国交省「建設業政策とりまとめ」をわかりやすく解説|3つの課題と今後の方向性

建設業を取り巻く環境はいま、大きく変わっています。
人手不足、資材価格の高騰、災害の激甚化、そしてDX・AIの進展。どれも現場や経営に直接影響するテーマであり、「これまで通り」では立ち行かなくなりつつあります。

こうした中、国土交通省の勉強会では、2025年6月から2026年3月まで全7回にわたり、今後の建設業政策のあり方が議論されました。本記事では、そのとりまとめをもとに、建設業がいま直面している課題と、国がどのような方向を目指しているのかを、できるだけわかりやすく整理します。なお、このとりまとめは直ちにすべての制度改正を確定するものではなく、今後の政策の方向性を示した資料として読むのが適切です。

目次

なぜ今、建設業政策の見直しが必要なのか

建設業は、インフラ整備や維持管理の担い手であるだけでなく、災害時には地域を守る存在でもあります。社会にとって不可欠な産業ですが、一方で、他産業と比べて賃金が低い傾向があり、就労時間が長く、人材確保が難しいという課題を抱えてきました。こうした状況を受けて、令和6年6月には第三次担い手3法が成立し、労務費の確保や処遇改善、働き方改革に向けた措置が講じられています。

もっとも、国の整理はそこで終わっていません。
生産年齢人口の減少は今後さらに進み、建設業は「人余りへの対応」ではなく、人が足りないことを前提に産業を組み直す時代に入るとされています。加えて、資機材価格の高騰、AI・デジタル技術の進展、災害の頻発化など、外部環境も大きく変わっています。つまり、建設業政策の見直しは、単なる制度改正の積み重ねではなく、産業そのものの再設計に近い話なのです。

建設業に残る3つの構造的課題

国の資料では、建設業に残る課題を大きく3つに整理しています。
「産業構造」「契約慣行」「働き方」です。整理の仕方がうまく、現場の感覚ともかなり噛み合っています。

1 産業構造の課題

まず大きいのが、建設業特有の産業構造です。
業務量の繁閑が大きく、工事現場では多くの専門工事業者が関わる重層下請構造が形成されやすく、中小・零細事業者が非常に多い。こうした構造のため、製造業などと比べると効率化や標準化が進みにくく、DX投資や人材育成に必要な余力も確保しづらいとされています。さらに、建設業では小規模企業に従業員が多く所属しているため、資本装備率の高い一部企業の生産性が高くても、業界全体では生産性が上がりにくいという「逆転現象」も指摘されています。

加えて、企業が人材を自社で抱えず、仕事が発生したときに外部へ発注する傾向が、重層下請構造をさらに強める一因にもなっています。これにより、現場全体への品質管理が届きにくくなったり、中間で実態のない「中抜き」が生じたり、最終的に下請企業や労働者にしわ寄せが及ぶおそれがあると整理されています。

2 契約慣行の課題

次に、契約のあり方です。
建設業では、総価一式による請負や、口頭での契約・変更指示がなお残っており、コストの中身や変更の範囲が見えにくい場面があります。資材価格や人件費が上昇する局面では、この不透明さがそのまま価格転嫁の難しさにつながり、受発注者間のミスコミュニケーションやトラブルの原因になります。

問題は、そこで止まらないことです。
円滑な契約変更ができなければ、本来下請に支払うべき労務費が削られたり、現場で働く人への賃金支払いが不十分になったりするおそれがあります。契約の不透明さは、単なる書類の問題ではなく、処遇改善や人材確保の問題にも直結しているわけです。建設業がこれから「信頼される産業」になるためには、契約は対等であるという感覚を、実務のレベルで根づかせる必要があります。

3 働き方の課題

3つ目は働き方です。
資料では、日給制の慣行、退職金制度の弱さ、天候や季節に左右されやすい勤務環境、そして建設業特有の制度や規制が、現代の多様な働き方と合わなくなっている点が挙げられています。特に日給制については、処遇改善の妨げになるだけでなく、時間管理や割増賃金支払いの面でも課題を生みやすいとされています。

また、技術者制度についても、適正施工の確保に重要な役割を果たす一方、直接的・恒常的な雇用関係や配置のあり方が、流動化した現在の労働市場や多様な働き方とずれる面があるのではないか、という問題提起がされています。若者の建設業に対するイメージは以前ほど一様に悪いわけではないものの、中小・零細事業者では採用活動や離職対策が十分でないケースも多く、ここは実務的にもかなり重い論点です。

国が示した2つの基本視点

こうした課題を踏まえて、資料ではまず2つの基本視点を示しています。
それが、「信頼」される建設業と、「生産システムの高度化・効率化」です。

「信頼」される建設業とは、単に工事を完成させるだけではなく、国民や消費者、発注者、地域社会、そして働く人から見て、「この業界は必要だ」「ここで働きたい」「この会社に任せたい」と思われる産業になることを意味します。そのためには、良い仕事を丁寧に続けることはもちろん、人材を育て、適正な労務費や賃金を確保し、発注者・受注者間で対等なコミュニケーションを重ねることが必要だとされています。

もう一つの「生産システムの高度化・効率化」は、少ない担い手でこれまで以上の成果を上げるための視点です。ICT、DX、AI、施工自動化などを活用しながら、現場だけでなく、企業経営、書類事務、業界慣行まで含めて見直していく。つまり、単に「ITを入れましょう」という話ではなく、業界全体の仕組みをアップデートしていく必要があるということです。

目指すべき3つの産業像

そのうえで、国は建設業が目指すべき姿として、3つの産業像を掲げています。
それが、「人を大事にする」産業真に「経営力」のある産業「未来に続く」産業です。

「人を大事にする」産業

ここでいう「人を大事にする」とは、単なるスローガンではありません。
能力や役割に応じた適切な処遇を実現し、ライフステージに応じた柔軟な働き方を可能にし、女性や若者を含めた多様な人材が活躍できる産業にするという意味です。月給制への転換、CCUSの活用、退職金制度の充実、週休2日や猛暑対策などは、その具体策として位置づけられています。

真に「経営力」のある産業

次に、「経営力」です。
建設業では、法令遵守や施工能力だけでなく、人材投資、DX投資、労務管理、教育、財務健全性などを含めて、持続的に利益を出し、良い仕事を続けられる会社が評価されるべきだとされています。中小企業に対しては、経営情報のわかりやすい発信、業界団体による支援、事業承継や企業統合・ホールディングス化も含めた規模のメリットの確保などが論点として示されています。

「未来に続く」産業

そして3つ目が、「未来に続く」産業です。
重層下請構造の改善、業界慣行の見直し、女性や若者に評価される建設業の実現、コストプラスフィー契約の検討、公共発注のあり方の見直し、発注者・受注者の信頼関係の構築など、かなり踏み込んだテーマが並びます。要するに、今だけ回ればよい業界ではなく、将来の担い手が希望を持てる業界に変えていくという発想です。

建設会社が押さえておきたい政策の方向性

ここからは、実務に引きつけて、特に押さえておきたい政策の方向性を見ていきます。

処遇改善と人材確保

資料では、労務費の確保・行き渡りの徹底、月給制への転換支援、建設業退職金共済制度の改善、CCUS活用の徹底などが「人を大事にする産業」に向けた中心論点になっています。特に、日給制から月給制への転換は、採用・定着・猛暑日対応・生活の安定という観点から重要なテーマとして扱われています。

また、より柔軟な働き方や労働力の融通、高齢者の活躍、フリーランス的な働き方への配慮、猛暑対策なども挙げられています。人が足りない時代には、「来てもらう」だけでなく「続けてもらう」視点が不可欠であり、処遇改善はその土台になります。

DX・AI対応と書類事務の見直し

DX・AIについては、単なる流行語としてではなく、建設業が生き残るための前提条件として扱われています。業界全体での技術開発や投資の促進、施工自動化、リスキリング、DX人材育成に加え、書類事務の簡素化・効率化も重要論点です。資料では、CI-NETの活用による電子契約推進や、元請ごとに様式が異なる安全書類への対応の非効率さにも触れられており、業界主導での書式統一やシステム連携への期待が示されています。

この点は、中小建設業にとって特に重要です。
現場が忙しい会社ほど、書類の非効率が静かに利益を削ります。DXは大掛かりなシステム導入だけではなく、どの書類にどれだけ時間がかかっているかを見える化することから始める方が、むしろ現実的です。

契約・発注制度の見直し

契約制度では、災害時や物価上昇時の選択肢として、コストプラスフィー契約のあり方が論点として挙げられています。これは、日本の建設実務で一般的な契約方式ではありませんが、前提条件が定まりにくい大規模災害時などでは、コストの透明性を確保しながら円滑に工事を進めるための現実的な手法として検討に値すると整理されています。

さらに、公共発注については、実勢価格を踏まえた適正な予定価格・工期の設定、週休2日や猛暑日を考慮した工期設定、契約変更への適切な対応、地方公共団体の発注体制強化などが必要とされています。落札価格だけを見るのではなく、地域防災力の維持や地域事業者の持続可能性も踏まえた発注の視点が重要だ、という問題意識はかなり明確です。

また、民間工事については、発注者と受注者が相互の懸念や課題を率直に話し合う場の構築が重要だとされています。これは実務的にも非常に大切で、契約書の条文だけで関係を回すのではなく、価格転嫁や工期、担い手確保などの課題を共有するコミュニケーションの設計が求められているといえます。

経審の改正と、今後の企業評価の見直し

建設業の企業評価をめぐっては、今後の方向性として「処遇改善」「労務管理」「人材育成」「DX推進」などを、従来以上にどう評価へ反映していくかが論点になっています。国交省のとりまとめでも、現行の経営事項審査や建設業許可更新、見える化評価制度などを検証したうえで、企業の成長性や人材への投資、デジタル対応、所属技術者の能力・実績などを踏まえた評価のあり方を検討すべきとされています。

一方で、経営事項審査そのものについては、すでに令和8年7月1日以降の申請から適用される改正が公表されています。今回の改正では、まず「建設技能者を大切にする企業の自主宣言制度」の宣言状況が、新たにW点の加点項目として追加され、5点が加算されます。審査基準日が宣言日以降であり、宣言書と誓約書が提出されていることが加点要件です。

また、社会保険加入に関する減点項目は削除されます。これは、令和2年10月に建設業許可・更新の要件に社会保険加入が追加され、令和7年10月以降は経審受審企業が当然に許可要件を満たす前提になるためです。削除されるのは、雇用保険・健康保険・厚生年金保険の3項目で、各▲40点、合計最大▲120点の減点がなくなります。

あわせて、CCUSの就業履歴蓄積に関する加点配分も見直されます。具体的には、「民間工事を含む全ての建設工事」は15点から10点へ、「全ての公共工事」は10点から5点へ引き下げられ、その代わりに自主宣言制度の5点加点が新設される形です。つまり、今後はCCUSの活用だけでなく、技能者を大切にする企業としての姿勢をどう示すかも、経審上の評価要素として明確に位置づけられたといえます。

中小建設業にとっては、経審を単なる点数計算として見るのではなく、処遇改善、CCUS運用、人材確保、社内制度整備を含めた「会社の見せ方」の一部として捉えることが、これまで以上に重要になりそうです。さらに、その先では、とりまとめが示すように、処遇改善や教育、DX対応などを企業評価へどう広げていくかという議論も続いていくと考えられます。

中小建設業にとっての実務的インパクト

このとりまとめは、すぐに全ての制度が変わるという話ではありません。
それでも、中小建設業にとってのインパクトは十分にあります。なぜなら、国が今後どこを見て制度設計や評価制度を組み直そうとしているのかが、かなりはっきり示されているからです。

実務的には、まず次の3点が重要です。

1つ目は、雇用・処遇・退職金制度の棚卸しです。
月給制への対応、社会保険、退職金制度、CCUS登録状況、労務費の確保などは、今後ますます経営の中心論点になります。

2つ目は、書類運用とDXの現状把握です。
安全書類、契約、見積、施工体制台帳、就業履歴管理など、「どこに無駄があるか」を洗い出すだけでも改善余地は見えてきます。

3つ目は、許可・経審・企業評価を“点”ではなく“線”で見ることです。
許可更新や経審を単なる手続として処理するのではなく、会社の見せ方、採用、受注、元請・金融機関への説明力まで含めて再設計していく視点が必要です。

加えて、事業承継、企業統合、ホールディングス化、地域連携なども、今後は「一部の会社だけの話」ではなくなっていくでしょう。資料でも、規模のメリットを確保する観点や、地域事業者の持続可能性を支える視点が繰り返し出てきます。地域の守り手として建設業を残すには、個社単独の努力だけでなく、業界全体・地域全体での再編や連携も視野に入る時代だといえます。

まとめ

今回のとりまとめは、2017年に公表された「建設産業政策2017+10」から約10年を迎える中で、建設業を取り巻く社会経済情勢の変化を踏まえ、改めて目指すべき建設業の姿と具体的な政策の方向性を整理したものです。そして最後には、国だけでなく、建設業界や関係者が一体となって、今後さらに検討を深めていく必要があると締めくくられています。

建設業は、これからも社会に不可欠な産業です。
だからこそ、「人が集まらないなら仕方ない」「書類が大変なのは建設業だから仕方ない」で済ませず、処遇、契約、発注、DX、評価のあり方まで含めて、産業そのものを更新していくことが求められています。

制度は、ある日突然すべてが変わるわけではありません。
ただ、国がどちらの方向を向いているかを早めに読んで準備している会社は、やはり強いです。建設業許可、経審、CCUS、組織整備、人材確保、事業承継など、今後を見据えて整理したいことがある場合は、早めに専門家に相談しながら進めるのがおすすめです。

つむぎ行政書士事務所では、建設業許可や更新、経審をはじめ、建設業の制度対応や実務整理のご相談を承っています。
自社では何から手をつけるべきか迷われる場合も、現状整理から一緒に進めていけますので、お気軽にご相談ください。

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