【2026年労基法改正】名ばかり管理職のリスク

管理職の残業代リスク
目次

管理職だから残業代ゼロ…は、これからますます危険になるかも

※本記事で扱っている労基法改正案については、その後、通常国会への提出見送りが報じられています。
提出見送りの背景や、勤務間インターバル・つながらない権利・管理職規制などの論点を改めて整理した記事はこちらです。

前回は、休日・シフトの見直しについて、中小企業・小さな会社の現実に沿って考えてきました。


今回は、その続きとして、とても身近だけれど実はリスクの大きいテーマ――「管理職の扱い」と「名ばかり管理職」問題を取り上げます。

「うちは小さい会社だし、課長や店長は“管理職”だから残業代は出していない」

こんな運用は、今でも決して珍しくありません。
しかし、2026年労基法改正に向けた議論を見ていると、この「なんとなくの管理職扱い」は、これから一層、リスクが高くなっていきそうな流れがあります。

さらに今は、

  • フリーランス新法(フリーランス保護の法律)が始まり
  • 「社員なのか、個人事業主なのか」という線引きも厳しく見直されつつある

という、“人の使い方”全体を見直すタイミングでもあります。

この記事では、あくまで「現時点での議論ベース」という前提で、

  • 管理職をめぐるルールが、労基法改正の議論でどう変わりそうか
  • 「名ばかり管理職」の何がそんなに危ないのか(ざっくり金額イメージも)
  • フリーランス新法の時代に、「社員にするか外注か」の考え方をどう整理するか

を、中小企業・小さな会社の目線で整理していきます。

1. 2026年労基法改正の議論で、管理職まわりはどうなりそうか

まず大前提として、この記事で触れる改正内容はすべて「まだ議論の途中」であり、最終決定ではないという点を強調しておきます。

そのうえで、管理職まわりについて、今のところ大きなテーマになっているのは次の3点です。

1-1 管理職の労働時間も「きちんと把握」していく方向

これまで、いわゆる管理監督者(管理職)は、

  • 残業代の対象外
  • 労働時間規制の適用外

とされてきました。

一方、労働時間と健康問題との関係がクローズアップされるなかで、
管理監督者についても、長時間労働や健康問題が課題だとして、

「実際にどれだけ働いているのか、客観的な方法で把握すべきだ」

という方向性が示されています。

すでに労働安全衛生法では、長時間労働者への面接指導などの仕組みがありますが、
これをどう管理職にも広げていくか――というのが、今まさに議論されている部分です。

「管理職だから打刻しなくていいよ」

という運用は、今後、見直しを求められる可能性が高いと見ておいた方が安全です。

1-2 「誰が管理職なのか」を、実態で見直す流れ

もう一つの大きな論点が、管理監督者の判断基準の明確化です。

  • 肩書きは「課長」「店長」
  • でも実態は一般社員と大きく変わらない
  • その一方で、残業代は払われていない

という、いわゆる「名ばかり管理職」問題は、過去の裁判例でも繰り返し問題になってきました。

今回の見直しに向けた議論の中でも、

「役職名や“業界の慣行”ではなく、実態で判断すべきだ」

という方向性が改めて確認されています。

1-3 健康確保措置の視点が、管理職にも向き始めている

裁量労働制や高度プロフェッショナル制度では、すでに

  • 勤務間インターバル
  • 深夜労働の回数制限
  • 健康診断や医師面談 など

健康・福祉確保措置の強化が進められています。

こうした議論の延長線上で、管理職についても、

「長時間労働の実態把握や、健康面への配慮をもっと重視すべきだ」

という視点が強まりつつあります。

まだ「この措置を義務化する」とまで決まっているわけではありませんが、
“管理職だから多少の無理は仕方ない”という前提は、時代に合わなくなってきていると言えそうです。

【重要】今回の改正で「管理職が増える」わけではない

ここで、読者の方からよく聞かれる誤解について、はっきりさせておきます。

「管理職のルールが変わるなら、店長や主任も正式に管理職として認められやすくなるのでは?」

答えは、今の議論を見る限り「NO」です。

少なくとも現時点の議論は、その真逆の方向を向いています。

  • 名ばかり管理職を是正していく
  • 本当に管理監督者と言える人に絞っていく
  • 実態が伴わない「管理職扱い」のリスクが高まる

という流れです。

つまり、

「今までなんとなく管理職にしていた店長や主任」を、
改正を機に一般社員として処遇し直す必要が出てくる

という理解の方が、現実に近いと考えられます。

2. そもそも「管理監督者」とはどんな人のことか

ここからは、実務上よく使われる判断要素を整理してみます。
※あくまで一般的な判断要素であり、最終的な判断は個別事情により異なります。

2-1 実務上よく参照される判断要素

【権限】

  • 採用・解雇の決定権または実質的な関与がある
  • 部下の評価を自分で決められる(評価案を作り、上長が追認する など)
  • シフトや配置を自分の裁量で決められる
  • 予算や売上目標、経営方針の決定に参加している

【勤務態様】

  • 出勤時刻・退勤時刻を、自分の判断である程度決められる
  • 遅刻・早退で、機械的に給与控除されていない
  • 労働時間の長さよりも、「成果」や「責任」で評価されている
  • タイムカードの打刻が形式的なもので、実態としては時間に縛られていない

【待遇】

  • 一般社員より、相応に高い年収水準になっている
  • 管理職手当が「残業代の代わり」ではなく、責任に見合う水準と説明できる
  • ボーナスの算定基準が一般社員と異なり、部門業績などが反映されている

これらは「一つ満たせばOK」というチェックリストではなく、総合的な判断材料です。

2-2 よくある「名ばかり管理職」のパターンと、注意すべき業種

中小企業・小さな会社でよく見られるのは、例えばこんなケースです。

  • 役職名だけ「主任」「店長」「マネージャー」になっている
  • 役職手当は月1〜2万円だが、そのぶん残業代は支払っていない
  • 出退勤は一般社員と同じように厳格に管理されている
  • 採用や評価の権限はほとんどない
  • 実際には現場の仕事を誰よりも長時間こなしている

こうしたケースでは、裁判所などで「管理監督者とは認められない」と判断されるリスクが高くなります。

過去には、大手ファストフード店の「店長」が管理監督者とは認められず、
多額の残業代支払いを命じられた裁判例もあります。
このことからも、

「肩書き」ではなく「実態」で判断される

ということがよくわかります。

特に注意が必要な業種の一例

  • 飲食業:店長を一律に管理職扱いしているケース
  • 小売業:店舗責任者に権限がほとんどないのに管理職扱いしているケース
  • 建設業:現場監督を長時間働かせているケース
  • 介護業:施設長の実態が、ほぼ現場スタッフと同じになっているケース

心当たりがあれば、一度立ち止まって見直した方が、安全ゾーンに近づきます。

3. 名ばかり管理職のリスクは、「お金」と「信用」

3-1 過去2年分の残業代を、一気に請求される可能性

もし、

「実態としては管理監督者ではなかった」

と判断されると、本来支払うべきだった

  • 残業代
  • 深夜割増
  • 休日割増

などを過去にさかのぼって請求されるリスクが生じます。

ざっくりイメージをつかむために、例を挙げてみます。

【未払い残業代の試算例】
元店長の条件

  • 月の残業時間:40時間
  • 割増後の時給:2,000円
  • 請求期間:2年間(24か月)

基本計算

40時間 × 2,000円 × 24か月 = 192万円

さらに悪質と判断された場合

  • 付加金(最大で同額):192万円

───────────────────
合計:最大 384万円

※深夜・休日割増が加われば、さらに金額は膨らみます。
※付加金は裁判所の裁量で決まるもので、必ず請求されるわけではありません。

一人分でこれだけのインパクトがあります。
同じような取り扱いの管理職が複数いれば、その分だけリスクも増えていきます。

3-2 辞めたあとに請求されることも普通に起こりうる

怖いのは、在職中は何も言われず、退職したあとに請求されるケースが多いという点です。

  • 転職先と比べて、前職の働き方に違和感を覚えた
  • 労働基準監督署や弁護士に相談した
  • SNSやニュースで「自分の状況もおかしいのでは」と気づいた

きっかけはさまざまですが、会社側から見ると

「数年分のツケが、ある日まとめて請求される」

という形になりがちです。

3-3 お金だけでなく、「会社の信用」にも大きく響く

お金の問題も大きいのですが、それ以上に厄介なのが信用の問題です。

実際に起こりうる影響としては、例えば:

  • 転職口コミサイト(転職会議、OpenWorkなど)に残業代トラブルが書き込まれる
  • 求人への応募が目に見えて減る
  • 既存社員の士気低下・離職が連鎖する
  • 取引先や金融機関からの信用がじわじわ低下する
  • 労基署からの調査が入りやすくなる

などが挙げられます。

「管理職の扱い」を甘く見ていると、
長期的には採用難→人が集まらない→さらに一人あたりの負担増という悪循環にもつながりかねません。

4. 何から手を付けるか:まずは「実態の棚卸し」から

まず中小企業として最初にやりやすい一歩としておすすめなのが、「管理職の実態を棚卸しすること」です。

4-1 誰を「管理職」として扱っているのかを書き出す

まずはシンプルに、

  • 就業規則や社内ルール上、「管理職」と位置付けているのは誰か
  • 肩書きベースで管理職扱いしている人は誰か

を、紙やExcelに書き出してみてください。

この時点では、

「この人は本当に管理職っぽい」
「この人は名ばかりかもしれない…」

といった直感レベルで構いません。

4-2 管理職実態チェックシート(1人につき5分)

次に、一人ひとりについて、以下のチェックシートを5分程度で埋めてみるのがおすすめです。

【管理職実態チェックシート】

<権限>

  • □ 採用・解雇の判断に関与している
  • □ 部下の評価を自分で決められる
  • □ シフトや配置を自分の裁量で決められる
  • □ 予算・経営方針の決定に参加している

<勤務態様>

  • □ 出勤時刻を自分で決められる
  • □ 退勤時刻を自分で決められる
  • □ 遅刻・早退で機械的な給与控除をされない
  • □ タイムカードの打刻が形式的で、実態としては時間に縛られていない

<待遇>

  • □ 一般社員より年収が相応に高い(例:目安として1.5倍程度など)
  • □ 管理職手当が、責任の重さに見合う水準(月5万円以上など)
  • □ 賞与の算定基準が一般社員と異なる

【簡易診断の目安】

  • ✓ 10個以上:管理監督者として認められる可能性が比較的高い
  • ⚠ 5〜9個:グレーゾーン。専門家への相談を推奨
  • ⚠ 4個以下:「名ばかり管理職」と判断されるリスクが高い。早急な見直しを

※この診断はあくまで経営者向けのセルフチェック用の目安です。
 法的な判断は個別事情を踏まえ、必ず専門家にご相談ください。

4-3 条文を書き換えるのは、社労士などの専門領域

繰り返しになりますが、就業規則そのものの作成・変更や、労働時間制度の具体的な設計は、社会保険労務士の専門領域です。

経営者としてまず取り組みやすいのは、

  • 「うちの管理職は、どんな実態なのか」
  • 「今後、その人たちにどんな役割を担ってほしいのか」

を整理することであり、その上で社労士の先生と一緒に、具体的な制度設計を考えていく流れが現実的だと思います。

5. フリーランス新法の時代、「社員か外注か」の線引きもあいまいにしない

2024年には、いわゆるフリーランス新法(特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律)が施行され、
「フリーランスの保護」をめぐるルールが整備されました。

これに合わせて、フリーランスの「労働者性」をどう判断するかというテーマも、
労基法改正の議論の中で改めて取り上げられています。

5-1 労働者性の判断で重視されるポイント

労働者かどうかを判断するうえで、よく挙げられる要素を、ざっくり表にすると次のようなイメージです。

※総合判断のため、「一つでも該当したら労働者」という単純なものではありません。

特に、

  • 仕事の依頼や業務指示を事実上断れない
  • どこで・いつ働くかを含め、発注者の指揮命令下で働いている

といった要素が強い場合、契約書上は「業務委託」「フリーランス」と書かれていても、実態として労働者に近いと判断される可能性が高まります。

5-2 一人親方・フリーランスが「ほぼ社員」と見なされる可能性

建設業・運送業・IT業界などでは、

  • 契約上は「請負」「業務委託」
  • しかし実態としては、勤務時間や働く場所を会社が細かく指定し、指揮命令も会社側が行っている

というケースも少なくありません。

労基法改正の議論やフリーランス新法の運用が進めば、

「形式はフリーランスだが、実態はほぼ社員」

というケースが、
労働者としての保護の対象になる方向へ動いていく可能性があります。

5-3 「社員として雇うか、外注としてパートナーにするか」を意識して選ぶ

これからの中小企業にとって大切なのは、

  • 社員として雇い入れ、労働法令を守りながら育てていくのか
  • 一部を外注し、フリーランスと対等なパートナー関係を築くのか

を、なんとなくではなく“意識して選ぶ”ことだと感じます。

「社会保険が大変だから、とりあえず業務委託にしておこう」

という発想は、労基法改正とフリーランス新法という二つの流れの中では、だんだん通用しにくくなっていく可能性が高いからです。

6. 2027年までの“静かな助走期間”をどう活かすか

ここまで読んで、

「うちもいろいろ危なそうだけど、正直どこから手を付ければいいのか…」

と、少し気が重くなっているかもしれません。

ただ、最初にお伝えしたとおり、

  • 現時点(2025年)はまだ「改正内容を議論している段階」
  • 多くの改正項目の施行は2027年以降になる見込み

とされています。

裏を返せば、今から2〜3年は「静かな助走期間」として、落ち着いて準備できる時間でもあります。

6-1 今からできる「小さな三歩」

この記事を読み終えたあと、もし余力があれば、次の三歩だけ実行してみてください。

① 管理職リストを作る(所要時間:10分)

  • 現在「管理職」として扱っている人を全員書き出す
  • 肩書き、年収、役職手当の金額もメモしておく

② チェックシートを埋める(所要時間:1人5分)

  • 前述の12項目チェックシートを使って、一人ずつ現状を“見える化”する
  • 「社内用メモ」なので、遠慮せず正直にチェックを入れる

③ 役割を一言で決める(所要時間:1人3分)

  • 「現場リーダー」「経営幹部候補」「後継者」など、
    その人に期待している役割を一言で書き出す
  • 今の権限・待遇が、その役割に見合っているかを考えてみる

───────────────────
合計所要時間:30分〜1時間程度(管理職候補が3人の場合)

ここまで整理できていれば、
社労士やその他の専門家に相談するときも、話が格段に進めやすくなります。

7. つむぎ行政書士事務所としてお手伝いできること

最後に、少しだけ当事務所からのご案内です。

つむぎ行政書士事務所では、

  • 管理職の実態チェックや「名ばかり管理職」リスクの整理
  • 社員・外注・フリーランスの役割分担と契約形態の検討
  • 業務委託契約書・フリーランスとの契約書の作成・見直し
  • 必要に応じた、信頼できる社会保険労務士さんとの連携

といった形で、経営と法令順守の両方を意識しながら、人の使い方を整えるお手伝いをしています。

「この人、名ばかり管理職かもしれない…」
「外注と社員の線引きが曖昧で不安だ」

そんなモヤモヤがあれば、
まずは一度、現状を整理するところからご一緒できればうれしいです。

※就業規則の作成・変更や、労働時間制度の具体的な設計そのものは社会保険労務士の専門領域です。
 必要に応じて社労士の先生をご紹介しつつ、経営や契約の視点から並走してサポートいたします。

おわりに:管理職の扱いは「コスト」の話ではなく、「会社の設計」の話

管理職に残業代を払うかどうかは、つい「人件費が増えるかどうか」という話に見えがちです。

けれど本当は、

  • どんな人に、どんな責任を任せるのか
  • その人が燃え尽きずに続けられる働き方と待遇をどう両立するか
  • 社員とフリーランス、一人親方をどう組み合わせて事業を回していくか

という、会社そのものの設計の話でもあります。

2026年労基法改正に向けた議論と、フリーランス新法の施行は、

「これまで何となくでやってきた“人の使い方”を、一度整理し直しませんか?」

という、静かなメッセージだと感じています。

この記事が、
「うちの管理職、本当にこのままで大丈夫かな?」と立ち止まるきっかけになれば幸いですし、必要であれば、いつでも相談の相手としてお声がけいただければと思います。

※本記事で扱っている労基法改正案については、その後、通常国会への提出見送りが報じられています。
提出見送りの背景や、勤務間インターバル・つながらない権利・管理職規制などの論点を改めて整理した記事はこちらです。

お問い合わせ

ご相談は、どんな段階でも大丈夫です。
「手続きの流れを知りたい」「自分のケースで進められるか確認したい」「期限までに間に合うかだけ聞きたい」といった内容だけでもお気軽にお知らせください。

つむぎ行政書士事務所では、茨城県全域(水戸市・ひたちなか市・県央エリアを中心に、つくば・土浦など県南エリア、日立など県北エリアも含めて対応)で、建設業許可・産業廃棄物収集運搬業許可などの許認可申請、創業支援、補助金・経営相談をお手伝いしています。

内容をうかがった上で、「対応可能か」「どのように進めるか」「おおまかな費用感」をご案内いたします。
この時点では正式なご依頼(契約)にはなりませんのでご安心ください。
初回のご相談は無料です。

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