<創業・スタートアップ経営基礎講座>第13回「企業の社会的責任(CSR)を考える」
1. はじめに
「CSR(企業の社会的責任)」という言葉を聞くと、寄付や環境活動など、大企業の取り組みを思い浮かべる方も多いでしょう。
しかし、地域で事業を営む個人事業主や小さな会社にとっても、社会との関わり方は経営の基盤です。
顧客や取引先、地域の人々に「信頼される存在」であること。
それこそが、規模を問わず事業者が果たすべき社会的責任です。
本記事では、小さな事業でも実践できるCSRの考え方と取り組み方を整理し、日々の経営にどう生かせるかを見ていきます。
本記事は 『やりたい!をカタチにする 創業・スタートアップ経営基礎講座』の第13回です。
前回(第12回)は「人を雇う」をテーマに、内部の責任――働く人を守る視点を扱いました。
今回はその外側、「社会との信頼を築く」視点を取り上げます。
2. CSRとは何か ― 3つの責任の層を整理する
CSRとは、企業が社会の一員として果たすべき責任を指します。
難しく聞こえますが、次の3つの層で整理すると理解しやすくなります。
第1層:経済的責任
→ 良い商品・サービスで価値を生み、事業を継続すること
(まず「潰れない経営」が大前提)
第2層:法的責任
→ 法律や契約を守り、取引・雇用を公正に行うこと
(コンプライアンスの徹底)
第3層:社会的・倫理的責任
→ 地域・環境・社会と調和して活動すること
(プラスアルファの貢献)
小さな事業にとって、「事業を続けること」自体が最も重要な社会的責任です。
安定して仕事を続け、顧客や地域に価値を届ける――まずはそこから始まります。
3. 小さな事業におけるCSRの実践例
CSRは特別な活動ではなく、日々の仕事の中にあるものです。
ここでは、優先順位をつけて段階的に取り組める例を紹介します。
【最優先】(1) 本業を通じたCSR
まずは、本業そのものを誠実に行うことが最も基本で重要なCSRです。
品質の高い商品やサービスを提供し、適正な価格を守り、誠実に対応する。
それだけで十分に「社会的責任」を果たしています。
具体例:
- 見積もりや契約条件を書面で明確にする
- 納期を守る(守れないときは早めに連絡)
- クレームには24時間以内に初動対応
- 顧客の声に丁寧に耳を傾ける
「当たり前のこと」を確実に積み重ねることが、信頼の土台です。
【プラスアルファ】(2) 地域との関わり
余裕が出てきたら、地域との接点を少しずつ増やしてみましょう。
具体例:
- 地域イベントへの参加・協力(お金ではなく人手や場所の提供でも十分)
- 地元事業者との連携(共同イベントや相互紹介)
- 地産品の仕入れや地元職人との協働
- 商店街や自治会との交流
お金をかける必要はありません。
「地域の一員として関わる姿勢」が何よりも伝わります。
【できる範囲で】(3) 環境・サステナビリティへの配慮
最近では「SDGs」という言葉も広く知られるようになりました。
とはいえ、小さな事業でも無理のない形で取り組むことが大切です。
具体例:
- 紙の使用を減らす(電子化や両面印刷)
- 照明をLEDに変更する
- 配送ルートを見直す、アイドリングストップなどエコドライブを意識する
- 地域の清掃活動など、身近な環境活動に参加する
「環境にやさしい事務所・店舗づくり」は、社会貢献であると同時にコスト削減にもつながります。
4. CSRの土台:コンプライアンスの徹底
どんな社会貢献も、法令遵守という土台の上に成り立ちます。
CSRの出発点は、まず「ルールを守ること」です。
【守るべき最低ラインのチェックリスト】
契約・取引
- 契約内容や見積もりを書面で明確にしている
- 不当な条件や曖昧な約束をしていない
情報管理
- 顧客・従業員・取引先の個人情報を適切に管理
- 守秘義務を徹底し、情報漏えいを防止している
安全・品質
- 製品やサービスの安全基準を満たしている
- 作業環境の安全対策を実施している
労働環境
- 最低賃金・労働時間・休日のルールを守っている
- ハラスメント防止への意識を持ち、安心して働ける環境を整えている
コンプライアンスの徹底は、CSRの基礎であり最低ラインです。
立派な社会貢献よりも先に、「守るべき線を守ること」。
そこから信頼は始まります。
【参考:業種別のポイント】
- 士業・コンサル業:守秘義務、利益相反の回避
- 建設業:安全管理、産業廃棄物処理の適正化
- 飲食業:食品衛生、アレルゲン表示の徹底
- 小売業:表示の正確性、返品対応の明確化
5. 信頼を「見える化」する方法
良い行動をしても、相手に伝わらなければ評価されません。
CSRを形にするには、適切な発信が欠かせません。
ここでは、すぐに実践できる「信頼の見せ方」を紹介します。
【すぐできる発信方法】
(1) 経営理念・行動指針の明示
- ホームページのフッター、名刺の裏、店頭POPなどに掲載
- 例:「地域の皆様と共に成長する」「誠実第一、納期厳守」
→ 目に入る場所に理念を置くことで、初めての顧客にも安心感を与えます。
(2) SNSでの日常発信
- 地域イベントへの参加、環境配慮の取り組み、日々の姿勢を投稿
- 「宣伝」ではなく「活動報告」のトーンで発信するのがポイント
→ 継続的な投稿が「実践している姿勢」を伝えます。
(3) 顧客との丁寧なコミュニケーション
- アンケートの実施、口コミへの返信、お礼状の送付など
- クレーム対応も、誠実に応じることで信頼を築く機会になります。
→ 小さなやり取りの積み重ねが「誠実な会社」という印象を育てます。
(4) 地域・行政の制度活用
- 地域の独自制度や自治体のSDGs宣言制度などを活用
- 認定マークや登録証をホームページや名刺に掲載することで、信頼性が高まります。
→ 第三者の評価を得ることは、社会的信用を築く近道です。
(5) メディア対応
- 地域紙の取材、商工会の会報への寄稿など
- 「専門家」「地域の担い手」としての姿勢を見せることができます。
→ 発信内容が社会貢献につながると、自然に信頼が広がります。
これらは「宣伝」ではなく、「信頼の可視化」です。
誠実な経営姿勢をきちんと見せることで、取引先や顧客の安心感が生まれます。
【注意点】
過度な演出や誇張は逆効果です。
「やっていることを、正直に伝える」――その姿勢こそが、最も確かな信頼を築きます。
6. CSRがもたらす経営効果
CSRは単なる「社会貢献」ではなく、「経営戦略」でもあります。
社会的責任を意識して経営に取り組むことで、次のような好循環が生まれます。
【効果1】選ばれる企業になる
誠実な対応や社会性が信頼を呼び、顧客や取引先が増えます。
例:「あの会社は地域のことを考えている」という評判が口コミで広がる。
【効果2】人材が定着・集まる
理念や価値観に共感した人が「ここで働きたい」と感じる会社になります。
例: 求人で「地域貢献」「環境配慮」を打ち出すと、応募者の質が高まる。
【効果3】リスクを回避できる
コンプライアンスの徹底によってトラブルを防ぎ、炎上リスクを減らせます。
例: SNS時代では、誠実な対応こそが最大のリスク管理策となる。
【効果4】金融機関からの評価が上がる
融資審査では「信頼性」や「継続性」が重視されます。
例: CSR活動や地域貢献の実績を事業計画書に記載すると、説得力が高まる。
【効果5】ブランド価値が高まる
「この会社から買いたい」「この人に頼みたい」と選ばれるようになります。
例: 品質や姿勢への信頼が積み重なり、価格競争に巻き込まれにくくなる。
信頼を積み重ねることこそが、長く続く経営を支える最大の力です。
CSRへの取り組みは、単なる社会的意義ではなく、企業の未来を守る「実務的な投資」と言えます。
7. 自分の事業に合ったCSRを設計する
CSRに決まった形はありません。
無理をせず、自分が大切にしている価値観を出発点にしましょう。
【ステップ1】自分の「パーパス(存在意義)」を明確にする
パーパスとは、「なぜこの事業をしているのか」という根本的な問いです。
難しく考える必要はありません。次のような質問から始めてみましょう。
- 誰を幸せにしたいのか
- どんな価値を届けたいのか
- この仕事を通じて、社会にどう貢献したいのか
目的が明確になると、ブレない貢献の軸ができます。
【ステップ2】業種や強みに合わせた貢献の形を考える
自社の特性を踏まえて、できる範囲の社会的貢献を考えましょう。
例:
- 技術職(建設・製造):安全・品質・信頼を徹底する
- サービス業(コンサル・士業など):誠実な情報提供・守秘義務の順守
- 小売業:地域に寄り添う店舗づくり・交流拠点としての役割
- 飲食業:地産地消・食を通じた地域活性化
特別な活動でなくても、日常の延長線上にある取り組みがCSRになります。
【ステップ3】言葉にして発信する
最後に、「自分たちらしい貢献とは何か」を150字程度の文章でまとめてみましょう。
それがあなたの事業の「CSR宣言」になります。
例:
「当事務所は、地域の小規模事業者の挑戦を支え、
誠実なサポートを通じて地域経済の活性化に貢献します。」
短い一文でも、事業の信念や姿勢が伝われば十分です。
この宣言をホームページや名刺に載せるだけでも、信頼の第一歩になります。
8. 今日からできる!信頼を育てる3つの即効アクション
「何から始めればいいか分からない」という方へ。
今日からできる小さな一歩を3つ紹介します。
✅ アクション1:経営理念を150字でまとめ、HPに掲載する
自分の想いを短く言葉にすることで、誠実さが自然に伝わります。
難しく考えず、「なぜこの仕事をしているのか」を素直に書いてみましょう。
例:
「お客様の“困った”に寄り添い、丁寧な対応で安心を届けます。」
✅ アクション2:業務ルールを1つ決めて、必ず守る
小さな約束の積み重ねが、信頼をつくります。
「これだけは守る」というルールを決めて、日々意識してみましょう。
例:
- 納期は必ず守る(無理な場合は事前に連絡)
- 問い合わせには24時間以内に返信
- 見積もりは3営業日以内に提出
✅ アクション3:地域・環境への関わりを月1回SNSで発信
掃除活動、地元イベントの紹介、省エネの工夫など、できる範囲で構いません。
続けることで、「地域とつながる事業者」というイメージが育ちます。
📌 ポイント:完璧を目指さない
「毎日投稿」や「大きな活動」は必要ありません。
月1回、できることを続けるだけで十分。
小さな行動でも、続けることが最大の信頼につながります。
9. まとめ
CSRは「余裕のある企業の活動」ではなく、信頼される商売のあり方そのものです。
立派な取り組みでなくても構いません。
経営理念、日々の姿勢、誠実な対応――
その一つひとつが社会的責任の表れです。
「自分の事業を通じて、誰を幸せにしたいのか」。
この問いを持ち続けることが、持続可能な経営への第一歩です。
まずは今日、3つの即効アクションの中から1つ選んで、
小さく始めてみませんか?
次回(第14回)は「創業時に使えるデジタルツール」をテーマに、
日々の経営をもっと軽やかにする方法を紹介します。
ご案内
創業・開業の準備でお悩みではありませんか。
「どの形態で始めるべきか(個人事業か会社か)」「資金はどれくらい必要か」「補助金は使えるのか」「このタイミングで走っていいのか」――創業前はいろいろな不安が重なります。お一人で抱え込む必要はありません。
つむぎ行政書士事務所では、
・ビジネスプランの整理
・会社設立や各種手続き
・創業時の資金計画や補助金申請サポート
までを一緒に進める創業サポートを行っています。行政書士としての手続き面だけでなく、中小企業診断士として事業の方向性・採算面も含めて伴走いたします。
茨城県内(水戸・ひたちなか・那珂・笠間・つくば など)で開業をお考えの方は、まずは今の状況と「いつ頃から始めたいか」だけお聞かせください。
「このまま進めて大丈夫か」「補助金の対象になりそうか」「どの順番で手を打てばいいか」を整理してお伝えいたします。
この時点では正式なご依頼(契約)にはなりませんのでご安心ください。初回のご相談は無料です。
一歩を踏み出す準備を、今日から始めてみませんか。
これまでの講座一覧
これまでの講座一覧をクリックで表示
| 回 | テーマ |
|---|---|
| 第1回 ビジネスプランを準備する | 創業の第一歩として、事業のアイデアを整理し、具体的な形にまとめる方法を解説します。 |
| 第2回 ビジョン・経営理念を作る | 自分の事業が「なぜ存在するのか」を明確にし、共感を生む経営理念を言葉にします。 |
| 第3回 創業時に必要な手続き | 開業届・各種許認可・税務署や役所への届出など、創業時の実務を整理します。 |
| 第4回 法務・契約の基礎 | 契約トラブルを防ぐための基本知識と、押さえておくべき契約書のポイントを紹介します。 |
| 第5回 経営戦略・計画を作る | SWOT分析などを使いながら、事業の方向性を定めるための戦略づくりを学びます。 |
| 第6回 マーケティング・市場戦略を考える | 顧客ニーズをどう捉え、競合とどう差別化するか。マーケティングの基本を解説します。 |
| 第7回 広報・PR | SNS・ホームページ・プレスリリースなど、発信を通じてファンを増やす方法を紹介します。 |
| 第8回 起業関連のさまざまな支援策 | 補助金・助成金・融資制度など、創業時に使える支援策をわかりやすくまとめます。 |
| 第9回 はじめての会計 | 会計の基本構造を理解し、経営判断に役立つ数字の見方を身につけます。 |
| 第10回 価格転嫁の基礎 | 適正な利益を守るための価格設定と、取引先との交渉の考え方を解説します。 |
| 第11回 営業・販路開拓 | 「売り込み」ではなく「課題解決」としての営業を実践するためのステップを紹介します。 |
| 第12回 人を雇う | パート・アルバイト採用から社会保険まで、人を雇うときの流れと注意点を整理します。 |
| 第13回 企業の社会的責任を考える | CSRの基本と、中小企業でもできる信頼を育てる取り組みを解説します。 |
| 第14回 創業時に使えるデジタルツール | 無料または低コストで使える便利ツールを紹介し、業務効率化のヒントを提供します。 |
| 第15回 知的資産経営 | 人・技術・信頼といった「目に見えない強み」を見つめ直し、経営に活かす考え方を紹介します。 |
| 第16回 夢を実現し、会社を長く愛される存在にするために | 全講座のまとめとして、持続的に事業を続けるための視点と次のステップを提示します。 |

