創業直後の営業電話・営業メール対策|知っておきたい特定商取引法・特定電子メール法

はじめに
創業直後は、営業電話や営業メールが急に増えることがあります。
ホームページを公開した直後、Googleビジネスプロフィールを登録した直後、業界団体や登録情報に事務所情報が掲載された直後などは、営業会社から見つけられやすい時期です。
特に多いのは、MEO(Googleビジネスプロフィールなど)対策、SEO対策、ホームページ制作、営業代行、士業向けポータルサイト掲載、補助金・助成金の集客支援といった営業です。
もちろん、これらのサービスそのものがすべて悪いわけではありません。
創業期の事業者にとって、集客や営業の支援が役立つ場面もあります。
しかし、問題は営業の方法です。
会社名や目的をはっきり言わない(「Googleパートナーズの~」などと大手企業と誤認させる言い回しなど)。
断っているのに何度も電話をかけてくる。
電話番号を変えて、別の担当者から再度連絡してくる。
問い合わせフォームを営業目的で利用する。
送信拒否の意思を示しているのに営業メールを送り続ける。
こうした営業は、受ける側にとって大きな負担になります。
創業直後は、許認可手続き、ホームページ整備、集客、営業資料の作成など、やることが山ほどあります。そこに営業電話が何度もかかってくると、電話が鳴るたびに「今度こそお客様からの問い合わせかもしれない」と思ってしまいます。
期待して電話に出たら、また営業電話。うんざりしちゃいますよね。
この記事では、創業者にとって迷惑な営業電話・営業メールに対応するために知っておきたい法律として、特定商取引法と特定電子メール法を取り上げます。
また、営業会社や営業担当者に向けて、どのような営業方法が信頼を失いやすいのかも整理します。
創業直後に営業電話・営業メールが増える理由

創業直後に営業連絡が増えると、「どこから電話番号やメールアドレスが漏れたのか」と不安になることがあります。
しかし、必ずしもどこかから個人情報が漏れているとは限りません。
創業者の情報は、意外と多くの場所に公開されています。
たとえば、次のような情報です。
- 業界団体や士業団体の登録情報
- 新規登録者情報
- 事務所ホームページ
- Googleビジネスプロフィール
- SNSでの開業報告
- ホームページのオープン情報
- 問い合わせフォーム
- ホームページに掲載した電話番号やメールアドレス
営業会社は、こうした公開情報をもとに営業先を探していると考えられます。
特に「ホームページを公開しました」「事務所を開業しました」「新規登録しました」といった文言は、ネット検索で見つけやすい情報です。検索期間を直近に絞れば、開業したばかりの事業者を探すことも難しくありません。
創業直後の事業者は、営業会社から見ると提案しやすい相手です。
- ホームページを作ったばかり。
- Googleマップの口コミが少ない。
- 検索順位がまだ上がっていない。
- 問い合わせが少ない。
- 集客に不安がある。
- 早く売上を作りたい。
こうした状況にあるため、MEO、SEO、営業代行、広告運用、ポータルサイト掲載などの提案対象になりやすいのです。
ただ、創業者側から見ると、開業直後はまだ自分の事業の方向性が固まりきっていないことも多い時期です。主力業務、商圏、価格設定、紹介ルート、広告予算などが定まらない中で、連日のように営業連絡を受けると、冷静な判断が難しくなることがあります。
だからこそ、営業電話や営業メールへの基本的な対応方法を知っておくことが大切です。
特定商取引法とは何か

特定商取引法(特定商取引に関する法律)は、訪問販売、通信販売、電話勧誘販売など、トラブルが生じやすい取引類型について、事業者が守るべきルールを定めた法律です。
この記事ではその中でも電話勧誘販売の規制について取り上げます。
電話勧誘販売では、営業する側にいくつかのルールがあります。
代表的なものとして、次のようなものがあります。
- 勧誘に先立って、事業者名を告げること
- 勧誘を行う担当者名を告げること
- 販売しようとする商品・サービスの種類を告げること
- 契約の締結について勧誘する目的であることを告げること
- 契約しない意思を示した相手に対し、勧誘を続けたり、再度勧誘したりしないこと
この記事で特に押さえたいのは、特定商取引法17条です。
(契約を締結しない旨の意思を表示した者に対する勧誘の禁止)
第十七条 販売業者又は役務提供事業者は、電話勧誘販売に係る売買契約又は役務提供契約を締結しない旨の意思を表示した者に対し、当該売買契約又は当該役務提供契約の締結について勧誘をしてはならない。
17条は、簡単にいえば、電話勧誘販売において、契約しない意思を示した相手に対して、勧誘を続けたり、改めて勧誘したりしてはいけないというルールです。
営業電話の問題は、最初の1回だけでは分かりません。
本当に問題が出るのは、断った後です。
断ったら終わるのか。それとも、また電話が来るのか。別の番号からかかってくるのか。別の担当者から同じ話をされるのか。
営業電話の印象は、断られた後の対応で大きく変わります。
個人事業主への営業電話に特商法が適用される場合
企業同士の取引(BtoB)では、基本的に特定商取引法(特商法)が適用されない(対象外になる)ケースが多くあります。
しかし、個人事業主や創業者への営業電話は、自動的に「対象外」になるわけではないので注意が必要です。相手が個人事業主の場合、提案する商品やサービスの中身によって、特商法が適用されるかどうかが変わるため、個別に見極める必要があります。
判断のポイントは「事業のために使うかどうか」
特商法では、「自分の仕事(営業)のために結ぶ契約」は、規制の対象外になると定められています。つまり、買い手が「自分のビジネスで使うため」に契約するのであれば、特商法のルールには縛られません。
相手が法人・個人事業主にかかわらず、以下のような「その人の事業活動に直接役立つサービス」を提案する場合は、ビジネス目的の取引とみなされ、特商法の対象外になる可能性が高くなります。
たとえば、行政書士事務所に対して、事務所ホームページ制作、MEO対策、SEO対策、営業代行などを提案する場合、その事務所の事業活動に関するサービスとして、事業目的の取引と評価される可能性があります。
一方で、個人事業主は、事業者としての顔と、生活者・消費者としての顔の両方を持っています。
そのため、個人事業主に対する営業電話であっても、
- 事業とは関係の薄い商品・サービスを勧誘している場合
- 事業用なのか個人利用なのかが曖昧なサービスを勧誘している場合
- 創業直後で、その取引に十分習熟しているとはいえない場合
- 「誰でも簡単に稼げる」といった副業系・情報商材系サービスを勧誘している場合
- 事業者向けを装いながら、実質的には個人の不安につけ込むような営業になっている場合
には、単に「相手が個人事業主だから特商法は関係ない」とは言い切れません。
つまり、ポイントは「個人事業主かどうか」だけではありません。
- 勧誘されている商品・サービスが、その人の事業とどのように関係するのか。
- その取引について、相手がどの程度理解し、判断できる立場にあるのか。
- 実態として、消費者トラブルに近い構造になっていないか。
こうした事情を個別に見る必要があります。
営業する側は、「相手は事業者だから何をしてもよい」と考えるのではなく、少なくとも特商法の考え方を意識した営業を行うべきです。
そして、営業を受ける側も、「個人事業主だから何も言えない」と考える必要はありません。
少なくとも、不要な営業については明確に断ることができます。
そして、断った後も同じような営業電話が続く場合には、特定商取引法17条の再勧誘禁止との関係を意識しておくことが大切です。
特に重要な特定商取引法17条

特定商取引法17条は、営業電話への対応を考えるうえで非常に重要です。
電話勧誘販売では、契約しない意思を表示した相手に対して、そのまま勧誘を続けたり、後日あらためて再勧誘したりすることが禁止されています。
つまり、営業電話を受けた側が明確に断ったにもかかわらず、同じ商品・サービスについて繰り返し電話をかけることは、特定商取引法17条との関係で問題になり得ます。
ここで大事なのは、「断り方」です。
営業電話を受けた側が、あいまいに会話を続けてしまうと、相手に「まだ見込みがある」と受け取られることがあります。もちろん、断っている相手に食い下がる営業自体が望ましいわけではありませんが、受ける側としては、明確に断る方が実務上は有効です。
たとえば、次のような言い方です。
「そのサービスは契約しません」
「現在、利用する予定はありません」
「今後の営業電話は不要です」
「同種サービスについて、今後の営業連絡は控えてください」
「お断りします」
このように、契約しない意思をはっきり伝えることが大切です。
逆に、次のような対応は、相手に再度連絡する口実を与えてしまうことがあります。
「今は忙しいので」
「また今度で」
「資料だけ送ってください」
「検討しておきます」
本当に検討するつもりがあるなら問題ありません。
しかし、断るつもりなのにこう言ってしまうと、後日また電話が来る可能性があります。
創業者側としては、必要がないサービスについては、短く、明確に、丁寧に断ることが一番です。
営業電話に長時間付き合う必要はありません。
電話口で人格者選手権を開催する必要もありません。
電話番号を変えて再度かける営業は特に問題が大きい
実務上、特に困るのが、同じ業者と思われる相手から、電話番号を変えて何度も電話がかかってくるケースです。
一度断ったにもかかわらず、別の番号からまた電話が来る。
別の担当者から同じサービスを案内される。
着信拒否をしても、また別の番号からかかってくる。
受け手からすれば、これはかなり強い不信感につながります。
営業会社側からすると、「担当者が違う」「部署が違う」「別番号からの架電だった」と言いたいのかもしれません。
しかし、受け手にとっては同じです。
すでに断っているのに、同じような営業が繰り返されている。この事実だけで、会社への信頼は大きく下がります。
営業会社が本来売りたいのは、信頼のはずです。
MEO対策でも、SEO対策でも、営業代行でも、ホームページ制作でも、最終的には「この会社に任せても大丈夫そうだ」と思ってもらう必要があります。
それなのに、入口の営業電話で不信感を持たれてしまえば、その後の商品説明はほとんど意味を持ちません。
断られた相手に番号を変えて何度も電話をかける営業は、短期的には接触回数を増やせるかもしれません。しかし、長期的には会社の評判を削る営業です。
「Googleパートナーズ」を名乗る営業電話の問題点

創業直後の事業者に多い営業電話の一つに、MEO対策の営業があります。
特に注意したいのが、
「Googleパートナーズです」
「Googleマップの件でお電話しました」
「Googleビジネスプロフィールについて確認です」
といった言い方で始まる営業電話です。
MEO対策そのものは、事業者向けの集客支援サービスです。
そのため、MEO対策の営業電話がかかってきたというだけで、直ちに特定商取引法17条違反になるとは限りません。
MEO対策、SEO、ホームページ制作、営業代行などは、事業者が自分の事業のために利用するサービスです。
そのため、こうした営業電話については、「営業のため、または営業として締結する取引」として、特定商取引法の適用除外となる場合があります。
したがって、事業者向けのMEO対策営業については、断った後に再度電話が来たからといって、直ちに特定商取引法17条違反だと断定するのは慎重に考える必要があります。
一方で、これは「何度でも営業電話をかけてよい」という意味ではありません。
MEO対策営業には、17条とは別の問題が生じることがあります。
特定商取引法16条の氏名等の明示の問題
電話勧誘販売では、勧誘に先立って、事業者名、勧誘を行う担当者名、販売しようとする商品・サービスの種類、契約の締結について勧誘する目的であることを告げる必要があります。
そのため、営業電話の冒頭で、
「Googleパートナーズです」
「Googleの件です」
「Googleマップの確認です」
などとだけ言い、自社の正式名称や担当者名、MEO対策サービスの契約勧誘であることを明らかにしない場合には、特定商取引法16条との関係で問題になり得ます。
特に、「Google公式からの連絡なのか」「Google Partner認定を受けた第三者事業者なのか」「単にGoogle関連サービスを扱っているだけなのか」が分からない名乗り方は、受け手を誤認させやすい営業です。
Google公式・関連会社と誤認させる説明の問題
「Googleパートナー」や「Google Partner」という表現自体が、直ちに違法というわけではありません。
実際に、Googleには広告代理店などを対象とした Google Partners プログラムがあります。
しかし、Google Partnerであることは、Google本体・Google公式窓口・Googleから委託されたMEO営業担当者であることを意味するものではありません。
それにもかかわらず、
「Googleから委託されています」
「Googleの担当です」
「Google公式の確認です」
「Googleマップの表示に必要な手続きです」
「このままだとGoogleマップに表示されなくなる可能性があります」
といった説明をして契約を迫る場合には、相手に誤った認識を与えるおそれがあります。
内容によっては、特定商取引法上の不実告知や誤認を招く勧誘として問題になる可能性があります。
また、実際にはGoogle公式ではないにもかかわらず、Google公式や関連会社であるかのように装って費用を支払わせるような悪質なケースでは、刑法上の詐欺罪が問題になる可能性もあります。
ただし、詐欺罪として問題にするには、単に「説明が紛らわしい」「不快な営業だった」というだけでは足りません。
相手を欺く行為、その説明によって誤信したこと、金銭の支払いなど、具体的な事情が必要になります。
そのため、最初から「これは詐欺だ」と決めつけて警察に駆け込むよりも、まずは営業内容、会社名、担当者名、電話番号、説明内容、支払った金額の有無などを記録し、消費生活センターや行政窓口への相談・情報提供を検討する方が現実的です。
また、自社の商品・サービスの内容、提供主体、Googleとの関係などについて誤認を招く表示をしている場合には、不正競争防止法上の誤認惹起行為が問題になる余地もあります。
Googleの規約・ポリシー違反の問題
Googleビジネスプロフィールには、サードパーティ事業者向けのポリシーがあります。
Googleのポリシーでは、第三者事業者がGoogleであるかのように装うこと、Googleサービスで上位掲載されることを保証すること、無料のGoogleサービスを有料サービスであると偽ることなどが問題行為として示されています。
そのため、MEO対策業者が、
「Google公式の手続きです」
「Googleマップで必ず上位表示できます」
「Googleに表示するには費用が必要です」
「Googleの関連会社なので対応が必要です」
といった説明をしている場合には、Googleのサードパーティポリシーに違反する可能性があります。
この場合、特定商取引法上の問題とは別に、Google側への報告を検討することも考えられます。
電話口で確認すべきこと
このような営業電話を受けた場合は、まず相手の立場を確認しましょう。
たとえば、次のように聞くとよいでしょう。
「御社の正式な法人名を教えてください。」
「ご担当者名と所在地を教えてください。」
「Googleから正式に委託を受けた営業ですか。」
「Google Partner認定を受けた第三者事業者という意味ですか。」
「本件はMEO対策サービスの契約勧誘という理解でよろしいですか。」
「Googleマップに表示されるために、御社との契約が必須という意味ですか。」
相手がここで曖昧な回答をする場合は、無理に話を聞く必要はありません。
不要であれば、次のように明確に断ります。
「当事務所では、御社のMEO対策サービスを契約する意思はありません。今後、同種サービスについての営業電話は控えてください。」
MEO対策営業で本当に問題なのは、「MEO対策を売っていること」そのものではありません。
Google公式であるかのように見せること。
契約が必要であるかのように誤認させること。
上位表示を保証すること。
断った後も何度も電話をかけること。
こうした営業方法こそが、法的にも信用面でも大きな問題になります。
営業電話を断るときのロールプレイ台本
営業電話を断るときは、電話の内容によって言い方を分けると安全です。
特に、MEO対策、SEO、ホームページ制作、営業代行などのように、事業者向けサービスとして勧誘されている場合は、特定商取引法17条を当然に使えるとは限りません。
一方で、消費者向けの商品・サービスの電話勧誘や、個人事業主に対する勧誘であっても事業目的の取引とは言い切れない場合には、17条の再勧誘禁止が問題になりやすくなります。
そのため、ここでは次の2つに分けて考えます。
- 事業に関する営業電話を断る場合
- 17条を正面から使いやすい営業電話を断る場合
1. 事業に関する営業電話(特商法17条非適用)を断る場合
MEO対策、SEO、ホームページ制作、営業代行、広告運用などは、事業者が自分の事業のために利用するサービスです。
このような営業電話については、「営業のため、または営業として締結する取引」として、特定商取引法の適用除外となる場合があります。
そのため、電話口ではまずは次の3点を明確にする方が実務的です。
- 契約する意思がないこと
- 今後の営業連絡を断ること
- 会社名・担当者名・電話番号・勧誘内容を記録すること
ロールプレイ台本
業者:
「Googleマップ対策の件でお電話しました。代表者様はいらっしゃいますか。」こちら:
「恐れ入ります。まず、御社の正式な会社名、ご担当者名、どのようなサービスのご案内かを教えてください。」業者:
「Googleパートナーズの〇〇です。MEO対策のご案内です。」こちら:
「ありがとうございます。御社はGoogle公式の窓口ですか。それともGoogle Partner認定を受けた第三者事業者という意味ですか。」業者:
「Googleのパートナーとしてご案内しています。」こちら:
「承知しました。本件はMEO対策サービスの契約勧誘という理解でよろしいですね。」業者:
「はい、そうです。」こちら:
「当事務所では、御社のMEO対策サービスを契約する意思はありません。今後、同種サービスについての営業電話は控えてください。」
2. 17条を正面から使いやすい営業電話のケース
消費者向けの商品・サービスの電話勧誘や、個人事業主に対する営業であっても事業目的の取引とは言い切れない場合には、特定商取引法17条の再勧誘禁止を意識しやすくなります。
たとえば、次のような場合です。
- 事業とは関係の薄い商品・サービスの勧誘
- 個人利用なのか事業利用なのか曖昧なサービスの勧誘
- 副業・情報商材・投資系サービスの勧誘
- 生活者としての個人に向けた性質が強い勧誘
- 一度明確に断った後も、同じ商品・サービスについて繰り返し勧誘される場合
ロールプレイ台本
業者:
「お得なサービスのご案内です。」こちら:
「そのサービスは契約しません。お断りします。今後の営業電話も不要です。」業者:
「少しだけ説明を聞いていただけませんか。」こちら:
「契約しない意思を明確に表示します。説明も不要です。特定商取引法17条に基づき今後、同じ商品・サービスについての勧誘は控えてください。」
3. どちらの場合でも共通するポイント
事業に関する営業電話であっても、17条を正面から使いやすい電話勧誘であっても、共通して大切なのは次の点です。
- 会社名を確認する
- 担当者名を確認する
- 何のサービスの勧誘か確認する
- 契約しない意思を明確に伝える
- 「今後の営業電話は不要」と伝える
- 日時、電話番号、会社名、担当者名、勧誘内容を記録する
- 感情的に長時間対応しない
大切なのは、電話口で相手を論破することではありません。
不要な営業については短く断り、記録を残し、必要に応じて相談・情報提供できる状態にしておくことです。
業者への警告文案
断っているにもかかわらず営業電話や営業メールが続く場合は、メールや問い合わせフォームなど、記録に残る方法で営業停止を求めることも考えられます。
その際は、感情的な表現ではなく、事実関係とこちらの意思を簡潔に伝えることが大切です。
以下は文案です。
営業連絡の停止を求める文案
件名:営業連絡の停止について
株式会社〇〇
ご担当者様当事務所に対し、貴社または貴社サービスに関する営業電話が複数回行われています。
当事務所では、すでに貴社サービスを契約しない意思を表示しており、今後の営業連絡も不要である旨をお伝えしています。
特定商取引法17条では、電話勧誘販売において、契約を締結しない意思を表示した者に対する勧誘の継続や再勧誘が禁止されています。
当事務所としては、貴社サービスを契約する意思はありません。
また、今後、同種サービスについての電話、メール、問い合わせフォームその他の方法による営業連絡もお断りします。つきましては、当事務所の電話番号、メールアドレスその他の連絡先を営業対象リストから削除し、今後の営業連絡を停止してください。
なお、本通知後も営業連絡が継続される場合には、日時、電話番号、担当者名、勧誘内容等を記録のうえ、関係機関への相談・情報提供を検討いたします。
以上
文案を使うときの注意点
この文案では、「特商法違反です」と断定するのではなく、特定商取引法17条のルールを示したうえで、今後の営業連絡を拒否する意思を明確にしています。
実際に特商法が適用されるかどうかは、勧誘内容や契約の性質、相手方の属性などによって個別に判断されます。
そのため、最初から強い断定をするよりも、
「契約しない意思を表示する」「今後の営業連絡を拒否する」「連絡が続く場合は記録し、相談や情報提供を検討する」という形にする方が、実務上は使いやすいでしょう。

悪質なケースの相談先・通報先
営業電話や営業メールがしつこく続く場合、記録を残したうえで、相談や情報提供を検討します。
ただし、相談先や通報先にはそれぞれ役割があります。
「個別のトラブル解決を相談する場所」と「行政機関などに情報提供する場所」は、目的が少し違います。
悪質なケースでは、次のような窓口が考えられます。
- 消費者ホットライン188
最寄りの消費生活センターや消費生活相談窓口につながる全国共通の電話番号です。契約トラブルや悪質商法について相談したい場合の入口になります。 - 最寄りの消費生活センター
実際に契約してしまった、解約で揉めている、返金を求めたい、しつこい勧誘で困っているといった場合に相談先となります。 - 消費者庁の特定商取引法違反被疑情報提供フォーム
特定商取引法に違反している疑いがある事業者について、情報提供するためのフォームです。個別紛争の仲介や相談窓口ではないため、相談したい場合は消費生活センター等を利用します。 - 特定商取引法の申出制度
特定商取引法のルールに違反した事業者について、国や都道府県に情報を提供し、適切な措置を求める制度です。直接被害を受けた人に限らず、誰でも申出ができるとされています。 - 迷惑メール相談センター
特定電子メール法に違反していると思われる迷惑メールやSMSについて、情報提供を受け付けています。受信拒否後も広告宣伝メールが送られてくる場合などに確認したい窓口です。 - 警察相談専用電話#9110
詐欺、脅迫、なりすまし、業務妨害に近い行為など、警察に相談すべきか迷う場合の相談窓口です。緊急性がある場合は110番です。
相談や情報提供をする場合には、事前に次の情報を整理しておくと説明しやすくなります。
- いつ電話やメールがあったか
- どの番号やメールアドレスから連絡があったか
- 会社名や担当者名
- どのようなサービスを勧誘されたか
- いつ、どのように断ったか
- 断った後も再度連絡があったか
- メールや問い合わせフォームでの営業連絡が残っているか
感情的に対応するよりも、事実を淡々と残す方が実務上は強いです。
特定電子メール法とは何か

営業メールについては、特定電子メール法も重要です。
特定電子メール法は、広告宣伝メール、いわゆる迷惑メールを規制する法律です。
営業メール、メールマガジン、サービス案内、広告宣伝目的のメールを送る場合には、この法律を意識する必要があります。
基本的には、広告宣伝メールは、あらかじめ同意を得た相手に送るのが原則です。
これをオプトインといいます。
「ネット上にメールアドレスが載っていたから送ってよい」「名簿を買ったから送ってよい」「一度問い合わせフォームから接触したから、その後は営業メールを送ってよい」
このように単純に考えるのは危険です。
ただし、特定電子メール法には例外もあります。
団体や営業を営む個人がホームページ上でメールアドレスを公表している場合、そのメールアドレス宛の広告宣伝メールは、一定の場合にオプトイン規制の例外となることがあります。
つまり、事業用ホームページにメールアドレスを掲載している場合、そのアドレスに営業メールが届いたからといって、ただちにすべて違法とはいえない場合があります。
しかし、重要なのはその先です。
メールアドレスと併せて、広告宣伝メールの送信を拒否する表示がある場合には、オプトイン規制の例外とは扱われない場合があります。
そのため、営業メールを避けたい場合は、ホームページ上のメールアドレスの近くに、送信拒否の意思を表示しておくことが考えられます。
たとえば、次のような文言です。
「当事務所への営業・広告宣伝を目的としたメールの送信はお断りします。」
「このメールアドレスへの特定電子メールの送信を拒否します。」
「お問い合わせフォームを利用した営業・広告宣伝目的の送信はご遠慮ください。」
これだけですべての営業メールが止まるわけではありません。
しかし、送信拒否の意思を明示する意味はあります。
問い合わせフォーム営業と特定電子メール法の関係
最近は、電話や通常のメールだけでなく、問い合わせフォームを使った営業も増えています。
創業者側からすると、問い合わせフォームから通知が来ると、見込み客からの相談かもしれないと思って確認します。
しかし開いてみると、営業代行、SEO、MEO、ホームページ制作、SNS運用代行などの売り込みだった、ということがあります。
ここで注意したいのは、問い合わせフォームへの投稿と特定電子メール法の関係です。
特定電子メール法は、広告宣伝を目的として送信される電子メールを規制する法律です。
そのため、問い合わせフォームに営業文を入力して送信する行為そのものは、通常、特定電子メール法の「電子メールの送信」とは別に考える必要があります。
つまり、問い合わせフォーム営業については、特定電子メール法だけで直ちに整理できるとは限りません。
もっとも、だからといって、問い合わせフォーム営業が何をしても許されるという話ではありません。
問い合わせフォームは、本来、顧客や相談者が連絡するための窓口です。
そこに営業目的の投稿が大量に届くと、本来の問い合わせを見落とす原因になります。
また、ホームページ上で「営業目的の送信はお断りします」と明示しているにもかかわらず、繰り返し営業投稿を行う場合には、少なくとも迷惑行為として問題視されやすくなります。
さらに、機械的・大量・反復的なフォーム投稿によって、通常業務に支障が出るような場合には、刑法上の偽計業務妨害罪や威力業務妨害罪が問題になる可能性もあります。
ただし、これらの犯罪が成立するかどうかは、投稿の回数、方法、内容、業務への支障の程度、故意の有無などによって個別に判断されます。
そのため、問い合わせフォーム営業を受けた場合も、まずは投稿日時、送信元、会社名、内容、送信回数、業務への影響を記録しておくことが大切です。
問い合わせフォーム投稿後に、通常の営業メールを送ってくる場合には、そのメールについて特定電子メール法が問題になる可能性があります。
そのため、事業者側では、問い合わせフォームに営業目的の送信を控える文言を入れておくとよいでしょう。
たとえば、次のような文言です。
「営業・広告宣伝を目的としたお問い合わせフォームの利用はご遠慮ください。」
「当フォームは、お客様からのご相談・ご依頼専用です。営業目的の送信はお控えください。」
「営業目的の送信には返信いたしません。」
「当フォームを利用した営業・広告宣伝目的の送信をお断りします。」
ただし、文言を入れたからといって、完全に防げるわけではありません。
AIや自動投稿ツールを使った営業投稿も増えています。
そのため、必要に応じて、問い合わせフォームに使えるスパム対策ツールなどの導入も検討するとよいでしょう。
営業メールを送る側が注意すべきこと
営業メールを送る側は、送信先の取得方法、同意の有無、送信拒否表示の有無を確認する必要があります。
特に、ネット上から集めたメールアドレスや、外部から購入したリストを使う場合は注意が必要です。
営業メールでは、少なくとも次の点を意識すべきです。
- 送信先がどこから取得されたものか
- 事前同意があるか
- 公開メールアドレスの場合、送信拒否表示がないか
- 送信者名を明確に表示しているか
- 連絡先や問い合わせ先を表示しているか
- 配信停止や受信拒否の方法を示しているか
- 受信拒否の連絡があった相手に再送していないか
特に問題になるのは、配信停止をしても送られ続けるケースです。
受信拒否の意思を示した相手に広告宣伝メールを送り続けると、法令上の問題だけでなく、会社の信用にも大きく関わります。
営業メールも営業電話と同じです。
本当に大事なのは、送ることではなく、断られた後の管理です。
事業者がホームページに入れておきたい文言
創業直後の事業者は、ホームページに営業電話・営業メール対策の文言を入れておくとよいでしょう。
たとえば、問い合わせフォームには次のような文言が考えられます。
「当フォームは、お客様からのご相談・ご依頼専用です。営業・広告宣伝を目的とした送信はご遠慮ください。」
メールアドレスを掲載する場合は、次のような文言が考えられます。
「このメールアドレスへの特定電子メールの送信を拒否します。」
または、より一般向けに分かりやすくするなら、次のような書き方でもよいでしょう。
「当事務所への営業・広告宣伝を目的としたメールの送信はお断りします。」
電話営業についても、ホームページ上に次のような方針を示すことがあります。
「営業電話には対応いたしかねます。営業・広告宣伝のご連絡はお控えください。」
もちろん、こうした文言を入れても、すべての営業連絡が止まるわけではありません。
しかし、事前に拒否の意思を明示しておくことで、少なくともこちらの方針を示すことができます。
創業者にとっては、営業電話・営業メールに毎回対応する時間もコストです。
見込み客からの問い合わせに集中するためにも、窓口のルールを整えておくことは大切です。
「違法かどうか」だけで判断しない
営業電話や営業メールについては、「これは違法ですか」と考えたくなる場面があります。
もちろん、法令違反かどうかは重要です。
しかし、実務上はそれだけでは足りません。違法とまではいえない営業でも、信頼を失う営業はあります。
たとえば、次のような営業です。
- 会社名をはっきり名乗らない
- 用件をなかなか言わない
- 行政機関や大手企業と誤認させる
- 断っても話を続ける
- 断った後に再度電話する
- 電話番号を変えて連絡する
- 問い合わせフォームを営業目的で利用する
- 送信拒否の意思を示しているのにメールを送り続ける
- 「今やらないと手遅れ」と不安をあおる
- 相手の事業内容を理解しないまま営業する
こうした営業を受けた場合、創業者側は相手にする必要があるかを慎重に考えるべきです。
一方で、営業会社側も、「法律にギリギリ違反しなければよい」という発想では長く続きません。
特に士業や地域ビジネス向けの営業では、評判が大切です。
しつこい電話営業で悪い印象を持たれれば、SNSや口コミで一気に広がることもあります。
売るための営業が、会社の評判を下げる。これは本末転倒です。
営業する側に必要なのは「断る自由」を尊重すること
営業活動そのものは、事業にとって必要なものです。良いサービスがあっても、相手に知ってもらえなければ契約にはつながりません。
営業電話や営業メールがすべて悪いわけではありません。
問題は、相手の断る自由を尊重しているかどうかです。
営業電話は、相手の時間に割り込む行為です。
相手はその瞬間、仕事の手を止め、電話に出て、話を聞くかどうかを判断しています。
創業直後の事業者であれば、問い合わせ対応、役所とのやり取り、請求書作成、ホームページ更新、顧客対応など、やることは山ほどあります。
その時間を使わせてもらっているという意識がなければ、営業はすぐに迷惑行為に近づきます。
相手が不要だと言ったら、そこで終える。
今後の連絡を控えてほしいと言われたら、リストに反映する。
別番号や別担当者で再度アプローチしない。
メールの受信拒否があれば送信を止める。
このような基本的な対応ができているかどうかで、営業会社の信頼性は大きく変わります。
特に特定商取引法は、営業電話において「断られた後」の対応を考えるうえで重要です。
もっとも、事業者向け取引では、特定商取引法の適用除外となる場合もあります。
そのため、すべての営業電話について直ちに違反といえるわけではありません。
しかし、法違反と断定できるかどうか以前に、断った相手へ繰り返し電話をかける営業は、相手の時間を奪い、信頼を失う行為です。
営業電話で一番大事なのは、売る側のトーク力ではありません。
断られた後の対応です。
断られた後に丁寧に引く会社は、少なくとも信頼を残します。
断られた後に何度も追いかける会社は、商品説明を聞いてもらう前に信頼を失います。
営業とは、相手の時間を使わせてもらう行為です。
だからこそ、相手が断る自由を尊重する必要があります。
まとめ
創業直後は、営業電話や営業メールが増えやすい時期です。
その理由は、創業者の情報がさまざまな場所に公開されるからです。
業界団体の登録情報、ホームページ、Googleビジネスプロフィール、SNS、検索エンジン上の新着情報などから、新規開業者は見つけられやすくなります。
創業者にとって、集客や営業は重要です。
MEO、SEO、ホームページ制作、営業代行などが役立つ場面もあります。
しかし、不要な営業電話や営業メールに振り回される必要はありません。
特に電話営業では、特定商取引法の再勧誘禁止を押さえておくことが大切です。
個人事業主への営業電話であっても、特定商取引法の規制が問題になる場合があります。
また、営業メールについては特定電子メール法のルールも重要です。
公表しているメールアドレスへの営業メールが常に違法になるわけではありませんが、送信拒否表示をしている場合には、オプトイン規制の例外とは扱われない場合があります。
一方、問い合わせフォームへの営業投稿は、通常の営業メールとは異なり、特定電子メール法だけで直ちに整理できるとは限りません。
ただし、営業目的のフォーム利用を拒否しているにもかかわらず、繰り返し投稿するような行為は、迷惑行為として問題視されやすくなります。
営業を受ける側は、不要なサービスについては、短く、明確に断る。
しつこい営業が続く場合は、日時、電話番号、会社名、担当者名、断った内容を記録する。
ホームページや問い合わせフォームには、営業・広告宣伝目的の連絡を控える文言を入れておく。
悪質なケースでは、消費生活センターなど内容に応じた相談先・情報提供先を確認しましょう。
一方、営業する側は、会社名、担当者名、目的を明らかにし、断られたら勧誘を終える。
再架電の可否や受信拒否の情報を社内で管理する。
相手の不安につけ込むのではなく、必要な人に必要な提案を届ける。
法律は、営業を止めるためだけのものではありません。
無理な営業を減らし、創業者が本業に集中できる環境を守るためのルールでもあります。
創業者にとっても、営業担当者にとっても、特定商取引法と特定電子メール法の基本を知っておくことは、余計なトラブルを避けるための大切な備えです。
