず、規則を味方にする

ケース10:報酬や受任内容は「事前に決めておく」のが原則

1) 事例

新人が一番やりがちなのは、「まず動いてあげる」ことです。
相手(依頼者)は悪気なく言います。

相手「とりあえず着手してもらって、金額は後で相談でいいですか」

ここで着手すると、後でこうなります。

  • 「思ったより高い」と言われる
  • 途中で連絡が途切れる
  • 追加作業が増えて、どこまでが当初範囲か分からなくなる
  • 入金が遅れ、領収や精算が曖昧になる

そして揉めると、証拠が薄いほうが負けます。
“正しいことをしたか”ではなく、“正しい運用をしていたか”が問われます。

2) 根拠条文

第34 条 (報酬)

行政書士は、事件の受任に際して、依頼者に対し、事件の難易、時間及び労力その他の事情に照らして、適正な報酬を明示し、かつ、十分に説明しなければならない。

2 行政書士は、不要な書類を作成し、又はみだりに報酬の増加を図る行為をしてはならない。 3 行政書士は、不当に廉価な報酬で事件を受任してはならない。

4 行政書士は、事件の受任に際して、社会通念上合理的な計算根拠をもって報酬を決定しなければならない。

第35 条 (受任の内容の明確化)

行政書士は、事件を受託するにあたり、依頼者との間における信頼関係を保持するため、報酬等を明確に定めた契約書を取り交わす等、紛議が生じないように十分に配慮しなければならない。

第44条(事件の終了)

行政書士は、受任した事件が終了したときは、遅滞なく、金銭の精算、物品の引渡し及び預った書類等の返還をしなければならない。

第45条(領収証)

行政書士は、依頼者から報酬を受けたときは、本会の定める様式により正副2通の領収証を作成し、正本は、これに記名し職印を押して当該依頼人に交付し、副本は、作成の日から5年間保存しなければならない。

第46 条(事件簿等の備付及び保存)

行政書士は、その職務に関する帳簿(以下「事件簿」という。)を備え、これに事件の名称、年月日、受けた報酬の額、依頼者の住所氏名等を記載しなければならない。

2 行政書士は、事件簿をその関係書類とともに、閉鎖のときから2年間保存しなければならない。行政書士でなくなったときも、また同様とする。

3) 条文の読み解き

この一連の条文は、全部まとめると「依頼者との関係を、手続としてきれいにする」ためのものです。
新人向けに、実務の言葉で言い換えると、こういうことです。

  • 第34条:料金は“後出し”にするな
    依頼者が依頼を判断できるように、難易度・時間・労力を踏まえた金額を示し、納得できる説明をしなさい、という要求です。
    ここで重要なのは、依頼者にとっての納得感です。「相場だから」より、「何に時間がかかり、どこが難しく、何をリスクとして見ているか」を言語化できるかが効きます。
  • 第35条:契約で“事件の輪郭”を決めろ
    仕事が増えるのは普通です。問題は「増えたときに揉める」ことです。
    なので、契約書(またはこれに準じる書面)で、
    • 受任範囲
    • 別途費用になる作業
    • 追加時の見積ルール
    • 期限と依頼者側の協力義務(資料提出期限など)
      を先に決めておく、という発想になります。
  • 第45条:領収は“正副2通+保存”で運用せよ
    領収は「出しました」で終わりではなく、保存がセットです。揉めた時に効くのは副本です。
  • 第46条:事件簿は“自分を守る最低限の記録”
    記載事項を見ると分かりますが、これは「ちゃんと仕事した」を説明するための骨組みです。
    依頼者名・事件名・日付・報酬額。これが揃っているだけで、後で圧倒的に楽になります。
  • 第44条:終わったら“精算・返還・引渡し”を遅滞なく
    終了後にグダると、苦情になりやすいです。
    「返す」「清算する」「引き渡す」をチェックリスト化して、終わり方を定型にすると事故が減ります。

4) 相手の典型

  • 依頼者本人(急ぎ・不安で「先に動いて」になりやすい)
  • 会社の担当者(社内決裁が遅く、金額確定を先送りしがち)

5) 対応ポイント(おすすめの運用)

  • 終了時チェックリストを作る(返還物/精算/報告/保存)
  • 「着手の条件」を固定化する:見積提示 → 契約(or受任書) → 本人確認 → 着手金(必要なら) → 着手
  • 事件簿は「後でまとめて」ではなく、受任した日に1行だけでも入れる

受任フローの最小セット

  1. 問い合わせ
    ↓ 簡易ヒアリング(本人確認・不正疑い・利益相反)
  2. 見積提示
    ↓ 難易度・時間・リスクを説明
  3. 契約書取り交わし
    ↓ 受任範囲・報酬・追加費用ルールを明記
  4. 着手
    ↓ 事件簿に記録(受任日・依頼者名・報酬額)
  5. 進捗報告
    ↓ 定期連絡+重要事項は都度
  6. 終了
    ↓ 報告+精算+預り物返還+領収証発行(正副2通)
  7. 保存
    ↓ 領収証副本(5年)+事件簿・関係書類(閉鎖から2年)

まとめ

職務基本規則は、真面目に通読しても、最初はなかなかピンと来ません。
でも、実務は待ってくれませんし、事故は「忙しい日」「断りにくい相手」「善意」から始まりやすいです。だからこそ、規則を読む順番を変えるだけで、理解と安全性が一気に上がります。

この記事で扱った10ケースのうち、性質は大きく2つに分かれます。

  • 不正・グレーが持ち込まれやすい領域(例:名義貸し/不正疑い/紹介料/“盛り広告”/数字調整/反社)
    → 相手が依頼者とは限らず、仲介者・周辺業者から持ち込まれることも多いです。
    → ここは「断る根拠」と「線引き」が命です。条文が背骨になります。
  • 善意でも事故る領域(例:情報管理/事務所構造/契約と報酬説明/預り金・領収・事件簿)
    → 相手が普通の人ほど起きます。悪意ではなく、運用の曖昧さが原因になります。
    → ここは“仕組み化”が最強です。人間力より、チェックリストです。

合格直後のあなたにとって、いちばん価値があるのは「全部を暗記すること」より、次の状態を作ることだと思います。

  • 受任の流れが固定されている(見積→契約→本人確認→着手)
  • 情報の受け取り・保管・共有ルールが決まっている
  • 断り文のテンプレがある(ソフト/断固)
  • 事件簿・領収・精算が“後回しにならない仕組み”になっている

これができると、仕事が増えても安定します。
そして何より、「この案件、受けて大丈夫かな…」という不安が、条文と運用で整理できるようになります。新人の時期にこれが持てるとかなり心強いです。

開業準備期間にやっておくべき3つのこと

1. 受任フローを紙1枚にまとめる

見積→契約→本人確認→着手の順番と、各段階のチェック項目を書き出す。

2. 断り文のテンプレを3パターン用意する

  • 不正疑い用(ケース5)
  • 名義貸し用(ケース1)
  • 利益相反・能力外用(ケース5応用)

3. 情報管理ルールを決める

  • 連絡手段(LINE使うか/使わないか)
  • ファイル保管先(クラウド/ローカル/権限設計)
  • 廃棄方法(シュレッダー/溶解)

これらは「開業してから考える」より「開業前に固める」方が圧倒的に楽です。

難関試験に合格したあなたには、ちゃんと積み上げられる力があります。開業準備期間や初めての受任までの期間を利用して“安全運転”な業務基準を構築していきましょう。

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