問題の根っこに切り込め!“考える現場”が強いチームをつくる〜アージリスの「ダブルループ学習」〜

組織行動論の巨匠クリス・アージリス(Chris Argyris)の理論から建設業の組織力向上を考えるシリーズの第二回です。


はじめに|「いつも同じミスを繰り返す」現場に必要なもの

「図面の読み間違いがまた出た」
「材料の発注ミス、先月もあったよな……」
「何度注意しても、なかなか現場が良くならない」

建設業の現場では、忙しい日々のなかで 「対症療法的な改善」ばかりが繰り返され 、
根本原因には手を付けられないまま時間だけが過ぎることが少なくありません。

そんな現場にこそ必要なのが、アージリスの提唱した「ダブルループ学習(Double Loop Learning)」という考え方です。

これは、ただ「やり方を変える」だけでなく、
「前提そのものを問い直す」という、より深い学習・変革の手法です。


「ダブルループ学習」とは何か?

アージリスは、組織の問題解決には2つのレベルがあるとしました。

シングルループ学習(Single Loop Learning)

  • ミスやトラブルに対し、今のやり方のままで“行動”だけを修正する
  • 例:「段取りにミスがあった→チェックリストを追加しよう」

ダブルループ学習(Double Loop Learning)

  • そもそも“なぜこのやり方だったのか”を問い直し、前提やルールごと見直す
  • 例:「なぜ段取りが属人的なのか?」「そもそもこの手順自体が今の現場に合っていないのでは?」

現場でよくある“シングルループの罠”

建設現場では、「忙しいから」「納期が迫っているから」といった理由で、表面的な修正ばかりが積み重なりがちです

たとえば以下のような例が典型です:

問題シングルループ的対応根本的な問い(ダブルループ)
朝礼の伝達ミス朝礼での声を大きくする書面共有や掲示など他の伝達手段は?
作業員の動線が悪い移動を早くするよう指示機材や資材配置の導線設計がそもそも最適か?
若手が質問しない「わからないときは聞け」と言うそもそも「聞きにくい空気」があるのでは?

つまり、行動のミスを表面的に正すだけでは、本当の意味で現場力は上がりません


「前提を問い直す」ことの意味

建設業界には、長年の慣習や属人的な判断が根強く残っています。

  • 「この仕事はこうやるものだ」
  • 「昔からこうしている」
  • 「ベテランの感覚に任せておけば間違いない」

こうした“暗黙のルール”こそが、問題の温床になることもあります。
ダブルループ学習とは、こうした“当たり前”をあえて疑い、組織の思考や習慣にメスを入れることなのです。


建設業におけるダブルループ学習の実践ステップ

では、どうすればダブルループ的な学び・変化を、現場や経営に取り入れられるのでしょうか?
以下に、実際に建設業で使えるステップを紹介します。


ステップ1:「なぜ?」を3回以上繰り返す

ミスや問題が起きたとき、「なぜこの結果になったのか?」を最低3回は掘り下げて考えること。

例:「納期遅れが出た」
→ なぜ? → 職人が手配できなかった
→ なぜ? → 他の現場に取られていた
→ なぜ? → 社内の工程調整が属人的だった
→ → ⇒ 根本の問題は「社内の工程共有体制」にあるとわかる


ステップ2:「このルール、本当に必要か?」と自問する

「必ずこの順番でやる」「この手順で申請しなければならない」といった固定観念や慣習に対し、「それは何のため?」「今の現場に合ってる?」と問い直してみましょう。

ベテランほど「崩してはいけない型」を守ろうとするものですが、変化の速い現代では“型破り”な視点が現場の活性化につながることもあります。


ステップ3:意見を引き出す場をつくる

現場の改善には、「一人の気づき」ではなく、「チーム全体の視点」が必要です。

そのためには、毎日の朝礼や週次ミーティングで「改善提案」を話せる場をつくることが重要。
ただし、形式的なものではなく、「本音を出せる空気」が前提です。

経営者や現場監督が「否定しない」「受け止める」姿勢を見せることで、ダブルループ的な思考が現場全体に広がっていきます


「考える組織」は強い

ダブルループ学習を取り入れた現場には、共通する特徴があります。

  • ベテランと若手が意見を交わせる
  • ミスが共有され、隠されない
  • 「これって本当に必要か?」と日々問い直される
  • 現場に合った手順や制度が柔軟に更新されている

つまり、“考える力”が定着した組織は、変化に強く、失敗を糧に成長できるのです。


経営者の姿勢がすべてを左右する

ダブルループ学習の導入において、もっとも重要なのは、経営者自身が“変化を恐れない姿勢”を示すことです。

  • 「俺たちのやり方はこれでいい」ではなく、「もっと良くできるかもしれない」
  • 「うちはミスが少ない」ではなく、「改善の余地はまだあるかもしれない」
  • 「若い奴らは考えない」ではなく、「考える場を与えているか?」

そんな問いを、自分自身に投げかけてみることが出発点です。


まとめ|「問い直す力」が現場を変える

  • アージリスの「ダブルループ学習」は、行動だけでなく、その前提まで問い直す学習スタイルです。
  • 建設現場でも、「なぜこうなったのか?」「そもそもこのやり方で良いのか?」と問い直す姿勢が求められます。
  • 経営者が変化を恐れず、対話を重視し、柔軟に改善する組織こそが、変化に強い建設業者となります

目次

次回予告(第3回)

次回はアージリス理論の仕上げとして、「防衛的ルーチン」を取り上げます。
なぜ現場では本音が出にくくなるのか? どうすれば改善の芽をつむ「沈黙の空気」を打破できるのか?
“心理的安全性”と職場の風土改善について深掘りします。

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