経審スコア改善の落とし穴|短期的な加点が長期的な損失を招くケースと健全な対策
はじめに
建設業にとって、経営事項審査(経審)スコアは入札ランクや受注機会を左右する指標です。公共工事の入札では、このスコアが一定水準に達していないと参加資格を得られない場合が多いです。また、点数が高いほど有利な立場で競争に臨めます。
そのため、「今年は何としてもスコアを上げたい」「競合より高いランクを維持したい」と考えるのは自然なことです。しかし、短期的に数値を引き上げるための無理な施策は、翌年以降に大きな副作用をもたらすことがあります。
例えば、資金繰りを犠牲にして借入金を一時返済する、実態に合わない制度を急いで導入する、といった方法は、点数だけを見れば改善に見えても、中長期的には会社の信用や利益を損なう可能性があります。さらに悪い場合には、金融機関や取引先からの信頼を失い、公共工事の受注どころか経営存続そのものが危うくなることさえあります。
本記事では、ありがちな短期的改善策とそのリスク、そして安全かつ持続的なスコア改善の方向性について、行政書士かつ中小企業診断士の視点から詳しく解説します。
短期的に点数を上げるが、長期的に危険な行為の例
1. 決算直前の借入金一時返済
経審の「純支払利息比率」や「負債比率」は、借入金の残高を減らすことで改善されます。そのため、決算日直前に短期借入金を全額返済し、決算書上の負債を小さく見せる企業があります。
確かに、翌年の経審においてこれらの指標は向上します。しかし、実態としては決算後すぐに同額を再度借り入れることが多く、金融機関の目には「数字合わせ」と映ります。銀行は資金繰りの健全性や返済能力を重視しますから、このような対応はむしろ評価を下げる危険があります。
さらに、決算期の仕入れ支払いや賞与支給に備える資金が不足し、一時的な資金ショートを招く可能性もあります。万が一、支払遅延が発生すれば、取引先の信用も大きく損なわれます。
2. 実態のない利益操作
総資本売上総利益率や自己資本利益率を高めるため、棚卸資産を実際より多く計上したり、本来今期に計上すべき修繕費や広告費を翌期に繰り延べたりする事例もあります。
これらは一時的に利益を押し上げますが、実態を伴わないため粉飾決算と疑われるリスクが高くなります。税務調査で否認されれば、追徴課税や延滞税の支払いだけでなく、公共工事の入札参加停止や許可取消の可能性も出てきます。
また、利益の「先送り」は翌期の業績を圧迫します。結果として、次年度は点数が急落し、入札ランクを維持できなくなることも珍しくありません。
3. 不要な高額機械の購入
W点(その他の審査項目)の「建設機械保有点数」を上げるために、稼働予定のない高額建設機械を購入するケースがあります。
確かに機械を保有しているだけで加点対象となりますが、実際には維持管理コスト・減価償却費が利益を圧迫します。保管場所や法定点検の費用も無視できません。しかも、売却する際には中古市場での価値が大きく下がっているため、投資回収は難しいのが現実です。
このような設備投資は、受注増加や作業効率化といった直接的な経済効果が見込める場合に限って行うべきです。
4. 実態に合わない制度加入
経審では、退職金制度や法定外労災制度、企業年金制度などへの加入によって加点が得られます。そのため、慌てて高額な制度を導入する企業もあります。
しかし、掛金や制度運営コストが経営規模に見合わない場合、資金繰りを長期的に圧迫します。途中で制度を解約すれば従業員や監督官庁の信用を失い、労務トラブルにも発展しかねません。
制度導入は、中長期の財務シミュレーションを行い、負担に耐えられるかを確認してから着手するべきです。
5. 一時的な人員増加
技術者数や社会保険加入者数による加点を狙い、入札直前に短期間だけ人員を雇用する事例もあります。
これは短期的な加点にはつながりますが、離職率増加や職場の不安定化を招く危険があります。特に、現場経験の少ない人材を急に入れると、安全面や品質面で問題が起こる可能性が高まります。さらに、社会保険や労務管理の負担も増大します。
なぜ短期的な改善がリスクになるのか
上記のような施策は、一見すると経審スコアを改善しているように見えます。しかし、共通して以下のリスクを抱えています。
- 信用リスク
銀行・取引先・監督官庁からの評価が低下し、資金調達や受注機会に悪影響を与える。 - 法的リスク
虚偽申請や粉飾決算とみなされると、建設業許可の取消や指名停止に直結。 - 経営リスク
資金繰り悪化や固定費増加によって、景気変動への耐性が低下。 - 人的リスク
従業員の離職やモチベーション低下が起こり、人材確保が困難になる。
事例コラム:短期的な加点策が裏目に出たケース
ケース1:借入金一時返済で資金ショート
茨城県内のある建設会社A社は、経審の純支払利息比率を改善するため、決算直前に1,500万円の短期借入金を全額返済しました。確かに翌年のスコアは改善され、入札ランクも一段上がりました。
ところが、決算翌月に大型公共工事の受注が決まり、着工前の資材仕入れに多額の資金が必要となりました。銀行は「決算時に返済してすぐに借り直すやり方は健全でない」と判断し、新規融資に慎重姿勢を見せました。結果、資材納入が遅れ、現場工程にも影響が及び、追加費用の発生で利益が大幅に減少しました。
教訓:数字だけを良く見せる行為は、金融機関の信頼を損ない、必要なときの資金調達力を低下させます。
ケース2:高額機械購入が経営を圧迫
B社はW点の「建設機械保有点数」を上げるため、ほとんど使用しないクレーン車を2,000万円で購入しました。確かにスコアは上がったものの、年間の保険料・点検費・減価償却費が想定以上に重くのしかかりました。
さらに、購入から2年後には中古市場価格が半額以下に下落。結局、売却してもローン残債が多く残り、経営の負担となってしまいました。
教訓:設備投資は点数加点だけでなく、稼働率や収益性を基準に判断すべきです。
ケース3:制度導入の負担で資金繰り悪化
C社は経審加点のため、退職金制度を慌てて導入しました。しかし掛金が想定以上に高く、売上の変動が大きい同社にとっては過剰な負担となりました。結果、掛金の支払いが遅延し、従業員の不満も高まりました。
教訓:制度導入は、財務シミュレーションを行い、将来の負担を見極めてから決定することが重要です。
Q&A:経審対策でよくある疑問と正しい考え方
Q1. 決算直前に借入金を減らせば、やっぱり経審スコアは上がりますよね?
A. 確かに一時的には上がります。しかし、銀行や取引先の信用を失うリスクが高く、翌期の資金繰りに悪影響を及ぼす場合があります。計画的な借入返済や利益体質の改善の方が長期的に有効です。
Q2. 使わない建設機械でも保有すれば加点対象になるのでは?
A. その通りですが、維持費・減価償却費・保険料などの固定費が利益を圧迫します。入札加点よりも、投資回収が見込める機械導入を優先すべきです。
Q3. 社会保険加入者数を増やすために、短期雇用を入札前だけ行うのは問題ですか?
A. 法的に禁止されているわけではありませんが、長期雇用を前提としない増員は労務トラブルや士気低下の原因になります。加点目的だけの採用は避けるべきです。
Q4. 制度加入や設備投資は、加点効果とコストのどちらを優先すべきですか?
A. 長期的な資金繰りに耐えられるかどうかが最優先です。加点効果は一時的でも、固定費は毎年発生します。制度や設備が本業の収益力向上に直結するかを必ず検討してください。
Q5. 健全な経審改善策は何から始めればいいですか?
A. まずは現状分析です。行政書士や中小企業診断士に経審データと財務諸表を見てもらい、どの指標を改善する余地が大きいかを特定しましょう。その上で、無理のない範囲で制度導入や利益改善策を計画的に実施します。
身の丈ランク戦略|無理なく実績と信用を積み上げる経審対策
1. 高ランク化の落とし穴
経審スコアを大幅に引き上げれば、より上位ランクでの入札参加が可能になります。しかし、高ランク帯に挑むには、資格者数の確保や経営規模の拡大、設備投資など、大きな負担が伴います。
この結果、落札しても利益が薄い工事を受注してしまったり、人員不足で現場が回らなくなったりするケースも少なくありません。特に、急激なランクアップは「受注できるが赤字になる」という逆転現象を招く危険があります。
2. 適正ランクで戦うメリット
一方で、身の丈に合った入札ランクを維持すれば、次のようなメリットがあります。
- 必要な資格者数や経営規模の負担が軽く、無理のない経営が可能
- 入札競争が激化しすぎず、落札率が高くなる傾向
- 過剰な設備投資や制度導入が不要
- 確実に利益を確保できる工事を選びやすい
この「適正ランク戦略」によって、経営の安定と現場品質の維持が両立できます。
3. 実績の積み上げが生む信用
発注者は、過去の工事実績や履行状況を重視します。特に、同規模工事での完工実績を継続的に積み上げることは、経審スコア以上の価値を持ちます。
安定した品質と納期遵守を続ける企業は、指名競争入札での優遇や、随意契約の対象として選ばれる可能性が高まります。これは点数だけでは得られない「信用」という資産です。
4. ランク戦略の実務ステップ
- 現状の経審スコアと財務状況を分析
- 利益が確保できる工事規模を基準に適正ランクを設定
- そのランク内で入札勝率を高める営業戦略を策定
- 同ランク内での完工実績を継続的に積み重ねる
- 信用力を背景に、指名競争や随意契約の枠を広げる
まとめ
経審スコアは確かに重要ですが、短期的な数字合わせで高ランク化することは、経営リスクを高める諸刃の剣です。
それよりも、身の丈に合った入札ランクを維持しつつ、利益を確保できる工事を確実に受注・完工し、実績を積み重ねる戦略こそ、長期的な信用と安定受注を生みます。
そして、この安定実績こそが、随意契約や指名競争での優遇といった「数字では測れない強み」につながります。
経審の点数改善は、あくまで健全な経営改善の結果として現れるべきものであり、信用と利益の積み上げが最終的にスコアにも反映されるのが理想です。
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