サカイ引越センターが内部通報者を提訴-公益通報者保護制度の限界を問う

サカイ引越センター訴訟
目次

「声を上げた者が訴えられる」社会の衝撃

「情報漏洩を報告したら、訴えられた」――
そんな理不尽に思えるニュースが報じられました。

大手引越業者・サカイ引越センターが、同社の不適切な個人情報廃棄を告発した元従業員3名を名誉毀損で提訴したと報じられています。なお、個人情報の不適切な取扱いと謝罪は同社の公表資料でも確認できます。

それにもかかわらず、公益通報者が「会社の信用を毀損した」として訴えられたこの事件は、公益通報制度の根幹を揺るがす重大な局面と言えるでしょう。

追記(2025年10月21日)

この問題が10月21日放送のよみうりテレビ「かんさい情報ネットten.」の特集で取り上げられました。
特集内容の要旨としては下記です。

  • サカイ引越センターのケースについて公益通報者(仮名)のインタビュー
  • サカイ側の弁護士が通報者宅に押し掛ける映像
  • 別の医療機器メーカーでの贈収賄事件についての公益通報者に対する訴訟事案の紹介
  • 専門家による公益通報者保護法の不備の指摘

内容はよみうりテレビ公式YouTubeにもアップされています。

元従業員が訴えられた理由とは?

東京新聞の記事より、事件の経緯を時系列で確認します。

  • サカイ引越センターの元従業員が、約400件の顧客情報を含む書類が透明なゴミ袋でごみ集積所に廃棄されているのを発見
  • 労働組合を通じて会社に報告するも、適切な対応がなされず。
  • やむなく、新聞社に情報提供。
  • 報道を受け、サカイ引越センターは不適切な処理の事実を認め、謝罪
  • しかしその後、会社は元従業員3名を「社会的な評判をおとしめる目的で新聞社に情報提供をした」と主張。「名誉毀損」にあたるとして各100万円の損害賠償を求めて東京地裁に提訴
  • さらに、会社の顧問弁護士と役員が元従業員の自宅を訪れ、ドアを叩くなどの行動を取っていたことも報じられています。

この一連の動きに対し、記事内で専門家から「スラップ訴訟に近いのでは」との指摘が上がっています
※個別事案の当否は最終的に裁判所の判断に委ねられます。

公益通報者保護制度は機能しているのか?

公益通報者保護法(平成16年法律第122号)は、企業・組織の違法行為や不正行為を内部から告発した従業員が、不利益な取り扱いを受けないよう保護する法律です。

通報者が制度によって保護されるためには、次のような要件を満たす必要があります。

要件概要
① 違反の事実法令違反に関する通報であること(例:個人情報保護法)
② 真実相当性一定の証拠に基づいた通報であること
③ 通報先の妥当性社内・行政・メディアの順で段階的に通報することが望ましい

今回の件では、

  • 個人情報の大量漏洩という重大な法令違反の可能性
  • 会社が事実を認め、謝罪していることによる真実相当性の確保
  • 社内での対応がなされなかったため、やむを得ずメディア通報

という点から見ても、元従業員の行動は制度上、保護されるべき公益通報と評価できる余地が大きいと考えられます。

※公益通報者保護法は、要件を満たす公益通報について、事業者から通報者への損害賠償請求を制限しています。
(第7条 第二条第一項各号に定める事業者は、第三条各号及び前条各号に定める公益通報によって損害を受けたことを理由として、当該公益通報をした公益通報者に対して、賠償を請求することができない)。
外部(報道機関等)への通報が保護されるかは、正当な理由や相当性などの要件の充足が前提になります。

「スラップ訴訟」とは何か?

~声を封じるための訴訟という構図~

スラップ訴訟(SLAPP:Strategic Lawsuit Against Public Participation)とは、

社会的に意義のある通報や発言を行った個人に対し、訴訟という手段で報復・威圧する訴訟

を指します。

こうした訴訟の目的は、損害賠償を得ることではなく、「訴えること自体」によって相手に精神的・経済的負担を与え、沈黙させることにあります。

今回のように、

  • 通報の事実を会社が認めている
  • 元従業員の生活空間にまで会社関係者が訪れている
  • 名誉毀損の賠償請求が通報者に向けられている

といった状況は、スラップ訴訟の構造と類似しています。

前述の「かんさい情報ネットten.」(10月21日放送)の特集で、専門家が、公益通報のための「準備行為(資料の収集・持ち出し等)」に対する民事上の免責が法律上明文で整備されておらず、この“穴”を突いた報復的訴訟(いわゆるスラップ)を可能にしているとの解説が紹介されています。

歴史に学ぶ:ミートホープ事件の告発者の末路

公益通報制度の限界を示す代表的な実例が、「ミートホープ事件」(2007年)です。

北海道苫小牧市の食肉加工会社「ミートホープ」が数々の食品偽装を行っていたことを当時の元常務が告発して社会問題に発展した事件で、後の消費者庁発足のきっかけとなりました。

この事件で内部告発を行った元常務は、のちに次のような人生を歩みました。

  • 会社は倒産し、自身は職を失う。
  • 精神的に追い詰められ、躁うつ病を患う。
  • 親族との関係が絶たれ、孤独な生活へ。
  • 「通報が自分の人生を壊した」と自ら語る。

正義を貫いたはずの通報者が、社会から守られなかった。
その事実は、公益通報制度の「理想」と「現実」の乖離を示しています。

上記インタビュー記事で元常務は以下のように語っています。

「あの時はね、やはり勇気があったと思う。(会社が)こんなことしていいのか、と。すべてが偽装だったんだから。でも、今になってみればね、『バカなことをしたな』という気持ちが強いね。社会的には意義があったかも知らんけど、本人の利益を考えたらだめですね。後悔したって仕方がないけど、返り血が大きすぎますから」

もし名誉毀損が認定されれば制度の信頼は大きく損なわれる

この裁判で、元従業員の行為が「名誉毀損」として認定されてしまった場合、次のような深刻な影響が懸念されます。

  • 今後の通報者が萎縮し、企業の不正が表に出なくなる。
  • 制度の保護が実質的に無効化される。
  • 「沈黙は金、正義は損」という逆転の価値観が社会に根付く。

それはすなわち、「通報者を守る制度」が形骸化し、制度の根幹が崩れる瞬間となります。

正直者が誇りを持てる社会に

企業の信用とは、「不正を隠すことで守るもの」ではなく、問題に正面から向き合い、改善する姿勢によって築かれるものです。

公益通報者は、社会の健全性を守る“監視者”であり、彼らが報われない社会に未来はありません。

終わりに:この裁判は、社会のあり方を問う試金石

サカイ引越センターの提訴事件は、単なる企業と個人のトラブルではありません。
それは、日本社会が「正義」とどう向き合うかを問う試金石なのです。

  • 制度は通報者を守れるのか?
  • 通報に報復する訴訟は認められるのか?
  • 私たちは、声を上げる勇気を支える仕組みを持っているのか?

これらの問いに対する答えが、この訴訟の判決に込められることになるでしょう。

皆さんは自分の職場で不正を目にしたとき、声を上げる勇気を持てますか?
そして、それが守られる社会だと、自信を持って言えるでしょうか?

本記事は公開資料・報道に基づく一般的情報提供であり、特定当事者の行為を断定・評価するものではありません。

労働現場で声を上げづらくなる構図は、退職の場面にも通じます。

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