本音が言えない現場に未来はない。沈黙を打破し、改善が進むチームをつくる〜アージリスの「防衛的ルーチン」

組織行動論の巨匠クリス・アージリス(Chris Argyris)の理論から建設業の組織力向上を考えるシリーズの第三回です。


はじめに|「何も言わない」現場が危ない

「言っても無駄だと思ってるんじゃないか?」
「現場でトラブルがあっても、誰も報告してこない」
「建て前だけの会議になってる」

そんな違和感を感じたことはありませんか?

建設業の現場では、「報告・連絡・相談」が重要とされながらも、本音や問題が共有されずに表面化しないというケースが多く見られます。

その背景には、アージリスが指摘した「防衛的ルーチン(Defensive Routines)」という組織の無意識のパターンが潜んでいます。

これは、失敗や摩擦を避けるために人々がとる「自己防衛的な行動習慣」のことで、
組織の学習や改善を妨げる重大な“見えない壁”となっているのです。


防衛的ルーチンとは何か?

アージリスはこう言います:

「人は自分の過ちを認めたくない。だから問題が起きても“本当の理由”には触れず、表面的な処理で済ませようとする」

このような心理的回避が積み重なることで、組織には次のような防衛的ルーチンが生まれます。

よくある防衛的ルーチンの例

  • 問題が起きても「現場がうまくいってない」とだけ報告して終わる
  • 若手がミスをしても、指導せずに自分で黙って処理する
  • 会議では「一応話を合わせておく」が、実際には納得していない
  • 意見を言った人が浮いてしまうため、誰も発言しない
  • トラブルの責任の所在が曖昧で、誰も触れたがらない

つまり、「触れたら面倒なことになるから黙っておこう」「とりあえず波風立てずに済まそう」
という空気が蔓延してしまっているのです。


なぜ現場は「防衛的」になるのか?

建設業の現場において防衛的ルーチンが根付きやすい背景には、以下のような特徴があります。

1. 「失敗=叱責」の風土

ミスが発覚したとき、即座に怒鳴られる、叱られる――
こうした体験をすれば、人は「隠す」ようになります。

2. 年功序列やヒエラルキーの強さ

「ベテランには口出しできない」「若手は黙ってろ」
という空気があると、健全な対話が成立しません

3. 忙しすぎて立ち止まれない

問題を深掘りして話し合う時間もなく、
「とにかく現場を回す」ことが最優先になってしまいます。

4. 良かれと思って「気を遣う」文化

実はこれが一番やっかいです。
「怒らせないように」「上司の顔を立てるように」行動した結果、
本質的なことが言えないまま、組織全体が思考停止に陥るのです。


防衛的ルーチンがもたらす弊害

このような「本音を言わない」文化が進行すると、次のような問題が表面化します。

防衛的ルーチン結果
ミスや問題を隠す再発防止策が取れない
指摘や反論が起きない現場の改善が進まない
若手が意見を言えない成長のチャンスを失う
建前だけの打合せになるチームの結束が崩れる
「変えること」自体を恐れる組織が硬直化する

つまり、防衛的ルーチンは“問題の隠蔽装置”とも言えるのです。


「防衛的な現場」から「学習する現場」へ

では、どうすればこの“沈黙の壁”を壊し、建設現場を「改善が進む現場」へと変えられるのでしょうか?

アージリスは、その鍵を「対話と心理的安全性」に見出しました。


実践ヒント|防衛的ルーチンを解消する4つのステップ


ステップ1:「失敗を責めない」姿勢をトップが見せる

まずは経営者・現場責任者自身が、「ミスは攻めるのではなく、学ぶもの」という姿勢を打ち出すことが重要です。

たとえば…

  • 「誰でもミスはある。大事なのは次にどうするか」
  • 「今回は失敗だったけど、気づいたことがあれば教えてくれ」

こうした言葉を、意識的に現場で使うようにしましょう。


ステップ2:「安心して話せる」場を設計する

朝礼や定例会議で、「気づいたこと」「不安なこと」「改善案」を出しやすい雰囲気をつくります。

ただし、「何か意見は?」と一方的に振るだけではダメです。

  • 指摘があったときは絶対に否定しない
  • 内容に対しては具体的にフィードバックする
  • いい提案があれば即採用・即実行して“言えば変わる”実感を持たせる

これを繰り返すことで、意見を言う=歓迎されることという認識が広がります。


ステップ3:「自分の防衛反応」に気づく

経営者やベテランこそ、無意識に防衛的になっていることがあります。

  • 若手に反論されてムッとする
  • 指摘された瞬間に「いや、それは違う」と返す
  • 「俺のときはこうだった」と話をそらす

こうした反応が、場の空気を一瞬で壊すのです。

アージリスは、「防衛的ルーチンから抜け出すには、まず自分の癖に気づくことが必要だ」と説いています。


ステップ4:「小さな成功体験」を積ませる

若手が意見を出し、それが採用され、現場がよくなった――
そんな経験を1つでも体験させることが、「言ってもいいんだ」という信頼感につながります。

いきなり全社的な風土を変えるのは難しくても、
「ひとつの現場」「一人の若手」から始めることで、少しずつ空気は変わっていきます。


まとめ|沈黙の壁を壊し、対話がある現場へ

  • アージリスの「防衛的ルーチン」とは、組織内で人が失敗や対立を避けようとする無意識の行動パターンです。
  • 建設業では、「怒られる」「空気を読む」「波風立てない」ことが優先され、改善や学習が止まりがちです。
  • 防衛的な職場から脱却するには、経営者の姿勢・場づくり・対話力・承認がカギとなります。
  • 本音が言える現場は、ミスを糧にできる強い組織へと変わります。

目次

シリーズ総括

これでアージリス理論3部作は完結です。

  1. 成熟・未成熟理論:人は育つ。育つ環境を用意せよ。
  2. ダブルループ学習:表層ではなく、前提を疑え。
  3. 防衛的ルーチン:沈黙を破れ。対話が組織を変える。

いずれの理論も、“現場の空気”を変えるヒントに満ちています。
制度や仕組みの前に、「人」の成長を支える視点が、建設業の未来を左右する――そう言っても過言ではありません。

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