なぜ役所の言うことは違う?行政裁量の正体をやさしく解説

行政手続きでよくある「窓口対応の違い」。実は制度の不備ではなく、行政裁量という仕組みの中で起こっている現象なのです。行政書士がその正体を丁寧に解説します。

目次

「昨日はOK、今日はダメ?」役所あるあるの正体

「同じ書類を持っていったのに、担当者によって言うことが違う」
「市役所と県庁で説明が食い違って困った」
「窓口で案内された通りに出したら『その手続きはできません』と別の人に言われた」

こうした“行政あるある”に心当たりがある方は多いのではないでしょうか。

これは単なる「担当者の不手際」や「職員教育の不足」ではなく、行政の制度そのものの構造が原因になっている場合が少なくありません。

特に、「行政裁量」という考え方は、行政が一律ではない対応をとる背景にある重要なキーワードです。
今回は、行政書士の立場から、こうした行政手続きの“なぜ?”をやさしく解きほぐしていきます。


行政裁量とは?役所に“自由な判断”がある理由

▶ 行政裁量とは?

行政裁量とは、行政機関が法律の枠の中で、一定の自由な判断を認められている範囲のことです。
許認可、補助金の審査、建築や開発の許可、農地転用の判断など、あらゆる行政分野に裁量の余地が存在します。

たとえば:

  • 「この資料で十分とみなすかどうか」
  • 「要件を形式的に満たしているか、実質も見て判断するか」
  • 「過去に同様のケースがどう処理されたか」

などが、担当職員の判断に委ねられているのです。

▶ 裁量とは“勝手に決める”ことではない

誤解されがちですが、行政裁量とは「好き勝手な判断ができる」という意味ではありません。あくまで、目的や公益性を踏まえて、複数の選択肢の中から最適な判断を選ぶ権限なのです。

たとえば、補助金の採択審査では、要件を満たしていても、限られた予算や地域バランスが考慮され落選することがあります。これは「不公平」ではなく、「政策目的の実現」という観点からの裁量行使です。


「通達」「運用」が行政判断を左右する?

行政手続きがすべて法令だけで決まるわけではないのは、行政の現場を知る人なら常識です。
実際の判断には「通達」や「運用マニュアル」など、行政内部の補助ルールが大きな影響を与えています。

▶ 通達:法律を現場でどう使うかの“解説書”

通達とは、行政機関の上部組織から下部組織に出される解釈・運用の指針です。たとえば、国土交通省から各地方整備局へ、厚生労働省から各都道府県へ、といった形で発出されます。

これは法令ではないため法的拘束力はありませんが、実務ではこれを「絶対」として扱っているケースもあります。

行政書士の実務でも、「この審査項目の扱いは○年の通達に基づいています」といったやり取りは頻繁にあります。

▶ 運用マニュアルやQ&A:自治体ごとに差がある

通達よりさらにローカルなルールが、市町村単位で作られる運用マニュアルです。

例えば同じ「農地転用許可申請」でも、
A市:「現況写真は3枚で可」
B町:「現況写真は6枚、うち1枚は北から撮影」
といった差が普通に存在します。

そのため、「前の自治体ではOKだったのに、こっちではNG」と感じるケースも珍しくないのです。


経験則で決まる行政判断――その実態

現場では「このケースは前にこう処理したから」といった前例主義が強く作用しています。

これは悪いことばかりではなく、現場職員が判断ミスを避けるための“安全策”でもあります。ただし、ベテラン職員の引継ぎがない部署では、人によって運用がガラリと変わるという問題もあります。

ときには、まったく同じ書式や添付資料で「この前はOKだったが、今回はダメ」と言われることもありますが、そこに明確なルールの違反があるとは限りません。

行政手続きには、人間の判断が必ず入り込む余地があるという前提で接することが重要です。


お願いベースの行政指導、従うべき?

行政手続きで意外と多いのが、行政指導と呼ばれる“お願いベース”の対応です。

▶ 行政指導とは?

行政指導とは、行政機関が申請者や事業者に対し、法的義務はないが望ましい対応をお願いする行為です。

例)
「法的には提出不要だけど、添付してもらえると助かります」
「市としての方針上、この条件を満たしてほしい」

従わなくても違法ではありませんが、現実的には「従わないと審査が進まない」「後々不利益になる」といった空気があるため、多くの申請者が受け入れざるを得ない状況になります。

行政指導の“曖昧さ”も、窓口対応の不統一感を生む一因です。


行政裁量とうまく付き合う3つのコツ

では、こうした行政裁量や窓口の“ばらつき”と、どう向き合っていけば良いのでしょうか。実務の中で見えてきた3つの工夫をご紹介します。

① 記録を残す:言った・言わないを防ぐ

電話ではなくメールで問い合わせたり、相談記録をもらったりすることで、後から確認できる証拠を残しましょう

たとえば、
「○月○日に××さんと相談し、A書類で提出して良いと確認済」
といった事実があれば、別の担当者から否定されたときも、落ち着いて対応できます。

② 根拠を聞く:「どの通達・基準に基づいていますか?」

理不尽に感じる対応があった場合は、「その判断の根拠は何でしょうか?」と丁寧に尋ねることが大切です。
そうすることで、担当者の個人的な判断なのか、組織としてのルールなのかを見分けることができます。

③ 行政書士に相談する

行政書士は、法令・通達の読み込みと現場運用の橋渡しを得意とする専門職です。
特に補助金、許認可、農地転用、外国人手続きなど、「行政裁量」が大きい分野では、事前に相談することで時間やコストのロスを防ぐことができます。


まとめ:行政裁量の仕組みを知れば、もう迷わない

行政手続きの世界では、「制度通りにやればすべてスムーズに進む」という理想は必ずしも通用しません。
そこには必ず、“行政裁量”という余地が存在し、人の判断や組織の運用ルールが絡んできます。

この仕組みを理解しないままでいると、「なんで違うの?」「納得できない」と不信感が生まれがちです。
でも逆に言えば、行政裁量の構造と限界を知ることで、よりスムーズで冷静な対応ができるようになります。

行政に対して“壁”を感じたときこそ、法的知識と実務経験をもった行政書士のサポートが力になります。
「手続きの見通しが立たず不安」「担当者と話が噛み合わない」と感じたら、お気軽にご相談ください。

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