民泊、条例で事実上禁止可能へ——観光庁方針転換と今後の規制動向

大阪・東京の先行事例に学ぶ、事業者が今すぐ確認すべきポイント
共同通信や日本経済新聞などの報道によると、観光庁は、民泊によって住宅地などの居住環境が損なわれるおそれがある場合、その地域での営業を条例によって事実上禁止できると2026年6月中にも自治体に通知する方針を固めたとされています。
これまで国は、住宅宿泊事業法、いわゆる民泊新法について、健全な民泊サービスの普及を図る制度として位置づけてきました。
そのため、自治体が条例によって営業日数を「0日」にするような規制については、民泊を振興する法の目的を逸脱するものとして、慎重な立場を取っていました。
しかし、その考え方が大きく転換される可能性が示されています。
民泊をすでに運営している方、これから民泊を始めようとしている方、空き家や別荘を活用したい不動産オーナーの方にとって、これはかなり重要な動きです。
これまでは、「住宅宿泊事業法の要件を満たして届出が受理されれば、年間180日以内で営業できる」という理解が一般的でした。
しかし今後は、「今、届出できるか」だけでなく、「条例改正後も事業を続けられるか」「地域住民とのトラブルを防げるか」「追加規制に対応できるか」まで見ておく必要があります。
本記事では、今回の観光庁の方針転換の内容、背景にある問題、大阪・東京の先行事例、そして民泊事業者や開業検討者が今すぐ確認すべきポイントを整理します。
第1章 今回の方針転換:何が変わるのか

住宅宿泊事業法に基づく民泊は、住宅を活用して宿泊サービスを提供する制度です。
住宅宿泊事業を営む場合、住宅の所在地を管轄する都道府県知事等への届出が必要です。また、宿泊させることができる日数は、原則として年間180日以内とされています。
この「年間180日」という上限は、民泊新法の大きな特徴です。
旅館業法の許可を取得するホテル、旅館、簡易宿所とは異なり、住宅を活用する制度であるため、営業日数に制限が設けられています。
ただし、民泊新法はもともと、自治体による条例規制も認めています。
住宅宿泊事業法18条では、住宅宿泊事業に起因する騒音の発生その他の事象によって生活環境が悪化することを防止する必要がある場合、合理的に必要と認められる限度で、区域を定めて住宅宿泊事業の実施期間を制限できるとされています。
つまり、自治体が条例で民泊を制限する仕組み自体は、もともと法律の中にありました。
問題は、その制限をどこまで認めるかです。
従来の国のガイドラインでは、年間すべての期間にわたって住宅宿泊事業を一律に制限することや、都道府県等の全域を一体として一律に制限することは、法の目的を逸脱し、適切ではないとされていました。
いわゆる「0日規制」は、民泊振興の観点から好ましくないという考え方です。
ところが、今回の報道では、観光庁がこの立場を転換し、一定の場合には条例によって民泊を事実上禁止できると自治体に伝える方針であるとされています。
報道内容を整理すると、主なポイントは次のとおりです。
| 項目 | 今回示された方向性 |
|---|---|
| 立地規制 | 住宅地や教育施設周辺などで、条例による制限が可能になる |
| 既存施設への制限 | すでに弊害が生じている地域では、既存民泊への制限も可能とされる |
| 設備義務 | 騒音計や出入口カメラの設置を条例で義務化することも促される |
| 苦情対応 | 国が住民からの苦情を受け付ける夜間コールセンターを設ける方針 |
この流れを見ると、今後の民泊規制は、単なる「届出時の書類チェック」から、「営業後の生活環境への影響」まで含めた管理へ移っていくと考えられます。
民泊事業者にとっては、開業時だけでなく、開業後の苦情対応、騒音対策、ごみ処理、近隣説明、管理体制の整備が、これまで以上に重要になります。
なお、立地規制については「自治体の全域で自由に民泊を禁止できるようになる」ということではなく、あくまで生活環境の悪化を防止するために、合理的に必要と認められる限度で、区域を定めて行うものとなる方向です。
住宅地、教育施設周辺、すでに騒音やごみ出しなどの問題が生じている地域など、規制の必要性を説明できる区域を対象に、営業日数や実施期間を制限するという考え方が基本になります。
第2章 なぜ方針転換したのか:背景にある問題

今回の方針転換の背景には、民泊施設の増加と、それに伴う近隣トラブルの増加があります。
観光庁の民泊制度ポータルサイト「住宅宿泊事業法の施行状況」によると、令和8年5月15日時点の住宅宿泊事業の届出件数は63,658件、届出住宅数は49,745件とされています。
民泊新法は2018年6月に施行されました。施行直後は制度の定着過程にありましたが、その後、届出件数は着実に増加してきました。施行から約1年後の2019年6月時点で届出件数は約1.7万件とされており、現在の届出件数はその数倍の規模になっています。
特に、インバウンド需要の回復により、都市部や観光地では民泊を活用した宿泊需要が高まっています。
空き家や空き部屋を活用できる点、ホテル不足を補える点、地域に宿泊客を呼び込める点など、民泊には一定の社会的意義があります。
一方で、住民側から見ると、生活環境への不安も無視できません。
代表的なトラブルとしては、夜間の騒音があります。深夜に宿泊者が大声で会話をする、宴会のような使い方をする、集合住宅の共用部で騒ぐといった問題です。
次に、ごみ出しの問題があります。地域の分別ルールを知らない宿泊者が、決められた日以外にごみを出す、スーツケースや大型ごみを放置する、近隣の集積所に無断で捨てるといったケースがあります。
さらに、私有地への無断立入り、送迎車両の路上駐停車、鍵の受け渡し場所に人が集まることによる通行障害なども問題になります。
これらのトラブルは、ひとつひとつを見ると小さく見えるかもしれません。しかし、生活している住民にとっては、毎日の静かな暮らしが乱される問題です。
特に、家主不在型の民泊では、トラブルが発生したときに誰が現地対応するのかが重要になります。住宅宿泊管理業者に委託していても、実際にすぐ現場へ駆けつけられなければ、住民側の不満は解消されません。
民泊は「住宅」を使う制度です。そのため、ホテルや旅館以上に、周辺住民との距離が近くなります。宿泊者にとっては一時的な滞在でも、住民にとっては日常生活の場です。
ここに、民泊事業の難しさがあります。
行政としても、民泊を地域経済や観光の受け皿として活用したい一方で、住民の生活環境が悪化すれば、条例や行政指導で対応せざるを得ません。
今回の観光庁の方針転換は、「民泊を増やすこと」から「地域と共存できる民泊を残すこと」へ、政策の重心が移り始めたものと見ることができます。
第3章 先行事例:大阪・東京で既に起きていること
今回の動きを理解するうえで参考になるのが、大阪と東京の先行事例です。
ただし、ここで注意したいのは、大阪で大きく問題になっている「特区民泊」と、住宅宿泊事業法に基づく「民泊新法」は、制度が異なるという点です。
特区民泊は、国家戦略特区制度に基づく仕組みです。
住宅宿泊事業法の年間180日制限を受ける民泊新法とは異なり、一定の要件を満たせば、より長期間の営業が可能になる制度です。
制度は違いますが、「民泊施設の集中」「近隣トラブル」「自治体による規制強化」という流れは、民泊新法にも共通する重要な参考事例になります。
大阪の動向

大阪は、特区民泊の最大拠点として知られてきました。
インバウンド需要が強く、宿泊施設への需要が高いことから、特区民泊の活用が進みました。
しかし、施設数の増加に伴い、騒音、ごみ出し、無許可営業、近隣住民とのトラブルなどが問題化しました。
大阪市は、令和8年5月29日をもって、特区民泊の新規受付を終了しています。
また、認定済みの特区民泊施設についても、居室の追加や床面積の増加に関する変更認定申請については、同日をもって受付が終了しています。
一方で、それ以前に認定を受けている特区民泊施設については、従来どおり営業可能とされています。
つまり、大阪市の対応は、既存施設を直ちに停止させるものではなく、新規受付や一部変更申請を止める形です。
この動きは、民泊関連制度において、「一度広く認めた制度でも、地域の実情によって新規受付を止めることがある」という重要な先例です。
民泊事業を検討する場合、「今はできる地域だから大丈夫」と考えるだけでは足りません。
数年後に条例や制度が変わる可能性も含めて、投資判断をする必要があります。
大阪の事例は特区民泊の話ですが、住宅宿泊事業法に基づく民泊でも、今後、自治体の条例改正によって新規開設や営業日数に大きな制限が加わる可能性があります。
東京23区の動向
東京23区では、住宅宿泊事業法の施行当初から、多くの区が独自条例を整備してきました。
2018年の制度開始時点で、23区のうち19区が条例を制定し、16区では全域または住居専用地域などで営業を週末に限る制限が設けられていたとされています。
近年は、さらに規制を強化する動きが目立ちます。主な動きを整理すると、次のようになります。
| 区名 | 主な規制内容 | 施行日・適用時期 |
|---|---|---|
| 豊島区 | 区内全域で営業可能期間を春休み・夏休み・冬休み中心の年間120日に制限。住居専用地域、住居地域、準工業地域、文教地区などでは新規開設を制限。営業期間制限は既存施設にも適用。 | 区域・期間制限は令和8年12月16日から施行 |
| 墨田区 | 住宅宿泊事業の適正な運営に関する条例を施行。民泊に関する相談、違法民泊に関する通報、事業者からの相談を受け付ける「すみだ民泊総合窓口」も開設。 | 令和8年4月1日施行 |
| 葛飾区 | 令和8年4月1日以降に届出した施設について、平日営業を制限。家主居住型、管理者が常駐する場合、商業地域の住宅などは制限対象外。全施設に苦情対応記録の保存なども求められる。 | 令和8年4月1日施行 |
| 江戸川区 | 住宅宿泊事業の適正な運営の確保に関する条例・規則を制定。生活環境悪化の防止を目的に、民泊の制度を変更。 | 令和8年7月1日施行予定 |
この表を見ると、東京23区では、条例の有無だけでなく、施行日、経過措置、既存施設への適用、家主居住型・家主不在型の扱い、近隣説明義務、駆け付け体制など、区ごとに細かな違いが生じていることが分かります。
民泊は、全国一律のルールだけを見て判断できる制度ではありません。同じ東京都内でも、区が違えば運営条件は大きく変わります。さらに、同じ区内でも、用途地域や文教地区、学校周辺かどうかによって扱いが変わることがあります。
「隣の区ではできたから、この物件でもできるはず」という判断は危険です。
民泊の世界では、数百メートルの違いが事業計画を左右することがあります。
第4章 事業者・開業検討者が確認すべき経営判断のポイント
ここからは、民泊事業者や開業検討者が、「その物件で始めるべきか」「投資してよいか」「続けられる事業になるか」という判断に関わる項目を中心に扱います。

1 自治体の条例改正の動きを注視する
まず確認すべきなのは、物件所在地の自治体の条例改正スケジュールです。
住宅宿泊事業法の届出先は、都道府県、保健所設置市、特別区などですが、実際の規制は自治体ごとに異なります。
これまで条例がなかった自治体、比較的規制が緩かった自治体でも、今回の観光庁通知を受けて、条例制定や条例改正に動く可能性があります。
特に、住宅地、学校周辺、別荘地、観光地周辺、道路が狭い地域、駐車場不足が問題になりやすい地域では、今後の規制強化に注意が必要です。
開業を検討している場合は、物件購入や賃貸借契約の前に自治体の動きを確認しましょう。「今は条例がない」だけでは、投資判断としては不十分です。
これからは、「条例改正の議論が始まっていないか」「パブリックコメントが出ていないか」「議会で民泊トラブルが取り上げられていないか」まで見る必要があります。
2 既存届出施設も「既得権」とは限らない
今回の報道で特に重要なのは、既存の民泊施設への制限も可能とされている点です。
これまでも国のガイドラインでは、条例公布前に届出をした事業者に対して、経過措置等の特段の定めがない限り、施行日から制限が適用されると説明されていました。
つまり、すでに届出済みだからといって、将来の条例改正の影響を受けないとは限りません。
もちろん、自治体が条例を改正する場合には、事業者の既得の権利や生活環境悪化防止の緊急性などを比較衡量し、経過措置を検討する必要があります。
しかし、豊島区のように、既存施設にも営業期間の制限を適用する例もあります。
既存事業者は、「今の届出があるから大丈夫」と考えるのではなく、条例改正の動向を定期的に確認する必要があります。
特に、すでに近隣から苦情が入っている施設は注意が必要です。今後は、苦情件数や地域トラブルの蓄積が、自治体の規制強化の根拠になり得ます。
日々の苦情対応記録、清掃記録、宿泊者への注意喚起、近隣対応の履歴を残しておくことが、事業を守る材料になる可能性があります。
3 立地リスクを再評価する
民泊事業では、立地が非常に重要です。
これまでは、駅からの距離、観光地へのアクセス、宿泊単価、清掃体制などが重視されてきました。しかし今後は、条例リスクも立地判断の重要な要素になります。
特に注意すべき場所は、次のような地域です。
| 注意すべき立地 | 理由 |
|---|---|
| 住宅地・住居専用地域 | 静かな生活環境への影響が問題になりやすいため |
| 学校・保育所・教育施設の周辺 | 子どもの安全や通学環境への配慮が求められやすいため |
| 文教地区 | 教育環境の保全を理由に規制対象になりやすいため |
| 別荘地 | 静穏な環境を重視する住民・所有者が多いため |
| 道路が狭い地域 | 送迎車両や駐車によるトラブルが起こりやすいため |
| 駐車場が確保しにくい地域 | 路上駐車や近隣敷地への無断駐車につながりやすいため |
| 住民の生活環境保全意識が高い地域 | 条例改正や行政要望につながりやすいため |
これらの地域では、将来的に営業日数の制限、平日営業の制限、新規開設の禁止、近隣説明義務の強化などが行われる可能性があります。
民泊に向いている物件とは、単に「泊まりやすい物件」ではありません。
これからは、「条例変更にも耐えやすい物件」であることが重要になります。
4 追加設備・追加管理コストに備える
報道では、騒音計や出入口カメラの設置を条例で義務化することも促すとされています。
これは、民泊事業者にとって新たなコスト要因になります。
騒音計を設置する場合、単に機器を置くだけでなく、どの程度の音量を超えたらアラートを出すのか、誰が確認するのか、宿泊者へどのように注意するのかといった運用設計が必要です。
出入口カメラについても、防犯や本人確認の面では有効ですが、プライバシーや個人情報の取扱いに注意が必要です。撮影範囲、保存期間、管理者、利用目的、宿泊者への周知方法などを決めておく必要があります。
今後は、消防設備や非常用照明だけでなく、騒音、防犯、本人確認、苦情対応まで含めた管理体制が問われるようになるでしょう。
開業前の収支計画では、最低限の設備費だけでなく、追加規制に対応するための予備費も見ておく必要があります。
設備投資後に条例が変わり、営業日数が減ったり、追加設備が必要になったりすると、当初の収支計画が崩れる可能性があります。
民泊の収支計画では、宿泊単価や稼働率だけでなく、条例変更リスクも織り込む時代になりつつあります。
5 特区民泊からの切り替えには注意する
大阪のように特区民泊の新規受付が停止される地域では、今後、旅館業法の簡易宿所や、住宅宿泊事業法に基づく民泊新法への切り替えを検討する事業者も出てくると考えられます。
ただし、制度を切り替えれば簡単に営業を続けられるわけではありません。
旅館業法の簡易宿所では、用途地域、建築基準法、消防法、条例、フロント要件、構造設備基準などの確認が必要です。
一方、民泊新法に切り替える場合は、年間180日以内の制限を受けます。
また、住宅としての要件、管理業者への委託、宿泊者名簿、定期報告、標識掲示、近隣対応などが必要になります。
特区民泊、旅館業法、民泊新法は、それぞれ似ているようで制度が違います。安易な横滑りはできません。
制度変更を検討する場合は、物件ごとに「どの制度なら可能か」「どの制度が収益的に成り立つか」「どの制度が将来規制に強いか」を整理する必要があります。
6 都道府県と市区町村の二層規制に注意する
民泊規制で見落としやすいのが、都道府県と市区町村の関係です。
住宅宿泊事業法18条に基づく条例は、都道府県、保健所設置市、特別区が定めることができます。
一方で、保健所設置市ではない市町村でも、独自に事前相談、近隣説明、指導、公表などのルールを設ける動きが見られます。つまり、都道府県のルールだけ見て「条例なし」と判断するのは危険です。
市町村独自のルールが存在する場合があります。
特に、観光地や住宅地を抱える自治体では、今後、市町村レベルで民泊に関する独自ルールを整備する可能性があります。
民泊を始める際は、少なくとも次の3つを確認する必要があります。
| 確認対象 | 確認する内容 |
|---|---|
| 都道府県・保健所設置市・特別区 | 住宅宿泊事業条例、営業日数制限、区域制限、届出窓口 |
| 市区町村 | 独自の民泊関連条例、近隣説明、指導、公表、地域ルール |
| 周辺法令・規約 | 消防法、建築基準法、都市計画法、ごみ出しルール、マンション管理規約 |
民泊は、届出書だけで完結する手続きではありません。むしろ、周辺ルールの確認が本体と言ってもよいくらいです。
第5章 開業前・運営中に確認したい実務ポイント
ここでは、実際に物件取得、賃貸借契約、リフォーム、届出準備、運営開始を進める際に、事業者や開業検討者が確認しておきたい実務上のポイントを整理します。
今回の方針転換で重要になるのは、「今、届出できるか」だけではありません。今後は、「届出後も同じ条件で営業を続けられるか」「条例改正や追加規制があった場合に対応できるか」という視点がより重要になります。

1 行政への確認内容は、必ず記録に残す
今回のように制度の運用が変わりつつある時期は、行政への事前確認が特に重要です。口頭で「大丈夫です」と言われただけでは、後から確認が難しくなります。
民泊の開業準備では、担当課に確認した内容を、日時、担当部署、担当者名、質問内容、回答内容として記録しておくことをおすすめします。
確認すべき内容としては、たとえば次のようなものがあります。
| 確認項目 | 確認する理由 |
|---|---|
| 現時点で住宅宿泊事業の条例制限があるか | 現行ルールで届出可能か確認するため |
| 今後、条例改正や運用変更の動きがあるか | 投資後の規制変更リスクを把握するため |
| 対象物件の地域で規制強化の検討があるか | 立地ごとのリスクを確認するため |
| 学校、保育所、住宅地、別荘地などによる制限があるか | 区域規制の対象になる可能性を確認するため |
| 既存届出施設に対する経過措置の考え方 | すでに運営中の施設や開業直前の施設への影響を確認するため |
| 近隣説明や苦情対応について独自ルールがあるか | 開業後のトラブル防止策を整えるため |
| 騒音計、カメラ、駆け付け体制などの追加要件があるか | 追加設備費や管理体制を見積もるため |
2 パブリックコメント・議会資料・審議会資料を見る
民泊の規制強化は、ある日突然、完成した条例として出てくるわけではありません。
多くの場合、条例改正の前には、検討会、審議会、議会での質疑、パブリックコメント、条例案の公表などの動きがあります。そのため、開業予定地で民泊規制の動きがあるかどうかを見るには、自治体ホームページの案内だけでは足りない場合があります。
確認したい情報源としては、次のようなものがあります。
・自治体の民泊制度ページ
・生活衛生課、保健所、観光担当課の公表資料
・議会提出議案
・議会会議録
・パブリックコメントの募集・結果
・審議会、検討会の資料
・自治体の報道発表資料
特に、住宅地や観光地で民泊トラブルが問題化している自治体では、議会で民泊が取り上げられていることがあります。
議会で「騒音」「ごみ」「違法民泊」「住民不安」といった言葉が出ている場合、その地域では将来的に規制強化が進む可能性があります。
物件取得やリフォームに大きな費用をかける前に、こうした動きも確認しておくと、後からのリスクを減らしやすくなります。
3 契約前・購入前・リフォーム前に確認する
今回の方針転換によって、民泊相談や事前確認のタイミングも重要になります。
すでに物件を購入した後、賃貸借契約を結んだ後、リフォームを始めた後に問題が分かると、選択肢が限られてしまいます。
たとえば、次のようなケースです。
・条例改正によって営業日数が大幅に制限される地域だった
・住宅地や教育施設周辺として、新規開設制限の対象になりやすい地域だった
・既存施設にも営業日数制限が及ぶ可能性のある自治体だった
・追加設備義務によって、想定外の費用が発生する可能性があった
・自治体の議会や審議会で、民泊トラブルがすでに問題化していた
・将来の条例改正リスクが高い地域だった
これからの民泊では、「届出できるか」だけでなく、「その物件で投資回収できるか」「将来の条例変更に耐えられるか」「近隣トラブルを防げるか」まで見ておく必要があります。
そのため、民泊を検討している方は、物件の購入前、賃貸借契約前、リフォーム前に、自治体の規制状況を確認することをおすすめします。
民泊は、始める前の確認でかなりリスクを減らせます。逆に言えば、確認を後回しにすると、後から修正するのが難しい事業でもあります。
4 事業計画に「条例改正リスク」を織り込む
今回の方針転換を踏まえると、民泊の事業計画では、これまで以上に条例改正リスクを織り込む必要があります。
特に注意したいのは、「現時点では年間180日まで営業できる」として収支計画を作っている場合です。
今後、自治体が条例を改正し、特定の地域で営業日数を短縮したり、平日営業を制限したり、住宅地や教育施設周辺で新規開設を制限したりする可能性があります。
その場合、当初想定していた売上が大きく下がるおそれがあります。
たとえば、次のようなシナリオを考えておく必要があります。
| 想定シナリオ | 事業への影響 |
|---|---|
| 今後も年間180日営業できる | 民泊新法の上限を前提にした通常の収支計画を立てやすい |
| 今後は年間120日程度に制限される場合 | 売上上限が下がり、投資回収期間が長くなる可能性がある |
| 週末・長期休暇しか営業を許可されない場合 | 稼働日が集中し、平日の売上を見込めなくなる |
| 特定区域で新規開設が制限される場合 | 物件取得後に民泊として使えなくなる可能性がある |
| 既存施設にも制限が適用される場合 | すでに届出済みでも、営業条件が後から変わる可能性がある |
| 騒音計・カメラ等が義務化される場合 | 追加設備費や運用管理コストが発生する |
特に、物件購入費、リフォーム費、家具・家電、消防設備などにまとまった投資をする場合は注意が必要です。営業可能日数が減れば投資回収の前提が変わり、追加設備が義務化されれば初期費用や維持費も増えます。
民泊の収支計画では、楽観的なケースだけでなく、規制強化があった場合のケースも想定しておくことが大切です。上記シナリオ表を参考に、年間120日制限、平日営業制限、追加設備費の発生といった複数パターンで試算しておくと、投資判断の根拠が明確になります。
今回の方針転換は、「始められるか」だけでなく「規制が強化されても続けられるか」を考える必要が出てきたという点に意味があります。条例改正によって営業日数や必要設備が変わる可能性を、あらかじめ事業計画に入れておきましょう。
こうした複数シナリオの整理や、自治体ごとの条例リスクの確認を一人で行うのが難しい場合は、民泊手続きを扱う行政書士への相談も選択肢になります。物件取得前の段階であれば、確認できる情報の幅が広く、選択肢も多く残っています。
まとめ 民泊は「やれるうちにやる」から「続けられる形で始める」時代へ
今回の観光庁の方針転換は、民泊業界全体にとって大きな転換点になる可能性があります。これまでは、住宅宿泊事業法の要件を満たし、自治体への届出を行えば年間180日以内で営業できるという理解が一般的でした。しかし今後は、地域の居住環境への影響、近隣住民からの苦情、自治体の条例改正、設備義務化、既存施設への規制適用などを前提に考える必要があります。
民泊は、空き家活用や不動産収益化の手段として魅力があります。一方で、住宅地の中で宿泊事業を行う以上、地域との共存が不可欠です。これからの民泊事業では、「やれるうちにやる」ではなく、「長く続けられる形で始める」ことが重要になります。
規制強化の流れは不安材料である一方、きちんと準備された民泊事業者にとっては、無秩序な競争との差別化につながる可能性もあります。物件選び、条例確認、消防相談、近隣説明、管理体制、苦情対応まで含めて最初から丁寧に設計することが、結果的に事業を守ることにつながります。
当事務所では、住宅宿泊事業の届出に関する事前調査、自治体・消防への確認、届出書類の作成、開業前のリスク整理をサポートしています。「届出できるか」だけでなく、「条例改正があっても続けられるか」まで含めて確認したい方は、物件購入やリフォームを進める前の段階でお気軽にご相談ください。
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