<創業・スタートアップ経営基礎講座>第6回「マーケティング・市場戦略を考える」
1. はじめに
前回は経営計画の全体像を整理し、「どんなビジネスを目指すのか」という大枠を描きました。けれど、計画を立てただけでは商品やサービスは売れません。お客様に実際に選んでもらうためには、「どうやって市場に届けるか」「どんな仕組みで売れるようにするか」を考える必要があります。
この回で取り上げるのが「マーケティング・市場戦略」です。マーケティングという言葉は難しく聞こえるかもしれませんが、シンプルに言えば「お客様に選ばれるための工夫を積み重ねること」です。
例えばカフェを開こうと考えてみましょう。ただ「コーヒーを出す店をやります」では、数多くのチェーン店や個人店の中に埋もれてしまいます。けれど「地元の果物を使った季節限定スイーツを提供するカフェ」と言えば、それを求めるお客様に届きやすくなります。つまり、「誰に」「何を」「どうやって」提供するのかを明確にすることこそが、マーケティングの第一歩なのです。
本記事は 中小企業診断士兼行政書士が解説する『やりたい!をカタチにする 創業・スタートアップ経営基礎講座』 の一部です。ほかの回の内容も合わせて読むことで、創業準備の流れを体系的に理解できます。
この講座では、飲食店や小売店といった身近な事例を交えながら、ターゲット設定、差別化の工夫、販促の手法などをわかりやすく整理していきます。
2. マーケティングの基本的な考え方
マーケティングと聞くと「難しそう」「広告のこと?」というイメージを持つ方も多いかもしれません。しかし、実際にはもっとシンプルな考え方です。マーケティングとは「商品やサービスが自然に売れる仕組みをつくること」。つまり、お客様にとって「欲しい」「便利」「ここで買いたい」と思ってもらえる状況を意識的に作り出し、顧客のニーズを解決する営みです。
ここで、営業との違いを考えてみましょう。営業は「人が商品を売り込む」行為です。一方、マーケティングは「売り込まなくても買いたいと思ってもらう仕組みを整える」こと。両方は補い合うものですが、小規模事業では特に「仕組みづくり」が長期的な集客に直結します。
具体例:八百屋さんの工夫
- 八百屋Aは、毎週末に「特売チラシ」を配布して来店を呼び込んでいます。しかし、チラシを出すときだけ客足が増え、通常日は閑散としがちです。
- 八百屋Bは、「夕方に惣菜半額セールをする」「LINE公式アカウントでその日の入荷情報を配信する」という仕組みを導入しました。その結果、常連客が自然に増えて、安定した売上につながっています。
どちらも努力はしていますが、違いは「売り込み型」か「仕組み型」かです。マーケティングを考えるときは、この「仕組み」を意識することが大切です。
また、マーケティングを整理する代表的なフレームワークに「4P(Product・Price・Place・Promotion)」や「4C(Customer・Cost・Convenience・Communication)」があります。これらは後の章で具体例を交えながら取り上げていきますが、最初に押さえておきたいのは「お客様目線で考える」という一点です。
3. 市場環境を分析する
マーケティングを考えるときに大事なのは、市場の「外部環境」と「内部環境」を切り分けて整理することです。これは「自分でコントロールできること」と「できないこと」を分ける作業とも言えます。
外部環境(自分でコントロールできないこと)
- 市場の規模や成長性
- 競合の数や特徴
- 消費者のライフスタイルや流行
これらは自分の力では変えられない要素ですが、どう対応するかを考えることで戦略の方向性が決まります。
例:カフェを開く場合
- 大手チェーンがすでに出店している(脅威)
- しかし「子連れで入りやすい店」が少ない(機会)
内部環境(自分でコントロールできること)
- 自分の経験やスキル
- 商品やサービスの特長
- 店舗の規模、資金の使い方
これらは自分次第で変えられる要素なので、強みを伸ばし、弱みを補う工夫を考えます。
例:雑貨店の場合
- 強み:作家とのつながりがあり、オリジナル商品を仕入れできる
- 弱み:駐車場が狭い → 近隣コインパーキングと提携すれば改善できる
SWOT分析の活用
外部(機会・脅威=コントロールできない)と内部(強み・弱み=コントロールできる)を整理して組み合わせることで、現実的な戦略を導きやすくなります。
例:小規模なカフェのSWOT
- 強み(Strength):調理師資格を持ち、手作りスイーツが得意
- 弱み(Weakness):資金が少なく広い店舗は難しい
- 機会(Opportunity):健康志向や地産地消の流行
- 脅威(Threat):大手チェーンによる低価格競争
このように「外部」と「内部」を分けて考えると、自分が打つべき戦略がぐっと明確になります。
4. ターゲット顧客を決める
商品やサービスを提供するとき、「誰に売るのか」をはっきりさせることはとても重要です。全ての人に受け入れられるものを目指すと、結局は誰の心にも強く響かない中途半端な商品になってしまいます。限られた資源で戦う小規模事業にとって、ターゲットを絞ることは効率のよい戦い方なのです。
ペルソナを設定する
ターゲットを具体的に描く方法として「ペルソナ」があります。これは「典型的なお客様像」を細かくイメージすることです。
- 年齢・性別
- 職業・収入
- ライフスタイルや趣味
- どんな悩みを持っているか
こうした情報を具体化することで、商品やサービスの打ち出し方が見えてきます。
具体例:カフェの場合
- ターゲット:20〜30代女性、休日に友人とゆっくり過ごす場所を探している
- 特徴:SNSで情報収集をする、写真映えを重視する
- 戦略:インスタ映えするスイーツや落ち着いた内装を用意する
具体例:小売店の場合
- ターゲット:近隣に住む高齢者、毎日の買い物を徒歩圏で済ませたい
- 特徴:価格の安さより「近さ」「買いやすさ」を重視
- 戦略:小分け商品や配達サービスを用意する
「誰に売るか」が「どう売るか」を決める
ターゲットが明確になれば、商品の内容や価格、販促の手段まで自然に決まっていきます。逆に言えば、ターゲットをあいまいにしたままでは、どんな宣伝も響かない可能性が高いのです。
5. 差別化戦略を考える
ターゲットが決まったら、次に考えるのは「競合とどう違いを出すか」です。同じような商品やサービスが世の中にあふれている中で、お客様に選んでもらうには、他店では得られない特徴や体験を打ち出す必要があります。これが差別化戦略です。
差別化の切り口
差別化は「特別な技術や大きな投資」がなくても可能です。切り口はいくつもあります。
- 価格:高級志向、または定額制・回数券などの工夫
- 品質:素材へのこだわり、オリジナル性
- サービス:接客の丁寧さ、顧客サポート
- 体験:居心地のよさ、店舗デザイン、イベントの開催
具体例:ラーメン店の場合
- 競合:全国チェーンや低価格の大衆店
- 差別化ポイント:「無添加スープ」「地元産食材を使った限定ラーメン」
- 戦略:健康志向や地産地消に敏感な層を取り込む
具体例:雑貨店の場合
- 競合:大手通販サイト、全国チェーンのインテリアショップ
- 差別化ポイント:「地元作家のハンドメイド商品」「一点もの」
- 戦略:ネットでは手に入らない“出会い”を提供する
ニッチ戦略の有効性
資源が限られる小規模事業にとっては、「すべてに対応する」のは難しいものです。むしろ「小さな市場に絞って、そこで一番になる」ほうが強みを発揮できます。
- 例:カフェ → 「子育て世代が安心して利用できる空間」を特化して提供
- 例:雑貨店 → 「ギフト需要専門」として贈答用ラッピングを強化
差別化は「大きな違い」でなくてもかまいません。小さな工夫でもお客様にとって意味があるなら、それが他店との差になります。
6. マーケティング・ミックス(4P)の実例
マーケティング戦略を具体的に組み立てるときによく使われるのが「4P」という考え方です。
- Product(商品)
- Price(価格)
- Place(流通・場所)
- Promotion(販促活動)
この4つをバランスよく考えることで、「誰に」「何を」「どのように」届けるかが明確になります。
Product(商品)
商品そのものの内容や特長、付加価値をどう設計するか。
- 例:カフェ → 「季節ごとに地元の果物を使ったスイーツ」
- 例:雑貨店 → 「一点もののハンドメイド雑貨」
Price(価格)
単純に「安くする」だけではなく、どんな価値をどう伝えるかが重要。
- 例:カフェ → 「定額制コーヒーパス(月額で毎日1杯)」でリピーターを獲得
- 例:雑貨店 → 「ギフト用セット割引」でまとめ買いを促す
Place(流通・場所)
どこで商品を手に取ってもらうか、販売チャネルをどう選ぶか。
- 例:カフェ → 「駅近立地+テイクアウト対応」で利便性を強化
- 例:雑貨店 → 店舗販売に加え、BASEやminneでのネット販売を併用
Promotion(販促活動)
お客様にどう知らせるか、来店・購入をどう後押しするか。
- 例:カフェ → Instagramで「写真映えスイーツ」を発信、初来店者にクーポンを配布
- 例:雑貨店 → 店頭イベント「作家との交流会」を開催し、固定客を育てる
4Pは相互に関連する
例えば「商品」で高級感を打ち出すなら、「価格」も安売りではなく、こだわりに見合った設定にする必要があります。さらに「場所」も高級感を損なわない立地や内装にし、「販促」もSNSでの値引き合戦ではなくストーリー性のある発信を重視すべきです。
逆に、カジュアル路線を狙う場合はどうでしょうか。
- 商品:気軽に試せるドリンクや雑貨
- 価格:学生や若い世代でも手に取りやすい水準
- 場所:アクセスしやすい駅前や商店街
- 販促:InstagramやTikTokで「日常に寄り添う雰囲気」を発信
このように、4つがそれぞれチグハグではなく「狙うターゲット像」に合わせて統一されていることが、差別化を強める力になります。
7. デジタルマーケティングの活用
小さな飲食店や小売店にとっても、デジタルは強力な味方になります。看板やチラシだけに頼らず、オンライン上でお店の存在を知ってもらい、来店や購入につなげる流れをつくることができるからです。ここでは代表的なツールを取り上げ、それぞれの役割を整理してみましょう。
ホームページ
お店の公式サイトは、営業時間やメニューを載せるだけでなく、写真やこだわりを伝える場として活用できます。訪れる前から「ここに行ってみたい」と思わせる仕掛けを作れるのが強みです。
- 24時間営業の「お店の顔」になる
- 季節商品やイベント情報を更新できる
- 信頼感や安心感を伝える
Googleビジネスプロフィール
検索したときに地図と一緒に表示される情報欄で、地域ビジネスに欠かせません。特に飲食や小売は「近くで探す」ニーズが多いため、整備するだけで集客につながります。
- 「地域名+業種」で検索されたときに表示される
- 営業時間や定休日を最新に保てる
- 写真や口コミの充実で来店意欲を高められる
SNS(Instagram・TikTok・LINE公式など)
SNSは、お店の雰囲気や商品の魅力を直感的に伝えやすい手段です。さらにリピーターづくりや口コミ拡散にも役立ちます。
- Instagram:写真映えやストーリーで新商品告知
- TikTok:短い動画で若い層にリーチ
- LINE公式:クーポン配信や常連客へのお知らせに便利
SNS広告
少額から試せるオンライン広告も効果的です。地域や年齢を指定できるため、小規模事業でも効率よく使えます。
- 予算を抑えて始められる
- 配信地域や属性を細かく指定できる
- 効果測定がしやすい
継続が成果を生む
どのツールも「一度やって終わり」では効果が出ません。小さくても継続して発信することが、集客力をじわじわと積み重ねる秘訣です。
8. 実行と改善のサイクル
マーケティング戦略は、考えた通りにすぐ成果が出るとは限りません。大切なのは「小さく試し、結果を見て改善する」ことです。完璧な計画を作ってから動くより、まずは一歩を踏み出し、現場の反応を見ながら修正を重ねる方が実務的です。
このときに役立つのが「PDCAサイクル」です。
- Plan(計画):新しい施策を考える
- Do(実行):小さく始めてみる
- Check(評価):結果を数値や反応で確認する
- Act(改善):うまくいった点を伸ばし、課題を修正する
カフェでの具体例
- Plan(計画):金曜限定で「季節のスイーツ」を販売する企画を立てる
- Do(実行):週末だけ数量限定で実際に販売し、Instagramで写真を投稿して告知する
- Check(評価):販売数や残数、SNSの「いいね」やコメント数、ストーリーの閲覧数を確認する
- Act(改善):反応が良ければ定番化や種類拡大につなげ、売れ行きが鈍ければ価格や見せ方を見直す
小さな取り組みを繰り返すうちに、「お客様が本当に求めているもの」が徐々に見えてきます。小規模なカフェだからこそ、柔軟に方向転換できるのが強みです。
9. まとめ
マーケティング・市場戦略は、決して大企業だけのものではありません。小さな飲食店や雑貨店でも、「誰に」「何を」「どのように」届けるかを意識するだけで、お客様に選ばれる可能性はぐっと高まります。
今回見てきたように、まずは外部環境と内部環境を整理し、自分がコントロールできることとできないことを分けて考えることが第一歩です。そのうえで、ターゲットを絞り込み、競合との違いを打ち出し、商品・価格・場所・販促を一貫性のある戦略として組み立てていきます。
さらに、デジタルツールを活用すれば、小規模な事業でも効率的に情報を発信し、来店や購入につなげられます。そして大切なのは「一度の試みで完璧を目指さないこと」。PDCAサイクルを回し、小さく試して改善を重ねることで、少しずつお客様の心に届く仕組みが出来上がります。
次回は「広報・PR」をテーマに、社会的な信頼を築きながら、事業をより多くの人に知ってもらう方法を取り上げます。
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| 第6回 マーケティング・市場戦略を考える | 顧客ニーズをどう捉え、競合とどう差別化するか。マーケティングの基本を解説します。 |
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