民法改正案で何が変わる?成年後見制度とデジタル遺言のポイント

2026年4月3日、政府は民法等の改正案を閣議決定し、国会に提出しました。今回の改正案は、成年後見制度の大幅な見直しと、いわゆるデジタル遺言の創設を大きな柱とするものです。超高齢社会の進展を背景に、これまで「使いにくい」と指摘されてきた制度を、より現実に合った形へ見直そうとする動きとして注目されています。

もっとも、ここでまず押さえておきたいのは、現時点ではまだ改正案の段階であるということです。閣議決定・国会提出はされていますが、成立・施行までは現行法が適用されることに留意ください。

この記事では、今回の改正案のうち特に影響の大きい、成年後見制度の見直しとデジタル遺言の創設について、実務目線で整理していきます。

目次

成年後見制度はなぜ見直されるのか

現行の成年後見制度は2000年に始まりましたが、約25年が経過した現在でも、「必要な人に十分に使われていない」「一度始めると重すぎる」という課題が指摘されてきました。調査資料では、認知症高齢者が増加する一方で、利用者は約24万人程度、利用率は約4%にとどまると整理されています。制度の存在自体は知られていても、使い勝手の面でためらわれてきたことがうかがえます。

その理由として大きいのが、終身制の硬直性です。現行制度では、一度利用を開始すると、原則として本人が亡くなるまで制度利用が続きます。たとえば遺産分割や不動産売却など、ある特定の局面だけ支援が必要だったとしても、その目的が終わったから簡単に終了できる仕組みにはなっていません。この「必要な期間だけ使いたいのに、そうなっていない」という点は、相談現場でも大きな心理的ハードルになりやすいところです。

また、現行制度には「後見」「保佐」「補助」の3類型がありますが、本人の状況は本来かなり個別的です。ところが制度は類型的で、とくに「後見」では包括的な代理権や取消権が付くため、本人の自己決定が強く制限されやすいという問題もありました。さらに、専門職後見人が選任された場合には、月額報酬が長期にわたって発生することもあり、制度利用に踏み切りにくい要因となってきました。

改正案で成年後見制度はどう変わるのか

今回の改正案で最も大きなポイントは、現行の3類型を見直し、「補助」に一本化する方向が示されていることです。これは、本人の自己決定権をより尊重しつつ、必要な範囲で支援を行う仕組みに寄せていく改正といえます。

改正後は、家庭裁判所が個別事案に応じて、必要な権限だけを補助人に付与する「オーダーメード型」の運用が想定されています。たとえば、遺産分割に関する代理だけ、不動産処分に関する代理だけ、といった形で、支援の範囲を細かく設定する方向です。これまでのように、制度に入ったら広い権限が包括的に付くという発想から、かなり距離を取る内容になっています。

さらに重要なのが、家庭裁判所の判断により、制度利用を途中で終了できるようにする方向が示されていることです。遺産分割が終わった、不動産売却が完了した、家族による支援体制が整った、といった事情があれば、制度継続の必要性を見直せる可能性があります。これは、「一度使ったら最後まで続くから使いにくい」という従来の印象を和らげる改正として、かなり意味が大きいと思われます。

また、後見人等の交代についても、本人の状況変化に応じて柔軟に対応しやすくする方向が示されています。現行制度では、著しい不正などがない限り交代は容易ではありませんでしたが、改正後は本人のニーズ変化に応じた支援体制の見直しがしやすくなることが期待されます。任意後見制度についても、適切な時期に監督人選任につなげるための見直しが盛り込まれています。

デジタル遺言とは何か

今回の改正案のもう一つの大きな柱が、デジタル遺言、すなわち「保管証書遺言」の創設です。現行の自筆証書遺言は、全文・日付・氏名を本人が手書きし、押印する必要があります。真意確保という観点では意味があるものの、高齢者にとっては負担が大きく、遺言作成のハードルになってきました。調査資料では、死亡者数に比べて自筆証書遺言の検認数や公正証書遺言の作成件数は限定的で、亡くなった方のうち遺言を残している割合は10%未満と整理されています。

そこで改正案では、新たに「保管証書遺言」という方式を設ける方向が示されています。これは、パソコンやスマートフォンで遺言の全文を作成し、法務局に保管申請することを前提とした新しい仕組みです。制度化されれば、従来の自筆証書遺言、公正証書遺言、秘密証書遺言に加えて、新たな選択肢が増えることになります。

もっとも、単にデータを送ればよいという話ではありません。保管証書遺言では、法務局の遺言書保管官の前で、遺言内容を口述することが必要とされる方向です。本人確認や口述確認を通じて、遺言者本人の真意を担保しようとする設計になっています。また、対面が原則とされつつも、一定の場合にはウェブ会議システムの利用も想定されています。さらに、法務局に保管された保管証書遺言については、相続開始後の家庭裁判所での検認手続が不要となる方向が示されており、これは実務上かなり大きなポイントです。

押印要件の廃止も大きな変更点

今回の改正案では、遺言に関する押印要件の全面廃止も盛り込まれています。自筆証書遺言については、これまで必要とされていた押印を廃止し、署名のみで足りる方向です。財産目録の各ページへの押印や、訂正時の押印についても見直しが予定されています。秘密証書遺言や特別方式遺言にも影響が及ぶ見込みです。

押印要件がなくなることで、形式面での負担は確実に軽くなります。とくに高齢者にとっては、手書きに加えて押印まで求められる負担が下がるため、遺言作成への心理的ハードルを下げる効果が期待できます。その一方で、押印がなくなるぶん、今後は署名の明確性や本人確認のあり方が、より重要な論点になる可能性があります。実務家としては、「楽になった」という説明だけで終わらせず、有効性確保の視点も併せて伝える必要がありそうです。

危急時遺言にもデジタル対応の流れ

今回の改正案は、平時の遺言だけでなく、命の危機が迫った場面での遺言についてもデジタル対応を取り込む方向を示しています。具体的には、病気などで危急時にある場合の「死亡危急時遺言」について、スマートフォン等による録音・録画を活用し、立会人が1名でも遺言を作成できる方向が示されています。大規模地震や自然災害、海難事故などの場合にも同様の措置が適用される見込みとされています。

この点は一般の方にもイメージしやすく、今回の改正が単に「パソコンで遺言を書けます」という話にとどまらず、緊急時を含めて制度全体を現代の技術環境に合わせようとしていることを示す部分です。いかにも2026年らしい改正といえばそうなのですが、法律の世界は往々にして時間の流れがゆっくりですので、ここまで来るのにずいぶん長旅だったともいえます。

実務への影響

今回の改正案は、行政書士や司法書士など、相続・遺言・高齢者支援に関わる実務家にとって影響が大きい内容です。成年後見の分野では、「誰に」「どの範囲で」「どの期間」支援権限を持たせるのかという設計が、これまで以上に個別具体的になります。申立書や後見登記の内容も、より詳細化・複雑化することが想定されます。途中終了が認められるようになれば、その後の支援の空白をどう埋めるかという新たな課題も出てくるでしょう。

遺言分野では、保管証書遺言の口述確認サポートや、法務局への保管申請に関する支援など、新たな相談対応が生まれる可能性があります。押印廃止によって形式面の負担が軽くなる一方、署名の明確性や本人確認の重要性はむしろ増すかもしれません。制度が柔軟になるほど、実務家には丁寧な選択肢提示とリスク説明が求められます。

現時点での注意点

繰り返しになりますが、現時点ではまだ改正案であり、成立・施行までは現行法が適用されます。今すぐ後見申立てや遺言作成を検討している方については、「もうすぐ変わるらしいから待ちましょう」と単純に言えるわけではありません。待っている間に状況が悪化することもあるため、現行制度の利点・欠点を踏まえたうえで、今動くべきか、改正の動向を見ながら検討するかを個別に判断する必要があります。

また、今後のスケジュールとしては、2026年4月3日に閣議決定・国会提出がされ、国会審議を経て、成立後数か月から1年程度で施行、その後2027年から2028年頃に実際の新制度運用が始まる見込みと整理されています。もっとも、実務上本当に重要なのは、法案成立そのものだけでなく、省令や運用ルールがどう定まるかです。

おわりに

2026年4月3日に閣議決定された今回の民法改正案は、成年後見制度の硬さを見直し、遺言制度をデジタル化・柔軟化するという点で、非常に大きな転換点になりうる内容です。成年後見では終身制の見直しや3類型の一本化、遺言では保管証書遺言の創設や押印要件の廃止など、どれも実務に直結するテーマが並んでいます。

ただし、今回の内容はあくまで改正案であり、現時点で制度が変わったわけではありません。
今後の国会審議や施行時期、具体的な運用ルールによって内容が調整される可能性もあるため、最新の動向を確認しながら対応していくことが大切です。

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