2025年の民泊市場はどう変わる?インバウンド2.0時代の全国動向と茨城県のチャンス
1.ポストコロナで「インバウンド2.0」に入った日本の観光と民泊
2023年5月に新型コロナが「5類」に移行してから、日本の観光は大きく流れが変わりました。
2019年頃までよく言われていた「インバウンドブーム」の延長ではなく、2025年のいまは、質も構造もまったく違う「インバウンド2.0」と呼べる段階に入っています。
この記事では、
・日本全体(マクロ)の流れ
・北関東の拠点の一つである「茨城県」という地域(ミクロ)の実態
という二つの視点から、住宅宿泊事業(いわゆる「民泊新法」民泊)と簡易宿所を中心に、
・需要の動き(誰が、どんな目的で泊まりに来ているのか)
・収益構造(どのくらい稼げるのか、何がコストになるのか)
・今後数年の見通しと、事業者が取るべき戦略
を整理しています。
特に、次のようなポイントに注目しています。
・コロナを経験したあとの旅行者の心理変化
・歴史的な円安がもたらした「長期滞在需要」の増加
・DX(デジタル化)による運営の高度化
・法人事業者と個人事業者の「チャンス」と「リスク」の差
民泊をビジネスとして考える方にとって、「今、何が起きているか」「これからどこを狙うべきか」をつかむための土台となる内容です。
2.全国マクロ環境:インバウンド2.0時代の需要と供給
2-1.訪日外国人の急回復と、その「中身」
2025年の日本の観光市場は、単なる「コロナ前への回復」にとどまらず、明らかに新しい成長局面に入っています。
・2025年上半期(1〜6月)の訪日外国人数は約2,152万人
・2019年や2024年の同時期を上回るペース
・特に5月・6月の単月は過去最高
といったデータからも、その勢いが分かります。

この伸びを支えているのは、一時的な「リベンジ消費」だけではありません。より長期的・構造的な要因として、少なくとも次の4つが挙げられます。
1.歴史的な円安
・1ドル150円前後という円安が続いていることにより、訪日客から見ると「高品質な体験が、割安に楽しめる国」になっています。
・その結果、2025年上半期のインバウンド消費額は約4.8兆円(前年比+22.9%)となり、宿泊日数も1人あたりの消費額も増える傾向にあります。
2.航空ネットワークの本格復活
・中国・韓国・台湾などからの直行便が戻ってきています。
・LCC(格安航空会社)が地方空港にも就航を拡大しており、いわゆる「ゴールデンルート」(東京・大阪・京都)から地方への分散が進みやすい環境になっています。
3.国際イベントの波及効果
・2025年4月〜10月の「大阪・関西万博」が大きな話題になっています。
・関西だけでなく、新幹線・航空を利用した「全国周遊」のきっかけになっており、万博を起点に、北海道や九州、北関東などへ足を伸ばす旅行者も増えています。
4.旅行スタイルそのものの変化
・団体ツアーから、個人旅行(FIT)中心へシフトしています。
・「観光地を巡る」だけでなく、「暮らすように滞在する」ニーズが増えています。
・キッチンや洗濯機がある、住居に近い民泊への好みが強まっています。
こうした流れの中で、ホテル・旅館と並んで「民泊」は、インバウンドを受け止める重要なインフラの一つになっています。
2-2.宿泊者の顔ぶれの変化:国籍も、旅のスタイルも多様化
民泊を運営するうえで、「どんな人が泊まりに来ているか」を把握することは非常に重要です。
2025年時点の民泊利用者をみると、
・約63.9%が外国人
・日本人は約36.1%
という構成になっています。
コロナ後、日本人はホテル・旅館に戻る傾向がある一方で、民泊は「インバウンドの受け皿」としての役割を強めています。
国籍別に見ると、2019年までとは違う特徴が出てきています。
・中国一強だった構図が弱まり、欧米豪や近隣アジアへ分散
・アメリカ:円安を背景に1週間以上の長期滞在が増加。古民家や一棟貸しなど、高単価物件ニーズが強い。
・中国:回復傾向だが、大人数団体ツアーより「家族・友人単位」の少人数旅行が中心に。SNS(小紅書など)での情報収集が当たり前。
・韓国:リピーターが多く、大都市だけでなく地方都市にもよく足を運ぶ。ある時期には民泊利用シェア2位に。
・台湾:家族連れが多く、「清潔さ」と「利便性」を特に重視。
・オーストラリア:スキーだけでなく、グリーンシーズンの農村体験や地方滞在にも関心が広がっている。
・東南アジア:フィリピン、マレーシア、シンガポールなど中間層の所得向上により、訪日意欲が高まり、シェアを伸ばしている。
同行者のタイプも変化しています。
・「夫婦・パートナー」の利用が増加
・「一人旅」の民泊利用も増加
・逆に「友人グループ」は減少傾向
かつての「大人数で安く泊まる場所」としての民泊から、今は「カップルや個人が、暮らすように滞在する拠点」という位置づけに変わりつつあります。
そのため、施設側にも次のようなスペックが求められるようになっています。
・高速で安定したWi-Fi
・リモートワークにも耐えられるワークスペース
・長期滞在でも疲れないベッドや寝具のクオリティ
単に「寝られれば良い部屋」では、選ばれにくい時代になっていると言えます。
2-3.供給側の現実:件数は増えているが、淘汰も加速
需要が伸びる中で、住宅宿泊事業の届出件数も増え続けています。
・2025年7月15日時点の届出件数:53,133件(過去最高)
・同年9月には55,377件に到達
数字だけ見ると「右肩上がり」で、とても魅力的な市場に見えます。
しかし、その裏側では激しい「入れ替わり」が起きています。
・制度開始からの累計廃止件数:20,131件
・開業した施設のおよそ37%が撤退
といったデータから、約3分の1以上が市場から退場していることが分かります。
主な撤退理由としては、次のようなものが考えられます。
・立地ミスによる集客不足(需要が見込めない場所に出してしまった)
・近隣住民とのトラブル
・消防設備・定期報告など、コンプライアンス対応のコスト増に耐えられない
・2ヶ月ごとの報告など、事務負担への対応が難しい
つまり、「出せば誰でも儲かる」時期はすでに終わっており、きちんと数字を読み、法令を守り、運営力を高めた事業者だけが生き残る「選別のフェーズ」に入っています。
3.地域別分析:茨城県の民泊市場とエリアごとの特徴
3-1.茨城県の観光・宿泊動向
全国的なインバウンドの波は、東京に近い茨城県にも確実に届いています。
ただし、京都や北海道のような「観光特化型」とは違い、産業構造や地理条件に応じた多様な需要が混ざっているのが特徴です。
・2023年の茨城県の観光入込客数:約6,106万人(前年比約23%増)
・コロナ前の水準への回復が進んでいる
宿泊施設の稼働を見ると、
・ビジネスホテル:客室稼働率が前年比10ポイント程度上昇するなど好調
・簡易宿所(民泊を含む):施設ごとのばらつきが大きい
一方で、外国人宿泊者の割合は増えています。
特に2023年10〜12月期には、宿泊者のうち外国人比率が20%を超えるなど、「通過点」から「宿泊先」として選ばれ始めている兆しが見えます。
3-2.茨城県内4つのクラスター:エリアごとの需要と稼ぎ方
茨城県内の民泊需要は、大きく次の4つのクラスターに分けて考えることができます。
1)つくば市エリア:研究・アカデミック需要の拠点
2)大洗町・ひたちなか市エリア:海とエンタメ観光
3)水戸市エリア:都市滞在・イベント需要
4)県北・県西の農村エリア:農泊・体験型ツーリズム
それぞれ、ターゲット・稼働率・収益モデルがかなり異なります。
① つくば市:客員研究者・留学生などの長期滞在が中心
つくば市には、筑波大学・JAXA・産総研など、多数の研究機関があります。
このため、観光客よりも、
・海外からの客員研究員や留学生
・その家族
・国際会議などに参加する研究者
といった人たちの「数週間〜数ヶ月」の滞在ニーズが非常に多いエリアです。
・稼働率:県内平均(50〜60%)を大きく上回り、65〜75%程度で推移
・月間収益:15〜25万円程度を安定的に見込めるケースが多い
成功例として、外国人研究者向けにリノベした古民家民泊では、
・稼働率:85%
・平均滞在日数:14日
・月間収益:30万円
といった実績が出ている事例もあります。
届出情報を見ると、「東新井」「研究学園」「上広岡」など、研究機関やつくばエクスプレス沿線にアクセスしやすいエリアに施設が集まっています。
行政も、つくば市として「持続可能な都市づくり」を掲げており、民泊事業と連携した取り組みも進めるなど、比較的前向きなスタンスが見られます。
② 大洗町・ひたちなか市:観光の爆発力とシーズナリティ
大洗は、
・アクアワールド(水族館)
・大洗磯前神社
・サーフスポット
・アニメ「ガールズ&パンツァー」の聖地
など、強いコンテンツを多数持っています。
ひたちなかには「ひたち海浜公園」やライブイベント会場などもあり、レジャー需要が集中するエリアです。
・需要:夏の海水浴やイベント期に一気に膨らむ
・稼働率:40〜70%と季節変動が大きい
・月間収益:10〜30万円と変動幅が大きく、イベント時は高単価も可能
・宿泊単価:7,000〜15,000円程度が狙える
特に、
・一棟貸しのヴィラタイプ
・海の見えるロケーション
・グループ・ファミリー向け
といった条件を満たす物件は、高収益を期待しやすいゾーンです。
商店街の空き店舗兼住宅をリノベーションした複合施設「波と月」のように、「空き家再生」と「観光振興」をセットで進める事例も出てきています。
大洗町の財政状況を見ると、観光収益は町の経営にとって非常に重要な柱になっており、民泊を含む宿泊事業の役割は今後さらに大きくなっていくと考えられます。
③ 水戸市:ビジネスと観光が混在する都市型エリア
県庁所在地の水戸市では、
・ビジネス出張
・偕楽園の梅まつりなどの観光イベント
といった需要が重なっています。
・稼働率:55〜65%程度
・月間収益:12〜20万円前後
・宿泊単価:6,000〜10,000円程度(ビジネスホテルとの価格競争を意識する必要あり)
届出施設は「酒門町」「笠原町」「北見町」など、中心部や幹線道路沿いに分散している状況です。
ビジネスホテルが多いため、
・立地
・価格
・部屋の広さ・設備
でどう差別化するかが、成功のポイントになります。
④ 農泊・体験型ツーリズム:農業資源を生かす新しい流れ
茨城県は、農業が盛んな地域資源を生かし、「農泊」に力を入れています。
農泊とは、単に田舎に泊まるだけではなく、
・農業体験
・地元の人との交流
・郷土料理づくりなどの体験
をセットにした「体験重視型」の宿泊スタイルです。
・古河市の「GLOCE古河kominka翠」
・かすみがうら市の「CAMPieceかすみがうら」
などで、専門家を招いたセミナーも開かれており、欧米豪の「本物の日本体験」を求める層や、ワーケーション客に対するポテンシャルが高い分野です。
ただし、
・受け入れ側の組織(農家グループなど)が減少している
・大人数団体に対応できる体制が整っていない
といった課題もあり、個々の農家と宿泊事業者をつなぎ、集客や予約管理、多言語対応を担う「コーディネーター役」が重要になっています。
4.事業規模別の動き:法人と個人で分かれる戦い方
市場が成熟するなかで、法人民泊事業者と個人事業者では、置かれている環境と戦略が大きく分かれてきています。
4-1.法人民泊事業者:DXと資本力でスケールを追う
法人民泊事業者は、
・運営の省人化・無人化
・複数物件の一括管理
・資金調達を前提としたスケール戦略
といった方針で動いています。
代表的な取り組みとしては、
・AIを用いたダイナミックプライシング(料金の自動調整)
・清掃スタッフのシフト管理や在庫管理の自動化
・無人チェックインシステムの導入
・繁忙期は短期宿泊、閑散期はマンスリーや長期賃貸へ切り替えるハイブリッド運用
・機関投資家を巻き込んだ資金調達で物件を増やす
・業界団体に加入し、ルールメイクや行政との協議に参加する
といったものがあります。
こうしたDXや資本力を背景に、
・人手不足
・手続きの複雑さ
を乗り越えて、規模の経済を追求しているのが法人側の基本スタンスです。
4-2.個人事業者:ニッチ戦略か、早期撤退か
一方、個人事業者にとっては、参入と継続のハードルが年々上がっています。
【参入時のハードル】
・図面作成
・誓約書・身分証の提出
・転貸承諾書、近隣説明
・消防法令適合通知書の取得
・場合によっては建築士による確認
といった準備が必要で、初期費用だけでなく、専門知識も求められます。
【運営中の負担】
・2ヶ月ごとの実績報告
・消防設備の点検・記録
・本人確認など、コンプライアンス対応
こうした負担に耐えられず、
・「空き部屋を貸せば何とかなるだろう」といった安易な参入者
は、かなりの割合で市場から退場しているのが実情です。
その一方で、成功している個人事業者には共通点があります。
・ターゲットが明確である
→「誰でもいいから観光客」ではなく、
「筑波大学に来る研究者と家族」
「大洗にサーフィンで通う長期滞在者」
など、具体的なペルソナを設定している。
・ホテルでは得られない価値を出している
→「長期滞在でもストレスにならない広さ・設備」
→「ホストや地域との交流」
→「古民家の雰囲気」など、「体験」としての魅力
茨城の古民家事例に見られるように、「誰に」「どんな価値を提供するか」がハッキリしている個人事業者は、法人にはない魅力で選ばれ続けています。
5.今後の見通しと戦略的な示唆(2025〜2030年)
5-1.市場の展望:インバウンド2.0のその先へ
2025年以降も、民泊市場は次のような要因で拡大が続くと見込まれます。
・ホテル価格の高止まり
円安・人件費高騰の影響でホテル料金は上昇傾向。
家族連れ・グループにとって、キッチン付き民泊のコスパはより魅力的。
・アジア市場の成熟と分散
中国・台湾に加え、韓国・東南アジアからの訪日が増えることで、一国依存のリスクが減り、需要ポートフォリオが安定する。
これらを踏まえると、日本全体として民泊需要は中長期的に底堅く推移すると考えられます。
5-2.茨城県での戦略的なポイント
茨城県で民泊を成功させ、地域にも貢献していくためには、次のような視点が重要になります。
1)エリア特性に応じた「マイクロ・マーケティング」
・つくばエリア
大学や研究機関と連携し、「研究者・留学生の住まい支援」として民泊を活用。
長期滞在前提の設備(キッチン、デスク、収納など)を整える。
・大洗・ひたちなかエリア
繁忙期の観光需要に加えて、閑散期の活用がカギ。
ワーケーションや企業合宿を取り込むため、高速ネット環境・会議スペース・プロジェクター等の整備が有効。
2)「農泊」の高付加価値化
・現在行われている農泊セミナー等を、実際の商品づくり・販売に結びつける
・単独の農家では難しい集客、予約管理、多言語対応を担う「地域商社」「DMO」的な組織が重要
・欧米豪のゲストが求めているのは、「写真映え」よりも「人と人との深い交流」
農作業体験、郷土料理づくり、地元行事への参加などをパッケージ化し、高単価商品として売り出す戦略が有効。
3)行政データの活用と、自治体との連携強化
・茨城県が公開している届出施設情報などのオープンデータを活用し、供給過多のエリアと、まだ空白のエリアを分析する。
・大洗町のように、財政健全化を進めつつ観光収益に期待している自治体にとって、民泊による滞在日数の伸びや宿泊税、消費の増加は重要なテーマ。
・事業者側も、 納税、雇用、地域での消費喚起といった「地域への貢献」を見える化し、行政と協調的な関係を築くことが、持続的な事業運営につながる。
5−3.まとめ:量から「質の競争」へ
2025年の民泊市場は、もはや「実験的な新ビジネス」ではなく、日本の観光インフラの一部として定着しました。
しかし、その内側では、
・誰をターゲットにするか
・どんな価値を提供するか
・どこまで運営を磨き込めるか
という「質の競争」が一段と激しくなっています。
・コンセプトがあいまいな施設
・法令・ルール対応が甘い運営
・価格だけで勝負しようとするビジネス
は、法人・個人を問わず、今後ますます市場から退場を迫られていくでしょう。
一方で、茨城県のように、
・科学(つくば)
・海やエンタメ(大洗・ひたちなか)
・歴史・都市機能(水戸)
・農業・里山(県北・県西)
といった多様な資源を持つ地域では、民泊という柔軟な宿泊形態を組み合わせることで、「東京から日帰りで行く場所」ではなく、「数日〜数週間滞在してもらう場所」への転換をめざすことができます。
これから民泊事業に取り組む方、すでに運営されている方にとって、
・どのエリアで
・どのターゲットに
・どんな滞在価値を提供するのか
を改めて整理することが、2025年以降の勝ち残り戦略になるはずです。
少し長くなりましたが、事業計画や物件選び、行政との相談の際の整理材料として、役立てていただければ幸いです。
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