フワちゃんのレスラー転向が女子プロレス界にもたらすもの

「フワちゃん、スターダム入団」という一報が意味するもの
2025年11月7日、後楽園ホール。
長く表舞台から姿を消していたフワちゃんが、女子プロレス団体スターダムのリングに突如姿を現しました。
- 2024年8月、不適切投稿をきっかけに芸能活動を休止
- 約1年3か月ぶりの公の場が、テレビスタジオではなく「プロレスのリング」
- 観客に頭を下げたあと、
「新しい夢、それはプロレス一択でした」
「反省や禊のためではありません」
と宣言し、スターダム入団と12月29日・両国国技館での再デビュー戦を発表しました。

表向きは「炎上タレントの再出発」として消費されがちなニュースですが、ここ1〜2年の女子プロレス界、特に
- スターダムの主力選手大量流出と新団体マリーゴールドの旗揚げ
- 翌年、スターダムの“アイコン”岩谷麻優の電撃移籍
- 上谷沙弥という“いい人ヒール”の大ブレイク
という流れを踏まえて見ると、フワちゃん入団は
「スターダムがエンタメ&キャラクタービジネスとしてどこに舵を切っているのか」
を象徴する一手としても見えてきます。
この記事では、
- フワちゃん入団の表向き・裏側のストーリー
- 2024〜2025年の「マリーゴールド騒動」とスターダムの揺れ
- 上谷沙弥ブレイクとフワちゃん起用が意味する「お茶の間への架け橋」
- そして、岡田太郎社長という“新世代の舵取り役”
を整理しながら、2025年現在の女子プロレス界を眺めてみたいと思います。
フワちゃんは、なぜ「プロレス一択」で戻ってきたのか
炎上から1年3か月、「禊ではない」としての復帰宣言
まずはフワちゃん側のストーリーから整理してみます。
- 2024年8月、やす子さんへの不適切投稿で炎上し、芸能活動を休止
- テレビやYouTubeからも姿を消し、約1年3か月のブランク
- 2025年11月7日、スターダム後楽園大会で電撃登場
- 観客に謝罪しつつも、
- 「これは禊ではない」
- 「プロレス一択でやっていきたい」
と強調し、スターダム入団と両国での試合決定を発表しました。
ここで重要だと感じるのは、
「テレビで謝罪会見」ではなく
「女子プロのリングで、覚悟を語った」
という選択です。
しかも、まったくのゼロからではありません。
フワちゃんは2022年、『行列のできる相談所』の企画でスターダムのリングに上がり、
- コーナー最上段からのプランチャ
- その際に肋骨を痛めながらも試合を完走
という、“タレント枠のプロレスごっこ”を超えたチャレンジを見せていました。

ですので今回は、
- 初心者がいきなり思いつきで飛び込んだ
というよりも、 - 一度身体を張ったリングに、人生を賭け直しに来た
という文脈の方が実態に近いと感じます。
スターダム側から見た「フワちゃん」というIP
一方で、スターダムの親会社でアニメなどのキャラクタービジネスを手掛けるブシロードから見たフワちゃんは、
- 国民的知名度を持つバラエティタレント
- YouTubeで若年層へのリーチもある
- 英語も話せて、海外向けコンテンツにも使いやすい
という意味で、非常に扱いやすい“外部IP(知的財産)”です。
ブシロードは、
- 「新時代のエンターテインメントを創出する」
- 「IP(“キャラクターや作品ブランド”のこと)を多方面に展開するIPディベロッパー戦略」
を掲げ、新日本プロレスやスターダム、バンドリ!などをひとつのポートフォリオ(作品ラインナップ)として展開しています。
そう考えると、
「女子プロレス × フワちゃん」
という掛け算を試すのは、
企業戦略としてはかなり自然な一手だと言えるでしょう。
2024〜2025年の「マリーゴールド騒動」とは?
2024年5月20日、マリーゴールド旗揚げ
2024年春、スターダムの周辺は大きく揺れました。
- 2月:旗揚げ当初から団体を引っ張ってきたロッシー小川EPとの契約終了(スターダム側は後述の選手などに対する引き抜き行為と主張)
- 3月末:
- ジュリア
- 林下詩美
- MIRAI
- 桜井まい
- 弓月
といった主力5選手がスターダムを退団します。
その後、2024年5月20日に、
ロッシー小川氏は新団体「Dream Star Fighting Marigold」を旗揚げし、
退団選手たちも合流しました。
旗揚げ戦は後楽園ホールを超満員とし、
「スターダムに対抗しうる新勢力」として一気に存在感を示します。
いわば、
ロッシー小川氏という「プロレス界の親の元」に、多くの“娘たち”が移った
ような構図で、
ファンにとっても運営にとっても、インパクトは非常に大きかったと思います。
岩谷麻優の電撃移籍という“第2波”
そこで終わらなかったのが、今回の騒動の根深いところです。
- 2025年4月27日
横浜アリーナ大会で、岩谷麻優選手がIWGP女子王座から陥落 - 4月28日付でスターダムを退団
- それからほとんど間を置かず、マリーゴールドへの入団が電撃発表
という流れになりました。
スターダム唯一の1期生であり、「スターダムのアイコン」と呼ばれた岩谷麻優選手までが、ロッシー小川氏のマリーゴールドへ移籍したわけです。
この一連のスピード感を見ると、
・スターダムとの契約満了をもって、マリーゴールドへ移籍することはかなり前から決まっていた
・その前提があるからこそ、「IWGP女子王座は横浜で必ず落とす」というストーリーラインが組まれた
と考えるのが自然ではないでしょうか。
IWGP女子王座は、新日本プロレスとスターダムが共同で立ち上げたタイトルであり、
ベルトそのものが“ブシロード側のIP”です。
そのチャンピオンが、ブシロード外の新団体に移籍してしまう状況は、ビジネス的にはほぼ避けたいはずです。
だからこそ、
- 内々に契約満了と移籍の筋を決める
- 横浜アリーナでIWGP女子王座を失う
- 退団・移籍を“電撃発表”としてまとめる
という流れで、現実(契約)・ビジネス(タイトル管理)・物語(IWGP陥落)が噛み合うように組まれていたのだろう、と私は感じています。
「残る側」を選んだ上谷沙弥と、“師匠”中野たむを引退に導いた重さ
マリーゴールド・ショックから生まれた「ヒール上谷」
こうした中で、「スターダムに残る側」を選んだ一人が上谷沙弥選手です。
上谷選手はもともと、
- 陸上出身で身体能力が高い
- アイドル志望〜バイトAKBを経てスターダム入り
という、“芸能寄り”のバックボーンを持つレスラーです。
マリーゴールド旗揚げ後のインタビューで、上谷選手はおおよそ、
「スターダムは女子プロレスのトップでなきゃいけない」
「ここで自分が行動しないといけないと思った」
という趣旨のことを語っています。上谷選手は当時団体内で所属していたユニットのリーダーである林下詩美がマリーゴールドに移籍したことで自分の立ち位置を模索している状況でした。
上谷選手が「行動」として選んだのが、
- それまでの王道ベビーフェイス像を壊し
- 漆黒のコスチュームに身を包んだヒール転向
でした。
マリーゴールド・ショックで団体の軸が揺れた中、
「残った自分がスターダムを面白くする」
という覚悟から生まれたのが、現在の「ヒール上谷」だと言えると思います。
“師匠”中野たむを、敗者即引退マッチで引退に導く
そこからのストーリーはさらに重くなっていきます。
2025年4月27日、横浜アリーナ。
大会名は「ALL STAR GRAND QUEENDOM 2025」。
- ワールド・オブ・スターダム選手権
- 王者:上谷沙弥
- 挑戦者:中野たむ
- ルール:「完全決着・敗者即引退」
という、とても重い一戦が組まれました。
中野たむ選手は、
- コズミック・エンジェルズのリーダー
- 「愛」と「生き様」で魅せるレスラー
として、長くスターダムの物語を引っ張ってきた存在です。
上谷選手にとっては、“お姉ちゃん・師匠”的な存在でもありました。
その師匠を、自らの手で敗者引退マッチで引退させる。
プロレスの物語としては最高にドラマチックですが、レスラー本人には相当な精神的負荷がかかる役割です。
結果は上谷選手の勝利。
スターダム史上最多となる7503人を動員した大会で、
- ベルト防衛
- 師匠の引退
- 新時代へのバトンタッチ
という“重すぎる役割”を一身に背負ったかたちになりました。
この瞬間に、
「中野たむ選手と岩谷麻優選手が去ったあとのスターダムを、誰が背負うのか?」
という問いに対して、
「上谷沙弥選手が、その役を引き継いだ」
という図式が、物語上も現実の運営上も決定的になったように感じます。

“令和の極悪女王”なのに「いい人ヒール」
鬼レンチャンとラヴィットで見せた「素顔」
ヒール転向後の上谷選手は、
リング上では「漆黒の女王」「令和の極悪女王」として振る舞っています。
一方で、テレビではまったく別の側面が広まりました。
- 『千鳥の鬼レンチャン』女子300m走サバイバルに登場し、
「女子プロレスをもっと見てもらいたい」と涙ぐみながら全力疾走する姿が話題に。 - 『ラヴィット!』金曜シーズンレギュラーとして出演し、
卒業回では別スタジオにリングを組んで女子プロの生中継まで実現しました。
番組内では、
- 「悪役なのに、すぐ素が出る」
- 「実はめちゃくちゃ真面目でいい人」
といった扱いになっており、
いわゆる“いい人ヒール”として一般視聴者の印象に残っています。
本人もインタビューで、
「テレビでは“実はいい子”って言われるけど、私は全然いい子じゃねえよ」
と笑いながらも、鬼レンチャン出演後に家族連れや若い女性ファンが増えたことを喜んでいました。
「女子プロ怖そう…」を溶かす存在
こうした露出によって、
- 「女子プロは怖い・痛そう」というイメージ
- 「どこから見ればいいか分からない」というハードル
が、かなり下がってきているように感じます。
「ラヴィットで見た上谷選手がいる団体=スターダム」
「鬼レンチャンで走っていたあの人が、今は悪役なんだ」
という入口から、
配信や会場観戦に入ってくるライト層も確実に増えているはずです。
スターダムにとって、
「お茶の間に開いた窓」としての上谷沙弥選手は、
もはや単なる一レスラーではなく、“IPとしての価値”を持つ存在になりつつあると感じます。
上谷×フワちゃん=「お茶の間への架け橋」完成形?
かつてのデビュー戦の相手、立場がねじれた再会
フワちゃんは前述の通り、2022年にテレビの企画で一度スターダムのリングに立っています。
そのときのデビュー戦の相手が、当時ベビーフェイスだった上谷沙弥選手でした。
そこから数年が経ち、
- 上谷選手は“いい人ヒール”として団体の顔に
- フワちゃんは炎上から1年以上のブランクを経て、「プロレス一択」で戻ってきた立場に
という、立場のねじれた2人が、
同じスターダム所属として再会することになります。
現時点(2025年11月)では、
- 12月29日の両国では、
上谷選手は安納サオリ選手との赤いベルト戦、
フワちゃんは別カードでの再デビューが濃厚 - いきなりシングルでぶつかる可能性は高くなさそう
という状況ですが、
ファンの間ではすでに、
「いつか上谷vsフワちゃんの再戦を見たい」
という声が多く見られます。
このカードが実現すれば、
- 『ラヴィット!』や『鬼レンチャン』で上谷選手を知った層
- 『行列のできる相談所』企画での初対戦を覚えている層
- 炎上報道だけを知っているライト層
まで含めて、「一度見てみようかな」と思わせるだけの分かりやすいストーリーラインになります。
まさに、
「上谷×フワちゃん=お茶の間への架け橋」
として、完成形に近い組み合わせだと感じます。
コアファンのモヤモヤと、それでも打つ価値
一方で、長年の女子プロファンの一部には、
- 「禊の場として女子プロを使ってほしくない」
- 「タレントが“おいしいところだけ”持っていくのでは?」
というモヤモヤもあります。
その感覚は、とても自然だと思います。
- 岩谷麻優選手までマリーゴールドへ移籍し
- 中野たむ選手も敗者引退でリングを去り
- 残ったレスラーたちがハードスケジュールで興行を支えている中で、
「外から来たタレントが話題を全部持っていく」構図になってしまうと、面白くないと感じるのは当然です。
ただ、興行ビジネスとして冷静に見ると、
- 主力流出
- マリーゴールド台頭
- ブランディング再構築の必要性
といった状況の中で、
「上谷一人にすべての負荷をかけ続ける」のか
「フワちゃんという外部IPも活用して“スターダム全体”を売りこむ」のか
という選択肢を並べたとき、
フロントが後者を選ぶのは、ある意味で合理的な判断でもあると感じます。
岡田太郎社長という「新世代の舵取り役」
ここで、スターダムのフロント側の顔として、岡田太郎社長にも触れておきたいと思います。
私はどちらかと言えば前時代的な興行師であるロッシー小川のマリーゴールド派ですが、ブシロードがスターダムの社長に登用した岡田太郎氏の仕事ぶりには、正直、感銘を覚える場面もあります。
ロッシー小川EP退任と主力選手の流出という2024年前後の危機の中で、
フロントの中心人物として前面に出てきた岡田氏は、
学生プロレス出身というバックボーンを反映した「プロレス愛」と、ブシロードのキャラクタービジネスで培った「現代的なプロモーション感覚」を併せ持つ存在として印象に残ります。
- 上谷沙弥選手を地上波バラエティに積極的に送り出す判断
- 新日本プロレスとの連携強化(IWGP女子王座、合同興行での男女対決構想など)
- そしてフワちゃんという「劇薬」の獲得と、スターダム所属として迎え入れる決断
こうした一つひとつの打ち手には、従来の女子プロレス団体ではなかなか見られなかった、フットワークの軽さとアイデアの大胆さを感じます。

ロッシー小川氏の「プロレス界の親」としての人間的な包容力と、岡田太郎氏の「現代的なIPプロデューサー」としての戦略性。
この二つの違うアプローチが、マリーゴールドとスターダムという“二つの選択肢”を生み出し、結果的に女子プロレス界全体を活性化させている面も、たしかにあるのではないかと感じています。
2025年現在、どこまで行けば「成功」と言えるのか
最後に、少しだけビジネス的な視点で整理してみます。
短期的にほぼ起こりそうなこと
- 両国大会がメディアに大きく取り上げられる
- 「上谷沙弥」「スターダム」「フワちゃん」というワードが、一般ニュースでもセットで語られる
- 「ちょっとスターダムを見てみようかな」という新規ファンが一定数生まれる
このレベルまでは、すでにXやニュースの反応を見ても、かなり高い確率で到達しそうだと感じます。
中期的に見て「成功」と言えるライン
私個人の感覚としては、たとえば次のような状態になれば「成功」と言ってよいのではないかと思います。
- 一般層の中で
- 「上谷沙弥という名前を知っている人」が明らかに増えた
- 「スターダムって団体、最近よく聞くよね」という会話が普通になった
- コアファンも時間の経過とともに
- 「結果的には、あの時フワちゃんを起用したのはプラスだった」とある程度納得できる
- フワちゃん本人も
- フルタイムの職業レスラーにならなくても
- ビッグマッチ中心の“話題枠レスラー”として数年は機能し
- 「禊だけだったよね」で終わらないだけの試合を見せる
ここまで行けば、
ブシロード的にも「投資に見合う成果があった」と評価しやすくなりますし、
リングで戦い続けてきたレスラーたちにも、何らかの形で還元されていくはずです。
まとめ:私はマリーゴールドの激しい試合も好きですが…
最後に、私自身のスタンスも少しだけ書いておきます。
正直に言うと、
私はマリーゴールドの激しい試合や、あのピリピリした空気感がとても好きです。
ロッシー小川氏のもとで、スター選手が才能のある若手選手たちと新しい物語を紡いでいる光景には、今でも胸が熱くなります。
その一方で、フワちゃんの転向によってスターダムが話題になり、結果としてプロレス界全体がより活性化してくれたら、それはそれで素晴らしいことだなとも思っています。
スターダムは明らかに「ロマン側に賭けた」団体です。
- マリーゴールド・ショック
- 岩谷麻優選手の移籍
- 師匠・中野たむ選手との敗者引退マッチ
- 上谷沙弥選手の“いい人ヒール”大ブレイク
- そしてフワちゃんの「プロレス一択」入団
この一連の流れを見ていると、
「現実的な安全運転」よりも、奇跡みたいな瞬間が生まれたときに大歓声をあげる遊び
としてのプロレスに、もう一度賭け直しているように私には見えます。
- フワちゃんが本当に「プロレス一択」の覚悟を貫けるのか
- 上谷選手との物語がどんな形で交差していくのか
- そしてスターダムとマリーゴールドが、それぞれどんな景色を見せてくれるのか
まだ答えは出ていません。
だからこそ、
2025年の今、女子プロレスを見るのはとても面白いタイミングだと感じますし、これからもしばらくこの“二つの物語”を追いかけていきたいと思います。



