不当要求防止責任者研修を受けてきました
昨日、茨城県警の不当要求防止責任者研修を受けてきました。この研修は暴力団等による不当な要求による被害を未然に防ぐため、事業者が選任した「不当要求防止責任者」を対象に、都道府県暴力追放運動推進センターや警察が実施するものです。
行政書士としてこの研修を受ける意義
行政書士は「依頼者の代理人」として行政手続を担う立場にあります。そのため、相談や依頼の場面で苦情と不当要求の境界線に直面するリスクが他の士業以上に高いといえます。例えば、建設業許可や産廃許可など、生活や事業に直結する手続きを扱う際には、「どうしても通してほしい」「法律に合わなくてもなんとかしてくれ」という圧力的な要望に遭遇することも想定されます。
加えて、行政書士は反社会的勢力と接触するリスクが高い職種でもあります。なぜなら、反社が入り込みやすい業種の許認可を取り扱うからです。フロント企業からの依頼に巻き込まれる可能性があり、知らぬ間に「反社の代理人」のような立場にされてしまう危険もあります。大手企業と異なり、個人事務所や小規模事務所が多いため、強い圧力にさらされた際に孤立無援になりやすいという現実もあります。
だからこそ、不当要求防止責任者研修を受けることは、自分自身と事務所を守る「盾」になると同時に、反社と関わらないためのフィルターを強化する手段でもあるのです。依頼者確認の徹底、怪しい案件の見極め、反社排除条項の導入など、日常業務に即したリスク管理スキルを体系的に学べる点は極めて重要です。
さらに、行政書士は地域の中小企業や個人事業主から「困ったときの相談先」として頼られる存在です。自らが不当要求対応の知識を備えることで、顧客の事業を守る観点からも助言できるようになります。単に自事務所を守るだけでなく、地域の顧客に「こんな場合は毅然と断っていい」「記録を残すことが大事」と伝えられるのは、行政書士としての付加価値にもつながります。
つまり、行政書士にとってこの研修は「自己防衛」と「顧客支援」の双方を兼ね備えた必須の学びです。
2. 不当要求防止責任者とは
不当要求防止責任者とは、暴力団や反社会的勢力、あるいは威迫的なクレーマーなどによる不当な要求から事業所を守るために配置される責任者です。法律上は主に一定規模の企業に設置が求められていますが、実際には士業事務所や中小企業でも不可欠な役割といえます。
その任務は単に「窓口役」ではありません。状況に応じて冷静に線引きをし、組織を守るための判断と行動を取ることが求められます。役割を整理すると以下のように分かれます。
- 初動対応
不当要求の場面でその場しのぎの約束をせず、毅然とした態度で「記録を残す」「文書で受ける」といった基本を徹底します。例えば「誠意を見せろ」と曖昧な要求が来ても、「具体的に文書でお願いします」と返すのが責任者の役割です。 - 内部連携
事務所や会社の経営者・職員と情報を共有し、組織としての統一対応を図ります。現場対応者が勝手に判断して譲歩すると、相手に付け入る隙を与えてしまうため、「組織対応」へ持ち込む橋渡し役となります。 - 外部窓口
警察、暴力追放運動推進センター、顧問弁護士など、外部の専門機関へ迅速に相談・通報するのも責任者の重要な任務です。特に士業事務所のように少人数で運営している場合、外部ネットワークをすぐに使える体制が生命線になります。
また、不当要求防止責任者は「対応のシンボル」でもあります。掲示や名刺に責任者を明示することで、相手に「この事務所は不当要求を許さない」という意思を示す効果があります。
3. 苦情と不当要求の違い
基本的な考え方
- 苦情(クレーム)
契約・法令・約款に基づいて正当な改善を求めるもの。例:納期遅延に対して「契約通りに納めてほしい」と要求する。 - 不当要求
内容や手段が逸脱しているもの。例:怒鳴り声で「今日中に現金で払え」「SNSに公表するぞ」と迫る。
判断の軸はシンプルに 「内容が正当か」「手段が相当か」 の2点です。どちらか一方でも逸脱すれば、それは不当要求となります。
典型的な違いの例
- 納期トラブル
- 苦情: 「納品が遅れているので至急対応してほしい」
- 不当要求: 「今すぐ50万円払え。払わないと取引先に言いふらす」
- 品質不良
- 苦情: 「施工部分に不具合があるので補修してほしい」
- 不当要求: 「タダで工事全体をやり直せ。できなければ会社を潰すぞ」
- 料金請求
- 苦情: 「見積と違うので内訳を説明してほしい」
- 不当要求: 「説明しろ、納得いくまでここを動かない」
グレーゾーンに注意
問題なのは「正当な苦情が、不当要求に変質する」瞬間です。
- 最初は合理的な要望でも、途中から「誠意を見せろ」「SNSに書くぞ」といった威迫ワードが出た時点で、不当要求にスイッチします。
- こちらに非がある場合でも、契約や法令の範囲を超える要求は拒否して構いません。
実務でのチェックリスト
苦情と不当要求を見分ける際は、次の3つを確認すると判断が早まります。
- 内容の正当性
→ 契約や法令に照らして根拠があるか。 - 手段の相当性
→ 威迫・居座り・過大な金銭要求などがないか。 - 目的の適法性
→ 本来の契約・取引に関連した要求か、それを逸脱して便宜供与や過大補償を迫っていないか。
この3点を一つでも満たさなければ「不当要求」として毅然と対応します。
4. 暴対法9条で禁止される暴力的要求行為
暴対法9条では、暴力団員が威力を背景に行う27類型の行為が規制されています。
- 口止め料の要求
- 寄付金・賛助金・援助金等の要求
- 下請参入・資材納入・人員受入などの要求
- 縄張り内の営業者への「あいさつ料/みかじめ料」要求
- 用心棒代や物品購入・リース受入等の要求
- 法定上限超の高金利債権の取立て要求
- 乱暴・迷惑な方法による不当な取立て
- 料金等の不払い・支払猶予の不当要求
- 不当な貸付・手形割引の要求(非業者への貸付強要/拒絶業者への貸付強要/有利条件の強要)
- 証券会社への不当な信用取引要求
- 会社に対する株式買取・あっせん等の不当要求
- 預金・貯金の受入れの不当要求
- 不当な地上げ(明渡し要求)
- 競売物件等での不当な明渡料・立退料要求
- 宅建業者への宅地等の売買・交換等の不当要求
- 宅建業者以外への宅地等の売買・賃借等の不当要求
- 建設業者への不当な工事請負要求
- 集会施設等の不当利用要求(示威行事に使用させる等)
- 交通事故等の示談介入による金品要求
- 商品・役務・有価証券に因縁を付けた損害賠償/損失補填要求
- 行政庁に対し、要件外の許認可等をするよう不当要求
- 行政庁に対し、要件充足でも許認可等をしないよう不当要求
- 公共入札で資格のない者を参加させるよう不当要求
- 公共入札で資格ある者を参加させないよう不当要求
- 入札者に一定価格・条件で申込み/不参加を不当に要求
- 公共契約の相手方選定で自己等を相手とする/特定排除を不当に要求
- 公共契約の相手方に下請発注や納入等の「指導・助言」を不当に要求
これらに該当すれば、公安委員会等から中止命令・再発防止命令の対象。命令違反には3年以下の懲役または500万円以下の罰金(両罰化あり)という強化罰則が運用されています。
暴対法の対象外でも「不当要求」として対応すべきケース
ここで注意したいのは、暴力団対策法が直接規制するのは「指定暴力団員やその威力を利用する者」に限られるという点です。したがって、いわゆる「クレーマー」と呼ばれる一般人が相手の場合、暴対法そのものは適用されません。
しかし、だからといって安心はできません。一般人による不当要求であっても、「正当性を欠いた内容」や「威迫的な手段」を伴えば、脅迫罪・恐喝罪・威力業務妨害罪といった刑事事件につながる可能性が十分にあります。実務の現場では、相手が暴力団か一般人かをその場で見極めるのは困難です。したがって、要求内容と手段に着目して不当要求かどうかを判断し、同じフローで対応することが安全策となります。
5.12の不当要求対応要項
研修では「不当要求にどう対処するか」を12の基本ルールで学びました。要点をかいつまんで紹介します。
- 相手の確認:名前・所属・人数を把握する。代理人なら委任状を求める。
- 対応場所:必ず自社の管理下にある応接室などで行う。外へは出ない。
- 人数の確保:相手より多人数で対応し、単独対応は避ける。
- 対応時間:長時間の居座りを防ぐため、終了時刻を宣言する。
- 言葉遣い:謝罪や約束を安易に口にしない。「検討します」もNG。
- 署名・押印はしない:詫び状や念書は後の証拠に悪用される。
- 責任者を出さない:トップを出すと即答を迫られる。
- その場で決めない:組織で検討し、後日文書で回答する。
- 湯茶の接待をしない:居座りや投げつけの口実になる。
- 記録を残す:メモや録音で証拠化する。会話の当事者であれば、相手の同意なく録音・録画は法的に可能です。録音をすることをあらかじめ相手に告げることでプレッシャーを与えることも出来ます。
- 毅然と拒否:応じられない要求は明確に断る。
- 警察・暴追センターへの通報:危険を感じたらためらわず外部機関へ。
この「12か条」を日常的に意識しておくだけで、不当要求への対応力は格段に高まります。
6. 典型的な不当要求とその対応例
「誠意を見せろ」
これは代表的な曖昧要求ワードです。金額や具体的な行動を言わず、「誠意」という抽象的な言葉でこちらから差し出させようとする狙いがあります。応じてしまうと「もっと出せ」「これでは足りない」と要求がエスカレートしやすい典型例です。
対応の型
- 「ご要請の内容を具体的に文書で示してください。口頭では判断できません。」
- 「その場での約束や決定は一切できません。」
実務ポイント
曖昧な要求には絶対に乗らず、書面化を求めて記録に残すことが重要です。
「名刺を出せ」
名刺は住所・電話番号などの個人情報の塊です。不当要求の場面では、これを足がかりに嫌がらせや追加要求に発展する可能性があります。
対応の型
- 「名刺はお渡しできません。必要であれば事務所の代表連絡先を文書でご案内します。」
実務ポイント
どうしても連絡先を伝える必要がある場合は、代表電話や代表メールアドレスだけを記載した「問い合わせカード」を用意しておくと安心です。
「SNSに公表するぞ」
現代的な威迫ワードです。インターネットでの拡散を恐れる心理につけ込み、金銭や便宜を迫ろうとします。
対応の型
- 「SNSへの投稿はご自由ですが、虚偽や名誉毀損にあたる場合は法的に対応します。」
実務ポイント
発言を録音し、実際に投稿された場合はスクリーンショットやURLを証拠保全します。脅迫や業務妨害に当たる場合は警察相談も視野に入れます。
「うちの事務所に来い」
相手の“縄張り”に引き込む常套句です。こちらを物理的に不利な場所に置き、囲まれて威圧される危険があります。
対応の型
- 「当事務所では、外での対応や相手方の事務所に伺うことは行っておりません。ご要請は書面でお願いします。」
実務ポイント
絶対に相手の指定場所に出向かないこと。これは12要項の大原則のひとつです。
「納得いくまで説明しろ」
延々と説明を繰り返させ、時間を支配する「居座り型」の要求です。終わりが相手次第なので、無限ループになりやすい。
対応の型
- 「必要なご説明はすでに尽くしました。これ以上は文書で回答します。」
- 「本日の対応はここまでといたします。」
実務ポイント
最初に「◯時まで対応します」と終了時刻を宣言しておくとスムーズに切り上げやすいです。
「代理人と称する者が来た」
「弁護士」「関係者」などと名乗って来訪するケースです。実際は代理権を持たない人物が多く、正当性を装って威圧してくるパターンです。
対応の型
- 「どなたの代理かを明示してください。委任状や身分証の提示がなければ対応できません。」
実務ポイント
弁護士の場合も弁護士会登録番号を確認し、必要なら所属確認を取ります。委任状がなければ一切応じないのが鉄則です。
「この本を買え」
雑誌や書籍、団体発行の会報などの購入を迫るケースです。暴対法9条でも「物品購入の強要」は禁止類型に明記されています。
対応の型
- 「当事務所では、書籍や物品の購入依頼には一切応じられません。」
実務ポイント
一度でも購入すると次々に要求が増えるので、初回から毅然と拒否する必要があります。
共通ポイント
これらのフレーズはいずれも「典型的な入口」になり得ます。対応の共通原則は、
- その場で約束しない
- 書面で要求させる
- 記録を必ず残す
- 必要なら通報する
この4ステップです。
7.業務上のミスがあった場合の線引き
不当要求防止の実務で最も難しいのは、こちらに何らかのミスや過失が実際にある場合です。正当な苦情と不当要求が混ざり合うことが多く、どこまで応じ、どこから拒否するのか、その線引きが問われます。
認める部分:契約や法令に基づく範囲
- 納期遅延があれば、遅延損害金や代替品対応をする。
- 品質不備があれば、補修や交換を誠実に行う。
- 手続き上のミスがあれば、責任を認めて迅速に修正する。
これらは契約・約款・法令に照らして当然の対応であり、誠実に応じることが信頼維持につながります。
拒否する部分:社会的相当性を逸脱した要求
- 過大な慰謝料や現金の即時支払いを迫られる
- 土下座や過剰な謝罪を強要される
- 「SNSに晒す」「取引先に言う」といった威迫を伴う要求
- 法的に根拠のない特別扱いを求められる
こうした要求は「不当要求」として毅然と拒否する必要があります。
実務の対応フロー
- 事実確認と記録:自らの非を明確化し、証拠とともに残す。
- 正当部分は誠実に対応:契約上・法令上必要な補償を具体的に提示する。
- 不当部分は拒否:「それ以上の金銭や便宜の供与はできません」と明確に伝える。
- 文書化:対応方針を文書でまとめ、後日のトラブルに備える。
セリフ例
- 「本件については当方の不手際を確認しましたので、〇〇の対応をいたします。」
- 「ただし、契約や法令に基づかない金銭や便宜の供与については応じられません。」
- 「当方の対応は以上です。これ以上の要求には応じられません。」
まとめ
「責任は果たすが、屈服はしない」。これが、ミスがあった場面での正しい姿勢です。正当な苦情には誠実に応じつつ、不当要求に転じた部分は毅然と拒否する。この線引きを徹底することが、信頼を守り、かつ組織を不当要求から守る唯一の方法です。
7.今後の業務に活かす
行政書士は顧客の代理人として行政手続きを担います。その立場上、相談の中には苦情と不当要求の境界線にあるような案件も少なくありません。私自身、この研修を通じて「苦情は受け止めるが、不当要求には一切応じない」という線引きをより明確にすることができました。
不当要求は決して特別な業種だけの問題ではなく、士業事務所や中小企業でも突然降りかかるリスクです。だからこそ、普段から備えておくことが何よりの防御策になります。今回の学びを活かし、地域の事業者や顧客に対しても、安全・安心な業務提供を続けていきたいと思います。
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