【2026年改正】行政書士の“職責”にデジタル対応が明記。AI時代の業務はどう変わる?

AI対応で飛躍する行政書士

改正行政書士法が2026年(令和8年)1月1日から施行されます。

今回の改正でも特に行政書士会が成果としているのが、行政書士法第1条の2(行政書士の職責)第2項において、「デジタル社会へ対応する努力義務」が新設されたことです。

「努力義務だから、まだやらなくていい」「罰則がないなら関係ない」
そう捉える向きもありますが、条文に込められたメッセージは決して軽くありません。

これは、国が行政書士という資格を「単なる代書人」から「デジタル社会における国民と行政の橋渡し役」として期待し、その役割を再定義しようとしているシグナルだと読み取れるからです。

今回は、この法改正の全体像を押さえつつ、AI時代に私たちの業務がどう変わり、どう適応していくべきかを、実務家の視点で冷静に読み解きます。

目次

そもそも、今回の法改正は何が変わるのか?

まずは改正の位置づけを整理しましょう。今回の改正は、行政書士制度の根幹に関わるいくつかの柱で構成されています。

  • 使命規定の創設(第1条): 従来の「目的」規定が改められ、「国民の権利利益の実現に資する」という使命が明記されました。
  • 職責規定の整備(第1条の2): 法令実務の精通に加え、「デジタル社会への対応(情報通信技術の活用)」による「国民の利便の向上と業務の改善進歩」が努力義務化されました。
  • その他: 特定行政書士の業務範囲拡大、業務制限規定の趣旨明確化、両罰規定の整備など。

ポイントは、デジタル対応が単なる理念やスローガンではなく、行政書士としての「職責(プロフェッショナルとしての責務)」の条文に置かれたことです。法的な強制力はありませんが、「社会から求められる専門家像」の基準が変わることは間違いありません。

デジタル社会の中でも「AIの発展」は重要テーマ

改正法が求める「デジタル社会への対応」の第一義は、オンライン申請の活用や、情報セキュリティ対策、Web会議への対応などでしょう。これらは行政手続きのデジタル化に伴う「必須科目」です。

しかし、条文には「業務の改善進歩」という言葉も含まれています。

単に紙をPDFにするだけでは、業務の本質的な改善にはなりません。デジタル化された情報を効率よく処理し、生まれた余力でサービスの質を高める。そのための「次なるインフラ」として、現在もっとも注目されているのがAI技術です。

電子申請が「当たり前」になるこれからの時代、業務を真に「改善進歩」させる鍵はAI活用にあると言っても過言ではありません

なぜ、多くの事務所でAI導入が足踏みしてしまうのか?

そうは言っても、法改正や世間のAIブームを横目に、「自分の事務所にはまだ早い」と感じている先生も多いのではないでしょうか。そこには、実務家だからこそ抱いてしまう「もっともな懸念」と「現場のリアル」があります。

1. 「AIは不正確」という懸念

「AIなんて間違いが多いから怖くて使えないよ」

この指摘は事実です。現時点の生成AIは、正確な法令検索ツールとしては不完全です。

しかし、導入が進んでいる事務所では、AIを「検索機」としてではなく、「ドラフト作成係」や「要約係」として割り切って使っています。「間違いが含まれる」ことを前提に、「7割の完成度の下書きを数秒で作らせ、残りの3割を人間が修正する」という使い方が、現時点での最適解だからです。

ただ、AIはモデルの改善が加速度的に進んでおり精度は向上を続けています。
また、AI活用はハルシネーション(特有の間違い)を抑制するプロンプトや設定のコツがあり、ここのコントロールが上手い人とそうでない人の差は大きいです。

2. 「対人業務だから関係ない」という意識

「相談対応で手一杯で、業務改善に手を付ける余裕がない…」

その自負は行政書士として最も大切なものです。

ただ、皮肉なことに、対人業務を大切にしたいからこそ、裏側の事務作業をAIに任せるという考え方もできます。事務作業の時間を圧縮できれば、それだけクライアントと向き合う時間を増やせるからです。

3. 周囲の様子見ムード

「周りの先生もまだ使っていないし、トラブルも怖いから」

確かに業界全体の導入率はまだ高くありません。しかし、一部の「デジタル活用事務所」では、業務類型にもよりますが、書類作成時間を大幅に短縮(事例によっては数割〜半減)し、その余力を営業や顧客フォローに回し始めています。

この「生産性の差」は、数年単位で積み重なると、無視できない経営格差につながる可能性があります。

AI時代に「厳しくなる業務」と「価値が残る業務」

AI技術の進展により、これまで私たちが担ってきた業務の一部は、どうしても価値が変容していきます。

「書類作成そのもの」の価値は相対的に下がる

定型的な申請書、契約書のドラフト、単純なデータ入力などは、AIが最も得意とする領域です。

これまでは「書類を整えること」自体に一定の対価が発生していましたが、今後はクライアント自身がAIを使ってある程度の下書きを作れる時代が来るかもしれません。

単に「言われた通りに書く」だけのスタンスでは、価格競争に巻き込まれるリスクが高まります。

求められるのは「書く前の設計」と「書いた後の責任」

一方で、AIにはできない業務があります。それは「判断者」としての仕事です。

  • 許可の要否判断(スキーム設計):そもそも申請区分を間違えれば、どんなに完璧な書類も不許可になります。複数の法令が絡む複雑なパズルを解く力は人間にしかありません。
  • 役所の判断の見通し(運用・裁量):「要綱にはないが、この書きぶりだと窓口で突っ込まれる」「ここの自治体はローカルルールが厳しい」といった経験知(肌感覚)です。
  • 最終成果物への責任:提出した書類に誤りがあった際、説明し、責任を持って修正対応すること。AIは責任を取れません。

実務経験こそが武器になる。アナログ能力 × AIの現実解

「AIは若手のツール」と思われがちですが、実は実務経験豊富なベテランこそ、AIを安全かつ効果的に使いこなせます。

① 実務感覚(肌感)が「AIの幻覚」を見抜く

AIがもっともらしい文章で誤ったドラフトを作ったとき、実務経験があれば「この表現は役所には通らない」「この要件が抜けている」と瞬時に見抜けます。

逆に、経験の浅い若手や開業間もない方にとっては、AIは「24時間質問できる先輩(ただし時々嘘をつく)」として、学習を加速させるパートナーになり得ます。

② ヒアリング力が「プロンプト(指示)」の質を決める

AIへの指示出しは、クライアントへのヒアリングと似ています。

支離滅裂な相談内容から、法的な要件(事実)を整理して抜き出す能力。これがあれば、AIに対して的確な指示ができ、精度の高い回答を引き出せます。

「聞く力」は、対人業務だけでなく、対AI業務でも最強のスキルなのです。

【実務編】リスクを抑えて導入するための3ステップ

では、実務への導入はどう進めるべきか。いきなり全自動化を目指すのではなく、以下の「安全運用ルール」を守りながら段階的に進めてください。

⚠️絶対に守るべき3つの鉄則

  1. 入力禁止:個人情報、顧客名、マイナンバー等は絶対に入力しない。「A社」「X市」「担当Y氏」のように伏せ字ルールを徹底する。
  2. 出力確認:AIの成果物をそのまま提出しない。必ず一次情報(条文・手引き)で裏取りし、「確認した根拠資料」をメモに残す。
  3. 責任記録:「AIがこう言ったから」は通じない。案件管理簿に「最終判断者・確認日」を記録し、人間が責任を持つ体制を作る。

Step 1:リスクのない「壁打ち」から(慣らし期間)

AIの活用に慣れていない方は、まずはリスクの低い業務でChatGPTなどの無料版を使い、ツールがどういうものかに慣れていきましょう。

  • やること: 一般的な挨拶文の作成や、抽象的な法令論点の整理などをAIに投げかける。
  • プロンプト例(挨拶文):「行政書士事務所として、顧問先へ送る年末のご挨拶メール案を考えてください。丁寧すぎず、親しみやすいトーンで、200文字以内で3案作成して。」
  • 目的: AIが「どういう答え方をし、どこで間違うか」という癖を掴むこと。

Step 2:「0→1(ゼロイチ)」のアシスタント化

次のステップとして、文書類の素案などの作成にAIをアシスタント的に活用し、作業時間の削減に寄与するものかどうかを実感していきましょう。

  • やること: 契約書のたたき台作成、長文資料の要約、議事録の素案作成など。
  • プロンプト例(要約):「(ここに手引きの文章を貼り付け)この文章を読んで、①申請の要点5つ、②補正になりやすい注意点、③依頼者に説明する際の平易な説明文、の構成でまとめてください。」
  • メリット: 「白紙から文章を考え始めるストレス」と時間を減らせます。

Step 3:自社ナレッジの活用(発展形)

発展形として、NotebookLMなど「閉じたAIツール」で自社の過去の案件情報などを蓄積し、類似案件などで過去のノウハウを活用することも可能です。

  • やること: セキュアな環境(業務利用前提の有料プランや閉域網など)を整えた上で、過去の事例やノウハウを参照させる。
  • 目的: 属人化していた「事務所の知恵」を形式知化し、新人の教育コストを下げたり、回答精度を上げたりします。

生存戦略:AI時代に「選ばれる行政書士」3つの具体的モデル

AIを導入したその先で、事務所をどう経営していくのか。
単なる「効率化」で終わらせず、収益構造を変革するための3つのモデルを提示します。

① 「超・高生産性」実務型モデル(薄利多売からの脱却)

定型業務を徹底的に自動化し、「高回転・高収益」な処理プロセスを構築するモデルです。

  • ターゲット: 車庫証明、自動車登録、パスポート、単純更新など。
  • AI活用の実像: PDF資料の自動読み込みや、形式チェックをAIに任せ、人間は最終確認のみに集中する。人件費を抑えながら処理件数を増やし、利益率を高めます。

② 「事業伴走」リーガルデザイン型モデル(代書屋から参謀へ)

手続きはあくまで「入口」とし、企業の事業計画やリスク管理に深く入り込むコンサルティング型です。

  • ターゲット: 建設業(経審・入札)、産廃、運送、スタートアップ支援。
  • AI活用の実像: 「この契約条項で将来起こりうるトラブルは?」とAIにリスクシミュレーションさせ、人間が「予防法務」としての解決策を提示します。

③ 地域密着型「DXハブ(結節点)」モデル(地方事務所の生存戦略)

自らのAI活用経験を武器に、ITに弱い地元中小企業の「デジタル化の案内人」となるポジションです。

  • ターゲット: 地方都市のアナログな中小企業。
  • AI活用の実像: 補助金申請とセットで、チャットツールやAI導入を支援。「うちの事務所はこうやって残業を減らしました」という実体験自体が、最強の営業コンテンツになります。

まとめ:法改正を「変化のきっかけ」に

2026年の法改正における「努力義務」。

これを「やらなければならないノルマ」と捉えると重荷ですが、「これからの時代、お客様はデジタル対応できる専門家を求めていますよ」という国からのアドバイスだと捉えれば、見え方は変わります。

AIは万能ではありませんし、実務にはリスクも伴います。しかし、適切に管理して使えば、私たちの「時間」と「専門性」を拡張してくれる強力な武器になります。

まずは無料のツールで、当たり障りのないメールの下書きを作らせるところから。

小さな一歩から、事務所のアップデートを始めてみてはいかがでしょうか。

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