<創業・スタートアップ経営基礎講座>第15回「知的資産経営」

知的資産経営

目次

中小企業の「見えない強み」が評価される時代に

「取引先に“御社の強みは何ですか?”と聞かれて、答えに詰まった――」
そんな経験はありませんか。特別な技術も広告力もない。でも、お客様からの信頼で仕事が途切れたことはない。実は、そんな会社ほど“無形の価値”をたくさん持っているんです。

人手不足、価格競争、AI時代――。さらに今、金融機関や補助金審査でも「見えない資産」の評価が重視され始めています。つまり、数字だけでは測れない経営力が問われているのです。

この記事では、中小企業がすでに持っている強み(知的資産)を整理し、経営に活かす方法を紹介します。「うちなんて大したことない」と思っている会社にこそ、必ず光る資産があります。

こんな経営者におすすめの記事です

✓ 補助金申請で「自社の強み」を聞かれて困った
✓ 融資面談で数字以外のアピールポイントがない
✓ ベテランの退職で技術が失われそう
✓ 採用で「うちの魅力」をうまく伝えられない
✓ 価格競争から脱却したい

本記事は 『やりたい!をカタチにする 創業・スタートアップ経営基礎講座』の第15回です。


知的資産とは何か:特許や商標だけじゃない、日常の中の「価値」

まず、こんな場面を思い浮かべてください。

【場面1】工務店の朝礼
「今日は○○さん宅の補修。あそこは犬がいるから、音に気をつけてな」
→ この“気遣いの記憶”が、クレームゼロ・リピート率90%を生んでいる。

【場面2】美容室のカルテ
「前回、お子さんの入学式の話をされていましたよね」
→ 何気ない会話の積み重ねが、「また来たい」につながっている。

【場面3】町工場の暗黙知
「このネジは、少し斜めから締めるとちょうどいいんだよ」
→ ベテランの“勘”が、不良品率1%以下を支えている。

これらすべてが「知的資産」です。特許や商標のように権利化されたものだけが価値ではありません。日々のやり取りや技術、信頼関係こそ、企業の「見えない土台」なのです。

経産省の3分類で整理すると

  1. 人的資産:社員や職人のスキル・気配り・情熱
     (例:「顔を見ればお客様の好みがわかる」接客力)
  2. 構造資産:マニュアル・ブランド・業務フロー・IT環境
     (例:「誰が対応しても同じ品質」を保つ仕組み)
  3. 関係資産:顧客・地域・取引先との信頼関係
     (例:「あの会社なら安心」という評判)

つまり、「人」と「仕組み」と「つながり」。この3つが、どんな小さな会社でも確実に持っている資産です。

【チェックしてみましょう】
✓ お客様の名前や好みを覚えている社員がいる → 人的資産
✓ 「この作業はこうやる」という暗黙のルールがある → 構造資産
✓ 「あそこに頼めば安心」と言われたことがある → 関係資産

1つでも当てはまれば、あなたの会社にも知的資産があります。むしろ、ない会社などありません。問題は、それに気づいていないか、言葉にできていないかだけなのです。


小規模事業者こそ、知的資産経営を

「うちは勘と経験で回してるだけだから…」
その“勘と経験”こそが、他社には真似できない独自資産なんです。

考えてみてください。大企業がマニュアルで標準化しようとしても、現場の「この音はおかしい」という気づきや、「この人にはこう伝えた方がいい」という臨機応変さは、簡単に再現できません。

小さな会社ほど、1人の判断・一言・人間関係が経営を直撃します。それは弱点ではなく、マニュアル化できない強みなんです。実際、金融機関や自治体でも「知的資産経営報告書」を融資判断や補助金審査に取り入れる動きが広がっています。つまり今、「自社の強みを言葉にできる力」こそが、新たな競争力なのです。


知的資産を整理する3ステップ

STEP1:棚卸しする(人・仕組み・関係の3分類)

まず、「人」「仕組み」「関係性」に分けて、自社の強みを書き出してみましょう。

  • 人:職人の技術力、現場対応力、顧客への誠実さ
  • 仕組み:業務マニュアル、報告書、独自の社内ルール、IT環境
  • 関係:常連顧客、地域のつながり、取引先の信頼
    (※IT環境も重要な構造資産ですが、最初はアナログでも構いません)

STEP2:つながりを描く(A4用紙1枚でOK)

強み同士の関係を図にして、「どう稼ぎにつながっているか」を可視化します。

価値の連鎖

STEP3:共有する(会話が資産を磨く)

書き出した内容を、社員や家族、取引先と共有してみましょう。
意外なことに、この「対話」が最も多くの気づきを生みます。第三者の視点こそ、知的資産経営の宝の山なのです。


知的資産を活かす3段階戦略

知的資産を整理したら、次は「どう活かすか」です。よくある失敗が、いきなり③の「発信」から始めてしまうこと。ホームページを作っても反応がないのは、伝える“中身”(知的資産)が固まっていないからです。

重要なのは、この順番を守ること。
まずは①で土台を固め、②で仕組み化し、③で外に伝える――この流れが、持続可能な成長を生みます。

① 守る:消えたら困るものを“記録”する

  • ベテランの技術をスマホで動画撮影
  • 顧客情報や対応履歴をクラウドに保存
  • 「誰が休んでも対応できる」簡易マニュアルを作成
    ポイント: 完璧を目指さなくてOK。まずはExcelやメモで十分です。

② 育てる:再現できる“仕組み”にする

  • 新人向けの教育プログラムを作る
  • 週1回の“事例共有会”でナレッジを回す
  • 「失敗から学ぶ」データベース化
    ポイント: 属人化を防ぐほど、組織全体の価値が上がります。

③ 広げる:外に“伝える”

  • ホームページやSNSでストーリーを発信
  • 採用説明会で「当社の強み」を具体的に提示
  • 地域イベントや学校連携で存在感を高める
    ポイント: 自慢ではなく、「こんな思いで仕事をしています」という姿勢で。

実践事例:知的資産を磨いた中小企業の変化

【事例】創業45年・従業員8名の建設会社B社

<課題>

  • ベテラン職人(65歳)の退職が迫り、技術継承が急務
  • 若手が定着せず、採用にも苦戦
  • 価格競争で受注単価が年々下落

<知的資産の棚卸しで見えたもの>

  • 【人的資産】職人の「現場トラブル即断技術」
  • 【構造資産】30年分の施工記録と顧客対応メモ
  • 【関係資産】地域自治会・工務店との信頼ネットワーク

<3段階の取り組み>
守る: 職人の技術を動画・チェックリスト化
育てる: 若手向け「失敗事例データベース」を構築
広げる: 「地域に根ざす技術集団」としてHPリニューアル

<1年後の変化>
✓ 新卒採用2名に成功(過去5年ゼロ)
✓ 地域金融機関から「技術継承評価枠」で低利融資を獲得
✓ 受注単価18%UP(「技術の見える化」が評価された)
✓ 地元高校からインターンシップ依頼が継続

→ 「特別な投資」ではなく、“持っているものの整理”で未来が変わった事例です。

【あなたの会社でも】
業種や規模が違っても、プロセスは同じです。

  • 何を持っているか(棚卸し)
  • どう守り、育てるか(仕組み化)
  • どう伝えるか(発信)
    この3ステップは、どんな会社でも実践できます。

知的資産を“書類”にすると、こんなに使える(活用ガイド)

整理した知的資産を「知的資産経営報告書」という形にすれば、多くの場面で活用できます。

知的資産経営報告書作成マニュアル(経済産業省HP)

【基本構成】

  1. 経営理念・ビジョン(なぜこの事業をやっているか)
  2. ビジネスモデル(どうやって儲けているか)
  3. 価値を生む知的資産(人・仕組み・信頼)
  4. 将来の展望と課題

【活用できる場面】

  • 金融機関との融資面談(数字以外の評価材料に)
  • 補助金申請(「自社の強み」欄の根拠資料に)
  • 採用活動(求人票で「当社の魅力」として提示)
  • 事業承継(後継者へ“見えない資産”の引き継ぎ)
  • 社内共有(社員のモチベーション向上)

【専門家のサポート】

  • 中小企業診断士の視点: 経営計画や補助金申請の戦略設計
  • 行政書士の視点: 権利保護・契約・許認可の整理

つむぎ行政書士事務所では、こうした疑問に一つひとつお答えしながら、あなたの会社の「見えない強み」を形にするお手伝いをしています。中小企業診断士×行政書士だからこそできる、「経営戦略」と「法的支援」を両面からの伴走型サポートです。


まとめ:知的資産経営は“再発見の経営”

知的資産経営とは、新しいことを始めるのではなく、“すでにある価値を掘り起こす”ことから始まります。

【今日できる「知的資産チェックリスト」】

□ お客様に褒められたことを3つ書き出す
□ 「この人が辞めたら困る」という人をリストアップ
□ 常連客が「なぜうちを選ぶのか」を考えてメモ
□ ベテラン社員に「仕事の工夫」を聞いてみる
□ 取引先に「御社の強みは?」と聞かれたら何と答えるか考える

この5つをやるだけで、あなたの会社の“見えない資産”が見えてきます。

【書き出してみたら…】

・意外とたくさんある! → 「人・仕組み・関係」に分類しましょう。
・思ったより少ない… → 従業員や取引先に聞くと新たな発見があります。
・バラバラで整理できない → それが「次のステップ」のサインです。

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第4回 法務・契約の基礎契約トラブルを防ぐための基本知識と、押さえておくべき契約書のポイントを紹介します。
第5回 経営戦略・計画を作るSWOT分析などを使いながら、事業の方向性を定めるための戦略づくりを学びます。
第6回 マーケティング・市場戦略を考える顧客ニーズをどう捉え、競合とどう差別化するか。マーケティングの基本を解説します。
第7回 広報・PRSNS・ホームページ・プレスリリースなど、発信を通じてファンを増やす方法を紹介します。
第8回 起業関連のさまざまな支援策補助金・助成金・融資制度など、創業時に使える支援策をわかりやすくまとめます。
第9回 はじめての会計会計の基本構造を理解し、経営判断に役立つ数字の見方を身につけます。
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第12回 人を雇うパート・アルバイト採用から社会保険まで、人を雇うときの流れと注意点を整理します。
第13回 企業の社会的責任を考えるCSRの基本と、中小企業でもできる信頼を育てる取り組みを解説します。
第14回 創業時に使えるデジタルツール無料または低コストで使える便利ツールを紹介し、業務効率化のヒントを提供します。
第15回 知的資産経営人・技術・信頼といった「目に見えない強み」を見つめ直し、経営に活かす考え方を紹介します。
第16回 夢を実現し、会社を長く愛される存在にするために全講座のまとめとして、持続的に事業を続けるための視点と次のステップを提示します。
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