高市政権の労働時間規制緩和をどう見るか

高市政権が検討する「労働時間規制緩和」とは
高市政権は政策課題として労働時間の上限規制緩和を検討しています。

この規制緩和について、政権からは「もっと働きたい人のため」と説明されることが多いですが、実際の現場ではむしろ「これ以上はきつい」という声の方が多いのではないでしょうか。
高市政権は、経済界の保守層に強く支えられていると言われます。
その層の中には、「働き方改革による残業規制が行き過ぎて、人手不足の中で現場が回らなくなっている」という声も少なくありません。
今回の規制緩和の議論には、そうした「行き過ぎた働き方改革にブレーキを掛けたい」という政治的な動機も透けて見えます。
しかし、経済学者たちへのアンケートを読むと、まったく違う景色が見えてきます。
日経エコノミクスパネルの有識者アンケート
日経の「エコノミクスパネル」は、経済学者など有識者50人に対して、
労使協定の締結などを前提に、現在の労働時間の上限規制を緩和することは、労働者にとって総じて望ましいか
という質問を投げかけています。

結果は、
- 「総じて望ましくない」とする否定派が約4割
- 「望ましい」とする肯定派は2割弱
- 残りは「どちらともいえない」など中立
というものでした。
つまり、規制緩和にはっきり賛成する専門家は少数派で、「慎重であるべき」という空気感が強いのです。
背景には、次のような共通認識があります。
- 長時間労働=生産性向上とは言えない
- むしろ長時間労働と生産性は「負の関係」にある
- 経済成長を目指すなら、時間ではなく生産性で勝負すべき
ここが、今回の議論の肝になります。
専門家と若年層の“ねじれ”
ねじれの正体は「将来不安」?
一方で、世論調査では、労働時間規制緩和への賛成が全体で6割を超え、特に若年層ほど賛成割合が高いという結果も出ています。

- 経済学者:長時間労働には慎重、規制緩和には消極的
- 若年層:規制緩和に賛成多数
という、きれいな“ねじれ”が生じているわけです。
このギャップの意味を考えるためにも、まずは「長時間労働と生産性の関係」から整理してみたいと思います。
長時間労働と生産性は本当にトレードオフなのか
OECDデータが示す「頑張りの総量モデル」の限界

1人当たり年間労働時間が長い国ほど時間当たりの労働生産性は低い
という、かなりはっきりした負の相関が示されています。この中では、
- 「長く働く国」ほど「1時間あたりの成果が低い」傾向がある
- 日本は「労働時間は長いのに、生産性は高くない」側に位置している
という分析がなされています。
実際、日本の時間当たり労働生産性は、主要先進国の中では下位グループに位置しており、「低いパフォーマンスで長時間働く」という構図が続いています。
ここから見えてくるのは、
- 「頑張りの総量」で勝負するモデルには、すでに限界が見えている
- 「時間を増やす」より「1時間あたりの付加価値を高める」方向に舵を切らないと、賃上げも成長も実現しにくい
という現実です。
AI・DX時代に「時間で稼ぐ」ことのリスク
さらに、AIや自動化、デジタルツールが現場に浸透していくほど、「人手による付加価値」を積み増しする余地は小さくなっていきます。
- 単純作業や定型業務は、AIやRPAに置き換わりやすい
- 人が長時間張り付いても、付加価値はあまり増えない
- むしろ、疲労やミス、不満の増大で生産性が落ちる
といったリスクの方が目立ってきます。
従業員の労働時間に頼る企業は、テクノロジーなどで生産性を高めた企業に負けていくという構造がAI時代ではより強くなっていくと考えます。
そして付加価値の源泉が、
- 技術・設計
- 顧客との関係構築
- 問題発見・問題解決
- 新しい価値の企画・創造
といった領域にシフトするほど、求められるのは「長く働く人」ではなく、「短時間でも複線的な経験やスキルを持つ人」です。
AI時代に「長時間労働への逆戻り」を図るのは、経済合理性という面から見てもかなり苦しい選択と言わざるを得ません。
若年層が規制緩和を支持する背景
「もっと働きたい」より「いざという時に稼ぎたい」
では、なぜ若年層ほど、労働時間規制の緩和に賛成する人が多いのでしょうか。
ここでポイントになるのは、別の調査結果です。
若者に「今より労働時間を増やしたいか」と聞くと、「増やしたい」と答える人は1割前後にとどまります。

つまり、多くの若者は、
- 本音として「今より長く働きたい」わけではない
- ただし、「いざという時に残業で収入を増やせる余地」は残しておきたい
という、“保険としての残業”を求めている可能性が高いのです。
背景には、
- ベースの賃金水準が低く、生活に余裕がない
- 将来の年金や社会保障への不安が大きい
- 住宅・教育費など、ライフイベントのコストが重くのしかかる
といった事情があります。
「残業で稼げる余地」がなくなると、
「固定給だけでは生活が持たない」という切実な不安が一気に噴き出してしまう。
そのため、規制緩和には賛成する――という構図が見えてきます。

Z世代調査が裏づける「安定志向×ワークライフバランス」
最近のZ世代1,000人調査でも、同じような構図が見えてきます。

ヒューマンホールディングスが実施した「仕事観と自分らしさに関する調査2025」では、20〜29歳の会社員・公務員に「自分らしく働く」とは何かを尋ねたところ、
- 「ワークライフバランスを保ちながら働く」(18.1%)
- 「仕事とプライベートをきっちり分ける」(15.9%)
といった“公私のバランス重視”の回答が約3割を占めました。
一方で、「多少プライベートを犠牲にしても目標のために働く」と答えた人は2.4%にとどまり、「無理をして働く」スタイルは少数派であることが分かります。
働く目的についても、
- 「経済的な安定を得るため」
- 「安定した人生を送るため」
といった“安定志向”が上位を占め、「自己実現」や「好きなことを仕事に」といった理想志向は少数派でした。Z世代は「生活やメンタルの安定を確保したい」という思いが強く、そのうえで現状より少し収入を増やしたい、というバランス感覚を持っているように見えます。
さらに、1週間あたりの労働時間については、
- 現在:「40〜45時間」が最多で、45時間以上の長時間労働層も約4分の1
- 理想:7割近くが「今より短い時間」を希望
という結果が出ています。
また、職場に導入してほしい・維持してほしい制度として、
- 「週休3日」
- 「フレックスタイム」
- 「副業・兼業の許可」
- 「短時間勤務」
- 「テレワーク」
といった、時間や場所の柔軟性、そして副業を含む“複線的な働き方”が上位に挙がっています。
長時間労働で一つの職場に縛られることではなく、
- 本業は効率よく、無理なく働きたい
- そのうえで、副業や学びの時間も確保したい
というZ世代の志向が、数字の上でもはっきりと表れていると言えます。
低賃金と将来不安がつくる“保険マインド”
こうしたデータを踏まえると、若年層が労働時間規制の緩和に賛成しているのは、
- 「もっと長く働きたい」からではなく
- 「低めの賃金水準と将来不安の中で、いざという時に“稼げる余地”を残しておきたい」
という、防衛的・保険的な発想が濃厚です。
本音としてはワークライフバランスを重視し、労働時間は短めにしたい。
ただし、将来が不安なので、残業代などで収入を増やせる選択肢も確保しておきたい――この“二重の欲求”こそが、専門家と若年層のねじれの背景にあるのではないでしょうか。
もしそうだとすれば、本来向き合うべきは「長時間労働規制」そのものよりも、
- 賃金水準
- 社会保障
- 住宅・教育コスト
など、生活基盤の不安の方だ、ということになります。
AI時代のキャリア戦略──時短と副業で「稼ぐ手段を増やす」
ここまで見てきたように、長時間労働規制の議論は、国の制度だけの話ではありません。
企業や個人がこれからどんな「戦略」で働き方・稼ぎ方を組み立てていくか、という問題でもあります。
本業の生産性を上げて「長時間労働に頼らない」働き方へ
政府自身も、働き方改革の一環として「副業・兼業の促進ガイドライン」を整備し、副業を容認・推進する流れをつくってきました。
そこでは、副業が
- 生産性向上
- スキル向上
- 自律的なキャリア形成
につながると評価されています。
テクノロジーなどによる生産性の向上により、日常業務から人の手を必要とする場面が減り、収入を上げにくくなる時代にあって、個々の労働者が目指すべき方向性は、
- 本業の生産性を高めて、労働時間を短縮する
- そこで生まれた余力を
- 副業・複業
- 学習・リスキリング
- 起業準備
に振り向ける
- 結果として、「複数の収入源」と「複線的なスキル」を持つ人を増やす
という三段階です。
ここでは、「時短」と「収入増」が対立するものではなく、
- 生産性向上による賃上げ
- 副業・複業による収入源の多様化
を組み合わせることで、むしろ両立させていく発想が必要になります。

副業・複業・起業準備で「稼ぐ手段を増やす」
具体的には、個人レベルで考えられる選択肢として、
- 本業:
- 業務の効率化・DXで「残業しない前提の働き方」に近づける
- スキルアップや資格取得で「単価そのもの」を上げる
- 副業・複業:
- 自分のスキルを活かせる小さな仕事を複数持つ
- 週末・夜間に無理のない範囲で受託やオンライン業務を行う
- 起業準備:
- すぐ独立するのではなく、「小さな実験」を副業の中で積み重ねる
- 将来の独立やフリーランスに備えて、少しずつ実績と人脈をつくる
といったパターンが考えられます。
この方向性であれば、
- 個人:収入源の分散とキャリアの選択肢拡大
- 社会全体:イノベーションの土壌づくり、生産性向上
という意味で、個人のリスク分散とマクロの生産性向上の両方に整合的です。
「タイパ志向」とAI活用ギャップをどう埋めるか
先ほどのZ世代調査では、「タイパよく働きたい」「効率的に働きたい」という志向が強い一方で、実務で生成AIを活用していない若者が約半数にのぼる、という結果も示されています。
- 時間を短く、効率的に働きたい
- でも、AIやデジタルツールをうまく使えていない
というギャップをどう埋めるかは、「時短+副業+DX」を現実のものにするうえで、企業側・政策側の重要なテーマです。
- 企業:AIやクラウドツールを導入するだけでなく、「使い方」を現場に落とし込む教育・仕組みづくり
- 個人:AIやITツールを“新しい同僚”くらいの感覚で使いこなしていく学習
こうした一歩一歩が、「短く働いて、きちんと稼ぐ」働き方につながっていきます。
高市政権の方向性とのズレと、政策が向かうべき矛先
「行き過ぎた働き方改革にブレーキ」という政治力学
高市政権は、「労働時間の上限規制が『もっと働きたい人』を阻害している」というロジックから、規制緩和を打ち出そうとしています。
ただ、その支持基盤には、
- 長時間労働に依存して収益を維持してきた業界・企業
- 「人手不足だけれど、ビジネスモデルは変えたくない」というプレイヤー
も含まれており、
- 「行き過ぎた働き方改革にブレーキを掛けたい」
- 「現行モデルを維持するために、もう少し人に長く働いてほしい」
という政治的な意図も、全くないとは言えません。
規制緩和ではなく「時短+副業+DX」へのシフトを
経済学者アンケートが示しているのは、
- 経済成長は「労働時間の総量」ではなく「生産性」で目指すべき
- 長時間労働への逆戻りは、労働者にとっても日本経済にとっても望ましくない
というスタンスです。
であれば、政策の矛先を向けるべきは、
- 規制を緩めて「時間」を増やすことではなく
- 時短・副業・技能投資・DXで「1時間あたりの付加価値」を上げる方向
ではないでしょうか。
- 労働時間規制は、過労死防止や健康確保の「最低ライン」として維持する
- そのうえで、「短時間で稼げる仕組み」と「複線的なキャリア」を広げる
という二段構えが、本来あるべき姿だと感じます。
おわりに ─ 個人と企業が今からできること
自分の「時間のポートフォリオ」を点検する
ここまで見てきたように、「長時間労働規制を緩めるかどうか」という議論は、
本当は私たち一人ひとりの
- 時間の使い方
- 稼ぎ方
- キャリアの描き方
をどう組み立てていくか、という問題と直結しています。
制度の議論は国会に任せるとしても、個人レベルでできることはたくさんあります。
- 1週間のうち、「本業」「学習」「副業」「休養」にどれくらい時間を割いているか
- その配分は、自分が望む5年後・10年後の姿と整合的か
- 「時間を売っているだけの働き方」に偏っていないか
一度、自分の「時間のポートフォリオ」を棚卸ししてみるだけでも、見えてくるものがあるはずです。
中小企業・フリーランスへの小さな提案
中小企業の経営者やフリーランスの方にとっても、
- 長時間労働に頼ったビジネスモデルから、どう離陸していくか
- 社員や自分自身の「複線的なキャリア」をどう支えるか
は、今後の競争力を左右するテーマになっていきます。
中小企業診断士・行政書士としては、
- 労働時間規制だけに振り回されるのではなく
- 自社のビジネスモデル・人材戦略・IT活用を見直しながら
- 「短く働いても価値が出る仕組み」と「複線的な稼ぎ方」を設計する
お手伝いをしていければと考えています。
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