freee許認可は行政書士の脅威か?自動化時代の許認可業務と専門家の未来

1. freee許認可とは何か
freee許認可は、会計ソフトで知られるfreee株式会社が提供する許認可申請のオンライン支援サービスです。
ユーザーが画面上の質問に答えていくと、必要書類が自動で作成され、提出手順まで案内してくれる仕組みです。
対応分野は、軽貨物・古物商・飲食店・理美容・宅建業・建設業・産廃収集運搬など多岐にわたります。
「行政書士に依頼せず自分でできる」を掲げ、価格も手ごろ。
特に古物商や軽貨物のように要件が単純な届出手続きでは、freeeで自力完了する事例も増えています。
2. 行政書士にとっての“脅威”と感じられる理由
行政書士がfreee許認可に危機感を覚えるのは、単に「書類が自動で作れる」からではありません。
freeeが狙うのは、行政書士業務の中でも最も定型・低単価な領域だからです。
古物商や飲食店などは依頼単価が低い反面、件数が多く、若手行政書士にとっては登竜門的な仕事でした。
そこに「簡単・早い・安い」の三拍子でfreeeが入ってきたわけです。
つまり、“入り口業務”が真っ先に自動化の対象になったという構図です。
さらに、freeeは「会計freee」「開業freee」といった他サービスと連携しており、
開業初期の個人事業主を一気に囲い込む仕組みを完成させています。
ここに、従来の行政書士の営業動線が被るため、“脅威”と感じられるのです。
3. freee許認可がカバーできる範囲と限界
とはいえ、freee許認可がすべてを代替するわけではありません。
強みはあくまで、フォーマット化された書類作成と提出手順の自動化です。
苦手な領域は次の通りです。
- 要件を満たすかどうかの判断
- 実務経験や経営経験をどう証明するか
- 自治体ごとの運用差への対応
- 補正対応や現場確認の段取り
これらは、単なる「入力作業」ではなく、現場の事情を踏まえた判断力が問われる領域です。
AIは法令の条文は読めても、「このケースで通るか」は読めません。
まさに行政書士の経験と調整力が求められる部分です。
4. freee許認可が向いている人・向いていない人
すべての事業者にfreeeが最適なわけではありません。
操作自体はシンプルですが、「自分でやる」にはそれなりの根気と判断力が必要です。
freee許認可が向いている人
- 許可内容が単純で、自分で調べる時間がある
- 提出期限まで余裕があり、窓口にも行ける
- 補正や再提出も気にならない
- 低コストを最優先にしたい個人事業主
freee許認可が向いていない人
- 複雑な手引や説明文を読むのが苦手な人
行政文書の独特な表現に戸惑いやすく、途中で行き詰まりやすい。 - 申請書以外の証明書類を集める時間や余裕がない人
登記簿、納税証明、資格証などの準備が負担になりやすい。 - 数字や書類整理が苦手な人
工事経歴書や財務資料を扱うときに混乱してしまう。 - 行政とのやり取りに自信がない人
補正や確認の電話などをストレスに感じやすい人には、専門家の伴走が安心です。
freeeは“自分で判断して進められる人”に向いた仕組みです。
逆にいえば、「手引を読む時間がない」「苦手を感じる」という人ほど、専門家と組む方が早く、確実で、ストレスも少なく済みます。
5. 奪われやすい領域と、奪われにくい領域
AIやクラウドによって影響を受けやすいのは、以下の領域です。
- 奪われやすい:古物商、軽貨物、飲食店、理美容など
- 奪われにくい:建設業許可、産廃収集運搬、解体業登録、経審、補助金関連
前者が奪われやすい理由は、構造的に次の3点にあります。
- 要件がシンプルで分岐が少ない
必要書類や判断基準が全国的にほぼ共通しており、AIやシステムでの自動判定に向いています。
人が介在しなくても、選択肢を選ぶだけで完結する設計になっているのです。 - 添付書類が定型でデータ化しやすい
申請書、住民票、身分証明書など、誰が作っても同じ形式の書類が通用します。
こうした定型フォーマットは、freeeのような仕組みが最も得意とする領域です。 - 価格競争が激しく、付加価値が生まれにくい
「どこに頼んでも同じ」と見なされやすい業務では、価格が唯一の判断軸になりがちです。
この構造が、AIや自動化ツールの参入を加速させました。
一方で、後者のような建設業許可や産廃許可は、
証憑設計・体制確認・自治体ごとの運用差調整など、判断力と経験値が欠かせない世界です。
AIがどれほど進化しても、現場と制度の「間」を埋める力は人にしかありません。
freeeは“敵”ではなく、こうした判断のいらない領域を担う分業相手と考える方が現実的です。
6. 行政書士が今すべき対応策
freee許認可の登場で問われるのは、「あなたに頼む意味」です。
これからの行政書士に必要なのは、次のような対応です。
- 書類代行から要件判断・戦略設計へ軸を移す
- freeeを使いこなす“利用側の専門家”になる
- 定型パッケージと個別支援を分け、価格と価値を明確化
- 他士業・IT専門家との横連携で強みを掛け算にする
ツールを排除するのではなく、ツールの限界を補う存在になる。
「行政書士がいるからfreeeを安心して使える」――そんな関係性が理想です。
7. AI・自動化時代に生き残る行政書士とは
AIが書類を作る時代、求められるのは「制度を理解し、活かせる人」です。
行政書士が進化すべき方向は、次の3つです。
制度を依頼者の実務に照らして翻訳できる人
法令やガイドラインをそのまま引用するのではなく、現場の実務や経営判断に結びつけて説明できる人。
依頼者の先を見渡せる人
許認可を単発の業務で終わらせず、事業の収益構造や組織体制、人材計画まで見渡して支援できる人。
たとえば建設業許可なら、経審点数や資金繰り、補助金・融資戦略までを含めて提案できる。
こうした“経営の文脈で制度を扱う”力が、今後ますます価値を持ちます。
技術を使いこなせる人
AI、クラウド、電子申請システムを道具として自在に使いこなし、書類作成の正確性とスピードを高めつつ、デジタルの限界を補える人。
技術を恐れず、自分の業務設計に取り入れて効率化できる行政書士こそ、“アナログとデジタルの橋渡し役”として存在感を発揮します。
変化に適応できない行政書士は厳しい時代に
正直に言えば、これからの環境は「変化を学ばない行政書士」には厳しくなります。 これは批判ではなく、法制度と市場環境が実際にそう動いているという現実です。後述する行政書士法改正や、freee許認可のようなサービスが定型業務を次々と代替していく中で、 従来の方法に固執し続けることは、事業者の利益にも、自分自身の将来にも繋がりません。
特に次のような特徴を持つ場合、早めの方向転換が必要と考えます。
1. 制度や技術のアップデートを追わない
法改正や電子申請の仕組み、行政DXの動向を「従来の方法で十分」と見過ごしてしまう。
その結果、クライアントからの質問に即答できず、信頼を損ねることもあります。
2. 価格競争だけに注力している
「どこより安く」「最短で出す」という訴求に依存する。 しかしデジタル化が進むほど、”安くて早い”を追うことはツールの領域に入り込んでいく結果となります。 価格でしか選ばれない構造では、利益も信頼も残りません。
3. 書類作成以外の価値を示せない
「頼まれた書類を作って終わり」という意識のままでは、仕事が薄まっていきます。
行政書士の本質は、書類の先にある制度の運用や事業の将来設計を支えること。
“代書”の枠に自分を閉じ込めてしまえば、デジタルの簡便性に埋もれてしまいます。
むしろ、今この状況に気づき、学び直し、自分の強みを再定義できれば、 これからの時代は大きなチャンスでもあります。 デジタルツールが定型業務を代替してくれることで、 私たち行政書士は本来やるべき「判断・設計・伴走」に集中できるようになります。 AIが書類を整える時代だからこそ、人にしかできない価値が際立つのです。
今後はコンサルティング能力がより求められる時代に
許認可業務は、単なる“書類づくり”ではなく、経営・法令・デジタル技術をつなぐ設計業務へと変化しています。
建設業や産業廃棄物業などでは、財務状況・組織体制・法令遵守が評価対象に含まれるケースも増加。
許可はゴールではなく、持続的な経営を支える手段へと位置づけが変わりつつあります。
さらに、2025年施行予定の行政書士法改正では、新たに行政書士の職責として「デジタル社会への対応」が追加されました。そこでは下記のように明記されています。
行政書士が「情報通信技術の活用等を通じて、国民の利便の向上及び業務の改善進歩を図るよう努める」(改正行政書士法第1条の2)
つまり、法制度自体が「デジタル社会への適応」を行政書士の職責として位置づけたのです。
この流れは、単に新しい業務分野が生まれるという話ではありません。
行政手続きがデジタル化によって簡便なものになっていくのは、社会の自然な進化であり、freee許認可のようなサービスが登場するのも当然の流れです。
むしろこれは、国全体が「市民が自力で手続きを行える社会」を目指している証拠といえます。
したがって、行政書士の使命は“変化を拒むこと”ではなく、この流れに適応し、国民や事業者を導くことにあります。
AIやクラウドの仕組みを理解し、リスクを読み解き、最適な制度利用を支援することこそ、これからの行政書士に求められる姿です。
事業者の伴走支援ができる行政書士として
私は行政書士としての法務支援に加え、中小企業診断士・ITコーディネータの資格も活かしながら、
経営・財務・ITの3分野を横断的に見渡しつつ、中小企業や個人事業主の方々を支援しています。
手続きの代行にとどまらず、制度をどう使えば事業の成長につながるかという観点から伴走することを心がけています。
たとえば建設業許可の申請でも、単に書類を整えるだけでなく、
経審・財務改善・補助金活用・クラウド会計など、企業の経営基盤づくりまでを見据えてサポートします。
AIや自動化ツールが進化する時代だからこそ、
人が果たせる役割は「考える・決める・支える」ことにあります。
制度と現場の間をつなぎ、安心して前に進めるよう伴走する――
それが、私が大切にしている行政書士としての姿勢です。
8. まとめ:脅威ではなく、進化のきっかけに
freee許認可の登場は、行政書士にとって“脅威”であると同時に、“覚醒の機会”でもあります。
定型業務に依存する事務所は厳しくなりますが、
判断・設計・経営支援に踏み込む事務所はむしろ評価が高まります。
AIが書類を作り、freeeが工程を案内する時代。
それでも人が必要とされるのは、制度をどう使うかを考えられる存在だからです。
行政書士の本分は、書類を作ることではなく、制度を使って人と事業を前に進めること。
その原点を忘れなければ、自動化時代は決して脅威ではありません。
