海田町贈収賄事件にみる随意契約の危うさ
広島県海田町で発覚した公共工事をめぐる贈収賄事件は、地方自治体の契約制度、とりわけ「随意契約」の運用が抱える根本的な課題を私たちに突きつけました。

収賄の疑いで逮捕されたのは、海田町役場建設課に勤務していた技師・岡山光太郎容疑者(26)。そして贈賄の疑いで逮捕されたのは、同町の土木会社「梨真興業」社長の安部真矢容疑者(39)です。
報道によれば、岡山容疑者は、町が発注する公共工事において、梨真興業を見積業者として選定し、結果的に同社が随意契約による受注を継続的に獲得できるよう、便宜を図っていたとされています。その見返りとして、2023年から2024年の間に8回にわたり、飲食店や風俗店での接待、現金の供与など、計20万円超の賄賂を受け取った疑いが持たれています。
しかし、事態の本質はここにとどまりません。捜査が進む中で、岡山容疑者自身が「ごはんに行きたい」「風俗に連れていってほしい」といった形で、自ら接待を要求していた実態が明らかになったのです。
随意契約という制度が抱える構造的な弱点
随意契約とは、一般競争入札や指名競争入札のように不特定多数を対象にせず、あらかじめ選んだ少数の業者と契約を結ぶ方法です。金額が一定以下の工事や、緊急性を要する案件、または競争入札になじまない特殊な案件などで活用されます。
随意契約には、柔軟で迅速な対応が可能というメリットがある一方で、その運用には重大なリスクが内在しています。とりわけ問題になるのは以下のような点です。
- 業者の選定基準が不透明
業者をどう選定するかは多くの自治体で内部規程に基づいていますが、実際には担当職員の裁量に任されている部分が多く、選定過程が外部から検証できないケースが少なくありません。 - 相見積もりが形式化しやすい
「見積を3社からとる」というルールが存在しても、実質的には価格調整されたような見積書が出される場合もあります。今回の海田町の事件でも、他社を形式的に加えて梨真興業が有利になる構図があったとされています。 - 発注頻度と金額の偏り
海田町の発表によれば、梨真興業の町からの受注件数は、賄賂の授受が疑われる2023年度と2024年度の2年間で41件にのぼり、それ以前と比べて明らかに急増していたとのこと。これだけの偏りがありながら、内部で問題視されていなかった事実は、組織全体のガバナンス不在を露呈しています。
若手職員による“能動的な収賄”の衝撃
今回の事件では、町の技師である岡山容疑者が自ら接待を“要求”するという異例の構図が浮かび上がりました。一般に収賄事件では、業者側からの働きかけが先行することが多いのですが、本件では公務員側が積極的に見返りを求めたとされています。
つまり、「不正の誘因が民間側ではなく、行政内部から発生していた」という点において、単なる癒着ではなく、制度そのものが機能不全に陥っていたことを意味します。
若手職員一人に業者選定の実務が任され、かつ、その過程にチェック機能が存在しなかったという点は、組織全体としての倫理観や監視体制に大きな問題があるといえるでしょう。
行政書士として提起する3つの制度改革提案
行政書士として公共工事に関連する許認可や手続支援を行う立場から、以下の3つの視点で制度改革が必要と考えます。
1. 【選定プロセスの可視化】
随意契約における業者選定は、金額の大小を問わず、その透明性が何より重要です。海田町のように、担当職員の判断一つで業者が決まってしまう状況では、どれほど制度上の手続きが整っていても実質的な公正さは担保できません。
そのためには、単なる「見積書の添付」だけでは不十分で、以下のような手続きの可視化と文書化が必要です。
- なぜこの業者を選んだのか、他社と比較してどのような優位性があったのかを記載した選定理由書の作成
- 見積取得時の業者候補リストの作成と履歴管理
- 年度ごと・事業ごとに業者別の受注件数・受注額を一覧化し、発注の偏りを定期的にチェック
これらを文書として残し、監査や住民の情報公開請求に応じて提出できるようにすることで、制度的な透明性が飛躍的に向上します。
✅ 提案:契約金額を問わず、随意契約に至る理由書と見積候補リストの保存・開示を義務付け
2. 【倫理教育と接待報告制度】
今回の事件では、技師が自ら接待を要求するという、従来の「業者からの働きかけ」という収賄のイメージを覆す事例となりました。これは、職務倫理に対する自覚の欠如に起因していると考えられます。
地方自治体では倫理研修が年に1回あるかどうか、しかも内容は抽象的な法令解説やマニュアルの読み合わせで終わっているケースもあります。しかし実際には、以下のような実践的・現場重視の教育が求められます。
- 実際に発生した贈収賄事例を使ったケーススタディ
- 「接待・贈答をどう断るか」という実践ロールプレイ
- 定期的な職員アンケートや倫理意識の測定
また、接待そのものを完全に禁止するのは難しいとしても、 職務関連で金品や飲食の提供を受けた際の「記録提出」 を義務付けることは、抑止効果として非常に有効です。たとえば「1回5000円以上の飲食提供については上司に報告」「公費関係業者との個人的接触は記録に残す」などの制度化が考えられます。
✅ 提案:職員に対する年次倫理研修の実施に加え、接待・贈答に関する簡易報告制度を導入
3. 【第三者による監視と評価】
行政内部だけで公正性や適正を担保し続けるには限界があります。特に随意契約や指名競争入札のような「外から見えにくい」領域では、外部の目によるチェック体制の整備が欠かせません。
その一つの方策が、入札・契約監視委員会のような機関の設置です。これは、住民・学識経験者・法律専門家・元公務員などで構成され、一定金額以上の契約や、特定業者への集中発注が疑われる案件について、内容・手続きの妥当性を評価・勧告するものです。
また、市民オンブズマンやNPOなどとの連携による情報公開制度の活性化も重要です。「見積もり業者一覧」「契約先・金額の年度別一覧」「選定理由書」などを可能な限りWeb上で公開することで、常時第三者のチェックが可能な体制が生まれます。
✅ 提案:外部人材を含む契約監視委員会の設置と、契約情報のオンライン公開を推進
信頼回復のカギは「透明性」と「けじめ」
公共工事における契約は、税金を使って行われる以上、そこには必ず説明責任が伴います。発注側の事情や効率性だけでなく、「住民が納得できるか」という視点を欠いてはいけません。
海田町の事件は、制度の隙間に潜む不正リスクが、いかにして行政の信頼を損なうかを如実に示した事例です。そして、これは決して海田町に限った問題ではなく、全国どの自治体にも潜在的に存在しうるリスクです。
行政書士として、制度の整備や職員研修の提案、あるいは外部監査の手続設計などに関与することは、地域社会の健全化にもつながります。
終わりに
今回の事件から学ぶべき教訓は明確です。
- 小さな契約でも、「不透明な運用」が積み重なれば、大きな不信につながる
- 公務員による“能動的な不正”は、職務倫理の欠如と制度的監視不在が生んだもの
- 改革のキーワードは「見える化」「記録」「第三者性」
行政と民間の健全な関係性を保ち、公共事業が本来の目的である「住民福祉の向上」に資するものとなるよう、私たち行政書士もその一端を担っていきたいと思います。
