茨城県で全国初の不法就労防止条例が成立|外国人を雇う中小企業が確認すべきポイント

1. 茨城県で不法就労防止条例が成立しました
2026年6月16日、茨城県議会の6月定例会で、第82号議案「茨城県外国人の不法就労活動の防止に関する条例」が可決・成立しました。
出典:令和8年第2回茨城県議会定例会議案(当議案はpdf6ページ目)
施行日は2026年7月1日で、外国人を雇用している、あるいは今後雇用を検討している県内事業者にとっては、無関係ではいられない内容です。

今回の条例は、「外国人の不法就労活動の防止」を正面から掲げたものとしては、全国で初めての条例とされています。
これまで、不法就労への対応は主として入管法や労働関係法令の枠組みで行われてきましたが、茨城県はそれに加えて、「県としての方針と仕組み」を明文化した形です。
とはいえ、忙しい事業者の方が、県の資料や報道記事を一つひとつ読み込んで整理するのは現実的ではありません。
そこで本記事では、行政書士・中小企業診断士の立場から、
- なぜ茨城県で、このタイミングで条例が必要になったのか
- 条例のどこが事業者に関係してくるのか
- 企業側は今、何を準備しておくべきか
といったポイントを、できるだけ実務目線でかみ砕いてお伝えします。
なお、このテーマは「外国人を雇わないようにしましょう」という話ではありません。
人口減少や人手不足が進む中で、外国人材は地域産業を支える重要な担い手になっています。
大切なのは、不法就労に頼らない形で、外国人材に安心して働いてもらえる環境を整えることです。
その意味で、今回の条例は「不法就労の防止」と「適正な外国人雇用・共生」の両方を考えるきっかけになるものだといえます。
2. なぜ茨城県で条例が作られたのか
まずは、「なぜ茨城県で不法就労防止条例なのか」という背景を、数字と事実から確認しておきます。
前提となる状況を押さえておくことで、条例の狙いが理解しやすくなります。

(1) 不法就労者数は「全国最多」の状況が続いている
茨城県の説明によると、県内の不法就労者数は全国最多の状況が続いており、直近では4年連続で全国最多とされています。
出典:茨城県「知事定例記者会見における発言要旨(2026年4月24日)」
県としても、この状況に強い危機感を持っていることがうかがえます。
不法就労が問題になりやすい分野としては、農業・建設・製造など、人手不足が深刻な産業が中心です。
「人手が足りない」「紹介者に任せてしまった」「在留資格の確認方法がよく分からない」といった現場の事情から、在留資格や雇用形態のチェックが不十分なまま、外国人が現場に入ってしまうケースも考えられます。
県の説明では、全国では不法就労関係の摘発が減少傾向にある一方で、茨城県では増加しているとされています。
つまり、全国的な傾向とは異なり、茨城県では不法就労への対応が特に重要な課題になっているということです。
ここで注意したいのは、「外国人が増えたから問題だ」という単純な話ではないという点です。
問題なのは、適正な在留資格や雇用管理を確認しないまま働かせてしまうこと、そして、そうした状態を放置してしまうことです。
適正に働いている外国人や、適正に雇用している事業者が不利益を受けないためにも、不法就労を防ぐ仕組みを整える必要がある。
これが、県側の基本的な問題意識だと考えられます。
(2) 深刻な人手不足と、外国人材への依存
一方で、茨城県の企業・事業者側の状況を見ると、多くの業種で人手不足が常態化しています。
特に建設業、運輸・倉庫業、農業、介護・福祉、製造業などでは、「日本人だけでは人員が確保できない」という声も少なくありません。
県内の生産年齢人口は年々減少しており、高齢化も進んでいます。
そのため、単に「不法就労を取り締まれば済む」という話ではなく、「合法的・適正なかたちで外国人材に力を発揮してもらう仕組みづくり」が不可欠になっているフェーズだといえます。
実際、外国人材はすでに多くの現場で重要な役割を担っています。
農業の現場、建設現場、工場、介護施設、飲食・宿泊業など、外国人従業員がいなければ事業運営が難しいという会社もあるはずです。
だからこそ、今回の条例は「外国人を締め出す」ためのものではなく、「適正な雇用のルールをはっきりさせ、不法就労に頼らない形で、外国人材と共に地域を支えていくための土台づくり」という側面が強いと考えられます。
人手不足の現場では、「今すぐ働ける人が必要」という切実な事情があります。
しかし、その切実さがあるからこそ、在留資格や就労可能な活動内容の確認を後回しにしてしまうと、後で会社側に大きなリスクとして返ってくる可能性があります。
(3) 増え続ける外国人住民と「選ばれる地域」づくり
茨城県内の在留外国人は、この10年ほどで大きく増加しています。
つくば市や常総市、土浦市などを中心に、工場や農業、研究開発拠点などで働く外国人、その家族として暮らす外国人が着実に増え、地域社会に根付いてきました。
外国人材は、単なる「労働力」ではありません。
地域企業を支える担い手であり、同じ地域で暮らす生活者でもあります。
県としても、「外国人材から選ばれる地域にならなければ、人手不足を乗り切れない」という認識を強く持つようになっていると考えられます。
外国人にとって働きやすく、暮らしやすい地域でなければ、他県や他国との人材獲得競争の中で選ばれにくくなるからです。
ただし、受け入れ側の体制が不十分なまま人数だけが増えると、言葉や文化の違いから、トラブルや誤解、不適切な雇用慣行が生じやすくなります。
その結果として不法就労が増え、「外国人」と「不法」というイメージが結びついてしまえば、地域の分断を生むリスクもあります。
これは、外国人本人にとっても、適正に雇用している事業者にとっても望ましいことではありません。
不法就労を防ぐことは、外国人材を排除するためではなく、むしろ適正に働く外国人と、適正に雇用する事業者を守るためにも必要な取り組みだといえます。
(4) 「不法就労は止める」「共生は進める」というジレンマへの回答
このように、茨城県は今、
- 不法就労が全国最多の状況を是正したい
- しかし、外国人材には引き続き茨城で働き、暮らしてほしい
という、ある種のジレンマに直面しています。
今回の不法就労防止条例は、このジレンマに対する県なりの回答の一つです。
国の入管法や労働関係法令に基づく取締りに頼るだけでなく、県として、
- どのような考え方で外国人材と向き合うのか
- 県・事業者・県民それぞれが、どんな役割と責任を分担するのか
- 不法就労を防ぎながら、適正な外国人雇用をどう進めるのか
を明文化しようとしている、と整理できます。
事業者にとって重要なのは、「県が条例を作ったらしい」で終わらせないことです。
今後は、外国人を雇用する会社に対して、在留資格や雇用状況の確認がこれまで以上に求められる可能性があります。
つまり、今回の条例は、外国人雇用を行う事業者にとって、自社の管理体制を見直すタイミングでもあります。
この背景を踏まえた上で、次に具体的な条例の内容を見ていきます。
3. 条例の概要:何を目指した条例なのか

ここからは、条例の中身を事業者目線で整理していきます。
今回成立した条例は、正式名称を「茨城県外国人の不法就労活動の防止に関する条例」といいます。
対象となるのは、茨城県内で外国人を雇用する事業者や、県内で事業活動を行う企業・個人事業主などです。
目的条文では、大きく次のような趣旨が掲げられています。
- 外国人の不法就労活動を防止すること
- 外国人の適正な雇用を推進すること
- 県内経済の健全な発展に寄与すること
- 秩序ある共生社会の実現を図ること
つまり、「不法就労対策」と「経済・共生」の両方を見据えた条例だということです。
単に「取り締まる」だけでなく、「適正な雇用と共生という、あるべき姿に近づける」ためのルールづくりという位置づけになります。
また、本条例は国の入管法や労働関係法令に代わるものではありません。
国の法律に基づく枠組みはそのままに、茨城県として、
- 県・事業者・県民の役割と責務を明確にする
- 県がどのような施策や調査を行うかの仕組みを整える
- 不法就労防止に向けた啓発や連携体制を整備する
という、県独自の枠組みを定めたものとイメージすると分かりやすいと思います。
なお、本条例自体は、事業者に対して直ちに罰則を科す内容ではありません。
ただし、不法就労が疑われる場合には、入管法上の不法就労助長罪など、別の法律上の問題につながる可能性があります。
「条例に罰則がないから関係ない」と考えるのではなく、「今の雇用管理で説明できる状態になっているか」を確認することが重要です。
4. 県・事業者・県民それぞれの「責務」
本条例の特徴の一つは、「誰が何を担うのか」を整理している点です。
条文上は、「県」「事業者」「県民」それぞれの責務が位置づけられています。

(1) 県の責務
県には、不法就労活動防止施策を総合的に策定し、実施する責務があるとされています。
具体的には、次のような取り組みが想定されます。
- 不法就労防止に関する施策の策定・実施
- 事業者や外国人への周知・啓発
- 市町村、事業者、県民との連携体制の整備
- 外国人雇用に関する相談・情報提供体制の整備
つまり、「取り締まり」だけではなく、「ルールを分かりやすく伝え、相談できる環境を整えながら、不法就労を減らしていくこと」が県の役割として明文化されます。
(2) 事業者の責務
事業者については、主に次の点が責務として示されています。
- 事業活動を行うに当たり、外国人の不法就労活動の防止のために必要な措置を講ずるよう努めること
- 県が実施する不法就労活動防止施策に協力するよう努めること
ここでポイントになるのは、「必要な措置を講ずるよう努める」という部分です。
在留資格や就労可能な活動内容を確認しないまま採用したり、契約内容と実際の就労実態がずれている状態を放置したりすると、「適正な管理」とは言い難くなっていきます。
本条例は、事業者に対して直ちに罰則を科すものではありません。
しかし、「県条例に明記された責務」である以上、今後は行政からの照会や調査の際に、この規定を踏まえて説明や改善を求められる場面が出てくる可能性があります。
そのため、外国人を雇用している事業者は、最低限、
- 誰を雇用しているのか
- どの在留資格で働いているのか
- どの業務に従事しているのか
- 在留期限はいつまでか
- 資格外活動許可や指定書の確認が必要なケースでは、確認できているか
を整理しておく必要があります。
(3) 県民の責務
県民についても、外国人の不法就労活動の防止に積極的に努めること、県が実施する施策に協力するよう努めることが定められています。
ここには、「不法就労を見て見ぬふりしない」という趣旨だけでなく、適正な外国人雇用を地域全体で支えていくというメッセージも含まれていると考えられます。
ただし、この点は後述する通報報奨金制度との関係で、社会的な議論を呼びやすい部分でもあります。
不法就労を防ぐことは重要ですが、それが外国人全体への偏見や差別につながってはいけません。
事業者としても、単に「怪しい外国人を見つける」という発想ではなく、「自社の雇用管理を適正にする」という視点を中心に置くことが大切です。
5. 事業者への調査と通報の仕組み
本条例で、事業者にとって特にインパクトがあるのが、「県による雇用状況調査」と「不法就労が疑われる場合の通報」の規定です。

(1) 雇用状況に関する調査
本条例では、知事が、外国人を雇用する事業者を対象として、県内で就労する外国人の雇用状況に関する調査を行うものとされています。
具体的な調査方法は、今後の運用を確認する必要があります。
現時点では、アンケート、書面確認、個別の照会、ヒアリングなど、さまざまな形が考えられます。
ここで重要なのは、「県から聞かれても説明できる状態になっているかどうか」です。
在留カードを確認しているか、在留資格と実際の業務内容が合っているか、在留期限を管理しているか、といった点について、会社側で最低限整理しておく必要があります。
たとえば、次のような情報を一覧で管理しておくと、確認漏れを防ぎやすくなります。
- 氏名
- 国籍・地域
- 在留資格
- 在留期間・在留期限
- 在留カード番号
- 就労制限の有無
- 資格外活動許可の有無
- 実際の業務内容
- 勤務場所
- 雇用契約書・労働条件通知書の有無
もちろん、個人情報の管理にも注意が必要です。
ただし、何も記録がなく、採用時に誰が何を確認したのか分からない状態では、いざ問い合わせや調査があったときに説明が難しくなります。
(2) 不法就労が疑われる場合の通報
本条例では、調査事務に従事する職員が、入管法上の不法就労助長罪に該当すると思われる者があるときは、その旨を警察官に通報するものとされています。
ここは事業者にとって特に注意が必要です。
県の調査が、単なる注意喚起やアンケートだけで終わるとは限らず、不法就労が疑われる場合には、警察への通報につながる仕組みが明記されているからです。
事業者側から見ると、
- 在留資格を確認しないまま雇用していた
- 在留期限が切れていることに気づかず働かせていた
- 就労が認められていない業務に従事させていた
- 派遣・紹介・請負の形をとっているが、実態として不適切な就労になっていた
といったケースでは、大きなリスクになり得ます。
もちろん、すべてのミスが直ちに刑事事件になるという話ではありません。
しかし、「知らなかった」「紹介者に任せていた」「本人が大丈夫と言っていた」だけでは、十分な説明にならない可能性があります。
(3) 実務上の意味合い
実務的には、次のような対応が必要になってきます。
- 外国人雇用に関する基本情報を一覧で把握できるようにしておく
- 採用フローの中に「在留資格の確認」「業務内容との整合性チェック」を組み込む
- 在留期限の更新時期を管理し、期限切れを防ぐ
- 資格外活動許可や特定活動の指定書など、見落としやすい書類を確認する
- 派遣・請負・委託などが絡む場合は、契約関係と実際の就労実態を整理する
こうした体制を整えておくことで、調査や問い合わせがあった際にも落ち着いて対応できるようになります。
逆に、確認ルールがなく、現場任せ・紹介者任せになっている会社は、今のうちに見直しておく必要があります。
外国人雇用は、人手不足対策として有効な選択肢です。だからこそ、入口の確認と雇用後の管理をしっかり整えておくことが大切です。
6. 11月「不法就労防止推進月間」と啓発・支援
本条例では、毎年11月を「不法就労防止推進月間」と定めています。
この期間中は、県が不法就労防止や適正な外国人雇用に関する啓発・広報・相談などを集中的に行うことが想定されます。
事業者側から見ると、11月は次のような「社内アクション月間」として位置づけることができます。
- 外国人雇用に関する社内チェックの実施
- 在留資格や在留期限の棚卸し
- 契約内容と実際の業務内容の確認
- 外国人従業員・日本人従業員向けのミニ研修
- 相談窓口や社内ルールの周知
- 行政や専門家が実施するセミナー・相談会への参加
毎年決まったタイミングで「振り返りと見直し」を行う仕組みを作っておくと、結果的に不法就労リスクの低減につながります。
特に、外国人従業員が複数いる会社では、在留期限や業務内容の変更を個別に追いかけるのは意外と大変です。
11月を点検のタイミングにすることで、管理の抜け漏れを防ぎやすくなります。
「年に一度の健康診断」のようなものだと考えると分かりやすいかもしれません。
会社の外国人雇用管理も、放っておくと知らないうちにズレが出ます。定期的に点検する仕組みがあるだけで、リスクはかなり下げられます。
7. 通報報奨金制度との関係と社会的な議論

本条例とは別に、茨城県は「不法就労情報提供システム」および「不法就労通報報奨金制度」を導入しています。
この制度は、不法就労を助長している疑いのある事業者等に関する有益な情報を受け付けるものです。
ここで重要なのは、通報の対象が「外国人労働者本人」ではないという点です。
県は、通報の対象を、不法就労者を雇用する事業者や、不法就労者をあっせんするブローカーなど、不法就労助長罪に違反している疑いのある事業者等に限定しています。
また、差別や誹謗中傷を目的とした通報、虚偽の通報、見た目や国籍など労働者個人の属性だけを理由とする通報は受け付けないとされています。
報奨金についても、単に「通報すればもらえる」というものではありません。
通報の結果、事業者等の不法就労助長罪での逮捕につながったものなど、特に有益な情報に対して、原則1万円の報奨金が支払われる仕組みです。
この制度は、「自治体レベルで通報に報奨金を出す」という点で全国的にも注目されており、賛否両論を呼んでいます。
賛成意見としては、
- 不法就労を見過ごさない社会づくりに資する
- 水面下で行われている悪質な雇用慣行の抑止につながる
- 適正に雇用している事業者を守ることにつながる
といった見方があります。
一方で、懸念・批判としては、
- 「密告奨励」「外国人狩り」のように受け止められるおそれがある
- 差別や偏見を助長するのではないか
- 事実に基づかない通報や、個人的なトラブルを契機とした通報が増えるのではないか
といった声もあります。
県は、「外国人排斥ではなく、不法就労をなくすための仕組みであり、適正な外国人雇用を推進するためのものだ」と説明しています。
一方で、実際の運用や社会の空気次第では、外国人に対する不信感や萎縮を生む可能性も否定できません。
企業としては、
- 制度がある以上、不法就労に当たるような状態は放置しない
- その一方で、外国人だからといって疑いの目で見る空気を助長しない
- 適正に働く外国人と、適正に雇用する事業者を守る視点を持つ
というバランス感覚が求められます。
本条例と通報制度をセットで捉えつつ、「法令遵守」と「共生」の両方に配慮した社内ルール・対応方針を整えることが重要です。
8. 中小企業・個人事業主が今すぐできる3つのチェック
ここからは、実務的な視点で「まず何から手を付けるべきか」を3つに絞って整理します。
細かいところは専門家と一緒に詰めるとしても、この3点を押さえるだけでリスクはかなり変わります。

チェック1:在留カードと在留資格の確認フロー
外国人を採用する際は、在留カードの原本確認を必ず行いましょう。
コピーを取って終わりではなく、在留資格、在留期限、就労制限の有無を確認することが重要です。
特に確認したいのは、次の点です。
- 在留カードが有効か
- 在留資格は何か
- 在留期限はいつまでか
- 就労制限の有無はどうなっているか
- 資格外活動許可が必要なケースか
- 特定活動の場合、指定書の内容まで確認しているか
たとえば、「技術・人文知識・国際業務」「特定技能」「技能実習」「留学」「家族滞在」「特定活動」などは、それぞれ就労できる範囲が異なります。
「なんとなく大丈夫そうだから」ではなく、「どの在留資格で、どんな仕事ができるのか」を最低限把握しておくことが必要です。
ここはチェックリストや確認シートを一枚用意するだけでも、抜け漏れがかなり防げます。
チェック2:契約内容と実際の業務・勤務地の整合性
在留資格が形式上は合っていても、実際の仕事内容がずれていると問題になることがあります。
確認したいのは、次のような点です。
- 労働条件通知書や雇用契約書に記載されている業務内容と、実際に従事している業務が一致しているか
- 採用時に説明した職種と、現場で実際に任せている仕事がずれていないか
- 勤務地や配置転換が、在留資格上問題のない範囲に収まっているか
- 派遣・請負・業務委託などを経由して受け入れている場合、契約関係と現場での実態が一致しているか
特に注意したいのは、現場判断での配置転換です。
繁忙期に別の部署を手伝ってもらったり、人手が足りない現場に応援に入ってもらったりすることは、中小企業ではよくあります。
しかし、外国人従業員の場合、その業務が在留資格上認められているかどうかを確認する必要があります。
日本人従業員と同じ感覚で「今日はこっちを手伝って」と指示してしまうと、思わぬリスクにつながることがあります。
なお、外国人を雇用する事業主には、外国人雇用状況の届出も求められます。届出を怠ったり、虚偽の届出を行った場合には、30万円以下の罰金の対象となるため注意が必要です。
チェック3:外国人従業員とのコミュニケーションと相談ルート
外国人雇用では、書類の確認だけでなく、日々のコミュニケーションも重要です。
たとえば、次のような対応が考えられます。
- 就業ルール、残業、休日、賃金などについて、分かりやすい日本語で説明する
- 必要に応じて、やさしい日本語や母国語資料を活用する
- トラブルや不安があったときに相談できる窓口を案内しておく
- 管理職や現場リーダーに、外国人雇用の基本ルールを共有しておく
- 在留期限や更新手続について、本人任せにしすぎない体制を作る
不法就労の一部には、外国人本人が制度やルールを十分理解しておらず、「頼まれたから」「断りづらくて」という理由で線を超えてしまうケースも含まれます。
「分からないことがあれば遠慮なく聞いてほしい」
「困ったらここに相談してほしい」
と伝えておくことで、問題の早期発見・早期対応につながります。
外国人雇用管理は、書類だけ整えれば終わりではありません。
現場で無理なく回るルールにしておくことが大切です。
9. 専門家として提供できるサポート
最後に、こうした状況の中で、専門家としてどのような支援が可能かを整理しておきます。
(1) 外国人雇用コンプライアンス診断
現在雇用している外国人について、在留資格と実際の業務内容が合っているかを確認します。
たとえば、次のような点をチェックします。
- 在留資格と業務内容の整合性
- 在留期限の管理状況
- 資格外活動許可の有無
- 特定活動の指定書の確認
- 採用時に確認すべき書類の整理
- 入管手続が必要になりそうなケースの洗い出し
外国人雇用は、「採用時に在留カードを見たから大丈夫」で終わるものではありません。
業務内容が変わった場合、在留期限が近づいた場合、雇用形態が変わった場合など、その都度確認が必要になることがあります。
(2) ルール・書式の整備支援
外国人雇用では、確認すべきことが多いため、会社ごとに使いやすい書式を整えておくと効果的です。
たとえば、次のような書式です。
- 在留資格確認用チェックリスト
- 採用時の確認シート
- 在留期限管理表
- 資格外活動許可・指定書の確認記録
- 外国人従業員向けの説明資料
- 社内マニュアルへの反映資料
書式があるだけで、現場担当者の確認漏れを防ぎやすくなります。
また、後から「いつ、誰が、何を確認したのか」を説明しやすくなる点も重要です。
(3) 人手不足対策と外国人材活用の両立支援
中小企業診断士の視点からは、人手不足対策と外国人材活用を、経営課題として整理することも重要です。
たとえば、
- どの業務で人手不足が起きているのか
- その業務は外国人材に任せられる内容なのか
- 特定技能、技術・人文知識・国際業務、身分系在留資格など、どの制度と相性がよいのか
- 外国人材を受け入れるために、社内でどのような体制が必要か
といった点を整理します。
不法就労防止は、単に「違反しないため」の話ではありません。
安心して外国人材に力を発揮してもらうための前提条件です。
なお、外国人雇用には、在留資格、雇用契約、労務管理、社会保険、労働トラブルなど、複数の分野が関係します。
行政書士として対応できる部分を整理しつつ、必要に応じて社会保険労務士や弁護士などの専門家とも連携しながら、事業者が安心して外国人材を受け入れられる体制づくりを支援します。
10. まとめ:外国人雇用は「確認できる体制づくり」が重要です
茨城県の不法就労防止条例は、不法就労の多さという厳しい現実と、深刻な人手不足・外国人材への依存という構造的な課題の中から生まれた条例です。
不法就労をなくすと同時に、適正な外国人雇用と共生社会の実現を目指す「土台づくり」といえます。
事業者としては、まず次の3点を確認しておくことが重要です。
- 在留資格・在留カードの確認フローを整えること
- 契約内容と実際の業務・勤務地を一致させること
- 外国人従業員とのコミュニケーションと相談ルートを整えること
こうした基本的な対応を今のうちから進めておくことで、調査や通報制度への不安を大きく減らすことができます。
「うちは外国人が何人もいるので心配だ」
「在留カードは確認しているが、業務内容まで合っているか不安だ」
「何から手をつければいいか分からない」
という事業者の方は、一度、現状の棚卸しだけでもしてみることをおすすめします。
